機動戦士ガンダム ブライト・ノア「このおにぎりを作ったのは誰だあっ!」 美味しんぼ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
U.C.0092年11月。ロンデニオン港、美食倶楽部。
「ファ、お前を美食倶楽部の極秘試食会に招く」
ブライト・ノアの申し出に、支局は騒然となった。美食倶楽部は帝都新聞側の私的な集まりで、東西新聞文化部の人間が足を踏み入れたことは1度もない。
「ファさんが、至高側に寝返るってこと!?」
エル・ビアンノが本気で慌てふためいた。リィナ・アーシタでさえ、珍しく眉根を寄せた。
「ファさん。これは、文化部長補佐として看過できません。利益相反の可能性があります」
ファは笑って首を振った。
「心配しないで。招かれたのは、審査員としてよ。至高のメニュー、最終候補の試食に、外部の厳しい舌が欲しいんですって」
「そんな重要な役目、私にも回してくれればいいのに……」
エルが唇を尖らせると、ブライトが真顔で答えた。
「お前の舌は正直すぎる。至高の欠点を、容赦なく指摘しかねん」
「それ、褒めてます? 貶してます?」
「両方だ」
美食倶楽部の会場は、ロンデニオン港でも珍しく、照明も食器も一級品で揃えられた一室だった。並んだ料理は、限られた資材の中でブライトたちが磨き上げてきた渾身の一皿ばかりだった。
ファは1皿ずつ、丁寧に味わい、時に厳しく、時に温かく評していった。
「この魚料理、火の入れ方は完璧。でも、塩加減が、難民救援物資の塩を基準に考えると、少し贅沢すぎる。至高というなら、いつでも誰にでも再現できる贅沢であるべきよ」
ブライトはその指摘に、一瞬言葉を失い、やがて深く頷いた。
「――手厳しいな。だが、正しい」
試食会が終わる頃、噂を聞きつけた帝都新聞の関係者から、こんな声が漏れた。
「東西の女に、至高を審査させるとは。ブライトも焼きが回ったな」
その言葉が、後日、東西新聞の号外にそのまま引用される形で掲載された。見出しは「ファ・ユイリィ寝返り説を否定、至高と究極の橋渡し役に」。
「寝返り疑惑」は、こうしてあっけなく晴れた。だが、その一件をきっかけに、美食倶楽部と東西新聞文化部の間に、ほんの少しだけ、風通しの良い空気が生まれた。
私は記事の最後に、こう書き加えた。
「至高と究極、対立する2つの旗の下でも、本当にうまいものを見抜く舌には、旗の色は関係ない。それを証明したのが、今回の極秘試食会だった」
エルは記事を読んで、しみじみと呟いた。
「結局、ファさんが1番強いんだよね」
「同感です。至高の鬼も、究極の食いしん坊も、女将には敵いません」
リィナの断言に、私は思わず笑ってしまった。
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