東京喰種【赤鬼】   作:マツユキソウ

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恐怖

様々な種類の草木が新芽を出す。

新緑の中。人々は新しい生活に戸惑い、期待、夢を抱き自分の足でしっかりと歩く。

春が来たのだ。

 

 

 

「ふぅ、今日も一日頑張りますか」

 

自分に言い聞かせるがどうにも気分が上がらない。

別に今日に限った事ではない。ここ最近ずっとこんな感じだ。

殆どの人に春が訪れる中。俺、久土正人は真冬の中にいる気分だった。

 

SS級駆逐対象【赤鬼】の捜査が難航しているからだ。

出月准特等と斎藤二等捜査官が赤鬼に殺されて約三ヶ月が経過した。

あれ以降、奴は姿を現さず。沈黙を保ったままだ。

支部の奴等は「赤鬼…あぁ、いましたね。そんなの」「他の喰種に殺されたのでしょう」等と無責任なことを言って、実質赤鬼について調査しているのは俺と相棒の広野くらいだ。

くそ、支部の奴等はわかっていないんだ。奴は本物の化物だ…他の喰種に殺されるなんてあるわけがない。

 

俺は初めて奴と出会った時のことを思い出す。

 

『アハハ…コロスって言ったよねぇ』

 

奴がそう言った後、何をしたのかわからなかった。

いや、正確には見えなかった。

俺と広野が振り返った時には、既に出月は首と心臓を貫かれて死んでいた。

これまでに何度か素早い喰種と戦ったことがあったが、ソイツ等とは比べ物にならない程。それこそ天と地の差がある程奴は早かった。

 

『気を抜くな。ってさっき言ったよね?』

 

どこまでも冷たく、何の感情も篭っていない声でそう言われた俺は肩を震わせた。

悔しさや怒りではなく、純粋な恐怖という感情。本能的に俺は喰種捜査官として一番考えてはいけないことを思ってしまった。

こんな化物に、人が勝てるはずがない…と。

 

 

 

だが、あれから三ヶ月経った。

反射神経と動体視力の強化を主に行い。自分でも成果が出てきたとわかるほどにまで成長した。

今度奴と会った時は…いや、辞めておこう。考えるよりまず行動。

 

俺はマスクと保湿ポケットティッシュを四つ持ち。十一区支部を後にした。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

私は二十区のとある路地を歩いていた。

もうお昼だというのに暗く、ジメジメしたこの場所はヒトの往来が少ない…というより滅多なことではヒトは来ない。

 

何故、二十区に来ているのかというと彼に頼んだ物を受け取りに来たからだ。

指定された場所に着いたのはいいが肝心の彼が居ない。

ちょっと、早く来すぎたかな…

私はフードを深く被ると近くの壁に寄りかかる。

 

彼との出会いは突然だった。

私がとある目的で喰種を殺していると、彼がいきなり現れて

 

「狂気の中に咲く一輪の赤い花。Tresbien!(素晴らしい)君という存在に興味を持ったよ!」

 

いきなり変な事を言ってきたので、何となく赫子で攻撃すると「calmato(落ち着きたまへ)!」などと言って避けられました。

まぁ、敵意がないとわかったので赫子(かぐね)をしまい彼の話を聞くことにしたのですが…

よくわからなかったです。

うん、よくわからない喰種でした。

 

そんな事を思っていると、不意にこちらに近づいてくる気配がする。

 

「やァ、赤鬼さん。久しぶりだね」

 

この場所とは明らかに不似合いなカラフルな服装で彼、月山習(つきやましゅう)が現れた。

彼は主に二十区で活動しているらしく、喰種や捜査官達からは【美食家(グルメ)】と呼ばれているらしい。

あと、わかっていましたが凄い変わり者らしい……

 

「まったく…相変わらず何も言ってくれないね。まァ…そんなところも君の魅力でもあるんだけどね」

 

月山さんは髪をかきあげて私に向かってウィンクする。

その行動自体は別におかしな所はないのですが、月山さんがやると怖いです…

 

「あァ、僕としたことが、君との出会いに感動してしまい本来の目的を忘れてしまうところだったよ」

 

月山さんは頭を抱え大げさに落ち込むと、右手に持っていたアタッシュケースを私に差し出す。

…何で(ひざまず)いてるの。怖いです。

 

「君の注文通り。このクインケの生体認証は解除しておいたから」

 

「…」

 

「あァ!言わなくてもわかるよ。僕と君との仲じゃないか!」

 

両手を広げて空を見上げる月山さん。その行動にどんな意味があるのかわかりませんが…

怖いです。本当に怖いです。

私はペコリとお辞儀をすると逃げるようにその場を離れた。

 

「ふふ、いつか君の声と素顔を拝見してみたいよ。」

 

最後に月山さんがそんなことを言った気がしましたが、気のせいです。幻聴です。怖いです。

 

 

早く、十一区に帰りたい…

 

 

月山さんから逃げるように去った私は、鼻を掠める独特な香りに立ち止まる。

……美味しそうな珈琲(コーヒー)の匂い。

私達喰種は人肉以外にも口にすることができるものがある。それが珈琲だ。

匂いを頼りに足を進めると、「あんていく」と書かれた小さな喫茶店にたどり着いた。

 

私が喰種だとバレないようにしないと…でも、一応私もヒトの社会に溶け込んでいたんです。そう簡単には喰種だとバレない‥と思う。

それにしても、「あんていく」とは一体どういう意味でしょう?

私は店名に疑問を持つも、今も鼻を刺激している珈琲の良い香りに誘われてドアを開けた。

カランと鈴の音が鳴り、より一層香りが強くなる。

 

「いらっしゃい」

 

中に入ると、優しそうなお爺さんが出迎えてくれた。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

二十区にある喫茶店「あんていく」。ここは二十区に住んでいる喰種達の情報交換の場でもあり、俺達にとっての安らぎの場でもある。店長は芳村(よしむら)という初老の喰種。性格は温厚だが滅茶苦茶強いという噂らしい。

まぁ、喰種が店を経営しているといっても人間の客も来る。要するにここは人間社会に溶け込んでいる喰種がよく集まる場所だ。時々、変な奴が来るが…

 

俺もよくここに珈琲を飲みに来てる喰種だが…きょ、今日でここも終わりかもしれねぇ。

俺は恐る恐る先程入ってきた白いコートの奴を見る。

カウンター席。丁度、芳村店長の前に座った奴は右手に持っていたアタッシュケースを床に置く。

フードを深く被っていて性別がわからないがそんなことはどうでもいい!

問題は奴が白鳩(ハト)だってことだ。

白鳩。通称喰種捜査官と呼ばれる奴等は俺達喰種にとっての天敵。

俺は、奴が置いたアタッシュケースを見る。

一見どこにでもある様な形をしているが俺は騙されないぞ!その中にはクインケと呼ばれる対喰種用の武器が入っていることを!

向かいのテーブル席に座っている近江という喰種を見る。どうやら奴も気付いたらしく新聞を持つ手が震えている。

 

ッチ。動揺してるな。あれじゃ「俺は喰種です」って言ってる様なもんじゃないか。

こういう時こそ平常心。平常心。

スーーハーースーーハーー。平常心平常心…

 

むっ無理だぁああああああ!

こえーよ白鳩…何でここに来るんだよ!どっか行けよ。ここは俺達喰種の安息の地なんだよ! いや、マジでどっか行けよ!頼みます!

 

俺の必死の願いが通じたのか、珈琲を飲み終えた白鳩は一言も話さず出て行った。

よっ良かった。マジで良かった…

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

「……緊張した」

 

私がお店の中に入ると、ピシリっとお店の空気が変わったような気がした。

何ていうのか、お店の中に怖い人が入ってきた!時の様な雰囲気になって少し気になったけど、それよりも気になったことがあった。

 

このお店…ヒトと喰種が一緒にいる。

どうして?

 

その理由を考えようとするが…

でも……私には関係ないことですね。

思考を停止する。

 

私は珈琲を飲みに来たんです。このお店のヒトが喰種だろうとお客さんの中にヒトが混じっていようと私には関係ないことです。

ですが、先程から私を見る視線が気になります。

 

どっどういうことでしょう。すっごい見られています。私の左斜め後ろの席にいる喰種の男性なんか瞬きもしないで見てきます。

怖いです…二十区…怖いです。

珈琲はとても美味しかったけど、私を見る視線が気になって落ち着いて飲めなかったです…

また今度、ゆっくり飲みたいな…私は一度振り返りまた歩き出す。

 

 

 

 




遂に原作キャラが登場!
月山さんのセリフとか仕草とか難しい(笑)
クインケの生体認証を解除できちゃう人と知り合いの月山さん…流石です。

そして主人公は二十区に恐怖する…まぁ、主人公の格好の方が周りの人から見たら怖いですけどね(^_^;)
ちなみに、主人公の服装は単行本十四巻に出てくる有馬さん率いる0番隊の皆さんの格好に似ています。
間違いなく職質されるレベルです。

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