機動戦士ガンダム 逆シャア前夜の子供食堂 ――キッカの家―― 〜宇宙世紀0092-0093、サイド1・ロンデニオン外縁区〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
「資金を作るしかない」
会議の結論はそれだった。
匿う子供が増え、配給の横流し先も探り続けるなら、食材も薬も布団も足りない。ルオ商会経由の援助には限界があるし、表向きの予算では逆に足がつく。
「じゃあ売るしかないじゃん、飯を」
エルのひと言で、全員が顔を見合わせた。
学内の軽食販売。
休日限定の屋台。
名目は部活動の成果発表。
実態は資金づくり。
最初の商品に選ばれたのはメンチカツだった。揚げたての匂いは人を引き寄せる。材料も工夫すれば量が取れる。パンに挟めば持ち歩ける。しかも、腹持ちがいい。
「問題は油ですわ」
ステファニーが帳面を叩く。
「高い」
「でも揚げ物は売れる」とリィナ。
「そして私たちが食べたい」とキッカ。
「本音!」
準備当日、旧実習棟は油の音で満ちた。
粗挽きの肉に玉ねぎ、パン粉、少量の芋。ミリーは肉汁を逃さないように空気を含ませ、エルが次々と成形し、リィナが計量、キッカが呼び込みの文句を考え、ステファニーが価格設定をする。
「安すぎますわ」
「高すぎると学生が買えない」
「利益が出ません」
「でも売れなきゃ意味ない」
言い合いながらも、全員の手は止まらない。
揚がった一個目を、まずミリーが割る。
湯気。肉汁。香ばしい衣。
ひと口食べたエルが天を仰いだ。
「これ、暴力」
「褒め言葉?」
「最高のやつ!」
屋台は予想以上の行列になった。
そのぶん、裏口に人の気配が増えた。
揚げ物の匂いは正義だ。学生たちが群がり、口コミが広がり、気づけば予定数が昼前に消える勢いになる。
だが、繁盛は目立つということでもある。
売り上げを数えていた夕方、屋台の裏へ見覚えのない男が来た。作業着に見える服装だが、靴だけが妙に高い。
「いい商売してるな、お嬢ちゃんたち」
キッカが笑顔で応じる。「ありがとうございます」
「今後も続けるなら、場所代がいる」
みかじめ料。
港湾区の連中だ。
エルが一歩前に出るのを、リィナが腕で止める。
代わりにミリーが、屋台の鍋を見た。
揚げたての油。
まだ熱い。
「払えないなら、子供らが困る目に遭うかもなあ」
その瞬間、ミリーの中で何かが切れた。
「あなたたち、子供の名前を知ってるんですか」
男が面食らう。
「は?」
「顔も、好き嫌いも、熱を出しやすい季節も、知らないでしょう」
ミリーは静かに言った。
「知らないなら、近づかないで」
声は大きくなかった。
だが底にある怒りが、場の空気を変えた。
男が舌打ちし、手を伸ばしかけた時。
その背後から、冷たい声が落ちる。
「その方たちは、ルオ商会の支援先ですわ」
ステファニーだった。
笑っているのに、目が笑っていない。
「ここで問題を起こすと、あなた方の親玉が困るかもしれませんわね」
男の顔色が変わる。
完全には引かないが、今は分が悪いと判断したのだろう。捨て台詞を残して去っていった。
緊張が解けると、キッカが息を吐いた。
「危なかった……」
「でも分かったわね」とリィナ。「向こうも資金源を潰しに来る」
ミリーは売り上げ袋を見た。
今日の利益は、子供たちの明日の飯になる。
だからこそ守らなければならない。
揚げ物の熱さは、生きている証だった。
そして今や、それは彼女たちの武器でもあった。