機動戦士ガンダム ブライト・ノア「このおにぎりを作ったのは誰だあっ!」 美味しんぼ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
U.C.0092年12月。ロンデニオン港、東西新聞支局。
深夜、支局に1人残って伝票と格闘するリィナ・アーシタの姿を、私は何度も見かけていた。文化部長を補佐し、企画の実務を取りまとめる重さを、彼女は誰にも見せたことがなかった。
「リィナ、無理してない?」
私が声をかけると、彼女は眼鏡を外し、珍しく素の表情を見せた。
「無理はしています。でも、弱音を見せたら、任された仕事を支えられないでしょう」
「見せてもいいと思うよ、私たちには」
リィナはしばらく黙り込んだ後、ぽつりと語り始めた。戦後の混乱の中で、年齢に似合わないほどの事務を任されるようになった頃のことを。
「最初は、資料を整理するだけの手伝いでした。でも、数字の食い違いに気づいて報告を重ねるうちに、文化部長から直接、企画の実務を支えるよう任されたんです」
「怖くなかった?」
「怖かったです。今でも、毎晩怖いです。でも、正確な数字だけは、私を裏切らない。伝票を1枚1枚積み上げることだけが、私が自分を保てる、唯一の方法なんです」
私はその言葉に、何も返せなかった。ただ、彼女の隣に座り、一緒に伝票の山を分担して片付けた。
作業の途中、リィナがふと手を止め、独り言のように呟いた。
「もし、私が計算を1つでも間違えたら、誰かの配給が1食分、足りなくなります。だから私は、伝票の前では、絶対に自分を甘やかしません」
「それ、19歳が背負うには、重すぎるよ」
「重いです。でも、任された以上は正確にやりたい。私が前に出るためじゃありません。みんなが余計なことで潰れず、自分の仕事をできるようにするのが、私の役目です」
私はその言葉に、返す言葉が見つからなかった。ただ、彼女が積み上げる伝票の山を、1枚でも多く一緒に片付けようと、無言で手を動かし続けた。
翌朝、エル・ビアンノがいつも通りの明るさで支局に入ってきた瞬間、リィナは何事もなかったかのように、いつもの冷静な文化部長補佐の顔に戻っていた。だが私だけは知っていた。その冷静さの下にある、年齢相応の、まだ震えている本当の顔を。
ブライト・ノアが、その日たまたま支局に立ち寄った際、リィナの仕事ぶりを見てこう言った。
「お前の作る数字は、至高の飯より正確だ。誇っていい」
リィナは表情を変えなかったが、その日の帰り際、珍しく少しだけ、口元を緩めていた。
私はその夜の記事に、リィナの名前を大きく出すことはしなかった。代わりに、こう1行だけ書いた。
「この港には、鍋を振るう至高だけでなく、伝票を支える至高もある」
その記事を、リィナは何も言わずに、机の引き出しの奥に、そっとしまっていた。
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