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どんよりと曇った日。
そろそろ雨が多くなる時期が近づいて来ているのか、最近は晴れの日が少ない気がする。
午後から降ってきそうですね・・・急いで帰らないと。
私は少し歩調を早める。
数分ほど歩くと、不意に鼻を掠める血の匂いと喰種の気配。
この先の角を曲がった所に喰種が二人・・・何でしょう嫌な予感がします。
私は気配を殺して曲がり角まで行き、顔だけをそっと出して覗く。
そこには血塗れになって倒れている捜査官二名と喰種が二人立っていた。
喰種捜査官…違いますね。クインケを持っていないところを見ると、十中八九CCG局員捜査官でしょう。
………クスクス。
まぁ、それよりも……私は
どちらも同じ髑髏の仮面に同じコートを付けていますね。
どこかの組織の喰種でしょうか…それとも兄弟?
何にしても、関わらない方がいいですね。絶対に厄介事です。
なるべく気配を殺して知らん顔で通り過ぎましょう。
私は道の隅を歩き、「何も見ていませんよ」という雰囲気で通り過ぎようとしたが…
「おい!お前」
気づかれてしまいました。
……やっぱり無理ですよね。
「白いコートに特徴のあるアタッシュケース。お前喰種捜査官だな」
「くへへ、
え……喰種捜査官?私じゃないの?
私は辺りを見渡すが、それらしき人物は見当たらなかった。
どういうことでしょう。頭がおかしい喰種?
私としてはこの道を通りたいのですが二人が邪魔で通れません。
仕方ないですね。遠回りしましょう。
私は元来た道を引き返す。しかし回り込まれてしまった!
「おいおい、逃げるなんて選択肢はないぜ~」
「お前はここで死ぬんだよ!」
どういうことでしょう…彼等はどう見ても私に向かって殺気を出しています。
あっ…
その時私は気づいてしまった。
自分の姿が喰種捜査官に似ているということを…
あはは…どうしましょう。
「死ねぇ!」
二人は同時に飛びかかる。
右の男の
理由を話しても聞いてくれなそうですね…なら…
私はアタッシュケースのボタンを押す。
ケースが開きカシャンという音と共にクインケ【
うん。ちゃんと生体認証は解除できているみたいですね。さすが変態‥月山さん。
私は二度三度その場で出月を振ると右足を引き体を右斜めに向けて脇構えの形をとる。
無力化しましょう。
甲赫の男が鉈の様な赫子を私の左肩に向かって振り下ろす。
遅すぎ。あと、その距離は私の間合いですよ。
私は左足に力を入れて地面もろともアッパースイング。
ベガン!っという鈍い音がすると男は十五m程吹き飛び壁に激突するとそのまま動かなくなった。
「きっ貴様…」
鱗赫の男は仲間が殺されたと思ったのか、怒りで肩が震えている。
安心してください、気絶させただけですから……たぶん。
「これでも喰らえ!」
男はゴムの様に赫子を伸ばし私の心臓目掛けて突く。
うーん…赫子は上手に使いこなせていますが、遅すぎですね。
クインケを横に振って赫子を弾く。
そのまま男に接近してその場で回転。手加減してクインケを男の頭に当てて気絶させる。
よし、無力化成功ですね。
私はクインケをしまい気絶している男達を道の隅に置く。
この人達どうしましょう。ここに置きっ放しってわけにはいかないですし…
ッツ!?
私は自分に向けられた鋭い殺気に身構える。
この殺気、捜査官じゃない……喰種ですね。しかもかなり強い。
「へぇ、中々強そうな白鳩だね」
声がした方を見ると、そこにはホッケーマスクを付けた男がいた。
いつの間に……まるでホラー映画です。
男は右手の人差し指を親指で撫でながら近づいてくる。
男が一歩踏み出すごとに空気が重くなり、肌がピリピリする。
並みの喰種やヒトなら恐怖で体を震わす程の殺気を受けて私は…
…凄い。
感心していた。
こんなに凄い人、初めて見ました。
それにとても大きい人ですね。並大抵の攻撃じゃビクともしなそう。
「君みたいな白鳩がいるとはね。楽しくなりそうだぁ」
彼はそう言うとパキっと指を鳴らした。
……え、怖いです。何ですかその肉食獣が草食獣を見つけた時の「獲物はっけ~ん」みたいな目は!やめて下さい。
それと同時に彼の腰辺りから爬虫類の
鱗赫……甲赫のクインケ【出月】じゃ厳しいかな…
赫子には優劣があり、甲赫は鱗赫を苦手とします。それはクインケにも言えることで、甲赫である出月はあまり使いたくないです。
先程の鱗赫の男は大したことない人だったので良かったですがこの人は難しいですね。
折角手に入れたクインケを壊される訳にはいかないので、仕方ないですがここは赫子を出さないとダメみたいです。
私が赫子を出すと、彼の殺気が少し揺らいだ気がした。
あれ?隙……
「赫子…じゃあ君っはぐ‥」
何か言おうとしていましたが先手を打たせてもらいます。
私は彼に肉薄して右手の掌底でスパーーン!と顎を打ち抜く。
脳への強い衝撃で脳震盪を起こした彼は巨体に似合わずへたへたと倒れこむ。
あれ……意外です。簡単に決まりました。
どっどうしましょう。適当に戦って逃げる予定でしたがこのまま置いておくわけにもいきませんし。
私があたふたしていると、初めにクインケで吹っ飛ばした甲赫の男がふらふらと起き上がった。
「いてて…どうなったんだ俺、白鳩は!」
丁度良かったです。
私は彼の右足を持ち、ずるずると引きずりながら甲赫の男に近づく。
こちらに気がついた甲赫の男は生まれたての子鹿のように震えて尻餅をついた。
「そっそんな…ヤモリさんまでやられたなんて」
ヤモリ?このホッケーマスクの彼の名前でしょうか…じゃあ、ヤモリさんとこの人は同じ仲間?
っと、それよりもこの人を安心させるほうが先ですね。
私が赫子を出すと、男は銅像の様に固まってしまった。
あれ…大丈夫ですか?
二度三度男の前で手を振ると我に返った男はビクンと体を震わせて立ち上がった。
「まさか、喰種だったなんて…もっ申し訳ねぇ」
男は深々と頭を下げる。
喰種捜査官の様な姿をしていた私が悪いので、気にすることはないのですが…
「まさか、ヤモリさんまで気絶させるとはアンタ強いんだな」
褒めても何も出ませんよ。
あ、赫子なら出せます!
「っと、そろそろ行かねぇと」
男はヤモリさんと鱗赫の男を担ごうとしたがよろけてしまった。
いくら喰種でも怪我をしていて二人を持つのは大変だと思います。それにヤモリさんは大きいですから一人で運ぶのは難しそうです。
うーん………しょうがないです。
私はヤモリさんを担ぎ、三歩ほど歩くと後ろを振り向く。
男は少しの間ボーッとしていたが、我に返るとまた頭を下げた。
「アジトまで運んでくれるのか、すまねぇ」
男はそう言うと、鱗赫の男を担ぎ私の前を歩く。
数分ほど歩くと、私達の目の前に団地が見えてきた。
以前はヒトが住んでいたであろうそこは、今はもう見るも無残な姿になっている。
廃墟…確かにここならアジトにはぴったりですね。
私達がアジトの入口に近づくと喰種が何人か近づいてきた。
やっぱり皆さん同じ仮面に服装…ここまで統率が取れているということはかなり大きな組織なのでしょうか。
「帰ってきたか、誰だそいつ?」
「っな、ヤモリさんどうしたんだ!」
気を失っているヤモリさんを見て何人かの喰種が驚きや心配の声を挙げている。
これは……ヤモリさんを渡して直ぐに帰った方がいいですね。面倒臭いことが起きそうです。
私は、ヤモリさんを降ろし足早に去ろうとした。
「待て、お前がヤモリを倒したか?」
『たっタタラさん』
タタラさん?
声がした方を向くと、そこには長身で白いコートを着た男が立っていた。
…目が怖いです。
「まさか、ヤモリを倒すほどの実力を持った喰種が十一区にいるとはな」
タタラと呼ばれた男は感心したように私を見てくる。
えーと…隙を突いて顎をスパーンしただけですから…そんな目で見ないで下さい。
照れます。
「クインケを持っているようだけど何か訳ありかな?」
「ッツ!?」
この人…鋭い。
「冗談だ。余計な詮索はしないよ」
私はその言葉を聞いて少しだけ安心した。
いえ、隠す程のことではないのですが…
私の甲赫の赫子は少し珍しいタイプで鱗赫の様に流動的な動きができます。
そのせいなのでしょうか、羽赫並に燃費が悪いのです……
あと私の…
「この人強いに決まってるよ。ねぇ、SS級駆逐対象の赤鬼さん」
……私の目の前にはいつの間にか包帯で顔と体を巻いている少女がいた。
この子、気配がしなかった。
「赤鬼…道理で強いわけだな」
タタラさんがまたも感心している。
やめて下さい…そんなに大した事してないです。
タタラさんと包帯の子が何かをブツブツと話し合った後、包帯の子は「またね」と言って何処かへ行ってしまった。
…またね?どういうことでしょう。
「赤鬼、もし良かったらアオギリの樹に入らないか?」
え…?私は自分の耳を疑った。
ヤモリさんを一発で仕留めてしまう主人公は異常です。
最後の辺は少し駆け足気味になってしまった様な気がします。もしかしたら直すかもしれません。
~用語説明~
CCG局員捜査官とは?
簡単に説明すると「喰種対策教育所」という所で教育を受けた人達。主な仕事は事務処理や喰種捜査官のバックアップ。喰種捜査官とは違いクインケの所持はできない。
単行本6巻を参考にして説明させていただきました。