機動戦士ガンダム 美味しんぼ ロンド・ベルの究極、ネオ・ジオンの至高 逆襲のシャア前夜、ロンド・ベル寄港中の補給食堂 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
その週の終わり、配給品の中に驚愕の物資が混入していた! 長期航行用の缶詰である!
ラベルには『木星航路向け保存食』と刻印されている!
「木星の缶詰って……普通の缶詰と一体何が決定的に違うの!?」
エル・ビアンノが叫ぶ!
「過酷な長期保存を最優先して、塩分と油脂を極限まで強力にしてあるみたいね」
ファ・ユイリィは製造記録を冷徹に確かめた!
「ですが……私は木星圏へ足を踏み入れたことはないわ」
ファが知る木星航路とは、あのグリプス戦役で遭遇した巨艦ジュピトリスのみ! 彼女自身はアーガマのパイロットとして苛烈な戦場を駆け抜け、その後シャングリラへと帰還しているのだ!
「じゃあ……懐かしくはないの!?」
「この缶詰自体はね。ですが長い航路の孤独に思いを馳せると、かつての艦内食の記憶が不意に蘇るだけよ」
ファは2つの缶詰を豪快に開封した!
中身は同一の豆と魚の油漬け! 片方は汁ごと大鍋へ叩き込み、もう片方は具と汁を完璧に分離させた!
汁ごと投入した方は強烈な塩味と油分が暴れ回り、1口目から生の魚臭さが鼻腔を直撃する! だが後味が絶望的に重く、豆本来の豊かな甘味など完全に圧殺されていた!
一方、分けた方は魚を熱湯へ短く潜らせて余分な油脂を落とし、缶の汁をミリ単位で少量ずつ戻した! 豆は半分を潰し、残りは食感を活かすため粒のまま投入する!
エルが1口含み、目を見開いた!
「な……なんだこれはーっ!? 薄味になっているのに、圧倒的にこちらの方が洗練された魚の旨味が引き立っているーっ!?」
「長期保存のための暴力的とも言える塩と油を、そのまま料理の真実の味だと錯覚してはいけないのよ!」
ファの至高の喝が飛ぶ!
「缶の中という過酷な密閉空間ではそれが正義であっても、人間の口に入る椀の中では強すぎて暴力となる! 保存食とは完成品ではない! 食べる人間の状態に合わせて、もう一度魂を込めて再構築すべき素材なのよ!」
リィナ・アーシタがノートへ厳格に記録する!
『缶汁、全量使用せず。魚、湯通し。豆、半量を潰す。』
「残した缶汁を捨てるのは……物資の無駄では!?」
「捨てるわけがないでしょう!」
ファは缶汁を小瓶へ丁寧に移し替えた!
「次の鍋へ塩分を添加する際の極上の出汁として再利用できるわ! だが投入量は味を完璧に見極めて決める! 貴重だからという貧乏性で全量投入するなど、料理人としての誇りの欠如よ!」
私は木星という遠い世界の真相をもっと知りたかった。
「ファは……宇宙にいた時、青い海を思い出したりした?」
「海より……グリーン・ノアの人工の空を思い出したわ」
ファはふっと視線を落とし、追憶に耽る。
「戦争によって故郷を追われ、アーガマでは戦火の中へ投げ出された。当時の私は傷ついた誰かを十分に満たしてあげられる存在ではなかったわ……その過ちを、木星航路というロマンのせいにして逃避する気はないの」
立ち上る鍋の湯気が、彼女の美しい横顔を優しく包み込む。
「今の料理に対する過酷なまでの厳しさは……昔の失敗の反動なの?」
「過去のトラウマだけではないわ! 今日、この缶汁を全量投入する横着を犯せば、今日ここに来る子供たちの喉を激しく渇かせる! 料理人とは立派な過去の栄光ではなく、今目の前にある1杯の椀に全ての責任を負うものよ!」
ファは2つのスープを皆へ配給した!
缶汁を全量使った愚かなスープは、冷めると不快な油分が舌へへばりつく! 量を完璧にコントロールした至高のスープは、冷めても豆の豊かな甘味が損なわれず、爽やかな魚の芳香だけが気品高く漂うーっ!?
「過酷な長時間航海なら、塩分が強烈な方が活力が湧きそうだけど!」
「体を極限まで動かす兵士に塩分が必要な瞬間もあるわ! だが運動量の少ない避難民へ同じ強さを与えれば内臓への暴力となる! 木星へ向かう限界状態の食事と、この温かい部屋の食事は根本から違うのよ!」
その夜、ファは珍しく古い椅子へ深く腰掛けた。
「ふう……今日は少し疲れたわね」
「ファでも疲れることがあるんだ!?」
「失礼ね! 私は超人ではなく一人の人間よ!」
彼女は自分自身の至高の椀を最後に取り、愛おしそうに口へ運んだ。
「……おいしい」
ファ自身が、心からの笑みを浮かべてそう漏らしたのだ!
私は手帳を開き、ペンを力強く走らせた。
ファは木星へ行ったことはない。
海を持たない木星圏を旅した過去も存在しない。
存在するのは、グリーン・ノアを追われ、アーガマで必死に戦い抜き、シャングリラへ戻ってきた誇り高き時間だけだ。
そして今日、過酷な保存のための塩と油を、人間が生きるための真実の味覚へと見事に還元してみせた!
私は最後に、魂の1行を刻み込んだ。
遠い宇宙航路のために閉ざされた缶詰も、開けられたこの場所で、もう一度生き返る至高の料理になるのだと!
命の火は、今日もこの厨房で燃え上がっている!