機動戦士ガンダム ブライト・ノア「このおにぎりを作ったのは誰だあっ!」 美味しんぼ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
U.C.0092年9月。ロンデニオン港、配給倉庫。
事件は、配給用の塩の「味」が、いつもとどこか違うという、些細な違和感から始まった。
「塩が……薄い?」
リィナ・アーシタが秤を確認する。重量は伝票通り、100キロぴったり。だが、成分の内訳までは、伝票には書かれていない。
「重量は合ってます。でも、味が薄いなんてこと、あり得るんでしょうか」
「じゃあ、水増し? ラーメンのスープじゃあるまいし!?」
エル・ビアンノが首を傾げた。彼女の中で事件は常に、次の食事のスパイスになる。
ロンデニオン寄港中の美食倶楽部主宰、ブライト・ノアが倉庫に到着するなり、開口一番こう叫んだ。
「女将を呼べッ!! 女将を呼んでこいッ!! この塩の異常、女将の舌でなければ真相は見抜けん!!」
呼ばれたファ・ユイリィは、届いた塩をひとつまみ、口に含んだ。数秒の沈黙。彼女の眉が、わずかに動いた。
「――塩じゃない粉末が混じっている。検査に回して」
支局に持ち帰った簡易分析の結果、判明したのは驚くべき事実だった。
「塩化ナトリウムの含有量が、正規品の半分以下です。残りは、廃棄予定だった配給用の炭酸カルシウム粉末。抜いた塩と同じ重量の粉末を混ぜて、伝票上の重量だけを維持しているようです」
「なんだと!?」
ブライトの怒声が倉庫中に反響した。ゴゴゴゴゴゴ、と存在しない業火が彼の背後に立ち上る。
「重量を誤魔化さず、味だけを誤魔化すとは……ふざけるなぁぁぁっ!! これは味の冒涜どころか、人道の冒涜だ!! 」
リィナが伝票の束をめくり、配送経路を1本の線で結び直した。
「配送業者は正規です。ただし、途中の中継倉庫が1箇所、記録上『点検中』となっている期間があります。ここで誰かが手を加えたはずです」
「私、行ってくる!!」
エルが駆け出そうとするのを、リィナのバインダーが制止した。パァン。
「証拠固めが先です。感情で突っ込んでも、相手に逃げられるだけです」
私、キッカ・コバヤシはこの一部始終を手帳に書き取りながら、思った。至高のブライトが吠え、女将が真実を見抜き、帳簿番長が証拠を固める。これが東西新聞文化部の、いつもの捜査の型だ。
中継倉庫の管理人は、私たちの訪問に最初は白を切った。だがファが差し出した、かさ増し塩と本物の塩の食べ比べを前に、10秒と持たなかった。
「す、すみません……戦後、給料が遅配続きで、子供に食わせる金がなくて……」
その言葉に、倉庫の空気が一瞬止まった。ブライトの拳から、力が抜けた。
「――事情は分かった。だが、それとこれとは別だ。塩は誰かの命そのものだ。お前が抜いた分だけ、誰かの塩むすびの味が半分になった。分かるか」
管理人は、深く頭を下げた。
同じ中継倉庫を通った塩は全量が回収され、幸い、住民への配給前だったため健康被害は出なかった。それでも支局は念のため、体調に異変があれば申し出るよう、医療班への相談窓口を記事に併記した。
数日後、東西新聞文化部は「配給塩、横流し事件、涙の顛末」という記事を配信した。処罰と同時に、管理人の家族への追加配給手続きを、リィナが自ら書類にまとめて通した。
「情に流されず、正確に、救う」
それが、リィナの書いた見出しの下の、たった1行の但し書きだった。私はその1行を、何度も読み返した。
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