Unique Tale Online ~竜人少女(?)の珍道中~   作:姫河ハヅキ

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第三十九話 幼女の誘拐現場に遭遇ってどんなラノベ?

 八月一日、入学の日。現実での雑事を済ませてログインし、おじさん達の朝ごはんを作ってから学院に向かう。もう学院までの道は覚えてるし、一人でも大丈夫でしょ。万が一迷ったとしてもボクには翼があるから。

 え?リル達?今も寝てるよ。昨日の狩りでかなりはしゃいでたから、この状況は想定内だったりする。子供だからしょうがないね。

 ボクとしては、リル達が爆睡するより、シユ姉達が昨日の狩りであそこまでしつこくボクのスキルについて聞いてくるのが予想外だったよ··········。

 どうも普通の【召喚術】はあまり強くない魔物でもそれなりのMPを消費するらしい。ユリア達ぐらいの強さを持つ魔物を回復無しで四体を一気に召喚するのは、MP特化型プレイヤーですら厳しいらしい。で、その激しい魔力消費の原因は、召喚獣の肉体を魔力で形づくるせいだと言われているらしい。そのキキョウの知識が間違っていないなら、ボクのMP消費がゼロな理由は分かりきっている。理由は単純、ユリアを筆頭としたボクの契約相手は肉体を失っていない。髪飾り、もしくは首飾りに宿っているのでそこから出てきてもらうだけだからね。

 ······そういえば、おじさんとリオンとエメロアは教師だったような。三人ともまだ寝てたけど、起こした方が良かったかな?

 

『今日は入学初日だし、オリエンテーションや施設見学で終わるんじゃない?』

 

 そういうことか。おじさんの性格的に、寝坊して遅刻なんてことはないだろうからね。おじさんは授業がある日はちゃんと起きるイメージ。リオンやエメロアは······うん、寝坊しそう。

 そんなことを考えながら歩き出そうとしたボク達は、ある光景を目撃した。

 

『ねえ·········あれ』

 

『······どこからどう見ても厄介事ね』

 

 金髪に黒と赤のオッドアイの幼女が縄で縛られ、黒ずくめの男に担がれている。

 

 うわー······明らかにトラブルじゃんあれ·········。幼女は何かわめいているようだけど、遮音結界が張られているようで、彼女の悲鳴は誰にも聞こえていない。もちろん、ボク達にも聞こえていない。結界の中を見えないようにする結界も張られているんだろうが、ボクの眼だとそれを自動的に無効化できるので、誘拐現場を目撃しちゃったという訳だ。ユリアの場合は、スキルにはない魔力感知技術と自前のMNDでレジストしたのかな?

 

『どうするの?』

 

『いや、小さい女の子見捨てるのは人としてダメでしょ。その女の子が犯罪者ならともかく、普通の女の子なら助けるべきだと思う』

 

『貴方はやっぱりそうするのね。でも、今日は学院初日なんだし遅刻しないようにね?』

 

『あ』

 

 ······入学初日に遅刻するという不良行為をかますかもしれないけど、人命優先だよね。先生達も許してくれる········よね?人命がかかってるんだし、ボクの遅刻なんて些細なことだよ。

 

ピロン

 

《緊急クエスト:アナスタシア·セイリアの救出 が発生しました》

 

 緊急クエスト?シユ姉達からは聞いたことないけど、こんなのあったんだ。まぁ、今はシステムメッセージは放置で。

 

『さて、どうやって助けようか』

 

 黒ずくめ達に気付かれないようにユリアに魔法をかけてもらってから追跡を始める。正面から行ったら逃げられるだろうし、どうにかして奇襲をしかける必要がある。

 

『ユリアがあいつらの前に光魔法やら幻影やらを撒いて、足が止まった時にボクが上から女の子をかっさらう、って感じでどうかな?』

 

『あ、新しい魔法を習得してたんだけど、今の状況に合ってそうだわ』

 

『何を習得したの?』

 

『【古代魔法·幻影】の『幻痛(ファントム·ペイン)』よ。私がこれでオッドアイロリを抱えてる奴を怯ませるから、その隙にスノウがオッドアイロリを奪いなさい』

 

『おっけー』

 

 黒ずくめ達が路地に入っていった。魔法で隠蔽状態とはいえ、路地ともなると逃げ場が無くなってしまうので、建物の上に飛び上がって屋根を走りながら追跡を続ける。路地に入ってからしばらくすると、もう見つからないだろうと思ったのか、結界が解除された。

 ·········あれ、今って奇襲のチャンス?まだアナスタシアちゃんを抱えているのに、迂闊すぎない?

 

『多分、さっきの結界は魔道具を使って張られていたんじゃない?機能が複数あるし、あまり長時間の起動はできないんでしょ』

 

 なるほど。確かに、黒ずくめの一人が持ってる魔道具らしきものから魔力が漂ってるね。しかも······煙っぽい?焦げ付いてる感じかな?

 

『ちょうど結界も解除されたし、突撃する?』

 

『そうね、さっさとやっちゃいましょう。3···2···1······行きなさい!』

 

『はいよー』

 

 ユリアの指示に従って建物の屋上から飛び降りると同時に、地上付近で突然強い光が発生する。ユリアの『閃光(フラッシュ)』だね。 

 ボクが着地する頃には光は収まっていて、目を押さえてのたうち回っている黒ずくめが複数。······ム○カ大佐かな?

 その中で、目と腕を押さえて悶えている一人の近くに落下していたアナスタシアちゃんを回収し、三角跳びの要領で再び建物の屋上に戻ると、アナスタシアちゃんがボクをじぃっと見つめていた。そういえばこの子の魔力、()()()()()()()()()()()をしてるなぁ。何なんだろうね。

 

「そなたは何者じゃ?」

 

「えっと·········通りすがりの竜人?」

 

『なんで疑問符がついてるのよ······』

 

 通りすがりの竜人としか言えないけど、アナスタシアちゃんはその答えじゃ納得しないだろうなぁっていう迷いの現れ的な?

 

「名はなんと言う?」

 

「ボクはスノウ。異界人だから家名はないよ」

 

 ボクの「異界人だ」という言葉を聞いた瞬間、アナスタシアちゃんは不思議そうに首を傾げる。

 

「異界人じゃと······?異界人は報酬が無いと決して動かぬ輩と聞いたのじゃが·········?」

 

 う〜ん······完全には否定できないなぁ。その手のプレイヤーは結構いるみたいだし。

 

「そういう異界人もそうじゃない異界人もいるんだよ」

 

「ふむ、そういうものじゃと思っておこう」

 

「うん、そのくらいの認識でお願い」

 

 で、だ。アナスタシアちゃん、どこに連れて行けばいいのかな?顔が似ているし多分ヘリオスの血縁だから、ヘリオスの所に連れて行くべき?

 

「お嬢ちゃん、親や兄弟はどこにいるの?」

 

『スノウもお嬢ちゃんの範疇だと思うんだけど·········。パンツァーにも嬢ちゃん呼びされてるし』

 

 だまらっしゃい。

 

「そうじゃ、礼を言うのを忘れておった。妾はアナスタシア、アナスタシア·セイリアじゃ。此度の件、本当に助かったのじゃ。妾の名に懸けて恩は返す」

 

「どういたしまして。それで、家族はどこにいるの?」

 

「えっ?」

 

「え?」

 

「··················」

 

「··················」

 

「······妾の姓を聞いて分からぬか?」

 

「セイリア······ヘリオスの妹ちゃん?」

 

 アナスタシアちゃんがズルッと体制を崩してから、どこか呆れたような声音で問い掛けてきた。

 

「·········この国の国名は知っておるか?」 

 

「それはさすがに知ってるよ。セイリア王国······ん?アナスタシアちゃんってお姫様!?」

 

「気づくのが遅すぎなのじゃ!」

 

 アナスタシアちゃんって王族だったの!?

 

『やっと気付いたわね······』

 

 えっ、ユリアは気付いてたの?

 

『······ユリアはいつから気付いてた?』

 

『そんなの最初に会った時に決まってるじゃない』 

 

 マジで!?

 

『なんで教えてくれなかったの?』

 

『いや、気付かないスノウがどうかと思うわよ。なにせ国名にセイリアってあるんだし』

 

 それを言われると言い返せない·········。

 

「うん、まぁ、それはそれとして。とりあえずお城に連れて行けばいいのかな?」

 

 ボクがそう言いながら城の方へ飛ぼうとすると、アナスタシアちゃんがボクの服の裾を握りしめて制止する。

 

「今、城に戻るのはダメなのじゃ」

 

「なんで?」

 

「妾を罠に嵌めた騎士がまだおるかもしれん。今戻ったとしても、戦闘能力があまり高くない妾では、また拉致される可能性が高いのじゃ」

 

「じゃあどうするの?ボクこれから学院に行こうと思ってるんだけど」

 

「妾を見捨てる気か!?この状況で置き去りにする気なのか!?」

 

 半泣きでボクにすがりつくアナスタシアちゃん。と思ったらみるみるとアナスタシアちゃんの表情が崩れ始めた。半泣きどころか顔の汁という汁を出しかけており、間違っても女の子がしちゃいけない類の表情だ。

 いや、アナスタシアちゃんを置いて学院に行こうとしてるんじゃなくて、学院に連れて行くつもりだから安心して。アナスタシアちゃんはこう言ってるうえに、多分ヘリオス達も今は学院にいるだろうし、お城じゃなくて学院に連れて行った方がよさそうだね。

 急にアナスタシアちゃんを連れて行ったら何か誤解を受けるかもしれないし、『念話(テレパス)』でロネに連絡しておこう。ユリア曰く、「一度この魔法で連絡を取ったら、距離がある程度離れてても『念話』は可能よ」と言っていたので、ヘリオス達に直通とはいかないが、ロネになら直接繋げられる。

 

「ちょっと待っててね」

 

 アナスタシアちゃんにそう言って、ユリアに『念話』を繋げてもらう。

 

『ユリア、ロネにお願い』

 

『······今はあまり関係ないけど、スノウって自分で古代魔法系統のスキル使ってたかしら?私は見た記憶ないのだけど』

 

 ·········本気で今の状況とは無関係だね。ちなみにボクとしても使った記憶は無い。

 話を逸らしながらもきちんと『念話』は発動してくれたようで、ボクの魔力がロネの魔力と繋がった。

 

『ロネ、聞こえる?』

 

『っ!?·········いきなりこの魔法で連絡するのはやめてもらえない?』

 

 ロネって案件対応早いよね。初めてロネに『念話』した時もすぐに適応したし。まぁ、さすがにアポ無しで急に連絡したら少しは驚くよね。

 

『ごめん、緊急の案件なんだよ』

 

『······何があったのよ?』

 

『ロネの近くにヘリオスっている?』

 

『いるわね。なぜかとても焦ってる様子だけど』

 

 確実にアナスタシアちゃんの件だ。そりゃ妹がいなくなったら焦るよね。

 

『ヘリオスに連絡を取りたいから、ヘリオスに触れてくれないかな?「アナスタシアちゃんの件で話がある」って伝えたら分かってくれると思うよ』

 

『アナスタシア?誰かは知らないけどとりあえず言ってみるわ』

 

 ロネがそう言ってから一分もしない内に、やたら清浄な魔力を感じる。多分これがヘリオスの魔力かな?

 

『スノウ!君はアナの、妹の居場所を知っているのか!?』

 

 ヘリオス達と会ったのはたったの数回だけど、それでも大体の性格は分かる。ヘリオスは基本的に冷静だ。強すぎる感情を表には出ないようにしていて、学院の試験で窮地に陥っていた時も表面上は平静を取り繕っていた。そんなヘリオスがここまで慌てている。余程アナスタシアちゃんが大切なんだろう。

 ·········あれ?ボクってヘリオスに『念話』の存在伝えてたっけ?

 

『私が伝えておいたのよ。ダメだった?』

 

 とはロネの言葉。

 

『いや、手間が減ったからありがたいよ』

 

『それより、アナはどうなんだ!?教えてくれ!』

 

 ホントに普段のヘリオスからは想像できないほどの慌てっぷりだねぇ。

 

『一応の確認なんだけどさ、アナスタシアちゃんって金髪に赤と黒のオッドアイで合ってる?』

 

『ああ、そうだ!』

 

『そのアナスタシアちゃんだけどさ、今はボクが保護してるよ。偶然拉致の現場を見つけたから、助けといた』

 

『それは本当か!?』

 

『こんな状況で嘘を言うほど、ボクの性格は悪くないよ。なんなら、アナスタシアちゃんの声を聞かせてあげるよ』

 

 そこでアナスタシアちゃんの方向を向くと·········まだ泣いていた。そのうえ、いつの間にかボクの足にしがみついている。

 

「お願いじゃ!妾をここに置いていかないでくれ!なんでもするから、見捨てないでほしいのじゃ!!」

 

 だから、最初から見捨てる気はないんだって············。子供が拉致されるのを見過ごすのはなけなしの良心が痛むから。

 あと、王族に下手で来られると居心地がすごく悪い···············。ボクはただの平民だからねぇ。

 とりあえずアナスタシアちゃんにも『念話』を繋げておこう。ヘリオスの声を聞けば落ち着くでしょ。

 

『ほい、繋げたよ』

 

『む、頭の中に声が?これは何なのじゃ?』

 

『その声は、アナ!』

 

『兄上!?』

 

 よし、ちゃんと繋がったね。

 

『繋げたのはスノウじゃないけどね』

 

『まぁね。ボクは魔力を繋げただけで、術式の面で繋げたのはユリアだし』

 

 古代魔法系統のスキルは、ユリアの方が扱いが上手いからね。適材適所ってやつだよ。

 

『アナ、無事なのか!?』

 

『妾はスノウ殿が助けてくれたおかげで無事じゃ!』

 

『良かった·········』

 

 アナスタシアちゃんも落ち着いたことだし、さっさとヘリオスの所に届け·········っ!?

 

『ひゃあぁぁぁ!?』

 

『アナ!?』

 

 あー······話しすぎたかぁ。

 『閃光』や『幻痛』で足止めしていた黒ずくめ達が復帰していた。今のアナスタシアちゃんの悲鳴は、黒ずくめ達が投げてきた投げナイフからアナスタシアちゃんを守るためにボクに引き寄せたからである。

 投げナイフは尻尾で弾こうとしたが、急すぎてスキルの発動が間に合わず、ボクの尻尾には投げナイフが刺さった状態だ。

 

「冥土の土産に教えてやろう。そのナイフに塗られた毒は、小瓶一つの量で竜すら殺せげぼはぁ!?」

 

「説明が長い」

 

 どんな種類の毒が、どれだけ強い毒が塗布されていようと、ボクには全く効かないんだよね。ボクの追跡に気付かなかったことといい、今みたいに自分から隙を作ってボクに蹴られることといい、王族の誘拐なんてのを実行するくせに迂闊と言うか何と言うか·········お馬鹿さん?

 ここでわざわざ黒ずくめ達と戦う理由は無いし、ユリアに煙幕張ってもらって、飛んで逃げようかな。

 

『ユリア、煙幕系統の魔法を適当にお願い』

 

『なんだかんだで私、攻撃魔法よりも支援とか煙幕とかの補助魔法の方が使ってるわね······。段々と慣れてきて、そろそろ無詠唱でもいけそうよ』

 

『攻撃魔法使いたい?』

 

『いつか本気でぶっ放してストレス発散したいわね········。はい、魔法完成。発動するわよ』

 

 ボク、リル、イナバと攻撃役が多いせいでユリアはバファーかヒーラーの役割しかやってないからねぇ。ヴァルナのメインの役割はタンクだけど、余裕があったらヴァルナも攻撃に加わるから、なおさらユリアの攻撃のチャンスが無いのがストレスが溜まる原因なのだろう。どこかのタイミングで、本人の要望通りにストレス発散の場を設けないとなぁ。

 とまあ、こんな風に愚痴りながらも数秒間で構築したとは思えない魔法の数々が発動し、ボクとユリア以外の全員の視界が閉ざされる。ボクはその隙を突いて隣のアナスタシアちゃんをお姫様抱っこし、すぐさま飛び立つ。

 ユリアによると、多少のストレス発散を兼ねて多めのMPを込めたらしいので、ボク達を見失うくらいの時間は稼げるだろう。さっきは使ってない類の魔法もあるから、『閃光』や『幻痛』への耐性が出来てても、他の魔法で十分足止めされることだろう。

 逃げるんだよ〜。

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