機動戦士ガンダム 逆シャア前夜の子供食堂 ――キッカの家―― 〜宇宙世紀0092-0093、サイド1・ロンデニオン外縁区〜   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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冬のサンドイッチと世論戦

八人も増えれば、隠すのはさらに難しくなる。

旧実習棟、古本屋の二階、修理工場の物置、パン屋の裏部屋。協力者たちの小さな善意を繋いで、なんとか夜を回していた。

 

年明け前の集中講義期間。

学内では試験期間が始まり、リィナは昼も夜も帳簿と教科書を行き来していた。宇宙へ戻るための単位を落とすわけにはいかない。だが同時に、この家を放ってもおけない。

 

「食べてください」

 

図書室の隅で、ミリーは彼女にカツサンドを差し出した。

大豆混じりの代替肉を工夫して揚げたものだが、ソースとパンで挟めば立派な腹の足しになる。

 

リィナは少し驚いて、笑った。

 

「ありがとう。こういうの、兄さんが好きだった」

 

「ジュドーさんですか」

 

「ええ。無茶ばかりするのに、食べるときだけすごく幸せそうな顔するの」

 

彼女は一口食べ、それから本を閉じた。

 

「ミリー。あなた、変わったわね」

 

「……そうでしょうか」

 

「最初は、自分が生き延びるために作っていた。でも今は違う。誰をどう生かすか考えてる顔」

 

ミリーは少し考えて、頷く。

 

「たぶん、皆がいたからです」

 

リィナはサンドイッチを見つめたまま言う。

 

「その顔を、忘れないで。戦争が始まると、人は『誰でもいいから助かればいい』って思考になりやすい。そうじゃなく、『この人を生かす』って決められる人が必要」

 

言葉は静かだったが、重かった。

 

その帰り道、ミリーは学内掲示板で妙なチラシを見つける。

**“保護対象の無届け収容に関する告発”**

明らかに旧実習棟を指していた。

 

誰かが本格的に潰しに来ている。

 

夜、部室に戻ると、キッカたちもそれを見ていた。

 

「そろそろ来るね」とキッカ。

 

「本丸が」とステファニー。

 

「大学だけじゃない。連邦側か、ネオ・ジオン寄りの連中か、どっちもありえる」とリィナ。

 

「じゃあ、先に殴る?」とエル。

 

ミリーは首を振った。

 

「先に守ります」

 

「どうやって?」

 

「表に出すんです。完全に隠すから脆い。慈善活動として支持者を増やす」

 

ステファニーが目を細めた。

 

「公開屋台」

 

その一言で全員が理解した。

 

ただし、表に出るには代償もある。支援を公表すれば、助けを求める子供は増える。協力者も増えるが、敵の目も増える。リィナは掲示物の文言を何度も直し、ステファニーは寄付金の流れを合法に見せるための帳簿を作り、キッカは学内紙の記者に何を話し、何を隠すかを整理した。

ミリーはその間、サンドイッチを作り続けた。話し合いが長くなるほど、人は苛立つ。けれど片手で食べられるものがあると、言葉は少し柔らかくなる。薄い肉、刻んだ野菜、辛子を控えたソース。小さな工夫が、会議を続ける体力になる。

次の勝負は、表舞台になる。

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