機動戦士ガンダム 美味しんぼ ロンド・ベルの究極、ネオ・ジオンの至高 逆襲のシャア前夜、ロンド・ベル寄港中の補給食堂   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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キッカの欲

ある夜、ファ・ユイリィに不意を突くように問われた!

 

「なぜ記録するの!?」

「記録係だからです!」

「それは単なる役割。私が聞いているのは、あなたの魂の理由よ!」

 

私は絶句し、言葉を詰まらせた!

 

ファは間髪入れず、目の前に2つの大鍋を並べ立てた! どちらも豆と麦の至高のスープ!

 

片方は豆を全て潰し、目の細かな布で完璧に濾したもの! もう片方は敢えて半分だけ粒の食感を残した品!

 

「飲んでみなさい!」

 

濾した方は驚くほど滑らかで皮も繊維もなく喉を通る。だが! 豆の個性たる輪郭まで薄れていた! 粒を残した方は舌触りが不揃いで噛むと甘味が弾ける! だが飲み込みにくい粒も混ざっていた!

 

「どちらが絶対的な正解だと思う!?」

「……食べる人間によります!」

「記録も全く同じよ!」

 

ファは濾し布に残された豆の皮を力強く突きつけた!

 

「全部を残せば一見正確に見えるわ! だが食べる人に負担をかける不快な雑味まで椀へ戻す必要はない! 逆にきれいに濾しすぎれば、その人らしさという尊い粒まで消滅してしまうのよ!」

「何を残すか、自分の責任で選ぶということですか!?」

「ええ! 選んだ責任も一緒に噛み締めるのよ!」

 

その夜、私は手帳へ自分の内心を吐き出そうとしたが、ペンは重く進まなかった。

 

翌日、エル・ビアンノに追及された!

 

「キッカって、なんで四六時中手帳を持ち歩いてるの!?」

「記録するため」

「またそうやって役割の答えで逃げる!」

 

こういう時だけ嫌になるほど鋭い!

 

「……本当は知りたいの! 名前を言わない子がなぜ来たのか、何を怖がっているのか……全部!」

「知って、どうするの!?」

「書いて残したい! そうすれば……自分が見落としていないって安心できるから!」

「じゃあ、純粋な優しさだけじゃないんだ」

「たぶん……かなり自分の欲!」

 

エルはスープを交互に味わった!

 

「欲でもいいんじゃない! でも全部聞き出したら、このザラザラしたスープみたいに胃に重い時もあるよ!」

「エルが……料理で例えた!?」

「たまには知的で至高の例えだってするの!」

 

夜、私は手帳にありのままを刻んだ!

 

『私は誰かの空欄を知りたい。知って埋めれば、自分の存在まで確かめられる気がする。これは優しさだけではない。私のエゴだ。』

 

消そうとしたが、思いとどまった。

 

「今日は消さないんですね」

 

リィナ・アーシタが後ろに立っていた!

 

「……格好をつけていないから」

「本当のことなら何でも残してよい、とは限りません」

 

リィナが静かに、しかし厳格に言った!

 

「それが『誰の本当』かを、先に確かめてください!」

 

翌日、名前を明かさない子が部屋の隅に座っていた。

 

私は手帳を開きかけた。空になった椀。指先についた豆。扉を気にする癖。書けるデータは山ほどあった! だが、それは本人が残したい記録だろうか!?

 

ファは滑らかなスープと粒のあるスープを離して置いた!

 

「どちらでもいいわ。選ばなくてもいいのよ」

 

その子は長く葛藤した後、滑らかな方を手元へ引き寄せた!

 

私はペンを置いた。選んだ事実すら、すぐに自分の記録という所有物にしてはいけないと悟ったからだ!

 

「聞かないの!?」

 

エルが小声で囁く!

 

「今日は聞かない。知りたいのは私の勝手な欲だから!」

 

夜、ファが残量を確認した。滑らかな椀は半分減り、粒の椀は手付かずだった。

 

「配膳数と残量は記録するわ! でも、誰がなぜ選んだかは本人が話すまで絶対に書かない!」

 

事実まで捨てる愚は犯さない! だが意味を勝手に足す冒涜もしない!

 

濾すことと、消し去ることは根本的に違うのだ!

 

私は手帳へ一行だけ刻み込んだ。

 

『知りたい欲を、今日は椀へ戻さなかった。』

 

少し気取りすぎだと感じ、すぐ下に書き直した。

 

『今日は、聞かなかった。』

 

それだけで、私たちはどこまでも十分だったのだ!

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