機動戦士ガンダム 美味しんぼ ロンド・ベルの究極、ネオ・ジオンの至高 逆襲のシャア前夜、ロンド・ベル寄港中の補給食堂 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
冬のある日、大学の学生が紹介状を携えてやってきた!
「旧実習棟の記録を手伝いたいんです! 配給が復旧した後も、この場所が存続し続けている真の理由を知りたくて!」
私は少し戸惑いを覚えた。記録係という役割は、ずっと自分だけの唯一無二の居場所だと思っていたからだ。
「……知りたいだけですか!?」
「駄目……でしょうか」
「駄目じゃないわ! 私も最初は、ただ知りたいだけだったから!」
その日、ファ・ユイリィは同じ豆のスープを2つの鍋で展開していた!
片方は豪快に火を強めて短時間で急速加熱! もう片方は沸騰直前で極限まで火を弱め、完璧な余熱コントロールでじっくりと火を通したもの!
強火の豆は皮が無残に破れ去り、煮汁だけが不快に濁っていた! だが! 弱火の豆は美しい輪郭を残しながら、舌で軽く押すだけで官能的に崩れ落ちる! 煮汁には豆本来の芳醇な甘味が静かに溶け込んでいたのだーっ!?
「同じ材料なのに……ここまで違うなんてーっ!?」
学生が驚愕する!
「火を渡すとは、ただ闇雲に強く燃え上がらせることではないのよ!」
ファの至高の教えが冴え渡る!
「鍋が受け取れる適切な温度まで落とし、芯の奥深くまで熱を浸透させる! 人に物事を教える時も全く同じよ! 全てを1度に強引に注ぎ込めば、相手の表面だけを破壊してしまうわ!」
私は記録の絶対的鉄則を1つずつ解説した!
本人に見せる! 許可なく絶対に公開しない! 名前欄には誇り高き空欄を認める! その空欄に期限などという制限を設けない! 配膳数と残量は、個人名とは完全に切り離して正確に記録する!
「……極めて厳格ですね」
「厳格でなければ、記録する側が自らの浅ましい欲に負けてしまうからよ!」
「気をつけます!」
「気を付けていても、欲に負ける時はあるわ!」
「その時は……どうすれば!?」
私は一瞬言葉を詰まらせた。
「……本人に見せる! 間違いを誠実に認める! 消すか残すか、相手と一緒に決める! 今の私に言えるのは、それだけよ!」
学生は力強く頷き、最初の記録を記した!
『豆のスープ2鍋。材料同一。加熱方法のみ変更。』
そこでピタリと手が止まった。
「……弱火の方がおいしい、と書いていいでしょうか!?」
「それは誰にとっての正解かしら!?」
学生は少し思案し、至高の食べ比べを行ったエルへと尋ねた!
「どちらが食べやすかったですか!?」
「弱火! 豆の皮が口の中に不快に残らないからさ!」
学生は即座に記述を修正した!
『試食者1名。弱火調理を選択。理由、豆の皮が残りにくい。』
「最初から、完璧な正解を書けるわけではないのですね……!」
「完璧に書けたと自惚れた時が、最も危険な罠なのよ!」
夜、リィナ・アーシタが尋ねてきた。
「記録係の座を……あの方に譲るのですか!?」
「譲るのではないわ。背負う人間が増えるだけ! 1人で全てを独占する方が遥かに危険だと思うの!」
リィナは静かに思考を巡らせた。
「では、私は表の正確な作り方を教えます! ただし……表を作る前に、まず目の前の本人へ尋ねることもセットで!」
「私も荷物の背負い方を教えようかな!」
エルが笑う!
「背負う前に、まず背負ってよいか本人に確認してください!」
「最初から手厳しい注意が入ったーっ!?」
ファは残ったスープを1つの鍋へ安易に混ぜ合わせなかった!
強火と弱火を別々に厳密保存し、加熱時間、残量、冷めた後の粘度変化まで微細に記録したのだ!
「混ぜてしまえば一発で片付くのに……!」
学生の問いに、ファが言い放つ!
「混ぜ合わせたら、決定的な違いが消滅してしまうでしょう! 技術を継承するなら、成功した至高の味だけでなく、強すぎた火がもたらした失敗の結果まで残酷に残すのが本当の誠実さよ!」
私は手帳を開き、ペンを走らせた。
記録係という仲間が1人増えた。
火の適切な扱いを教える伝承者も増えた。
表を作る前に意思を尋ねる者も、背負う前に問いかける者も増えた!
渡すこととは、決して投げ出して手放すことではない!
けれど……この場所が存続し続けることを『勝ち』と呼ぶのも違う気がした。
勝ち負けで定義してしまえば、続けられなかった人々を『負け』と切り捨てることになってしまうからだ!
私は最後に、魂の1行を刻み込んだ。
火は……まだ絶対に消えていない!
それは守る人間が増えたからだけではない!
強すぎる火を優しく弱める至高の術まで、少しずつ人から人へと渡し始めたからなのだ!