機動戦士ガンダム 逆シャア前夜の子供食堂 ――キッカの家―― 〜宇宙世紀0092-0093、サイド1・ロンデニオン外縁区〜   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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2月26日、宣戦布告前夜の餃子パーティー

宇宙世紀0093年2月26日。

行方不明になった協力者は、翌朝になっても戻らなかった。

残された手掛かりは少ない。だが、最後に向かった先が港の外縁地区であること、そして彼が持っていたチョコの符号が“避難先変更・緊急”だったことだけは確かだった。

 

「つまり、向こうも気づいた」

 

リィナが低く言う。

 

「避難網が割れかけてる」

表の大学では年度末の整理が始まり、春の異動と休学、避難をめぐる手続きが慌ただしくなっていた。だが彼女たちにとっての別れは、もっと切迫していた。リィナとエルも、宇宙へ戻る便に乗る可能性が高くなっている。戦火が本格化する前の最後の民間シャトルになるかもしれないからだ。

 

その前夜。

ミリーは餃子を百個包むことにした。

 

「なんで百」

 

「気合いです」

 

「雑!」

 

けれど、餃子には理がある。

ひとつずつ手で包むことで、場が落ち着く。

ミリーは余った野菜の芯まで細かく刻み、乾燥肉を湯で戻し、少量の油で香りを出した。餃子は、具を隠す料理でもある。貧しさも、不安も、別れの気配も、皮で包んで焼いてしまえば、少しだけ人の手に持ちやすい形になる。

具を増やせば量も取れる。

焼いても茹でてもいい。

そして、大勢で食べるのに向いている。

 

子供たちも手伝い、小さな指で不格好な餃子を作る。

エルは豪快に具を詰めすぎ、リィナに怒られ、キッカは包み方が妙に速く、ステファニーは最初こそ不器用だったが途中からやたら綺麗に揃え始めた。

 

「悔しいですけれど、性に合ってますわね」

 

「でしょ」とミリー。

 

餃子を焼く音が、倉庫に心地よく響く。

油の跳ねる音、蒸気、香り。戦争前夜でも、食欲は裏切らない。

焼き目がつくまでの数分、子供たちは鉄板の周りに集まっていた。数を数える子、湯気に顔を近づけようとして叱られる子、包んだ餃子の形で自分のものを見分けようとする子。ミリーはその全部を見て、百個では足りないかもしれないと思いながら、それでも百個包めたことに少しだけ救われた。

 

「リィナ」とキッカが言った。

 

「もし行くなら、向こうで無茶しないでよ」

 

「それは難しい注文ね」

 

「エルも」

 

「うん?」

 

「帰ってきて」

 

エルは一瞬だけ真顔になって、それから笑った。

 

「帰るよ。だってここ、飯うまいし」

 

その軽口に、誰もが救われた。

 

食べ始めてしばらくした頃、遅れて戻った協力者がひとりいた。

顔に殴られた痕があり、息も荒い。

彼は椅子に座る前に、まず水を求めた。餃子の皿を前にしても手を伸ばせないほど消耗している。ミリーは水ではなく、薄い鶏がらのスープを出した。空腹で傷ついた体に、いきなり固いものを入れてはいけない。知らせを聞く前に、まず生きている人間を戻す必要があった。

 

「網が漏れてる……保税倉庫の位置、たぶん半分は割れた」

 

「誰が売った」

 

「分からん。ただ、次の一斉検挙は近い。港の外縁から締めてくる」

 

餃子の熱さが、一気に現実へ引き戻される。

 

「シャトル便を早めましょう」とステファニー。

 

「子供を優先して、リィナさんたちも一緒に?」

 

ミリーが訊く。

 

リィナはしばらく黙り、首を振った。

 

「私は最後まで残る。帳簿とルート整理が必要」

 

「私も」とエル。

 

「ばか」とキッカが吐き捨てるように言う。「そういうの、かっこいいけど、残された方は嫌なんだよ」

 

沈黙。

そしてミリーが、静かに餃子をひとつ皿へ置いた。

 

「全員で、戻る方法を考えましょう」

 

それは理想論かもしれなかった。

だが、ここでそれを言える人間がいなくなったら、この家は終わる。

 

食後、キッカは子供たちに聞いた話を一人ずつ書き取った。怖かったこと、覚えている顔、失くしたもの、もう一度食べたいもの。ミリーはその横で、キッカの字が以前よりずっと丁寧になっていることに気づいた。

キッカは最後に、聞き取った言葉の横へ必ず料理名を書いた。餃子、味噌汁、粥、チョコ。人は大事件の日付だけでなく、何を食べて生き延びたかでも思い出せるのだと、彼女はこの家で知った。

百個の餃子は、祈りみたいに食べ尽くされた。

食べ終えた皿を片づけながら、キッカは一枚だけ焦げた餃子の皮を残した。包みすぎて破れ、焼きすぎて黒くなった失敗作だ。けれど、誰かが笑いながら作った跡がある。彼女はそれを見て、失敗した料理でさえ記録になるのだと思った。

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