機動戦士ガンダム 美味しんぼ ロンド・ベルの究極、ネオ・ジオンの至高 逆襲のシャア前夜、ロンド・ベル寄港中の補給食堂 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
夏が近づく頃、港湾配給の臨時措置が終了するという通知が届いた。
「旧実習棟は週3日へ縮小。責任者は1名。食材は正規ルート品のみ」
リィナが読み上げる。
「要らないってこと?」
「縮小です」
そう答える声は硬かった。
ファは黙って、正規配給の乾燥豆と麦を2つの鍋へ分けた。
片方は規定通り、最初から塩を加えて煮る。もう片方は豆を先に柔らかくし、塩は仕上げに加えた。
食べ比べると、規定通りの豆は皮が張り、噛むと口に残った。後から塩を加えた方は、舌で押すだけで崩れ、麦の甘味も分かった。
「材料も栄養量も同じなのに」
エルが言った。
「配給が届くことと、食べられることは違うの」
ファは答えた。
「でも、配給が戻ったのは良いことよ。多くの子は、ここへ来なくても食べられる」
「じゃあ反論しないの?」
「正常化そのものには反論できない。でも、その鍋を食べられない人が残っていることは示せる」
リィナが記録を広げた。
利用人数は空欄。しかし、配膳数、残量、再来数は残っている。
「延べ配膳200件以上。正規配給との照合を確認できた例は3割未満です」
「数えてないんじゃなかった?」
「人は数えていません。椀を数えました。同じ人が2回来れば、2杯です」
リィナは2つの鍋の記録も加えた。
材料、同一。塩分、同一。食べ残し、規定手順の方が多い。
「数字だけでは足りません」
ファが言った。
「硬くて残したのか、味が嫌だったのか、もう食べたくなかったのか。分からない理由は、勝手に埋めないで」
リィナは頷き、反論書へ書いた。
配給網の正常化を否定しない。ただし、配給対象外の来訪が継続している。また、同じ食材でも調理工程によって摂取状況に差がある。
翌朝、大学の窓口へ提出した。
事務員は書類を読み、豆の比較記録で手を止めた。
「栄養量は同じですね」
「はい。でも完食率は違います」
「旧実習棟でなければならない理由になりますか」
リィナは少し考えた。
「規格品を否定する場所ではありません。規格品を食べられなかった時、次の1杯を作る場所です」
事務員は受領印を押した。
2週間後、返答が届いた。
縮小方針は3か月保留。配膳数、残量、食材履歴の継続報告を求める。
「勝った!」
「保留です」
リィナが即答した。
「3か月後、また書きます」
ファは小さく笑った。
「今日は少し豪華にしましょう」
「特別な食材あるの?」
「ないわ」
ファは同じ根菜を3つに切り分けた。
薄切りは汁へ甘味を出す。角切りは噛み応えを残す。端はすり下ろして粥へとろみをつける。
同じ量でも、1口ごとに食感が変わった。最後に乾煎りした麦を散らすと、塩を増やさなくても香りが立った。
「材料、増えてないのに豪華だ」
「量ではなく、役割を増やしたの」
その日の椀は、小さかった。
けれど、最初の1口と最後の1口は、同じ味ではなかった。
私は手帳を開いた。
要らないとは書かれていなかった。縮小と書かれていた。
こちらも、必要だとは叫ばなかった。
配給された物が、誰にどう食べられたかを書いた。
保留。勝ちではない。
それでも次の3か月、薄切りと角切りと、すり下ろした根菜を選べる。
続くことを、今日は少しだけ喜んだ。