機動戦士ガンダム 美味しんぼ ロンド・ベルの究極、ネオ・ジオンの至高 逆襲のシャア前夜、ロンド・ベル寄港中の補給食堂 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
秋の初め、港湾市場の老人が小さな包みを持ってきた!
「中立業者の未整理品だ。差出人はない」
中には香辛料の小瓶が1つ。乾燥した葉と種が混じっている。
「ナナイさんから……!?」
エル・ビアンノが驚愕の声を上げる!
「分からない」
私は答えた。
ナナイ・ミゲルはネオ・ジオンの作戦参謀だった。アクシズ攻防戦後の消息も、この瓶との関係も確認のしようがない!
ファ・ユイリィは封を開けず、冷徹に搬入票を調べ上げた!
「使わないの!?」
「出所も保存状態も一切不明よ! 懐かしい香りがする、などという感傷的な理由だけでは到底食材にはならないわ!」
「匂いすら確かめないの!?」
「開けてしまえば、未開封という唯一無二の客観的情報まで失われるでしょう!」
ファは小瓶を白い皿へ置き、日付と受領経路を精密に記録した。
『正体不明。調理使用不可。』
数日後、老人が再びやってきた。
「ネオ・ジオン関係の倉庫から出たらしい。それ以上は分からん」
結局、分からないという事実が1つ増えただけだった!
エルは小瓶を凝視した。
「もし……本当にあの人からなら?」
「誰から届いたかという物語で、食の安全性は何一つ変わらないわ!」
ファの至高の喝が飛ぶ!
「誰から届いたかというストーリーや思い出を安易に調味料にして、食べる人間へ健康上の危険を負わせるなど、料理人として絶対にあってはならない暴挙よ!」
その夜、ファは同種と思われる、出所の明確に確認できた香辛料を市場から少量取り寄せた!
2つの小瓶を並べる!
見た目は酷似していた。だが! 身元不明の瓶は葉の色が褪せ、種の一部に細かな粉が付着していた!
「似ているのに、片方だけ使うんだ……!」
「似ていることと、安全性が同じであることは根本から違うのよ!」
ファは確認済みの香辛料を乾煎りした! 生のまま砕いた分と、弱火でじっくり温めた分を、豆のスープへ別々に投入する!
生の方は青く尖った香りと苦味が先行した。だが! 弱火で乾煎りした方は種の甘い香りが極上に開き、豆の芳醇な土っぽさを覆い隠すことなく、見事に後ろから支えたのだーっ!?
「こっち……前の香りにすごく似てるーっ!?」
エルが叫ぶ!
「記憶が都合よく似ているだけかもしれないわ」
ファは静かに火を止めた。
「香辛料とは、料理に別人の不自然な仮面をかぶせるための愚かな道具ではないの! 火を入れて香りを開かせ、豆の奥底にある甘味を極限まで引き出しやすくする! 隠すのではなく、本来の魅力を誇り高く立たせるものなのよ!」
リィナ・アーシタがノートへ厳格に記録する!
『確認済み香辛料、乾煎り後使用。身元不明品、未開封、隔離保管。』
「届いたあの瓶には……何の意味もないんですか!?」
私が問うと、ファは小瓶を棚の奥へ戻しながら答えた。
「意味と用途は全く別よ! 誰かが運び、ここへ届いた……それは紛れもない事実。ですが、これをナナイからの手紙だと勝手に決めつければ、それは私たちの勝手な願望で差出人を書き足すという捏造になってしまうわ!」
私は手帳を開き、ペンを力強く走らせた。
『差出人不明の小瓶が届いた。ナナイからとは確認できない。調理には使用しなかった。同種の確認済み香辛料を、乾煎りして使用した。』
そして最後に、誇り高き1行を刻み込んだ。
『届かなかった手紙、と呼ぶのもやめる。』
手紙が存在したという証拠はどこにもない。
棚にあるのはロマンあふれる答えではなく、ただ誇り高く残された差出人の空欄だった!
その夜のスープには、ごまかしのない確かな至高の香りだけが力強く残っていた!