機動戦士ガンダム ブライト・ノア「このおにぎりを作ったのは誰だあっ!」 美味しんぼ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
U.C.0092年12月。ロンデニオン港、東西新聞支局。
ファ・ユイリィが握る塩むすびには、誰も真似できない、ある共通点がある。それに気づいたのは、リィナ・アーシタだった。
「ファさんのおにぎり、いつも塩加減が、食べる人によって微妙に違います。統計を取ってみたら、相手の顔色や声のトーンに合わせて、無意識に調整しているようです」
「そんなこと、できるんですか!?」
エル・ビアンノが驚くと、ファは少し照れたように笑った。
「グリプス戦役の頃、メタスで戦いながら、非番には子供たちや負傷者の世話をして、簡単な食事を作ることもあったの。あの頃は、次に食べる人が、明日も生きているかどうか分からない状況だった。だから、その人の顔を見て、今、この人に必要な味は何かを、考える癖がついたのよ」
支局が、一瞬静まり返った。私はその言葉を、慎重に手帳へ書き留めた。
「私、正直、ファさんの塩むすびが1番好きなのって、味が優しいからだと思ってました。でも、そんな理由があったなんて……」
エルが、珍しく神妙な顔で呟いた。リィナも眼鏡を押し上げながら、小さく頷いた。
「統計だけでは、絶対に見えてこない理由でした。数字の裏に、こういう物語があると知って、私は少し、自分の仕事の見方を改めたいと思います」
ファは、そんな2人の反応を見て、少し困ったように笑った。
「そんな大げさな話じゃないのよ。ただ、目の前の人に、ちゃんとおいしいと思ってほしい。それだけのことなの」
「怖くて、当時のことは、あまり話さなかったんですか」
「話す機会が、なかっただけよ。誰も、料理に戦場の記憶が宿っているなんて、思わないもの」
ファはそう言って、目の前にあった古米を手に取り、いつものように1粒ずつ確かめ始めた。
「でも、今なら話せる。至高でも究極でもなく、ただ、生きて帰ってきてほしいという祈りが、私の塩むすびの、本当のレシピなの」
私はその話を、記事にするかどうか、しばらく迷った。だが、ファ本人が「書いていいわよ」と背中を押してくれた。
「私一人の記憶じゃなくて、あの戦争を生き延びた、たくさんの人の記憶でもあるから」
記事が配信されると、思いがけない反響があった。同じように前線を経験した元軍人たちから、自分の炊き出しの記憶を綴った手紙が、支局に次々と届いたのだ。
エルはその手紙の束を抱えて、目を潤ませながら呟いた。
「戦争が終わった後も、飯は、ずっと戦い続けてたんだね」
リィナが静かに頷いた。
「正確に言うなら、飯は、戦争のあとも、人を生かし続けている、ということです」
私はその言葉を、その日の記事の結びに、そのまま使わせてもらった。
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