機動戦士ガンダム 美味しんぼ ロンド・ベルの究極、ネオ・ジオンの至高 逆襲のシャア前夜、ロンド・ベル寄港中の補給食堂 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
北区倉庫まで、旧実習棟から徒歩7分。
エルなら6分。私なら7分。リィナなら9分。
リィナは記録を見て、苦虫を噛み潰したように眉を寄せた。
「歩幅の違いです。能力差ではありません!」
「誰も言ってないよ」
「言う前の顔でした!」
嫌でも使える数字は絶対に残す。相変わらず極端だが、そこが実にリィナらしかった。
北区第4倉庫は、伝票上では避難者用寝具の仮置き場だった。だが、避難履歴に存在しない子供たちを目撃したという不穏な報告が寄せられていた。
噂だけでは動けない。
それでも、噂が惨烈な事実へと変わる歴史的瞬間を見届けたいと思ってしまう己の性分が、私は少し反吐が出るほど嫌だった。
港湾管理局が残留者確認を正式に認めたのは、その日の夕方だった。
「内部確認は職員2人と救護班で行います」
担当者が冷淡に許可証を示した。
「発見しても、急に触れないでください。保護を受けるかは、可能な限り本人へ確認します」
リィナは完璧な行動予定表を作成したが、なぜか最後に大きな余白を残した。
「完璧に決めないの!?」
エルが不満げに尋ねる。
「人を見つけた後まで、表の通りに動かすことは不可能です!」
「大丈夫かな……」
「分かりません!」
絶対に安易な気休めを言わない。これこそがリィナの不器用な誠実さなのだ!
一方、ファは調理場で薄い麦粥を用意していた。
同じ麦を2つの鍋へ分け、片方は粘りが出るまで極限まで煮込み、もう片方は表面の澄んだ上澄みを多く残す!
食べ比べると、濃い方は腹にたまるが、重く舌へ残る。薄い方は味が頼りない。しかし、飲み込んだ後に口の中へ不快なものが何ひとつ残らない!
「女将! 今日はこっちの薄い方ね!」
ファが静かに選んだ。
「弱っているなら、濃い方が栄養あるんじゃないの!?」
「1口も飲めなければ、栄養量は0よ!」
雷鳴のような至高の一言! ファは塩も鍋全体には投入しなかった!
「脱水しているか、口内に傷があるかも分からないのよ! 先に味を完成させれば、料理へ相手を無理やり合わせさせることになるわ!」
「おいしくなくてもいいの!?」
「おいしさを諦めるのではないわ! 今日は、2口目を拒ませないことこそが『おいしさ』なのよ!」
言葉の重みに息をのむ! 倉庫の暗がり奥深くには、3人の子供が潜んでいた。
1人は立てた。
1人は立てなかった。
もう1人は、暗闇の奥から頑として動かなかった。
エルが駆け寄ろうとして、ハッと足を止めた。
「出たいなら手伝う! ここにいたいなら待つよ!」
立てる子がゆっくり近づいた。もう1人は救護員の診察を受け、慎重に搬送具へ移された。
だが、奥の子だけは微動だにしなかった。
全員を同時に連れ出すことはできない!
リィナは予定表を握りしめた。
「まず2人です! 残る1人には、管理局の保護要員を残します!」
決して置き去りではない。
それでも、エルの顔は苦痛に歪んだ。
旧実習棟へ着くと、ファは粥を手渡すような真似はしなかった。
麦の上澄みと薄い粥を、別々の器にそっと置いたのだ!
「飲む。食べる。何もしない。あなたが選んでいいのよ」
1人は上澄みを口へ含み、苦しそうに吐き出した。
もう1人は器へ触れもせず、崩れるように眠りについた。
エルが慌てて新しい器を出そうとすると、ファがそれを制した!
「吐いたから失敗とは限らないわ! 今は胃が受け付けないと分かった。それも料理が受け取った切実な『答え』よ!」
翌日、眠っていた1人が粥の器を指先でたった1cmだけ引き寄せた。
食べはしなかった。
ただ、麦と水の匂いをじっと確かめたのだ。
リィナは帳簿に「食べず」と書きかけ、それを即座に消した。
代わりに、こう記した。
押し返さず。
「それだけ!?」
「それ以上はただの推測です!」
私は手帳を開いた。
2人を保護した。
もう1人の保護は継続中。
粥は飲まれなかった。
1つの器は、押し返されなかった。
最後に、こう書き留めた。
押し返されなかったことを、勝ちにしない。
「後で見せてね」
エルが言った。
「私の嫌なところも書いてあるよ」
「見る! だから絶対に格好よく書かないで!」
夕方、ファは残った粥の温度、粘り、匂いを徹底的に記録してから、自分たちの賄いにした。
「食べてもらえなかった料理を直視しなければ、次も同じ失敗を出してしまうわ!」
その日の粥は、最後までどこまでも薄かった。
美味しいとは、誰も言わなかった。
けれど翌日の鍋では、水分を少しだけ増やし、麦の粒をさらに細かく砕いた。
勝たなかった料理だけが、次の確かな1口へ進んでいたのだ!