機動戦士ガンダム 美味しんぼ ロンド・ベルの究極、ネオ・ジオンの至高 逆襲のシャア前夜、ロンド・ベル寄港中の補給食堂 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
エルが、珍しく朝から静かだった。
「どうしたの」
「シャングリラにいた頃を思い出してた」
エルはジャンク屋仲間の情報集めを担当していた。危ない場所へ先に入り、使える部品や仕事を見つけて、皆へ知らせる。それが彼女の役目だった。
「私、1人っ子だったからさ。兄弟の分まで頑張った、なんて立派な話はないの」
エルは乾燥豆を選りながら言った。
「でも、ジュドーがリィナのために無茶するのを見てると、先に動かなきゃって思った。誰かが困ってる時、考えるより体が前へ出る。たぶん昔から」
「だから人を背負うのも早いんだ」
「背負ってる間は、何をすればいいか迷わなくて済むからね」
私は手帳を開いた。
「格好よく書かないでよ」
「事実だけ」
その日の食材は、乾燥豆と根菜が少し。
エルは人数を見て、豆を全部鍋へ入れようとした。
「待って」
ファが止めた。
「全員へ多く盛るため?」
「足りないなら、全部使うしかないでしょ」
「今日を満たして、明日を空にするのは配分ではないわ」
ファは豆を2つに分けた。
片方は煮崩して汁へ戻す。もう片方は粒を残す。根菜は薄切り、角切り、すり下ろしの3種類にした。
食べ比べると、粒ばかりの椀は量が多く見えたが、味も食感も単調だった。煮崩した豆を戻した方は、少ない豆でも汁に甘味と厚みが出た。薄切りの根菜はほどけ、角切りは噛み応えを残した。
「少ないのに、こっちの方が腹に残る」
エルが言った。
「食材を渡すことと、自分の分を削ることは違うの」
ファは明日用の豆を密閉容器へ移した。
「全部差し出すのが1番早い。でも、続けるには、自分と明日の分を残す必要がある」
昼過ぎ、足を痛めた子が来た。
エルは迷わず背を向けた。
「乗って。重くないから」
途中で言い直した。
「いや、重いかもしれない。でも、途中で休むから大丈夫」
リィナが目を丸くした。
「今日は正確ですね」
「重くないって言うと、下ろしてって言えなくなるでしょ」
エルは数歩進んで座り、本人に聞いた。
「このまま背負うのと、肩を貸して歩くの、どっちが楽?」
「少し歩く」
エルはゆっくり下ろした。
背負い切ることより、途中で選び直せることを優先した。
夜、ファが聞いた。
「あなたは、なぜここにいるの」
「昔から、先に動く役だったから。誰かへ何か渡してると、自分の立つ場所が分かるの」
エルは昼の鍋を見た。
「でも、全部渡せばいいわけじゃないんだね。豆も、背中も」
ファは残した豆を指した。
「与える量ではなく、相手が受け取れる形を考える。それが料理よ」
「癖みたいな理由でもいい?」
「癖なら、直すところも育てるところも分かるでしょう」
私は手帳に書いた。
エルは、困っている人を見ると先に動く。
背負うことを、役に立った証明にはしない。
全部渡さず、明日の豆を残した。
リィナが読んで頷いた。
「格好よくありません。正確です」
「それ、褒めてる?」
「かなり」
エルは笑った。
その笑顔は書かなかった。