東京喰種【赤鬼】   作:マツユキソウ

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遭遇

岸花雪と出会ってから二週間が経った。

毎日の様にあの公園の前を通り過ぎるが、彼女と会うことはなかった。

それが良いことなのか悪いことなのか俺にはわからないが……

 

「ふーん、君が使えない准特等の久土正人だね。私は出月宗輝(いでづきそうき)。君と同じ准特等だ。よろしく」

 

斎藤和樹(さいとうかずき)二等捜査官です。よろしくお願いします」

 

「あ…あぁ、よろしく」

 

俺の目の前にいるコイツらは絶対に悪いことだ。

出月准特等は、俺が握手しようと手を出したら普通に無視するし、サラッと使えないとか言われた。あと、斎藤君は俺を睨むのをやめて下さい。

 

それにしても、何でコイツらここにいるんだ?

 

「ふぅ、どうして私達がここにいるのか?って顔しているな。君が何時まで経ってもSS級駆逐対象である赤鬼について何も調べられないから、私達が応援に駆けつけたのさ」

 

出月准特等はそう言うと掛けているメガネを右手でくいっと直した。

そうでしたか…

 

「ホントすみません。全力で調べているんですけどここ最近、赤鬼の目撃情報がなくて…」

 

「准特等ともあろうお方が言い訳ですか。情けない」

 

「斎藤!貴様、二等捜査官のくせに偉そうに…」

 

俺達の会話を聞いていた広野が叫んだ。どうやら、先程からの俺に対する二人の態度が気に入らなかったらしく怒るのを我慢していたが、どうやら今の一言で我慢の限界を超えたらしい。

 

「落ち着け広野」

 

「っ…しかし!」

 

「もう一度言うぞ。落ち着け広野。そう言われても仕方ないことだ。すまないな斎藤君、情けないことに赤鬼について何もわからないんだ。君達が手伝ってくれると助かるよ」

 

俺は彼等に向かって頭を下げた。

確かに嫌な奴等だが、赤鬼について何も掴んでいないのは事実だ。

それに、今こうしている間にも誰かが襲われているかも知れないのだ。ならば、こんな事で時間を食っている暇などない。

 

「協力して赤鬼を調査しましょう」

 

俺は握手をしようともう一度手を出す。しかし、彼等が手を取ることはなかった。

 

「私達は、私達のやり方で赤鬼を調査…いや、駆逐してみせよう。情報の共有はしても干渉はしないで貰おうか」

 

「駆逐…まだ赫子もわかっていないのに赤鬼と戦うのは危険だと思いますが?」

 

「ふん、出月准特等は数々の喰種を殺している。貴方とは違うのですよ」

 

「斎藤、貴様…」

 

「ふぅ、広野落ち着け。わかりました。では、俺達は俺達なりに調査するので何かわかったら教えます」

 

「うむ。では私達は準備があるのでな、斎藤君行くぞ」

 

「はい、出月准特等」

 

彼等はそう言うと出て行ってしまった。そして、出て行く瞬間にまた斎藤君に睨まれました。

 

「何だアイツ等、失礼にも程があります」

 

出月準特等達が出て行った後、広野が鬼の様な顔で彼等が出て行ったドアを睨んでいた。

怖いよ~広野。

 

「まぁまぁ、あんな風に言われてもしょうがないよ」

 

「ですが…そうですね。僕達はいつも通り調査するだけですね。恥ずかしいところ見せてしまいました」

 

そう言うと広野は俺に頭を下げて謝ってきた。

 

「気にすることないよ。俺のために怒ってくれてありがとうな」

 

「いえいえ。今日も一日頑張りましょうか」

 

俺と広野は笑い合い。いつも通り仕事に取り掛かった。

 

 

ただ……何となくだが今日は何かが起こる。そんな気がした。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

どこまでも暗く、普段は人が寄り付くことはない裏路地を、俺と広野は月明かりだけを頼りに全速力で走っていた。

 

『こちら出月。赤鬼を誘き出す準備が出来たよ。もし良かったら見に来るといい』

 

俺達が聞き込みをしていると、出月准特等から通信が入ったからだ。

赤鬼を誘き出す?どうやって。それに出月準特等は赤鬼について何かわかったのか?

いや、考えるのは後だな。まずは現場に行くことの方が先だ。

 

裏路地を走って数分後。少し広い所に出た俺達の目の前には、出月准特等と斎藤君。

そして…鉄の檻に入れられた喰種の子供がいた。

 

「おや、来たようだね」

 

出月は俺達に気づき振り返ったがそんなことはどうでも良かった。

檻に入れられた喰種の子供の右目と両手足に釘が打ち込まれていたからだ。

痛々しいその姿はとてもじゃないが見ていられなかった。

 

「出月、これはどういうことだ?」

 

「何がかな?」

 

「とぼけるな!お前は赤鬼を誘き出すと言ったな!あれは嘘か!!」

 

「はぁ、嘘ではありませんよ。コレを使って誘き出します」

 

出月はそう言って喰種の子供の頭を蹴った。

まるでその辺に転がっている石でも蹴るように…

 

「貴様…」

 

いつの間にか俺は出月の胸倉を掴んでいた。

 

「何をそんなに怒っているのです。コレはゴミです。私達に害をなすだけのただのゴミ。ゴミをどうしようが私の勝手ですよ」

 

「きっ貴様…喰種だってな、俺達と同じように生きているんだぞ…それをゴミだと?ふざけるのも大概にしろ!!」

 

俺は右手を振りかぶり出月を殴ろうとした…しかし、不意に誰かに右手を掴まれた。

まぁ、十中八九広野だな。俺の後ろにいるのは広野だったからな。

 

「広野、すまんが手を離してくれないか?俺はコイツを一発殴らないと気がすまない」

 

「くっ久土…さん…俺じゃないです」

 

「っは?」

 

広野の言葉に時が止まった。

見ると広野は俺の斜め前で憤怒の表情で俺を睨んでいる斎藤君を抑えていた。

 

じゃあ、俺の右手を掴んでいるのは一体……

俺は恐る恐る振り返った。

 

 

真っ白なフード付きコートを着た鬼がいた。

いや、コイツが付けている般若の面には見覚えがあった。

SS級駆逐対象【赤鬼】。奴が俺の右手を掴んでいた。

 

「ッツ!?」

 

俺は反射的に掴まれていない方の左手で赤鬼の鳩尾(みぞおち)を殴ろうと狙った。

しかし、簡単に避けられてしまい、反撃が来ると思った俺は身構えるが…どういう訳か攻撃してこなかった。

 

赤鬼はそのまま俺と呆気にとられていた出月の横を通り過ぎると、喰種の子供が入っている檻の前まで行き、素手で檻を破ると中に入っていた子供を抱きかかえて去ろうとする。

 

「来てそのまま帰るなんてことはないでしょうなぁ…赤鬼」

 

出月の言葉に反応した赤鬼は立ち止まる。

 

「…見逃してあげるから、早く帰れ」

 

こちらを振り向くことなく喋った赤鬼の声は、意外なことに少女の声だった。

そして、再び歩き出す。

 

「ふーん…鬼さん鬼さん、そのゴミ爆発しますよ?」

 

出月が右手に持っていたスイッチを押す。

 

パァン!という強烈な破裂音と共に…彼女が抱いていた喰種の子供が破裂した。

 

「いでづきぃいいい!!」

 

俺はもう一度出月を殴ろうとするが、後ろからの強い衝撃で壁に叩きつけられた。

どうやら俺は彼女に蹴られたらしく広野は俺を心配してこちらに駆けていた。

 

「く、久土さん大丈夫ですか?」

 

「あぁ、どうやら手加減してくれたみたいだ」

 

俺と広野は壁の隅に行く形になり、彼女の目の前にいるのは出月と斎藤だけになった。

どうやら、俺と広野は対象外らしいな。

俺は返り血で真っ赤に染まった彼女を見る。

 

「…コロス」

 

彼女の雰囲気が変わっていた…

 

 

☆ ☆ ☆

 

久土正人とその隣にいる青年捜査官は後回し…

私は目の前にいる出月と呼ばれたメガネをかけた男とその横にいる斎藤と呼ばれた男を見る。

彼等は右手に持っているアタッシュケースのボタンを押して対喰種用の武器。クインケを展開した。

 

出月のクインケは金砕棒の様な物で、多分使われている赫子(かぐね)は甲赫。

斎藤のクインケは剣の様な物…こっちも甲赫。

 

なら、私も赫子を展開しますか……

私は、肩甲骨の辺に力を込め、私の身長ほどの長さがある赫子を左右から出す。

 

「ふふ…ふははは!何だその赫子は、そんな物で勝てると思っているのか?」

 

私の赫子を見た出月…メガネは腹を抱えて笑いだした。

初めて見た人は皆さん同じ事を言うんですよね……

 

「こんな赫子を使う奴に殺されるなんて、殺された捜査官達は無能な奴なかりです。出月準特等はそこで見ていてください。私一人で十分です」

 

そう言って斎藤…メガネ部下は私に斬りかかってきた。

右肩から左脇腹にかけての斬撃。回避…

振りかぶりは普通だけど振り下ろしが速い、並みの喰種なら今ので死んでいましたね。

 

「へぇ、今のを避けるんだ。じゃあ…これはどうかな!」

 

今度は剣先を前に突き出しての突撃。横に回避…

回避したと同時に横に一閃。これもジャンプで回避。

 

…速いけど単純過ぎ。次の攻撃がどこに来るのか直ぐにわかります。

 

次は私の着地を狙ってもう一度横に一閃…ほら来ました。甘い。

 

「当たらないですね。逃げだけは得意ですか、ですが逃げてばかりでは私を殺せませんよ?攻撃してきてみては?まぁ、その赫子ではどうしようもないですが」

 

メガネ部下は体制を低くして私が攻撃してくるのを待つ。

どうやらカウンターを狙っている様ですが…甘い。

 

私はそのままメガネ部下に突進する。

彼が避けられる速さで顔めがけて拳を振る。案の定避けると、右脇腹から左肩にかけての斬撃を回避…ではなく赫子で受け止める。

 

「っな!?」

 

「……ツカマエタ」

 

私は赫子で彼の右脇腹と左胸辺りを刺した…けど刺さりません。

メガネ部下は一瞬驚いた顔をしたが、刺さらないのを安心したのか笑みを浮かべた。

 

 

ふふふ、安心してはいけませんよ……

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

彼女は斎藤に赫子を突き刺した。が、刺さらなかった。いや、あの形状では刺さるはずがない。

彼女の赫子は肩甲骨の下辺りから出ているので恐らく甲赫。

甲赫の赫子は大抵、ランスやでかい鉈の様な形だったり盾だったりする。しかし、彼女の赫子は馬鹿でかいアイスの棒の様な形だった。

まぁ、簡単に言うとガ○ガ○君の棒の様な形だ。

 

あんな先が尖っていない赫子では人は殺せない。だが…あの形、アイスの棒以外にも似ている物があったような…

 

「うぐぁああああああああああああ!?」

 

斎藤が叫び声をあげた。

見ると、彼女の赫子が斎藤を抉っていた。

まるで木屑の様に辺り一面に肉と血が飛び散る…木屑の様に…

 

そうだ…アレはアイスの棒なんかじゃない。チェーンソーの刃だ。

どういう原理なのかわからないが彼女の赫子は固形化、流動化を高速で行いチェーンソーの刃の様に回転させているんだ。

 

「斎藤!今すぐ彼女から離れろ!」

 

俺は斎藤に向かって叫ぶが既に遅かった。

 

「…解体完了」

 

斎藤は両手足を切られ。右目辺りを抉られて無残な姿で壁に打ち付けられていた。

 

「くふ、アハ…アはハハハ、アハハハハハ!」

 

彼女が愉快そうに笑う…

 

狂気がこの空間を支配していた。

 

 

 




何だろう、久土さんが主人公に見えてきたのは自分だけじゃないはず…

そして、主人公の赫子はチェーンソーの様なものでした。
色々なことができる赫子…高速回転はセーフですかね…(・・;)

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