機動戦士ガンダム 逆シャア前夜の子供食堂 ――キッカの家―― 〜宇宙世紀0092-0093、サイド1・ロンデニオン外縁区〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
コロニー内の人工気候が、冬季設定の乾いた空気から一時的な温暖設定へ切り替わった。地球の季節とは違うが、ロンデニオン外縁区では環境維持の都合で、数日だけ湿った暑さが来ることがある。
冷房の弱い旧実習棟は蒸し風呂同然になり、子供たちの食欲も落ちた。配給の質はさらに悪化し、連邦高官の汚職やスウィートウォーターの動向ばかりがニュースを騒がせる。
「熱中症が出るわ」
リィナが、ぐったりした子供を見て眉を寄せる。
「水だけじゃ足りない」とミリー。
彼女が選んだのは冷やし汁だった。焼き味噌をすり鉢で当たり、胡麻と出汁で伸ばし、焼いた干物をほぐし、きゅうりを刻む。冷たいご飯にかければ、喉を通りやすく、塩分も取れる。
「地味だなあ」とエル。
「地味なやつほど強いんです」
ミリーはそう答える。
作っている最中、キッカが窓の外を見ていた。
港の方角に黒い煙が見える。その下で、民間警備会社の赤い識別腕章がいくつも動いていた。小規模な暴動らしい。食料倉庫前で配給を求める群衆と、警備隊がぶつかったと噂が流れてくる。
「始まってきたね」
キッカが呟く。
「まだ戦争じゃないのに」
「戦争は、宣戦布告より前に来るんだよ」
その言葉を、ミリーは黙って聞いた。
冷やし汁は子供たちによく効いた。
ひと口目は恐る恐るでも、喉を通った瞬間に勢いがつく。冷たさと塩気が、失われた食欲を引き戻す。
その中に、最近保護した少女がいた。名はサラ。
彼女は二杯目を食べ終えると、小さな声で言った。
「お兄ちゃんが、港で働いてる」
「どこの?」とリィナ。
「赤い腕章の人たちに連れていかれた。ご飯出るって言われて」
キッカとミリーが顔を見合わせる。
まただ。
「場所、分かる?」
サラは首を振るが、腕章の形は覚えていた。
ステファニーがそれをメモする。
「下請け警備会社の私兵ですわ。最近、民間労働の名目で人を集めてる」
「もう“子供の横流し”ってレベルじゃない」とリィナ。「戦争に向けた労働力確保よ」
その晩、ミリーは一人で食器を洗いながら考えた。
目の前の一食を守るだけでは、きっと間に合わない。
奪われる前に囲い、消える前に見つけ、隠れられる場所を増やさなければならない。
「ミリー」
背後からキッカが声をかけた。
「次、避難場所を増やそう。ここだけじゃ抱えきれない」
「賛成です」
「で、そのためには?」
ミリーは少し考えて答えた。
「学外に協力者が必要です。食べ物で釣れる人」
キッカが笑う。
「いい顔するようになったね」
冷やし汁の冷たさが残る夜に、
彼女たちは次の拠点づくりへ動き始めた。