機動戦士ガンダム ブライト・ノア「このおにぎりを作ったのは誰だあっ!」 美味しんぼ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
U.C.0092年9月末。ロンデニオン港、東西新聞支局。
「本社から、東西グラフの取材班が来るそうです」
リィナ・アーシタの報告に、支局はにわかに色めき立った。東西グラフは、東西新聞グループの姉妹媒体で、写真報道を専門とする月刊誌だ。連載企画「世界味めぐり」は創刊以来の看板コーナーで、地球圏はおろかサイドの隅々まで取材網を広げている。
「つまり、私たちの活動が本社的に、正式な取材対象になったってこと!?」
エル・ビアンノが目を輝かせる。彼女にとって、それは「自分の食レポが本社に認められる日」を意味していた。
やってきたのは、東西グラフのベテラン記者と、寡黙なカメラマンの2人組だった。記者は開口一番、こう告げた。
「率直に言う。ここの記事は、少々、身内びいきが過ぎるように見える。至高だ究極だと騒いでいるが、それは本当に読者のためになっているのか?」
支局に緊張が走った。ブライト・ノアが、珍しく静かにその言葉を受け止めた。
「――耳の痛い指摘だ。だが、至高を掲げることは、妥協しないという意志表明だ。それを身内びいきと切り捨てるなら、あなたの舌で確かめてもらうしかない」
カメラマンが、静かにブライトへ問いかけた。
「至高、と名乗るからには、地球の一流料亭にも、引けを取らない自負がおありで?」
「一流料亭と比べる意味など、そもそもない。あそこの至高は、金で買える至高だ。ここの至高は、命で支える至高だ」
その返答に、記者とカメラマンは、顔を見合わせた。
その場でブライトが握った塩むすびを、記者は一口食べ、しばし黙り込んだ。やがて彼はぽつりと言った。
「――なるほど。これは記事じゃない。現場だ」
カメラマンが無言でシャッターを切り続けた。少年はもう、配給列の外から眺めるだけではなかった。自分の番を待ち、ファが手渡した塩むすびを、両手で受け取る。リィナが伝票を睨みながら原価を計算する横顔、エルが3杯目のラーメンをすする瞬間、ファ・ユイリィが女将の顔で全体を見守る瞬間。どれもが、地球の読者には想像もつかない、コロニー港の日常だった。
取材班が帰る間際、記者は私に1枚の名刺を渡した。
「東西グラフの次号、世界味めぐり、サイド1港湾編として掲載する。身内びいきじゃない。これは、正真正銘の現場の記録だ」
私はその夜、手帳にこう書いた。
至高と究極の言葉遊びの奥にあるのは、結局、誰かの空腹を、誰かが本気で心配しているという、ただそれだけの事実だ。それが、地球の記者にも伝わった。
東西グラフ掲載号は、後日、ロンデニオン港の配給難民支援募金を、過去最高額に押し上げることになる。至高でも究極でもなく、ただの善意が、初めて数字として現れた瞬間だった。
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