機動戦士ガンダム ブライト・ノア「このおにぎりを作ったのは誰だあっ!」 美味しんぼ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
U.C.0092年9月。ロンデニオン港、仮設配給所。
事件は、非常食用に届いた冷凍白身魚から始まった。
その日の当番だった新人記者が、解凍状態を確認しないまま、その魚を「あらい」に仕立てて出してしまった。試食した瞬間、顔色を変えて蹲る。腹痛、めまい、軽い痺れ。幸い軽症で済んだが、冷凍設備の温度逸脱による鮮度劣化が疑われた。
ロンデニオン寄港中の美食倶楽部主宰、ブライト・ノアが仮設配給所に踏み込んできた時、彼はすでに事情を把握していた。手にした皿を、机の上に叩きつける。
「――冷凍状態も確認せず、あらいに仕立てたのは誰だあっ!!!」
倉庫中の空気が凍りついた。声を発する者は誰もいない。
「あらいとは、活きの良さそのものを食べさせる料理だ。冷凍品を、確認もせず生食に回すなど、料理以前の話だ!!」
リィナ・アーシタが即座に流通経路の伝票を並べ直した。
「輸送記録によると、冷凍設備の一部が3日前から故障していました。修理報告書は出ていますが、修理完了の実地確認記録がありません。書類上は直ったことになっているだけで、現場は誰も確認していない」
「つまり、書類上だけの復旧か」
「はい。至高でも究極でも、書類の上のごまかしは通用しません」
ファ・ユイリィが静かに、匂いと解凍状態から傷みの兆候を見抜き、疑いのある箱を次々と隔離していく。使用可否の最終判断は、すべて検査班へ回された。誰も真似できない技だった。
「エル、あなたは味見禁止。今日だけは絶対に」
「なんでですかー!! 私の舌は文化部の食企画の生命線ですよ!!」
「あなたの舌は生命線だけど、あなたの命そのものはもっと大事な財産なの。文化部副部長が食中毒で倒れたら、誰が採点するの」
エルはしぶしぶ引き下がった。私はその横で、この会話をそのまま手帳に書き取った。至高のブライトが怒鳴り、女将が現場を仕切り、帳簿番長が証拠を積む。この配置は、もはや東西新聞文化部の様式美だった。
冷凍設備の修理担当者を呼び出すと、彼は震えながら白状した。部品の在庫が足りず、応急処置のまま「完了」と報告してしまったのだという。
「ふざけるなぁっ!!」
ブライトの一喝が響いたが、続く言葉は意外にも柔らかかった。
「だが、部品が足りないなら足りないと、なぜ最初に言わなかった。1人で抱えるな。至高を守るのは、お前1人の仕事じゃない」
修理担当者は言葉を失い、深く頭を下げた。
翌日、東西新聞文化部は緊急特集として「冷凍設備、慢性的な部品不足、サイド1港湾の実情」という記事を配信した。あらいの事件は、単なる衛生問題ではなく、補給網全体の綻びを映す鏡だったのだ。
私は黒板の隅に、小さくこう書き足した。
至高も究極も、まず現場の在庫を、正確に数えることから始まる。
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