機動戦士ガンダム ブライト・ノア「このおにぎりを作ったのは誰だあっ!」 美味しんぼ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
U.C.0093年1月。ロンデニオン港、帝都新聞支局。
特別企画の反響が広がる中、思わぬところで軋みが生じた。帝都新聞本社が、美食倶楽部の運営方針を巡って、ブライト・ノアと対立し始めたのだ。
「本社は、至高のメニューをもっと派手に、もっと高級路線に舵を切れと言ってきている」
ブライトが珍しく、疲れた表情で美食倶楽部のメンバーに告げた。
「東西の連載が注目されている今こそ、対抗して豪華さで差をつけるべきだ、と」
「それは……至高の本来の意味と、真逆じゃないですか」
パラヤ・ソウマが、帝都新聞の記者でありながら、真っ先に反対の声を上げた。
「至高とは、誰にでも再現できる完成度のはずです。豪華な食材を積み上げるだけなら、それはただの見栄です」
「私も同感だ。だが、本社の意向は、無視できない」
エルが、心配そうに私の袖を引いた。
「ねえキッカさん、これ、記事にしちゃっていいのかな。なんか、他人の家庭事情を覗き見してるみたいで、気が引ける」
「私も、同じことを考えてた」
会場は重い沈黙に包まれた。私はこの一連の動きを、東西新聞の記者として取材しながらも、複雑な気持ちを抱えていた。ライバルの内紛を報じることは容易い。だが、それが本当に、読者の望む記事だろうか。
ファ・ユイリィが、部外者でありながら、この場に呼ばれていた。
「ブライトさん。あなたが最初に至高を掲げた理由、忘れたの?」
「忘れてはいない。だが……」
「なら、本社に言い返しなさい。至高は、あなたが決めることよ。誰かの経営判断で、意味を変えるものじゃない」
ブライトは、しばらく目を閉じ、やがて力強く顔を上げた。
「――そうだな。至高の名を、経営の道具にはさせない」
彼はその足で本社に直談判し、美食倶楽部の独立性を守る覚書を勝ち取った。帝都新聞は、経営方針としては別に高級路線の企画を立てることになったが、美食倶楽部そのものは、ブライトの信念のまま存続することになった。
私はこの顛末を、あえて対立の記事としてではなく、こう書いた。
「至高のメニュー、経営の波を乗り越える。一人の男が守り抜いた、譲れない一線の記録」
パラヤは、その記事を読んで、私にこう言った。
「東西の記者なのに、帝都の内紛を、こんな優しい記事にするなんて。ずるいわよ、キッカさん」
「至高も究極も、私たちにとっては、同じ現場の仲間ですから」
私の返事に、パラヤは苦笑いしながらも、どこか嬉しそうだった。
画面の端で、静かに送信完了の点滅が走る。
コロニーの公衆回線を通じて配信されたこの記事が、誰かの端末の片隅で、冷えた心をほんの少しだけ温めることを願いながら。
屋台の向こう、天窓越しに見える暗い宇宙(そら)は、相変わらず冷たく静かだ。けれど、私たちの小さな支局には、今日も香ばしい油の匂いと、あたたかな笑い声が満ちている。
東西新聞文化部キッカ・コバヤシ。明日もまた、この港のどこかで生まれる「本当の味」を記録するために、私はペンを握り続ける。
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