東京喰種【赤鬼】   作:マツユキソウ

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ヤモリと赤鬼とオカマ

『九月中旬ですが暑いですね~。今日は今話題の美少女ツンツンスタッフがいると噂の、アメリカ発のチェーン店ビックガールに来ています! 早速ですが中に入ってみましょう!』

 

確かに暑いな。

 

『いらっしゃいませー!』

 

『早速、元気が良くて可愛い子達がお出迎えしてくれました。でも、この中にはツンツンさんはいないようですね。すみませーん』

 

ツンツンさんって何だ? いや、ツンツンってどういう意味だ?

 

『はーい?』

 

『あの、僕達○□テレビ局の者ですが、今話題になっているツンツンしているスタッフを探しているのですがいますか?』

 

『あぁ~……岸花ちゃんかな』

 

……岸花。

 

『ほうほう、岸花ちゃん? その子は今何処に?』

 

『えーと……あ! お店の奥で注文を聞いている子がそうですよ』

 

『ありがとうございます。どうやらツンツンさんは奥の方で注文を聞いているようです。行ってみましょう!』

 

 

 

『すみませーん。貴女が岸花さんですか?』

 

『……はぃ』

 

『あ、そんなに警戒しないで下さい。僕達○□テレビ局の者です』

 

『そう』

 

『僕達、美少女ツンツンスタッフがいると聞いてやってきたのですが、貴女ですよね?』

 

『……違います。それでは』

 

『ちょ、ちょっと待ってください。ツンツンしていて可愛らしい。完璧に貴女のことですよ?』

 

『……?』

 

『首を傾げているということは、どうやら本人は自覚がないようですね。』

 

『お客さんの迷惑。帰って』

 

『ツンツンですね(笑) 一応、店長さんとお客さんには許可を貰っているので大丈夫ですよ』

 

『……そう』

 

『そうで………

 

プツン!

 

俺はテレビの電源を消す。

カタカタカタ。リモコンを持つ手が震えている。っふ……静まれ俺の右手。

カタカタカタカタカタカタカタ。

落ち着け俺! 一旦落ち着け俺! まずは深呼吸だ。吸って~吐いて……吸って~吐いて。

 

ふぅ、まずは状況整理からだ。

俺は誰だ? 

久土正人。二十八歳。喰種対策局、英名は【Commission of Counter Ghou】 通称CCGと呼ばれる国家機関の喰種捜査官だ。

今はSS級駆逐対象である【赤鬼】を捜査するために十一区支部へと来ている。

階級は准特等捜査官。相棒は広野。

来年に小学生になる息子と二人で暮らしている。

 

うむ、大丈夫だ。落ち着いた。落ち着いたぞ。

 

何故こんなに取り乱した?

お昼休みということで何となくテレビをつけて自作した弁当をつまんでいると……テレビに岸花雪が映った。

 

岸花雪って誰?

息子の創多が世話になり、俺も一度だけ会った。その名の通り雪の様に綺麗な少女だ。

……あと彼女は喰種だ。

 

いや、訂正。彼女は人だと思う……喰種であるならわざわざ飲食店で働かない、しかも目立つようなことをするか? しないと思う。だったら俺の勘は外れた事になる。

彼女が喰種でないのならそれでいいんだが、何だ。このモヤモヤした感じは。

 

「確かめに行くか…」

 

考えるよりまず行動。

彼女に会えばきっと何かわかるはずだ。

 

 

俺は先程テレビに映っていた彼女の姿を思い出す。

それにしても…………可愛いな。

顔は元から可愛いのは知っていたが、ぴったりとした制服を着ている彼女は……なんだ、その~……意外に胸が大きいんだな。見た感じDくらいあると思う。

それに、時よりスカートが揺れてそこから覗く白い肌も良いと思うぞ。

 

 

俺は何を考えているんだぁあああああああ!

これでは、女の子をいやらしい目で見ているそこらのオヤジと変わらないではないか!

くそ、冷静になれ久土正人。俺には愛おしい息子がいるだろ。親として手本を見せてやらねばならんだろうが!

 

ふぅ……疲れているのかもしれんな。

俺は『岸花雪に会いに行く』という考えを頭から除外する為に手元にある資料を見る。

 

 

『十一区の局員捜査官及び喰種捜査官数名が好戦的な喰種集団に襲われる』

 

最近、捜査官を狙う喰種達がいる。

襲ってくる喰種達は戦い慣れしているが、局員捜査官と喰種捜査官で連携してコレを撃退しているので死者はいない。

しかし、襲ってきた喰種集団の中に【ジェイソン】と【しっぽブラザーズ】らしき喰種が

混じっていたとの報告も受けた。

【ジェイソン】に【しっぽブラザーズ】どちらも危険で厄介な喰種だ。

もしもこいつ等が十一区にいるなら……苦戦は免れないだろうな。

俺は冷たくなった珈琲を一口啜る。

 

何だろうな……嫌な予感がする。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「到着……暑いです」

 

私は目立たないように着ていたフード付きコートを脱ぐ。

九月中旬ということもあり、汗が服を濡らす。

まだまだ暑い日が続くのですが、コートを着なければいけない理由がありました。

どういう訳か、最近やけにヒトに声をかけられます。極力目立たないように、ヒトと話す時も必要最低限のことしか言わないようにしていますが、何故か喜ばれます。

ヒトは本当に不思議な生き物です。

コートを着ていた時も何故かジロジロ見られましたし……

 

ビックガールのバイトを午前中で終えた私は、久しぶりに十一区にあるアオギリの樹アジトに帰ってきた。

勿論、宣伝の為にビックガールの制服を着たままで来ました。

 

 

……あ

 

 

別に制服じゃなくていいじゃないですか……私は何をやっているのでしょう。

この暑さで冷静な判断ができなかったのかもしれません。そういうことにしておきます。

困りました。着替えたいのですが、生憎服はコートと制服しかありません。今から買いに行くのも面倒ですし……仕方がありませんがこの格好でいきましょう。

アジトに続く森の中を歩く。湿った土や木の匂い……都会ではあまり嗅げない匂いです。

あまり良い匂いとは言えませんが、それでも働いている時に嗅ぐ匂いより数倍……いえ、何万倍もマシです。

 

私が帰ってきた理由は、何時まであんていくを見張っていればいいのか聞くためです。

タタラさん……アジトにいるでしょうか。あの人時々いないことがあるので、もしいなかったら困ります。

 

「女! 止まれ!」

 

アジトの入口でアオギリの樹の方に止められました。

確かこの人は『これからのアオギリについて』考えていたとても良い人だったと思います。

 

「……なに?」

 

「何? じゃないだろ女! お前は喰種か?」

 

あれ? 私とこの人は以前会ったはずですが……どういうことでしょう。

もしかして、合言葉か何かそれに近いものを言わないと通してもらえないのでしょうか?

 

うーん。困りました。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「っち、ダンマリかよ。ノロさんや赤鬼さんじゃねぇんだからよ。何か話せよ! 殺すぞ」

 

オレは目の前の女が何も言わないことに腹を立てて怒鳴った。

しかし、女は沈黙を保ったままで一向に話す気配がない。

ったく、本当にノロさんや赤鬼さんみたいじゃねぇか。人に何か聞かれたら返す。常識だろ。

しっかしまぁ……

俺は目の前の女を見る。

 

可愛いな。

腰まで届く真っ白な髪。汚れを知らない柔らかそうな肌。顔もオレ好み……ってか全員が可愛いっていうレベルだ。

 

でも……女と視線が合うが直ぐに逸らす。

あの目は何だ? 絶対ヤバイ! 初めて女を見つけた時にアジトに近づいてきたから問答無用で殺そうと思ったが、あの目を見た瞬間。手を出したら殺されると思っちまった。

ちょっとチビったかもしれん。

一言で言うなら……『死』だな。わかりにくいなよな、でもあの目を直視しろって言われたら絶対に嫌だって答える。まだヤモリさんに喧嘩を売る方がマシだ。

 

……ごめんなさい。嘘です。どっちも嫌です。

と、兎に角。この女をどうにかして追い返さないと……

 

「……赤鬼」

 

「は、はい?」

 

オレの聞き間違えか? 目の前の女の子が口を開いたと思ったら赤鬼って……

 

「私、赤鬼。だから通して」

 

「ふぁあああああああああああああああ!?」

 

「っ……」

 

「マジで? お前……いえ、貴女が赤鬼さん?」

 

オレの質問に女の子は首をかしげる。

 

「うん?……赤鬼さん」

 

ま、マジかよ……マジかよ! マジかよ! ヒャッハー!

俺は今猛烈に感動している!

赤鬼さんが、まさかの女! しかも超絶美少女! 俺は幸せだ。神よ感謝します。

マジかよ。やばい、マジかよ! テンション上がってきた。

マジかよ……ってさっきからオレ、マジかよ連発しまくってるよ。マジかよ!

いや、これはマジテンション上がる!

 

ヒャッフー!

 

オレの意識はそこで途切れた。

 

 

 

「おい! 起きろ! キスするぞ」

 

「あれ……」

 

目を開けるとオレの相棒が目の前にいた。

あと、気持ち悪いこと言うな。生憎だが俺にはソッチの趣味はない。

 

「あれ、オレは……」

 

「何寝てんだよ。こんな所を幹部の人に見られたらお前殺されるぞ」

 

「あ…あぁ、すまん」

 

どうやらオレは見張りの途中で寝てしまっていたらしい。

何だ。顎の辺りが痛いし、頭もフラフラする。それに寝る前の記憶がない。

 

確か誰かにあって……ダメだ。思い出せん。

 

かなり大事なことだと思うんだけどなぁ。

まぁ、その内思い出すか。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

先程の人は何だったのでしょう。

私が赤鬼と名乗ると、男の人はその場で小躍りしながら叫び声をあげたのでビックリしました。

思わず顎に掌底スパーン!しちゃった……

まぁ、手加減してやったのでその内気づくでしょう。それよりもタタラさんです。

 

「あらぁ、可愛らしい子ね。どうしたのぉ?」

 

「……ニコさん」

 

声をかけられたので振り向くと、ヤモリさんのパートナーのニコさんがいた。

 

「あら、私の名前を知っているってことはアオギリの樹のメンバーかしら?」

 

ニコさんは女口調ですが、れっきとした男性の喰種です。

少しだけ変わっているだけです!

 

「うん、赤鬼」

 

「うっそ。アナタ赤鬼さん? 私、鼻が利くから匂いで女の子ってのはわかってたけど、まさかこんなに可愛い子が赤鬼だなんてねぇ」

 

「……タタラさんいる?」

 

「タタラっち? 今日は用事があるみたいでアジトには来てないわねぇ」

 

「……そう」

 

残念です。またの機会に聞くことにしましょう。

折角アジトに来たので、ヤモリさんに会いに行こうかな。

 

「……ヤモリさん」

 

「あら、ヤモリのとこに行きたいの?」

 

「うん」

 

「丁度良かったわ。私もヤモリの所に行こうと思っていたのよ。一緒に行きましょ」

 

ニコさんはそう言って階段を上がっていった。

 

私達が屋上に着くと、沈みかけの太陽と重なるようにヤモリさんが座っていた。

あれ、ヤモリさん元気ない?

今日のヤモリさんの背中は、随分と小さく感じた。

 

「…ヤモリどうしたの?」

 

ニコさんも何時ものヤモリさんと違う雰囲気に気づいたのか、心配そうに声をかける。

 

「…少し。母親の事、思い出してた」

 

…………

 

「一体どれだけの喰種がなにかを失わずにいられるんだろう。別に感傷になんて浸る気はないけど……強くないと奪われるばっかだ」

 

「……ヤモリ」

 

「あ、赤鬼ちゃん!?」

 

私は、後ろからヤモリを抱きしめた。

といってもヤモリは大きいから抱きしめるというより抱きついた感じになりましたが…

抱きしめた理由なんて無いです。何となく、本当に何となくです。

 

「き、君が赤鬼?」

 

ヤモリ、少し動揺しています。心音が不規則になりました。

 

「うん……赤鬼」

 

「そうか、君が……君は強いね。僕なんかより……ずっと強い」

 

……そんなことない。

 

「ふふ、赤鬼ちゃんって意外に大胆なのね。じゃあ、私も……」

 

そう言ってニコさんはヤモリの右側に行き。

両手を広げた。

 

「ヤモリ! 仕方ないから抱かせてあげるわよ!」

 

「激しくいらなーい」

 

ヤモリ、即答でした。

あと、ニコさん何言ってるんですか……ちょっと怖いです。

 

「だってニコ、ヒゲが当たりそうだもん」

 

「んもう! つれないのね…」

 

『アハハ』

 

ニコさんとヤモリは楽しそうに笑う。

 

……温かい。

 

 

でも。

 

 

「……奪われる。アイツ等から……ならワタシは…守る。だから、ワタシは殺す。」

 

『赤鬼(ちゃん)?』

 

「あはは、アハ。アハハハハハハハハ」

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

一瞬誰かわからなかったわ。

あの無口でクールな赤鬼ちゃんがまさかあんな風に喋って笑うなんて……

 

それに……凄まじい狂気ね。

気を抜いたら一瞬で狂気に支配されるところだったわ。

この子に一体何があったのかしら……いえ、愚問ね。何かがあったからこそ、この子は歪んでしまったのね。CCGに捕まって拷問を受けたヤモリの様に……

 

あら、そういえば。

 

私はヤモリと赤鬼ちゃんを見る。

 

「そうだね。僕も殺る気が出てきたよ」

 

「アハハ。ワタシも、こんなに気持ちが高ぶったのは久しぶり」

 

ふふ、何だか似た者同士ね。

 

ゾクゾクするわぁ。

 

 

 




どうしても単行本七巻の最後。ヤモリさんとニコさんの会話の中に主人公を入れたかった作者です。
あの時のヤモリさんの言葉は、なにか来るものがありましたね~…

そして、主人公は捜査官が絡むと豹変します。殺る気スイッチが入ります。
それはもう拷問中のヤモリさんの様に…。


あ、久土さんは勘は良いのですが単純です。バカじゃないですよ?


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