そろそろ、夏も半ばかという今日この頃。
俺は、悟さんに呼び出されていた。
――いつものごとく、何も知らされずに.....
呼ばれた教室に入ると、パンダ・棘先輩・真希先輩がそろっていた。
「あれ?三人も呼ばれたんですか?」
「まあな」
真希先輩は、そう言って肩をすくめたところで、
「おっはよー!」
悟さんが、無駄にテンション高めで入ってきた
「やぁみんな。お揃いだね~」
俺たちを見回して満足げにうなずく
「それじゃあ」
と前置きを置いて、
「転校生を紹介します!!みんな、テンション上げてこー!!」
静まり返る教室。
「上げてよ」
悟さんが切実そうにつぶやく
....というか
(転校生?今日、それで呼ばれたの?
先輩たちはともかく、俺は今日じゃなくてもよさそうだけど...)
「ずいぶんとがったやつらしいじゃん。
そんな奴のために空気づくりなんてごめん」
「しゃけ」
「………」
先輩たちが各々反応する
(え...俺以外知ってるの?また俺だけ知らないの?)
「はい。先生」
「うみくん、どーぞ!!」
「何で呼び出すときに行ってくれないんですか?
先輩たちの反応的に、共有されてないの俺だけですよね?」
「……は?」
真希先輩が、俺の方を見て眉をひそめた。
「お前、知らなかったの?」
一瞬、言葉に詰まる。
「……はい」
即答すると、
パンダと棘先輩が、同時に悟さんを見る。
「悟さぁ....」
パンダがあきれたように言う
「......こんぶ」
棘先輩も、短く同意する。
「はいはい。苦情受付はここまで」
「せっかくなんだからサプライズしたいじゃん?」
「俺だけに共有されてない理由にはならないですよ。それ」
そう言うと、
一瞬だけ、教室が静かになった。
……が。
次の瞬間、悟さんは軽く手を叩いた。
「はいはい、正論正論」
あっさり。
「でもさ」
少しだけ笑って続ける。
「結果的に、今こうして集まってるでしょ?」
やっぱり何を言っても無駄なんだ....
俺がため息をつくより早く、
悟さんは教室の扉の方を向いた。
「じゃあ、そろそろ呼っぼか」
その一言で、
教室の空気が、わずかに変わる。
「入っておいで―」
ガラッ、と扉が開いて入ってきたのはいたって普通の少年....ではなかった
(......呪い!!)
体が反射的に印を結ぶ。
2匹の猫又が影から現れる
「乙骨憂太です。よろしく....」
ガンッ!!
真希先輩の薙刀が少年のすぐそばに突き刺さる。
パンダはアームガードを付け構えている。
棘先輩もいつでも術式が使えるように待機している
「これはなんの冗談だ?」
真希先輩が低い声で話し出す
「お前、呪われてんぞ」
「ここは呪いを学ぶところだ
呪われてるやつが来るところじゃねぇ」
ここで黙っていた悟さんが話し出す
「日本国内での怪死者・行方不明は、年平均で一万人を超える」
(いきなりどうしたんだろ....)
「そのほとんどは、人の肉体から抜け出した負の感情、
"呪い"による被害....別のケースもあるけどね」
いきなりそんな当たり前のことを説明し出す悟さんに、嫌な予感を覚える
「呪いに対抗できるのは呪いだけ。
ここはそんな呪いを祓うために呪いを学ぶ場所
『都立呪術高等専門学校』だ」
(え...やっぱり言ってなかったの?)
そこで、先程の少年の顔を伺うと....
(あ、「先に言ってよ!!」って顔してる...
なんか、仲間意識沸くなぁ)
「あ、そうだ。早く離れた方がいいよ」
件の少年に、一方的な仲間意識を感じていると、
悟さんが思い出したかのようにそういった
――次の瞬間。
黒板から、白く大きい腕が現れた
『ゆう"たを"ぉぉぉ虐めるな!!!!!!!!』
(さっきの気配はこっちか!!)
呪力の圧が、皮膚を刺す。
「――下がれ!」
真希先輩が即座に叫ぶ。
薙刀を引き戻し、
次の一撃に備える。
パンダは、アームガードを鳴らし前に出た
棘先輩も、喉を抑えたまま警戒をする
かくいう俺も、腰の刃を抜き放せるよう手を添える
(この圧.....
今まであったことないけど、おそらく特級...!)
「はいはい、そこまで!」
いつもの、軽い声が響いた
***
悟さんが事態を収束させて、
先程のことについて説明してくれた
まず、少年の名前は"乙骨憂太"
さっきの呪霊は、優太先輩の幼馴染の"祈本里香"
悟さんの説明をざっくりまとめると、
ヤンデレなリカちゃんに憂太先輩が憑かれてしまったらしい
そして、憂太先輩に危害を加えると、
ヤンデレリカちゃんに怒られる。ということらしい
とりあえず思ったことをぶつけることにしよう
「そういうことは、先に言ってください
うっかり死んじゃうじゃないですか」
我ながら、正論だと思う。
教室の中に、
一瞬だけ変な沈黙が落ちた。
真希先輩が、鼻で笑う。
「……確かに」
薙刀を、ゆっくりと肩に戻す。
「いきなり襲いかかって悪かったな。条件反射だ」
パンダもアームガードを外し、肩の力を抜く
「おかか」
たぶん「許して」。
「あ、えっと....」
「ほらほら、困らせないの
まだ君たちの名前すら知らないんだから」
悟さんが説明不足を棚に上げて言う
「八割は悟さんのせいですよ」
通じるとは思わないが、一応突っ込んでおく
そんな俺の突っ込みを華麗にスルーして、憂太先輩に話しかける
「ごめんね~。こいつら反抗期でさ
僕の方からちゃっちゃと紹介しちゃうね」
悟さんはまず、真希先輩を指さした
「呪具使い、禪院真希。呪力は使えないけど、武器の扱いは一級品」
「余計なこと言うな」と、真希先輩が即座に返す。
続いて、棘先輩
「呪言師、狗巻棘。語彙がおにぎりの具しかないから頑張って会話して」
「こんぶ」
そのまま、パンダ
「んで、パンダ」
「パンダだ。よろしく頼む」
(一番説明が欲しかっただろうに.....かわいそう)
そして、最後が俺の番
「それで、この子が.....」
「悟さん、それくらい自分でします」
「そう?じゃ、お願い」
憂太先輩に向き直る
「まず、さっきはごめんなさい」
「月影うみです。
よろしくお願いしますね。憂太先輩」
「あ、うん。よろしくね、月影さん」
「うみでいいですよ?」
「うん、わかった。
じゃあ、よろしくね。うみちゃん」
……。
一瞬、
教室が静まり返った。
「……」
「……」
「………………っ」
最初に吹き出したのは、パンダだった。
「ぶっ――!」
次の瞬間、腹を抱えてしゃがみ込む。
「お、おい、やめ……っ、
それは……っ、ダメだろ……!」
「……っ、く……!」
真希先輩も、口元を抑えて肩を震わせている。
「……は、はは……」
耐えきれず、
ついに顔を背けた。
棘先輩はというと、
「………っ!………っ!!」
めちゃくちゃ頑張って堪えている
「……え、なに?」
突然の事態に憂太先輩が困惑する
「えっと……今の、何か変だった?
その一言で、
パンダが完全に限界を迎えた。
「いや、変とかじゃなくて……!」
「その……っ、
はははははは!!」
もう止まらない。
「ちょ、ちょっとパンダ!」
真希先輩が制止しようとするけど、
本人も笑っているせいで説得力がない。
「……っ、ごめん……っ」
「いや、悪気はないのは分かる……!」
悟さんはというと、この世で一番楽しそうな顔をしていた。
「いやぁ。いいね、初日から距離が縮まってくれて」
「あ、あの。憂太先輩....」
「ん?どうしたの?」
「その、これでも一応"男"なので、
『うみちゃん』はちょっと....」
遠慮がちに誤解を伝えると、憂太先輩の表情がみるみる変わって....
「え……」
一拍。
「えぇぇぇぇ!!!」
目を見開いて、絶叫を上げる。
次の瞬間、勢いよく頭を下げる。
「ご、ごめん!!」
勢いがありすぎて、
こちらが一瞬たじろぐ。
「そ、そんなつもりじゃなくて……!本当に、全然、悪気はなくて……!」
「いや、大丈夫ですよ」
慌てて手を振る。
「そこまで気にしなくてもいいので」
「で、でも」
憂太先輩は、まだ落ち着かない様子だ。
言葉に詰まって、視線を泳がせている。
そこで、パンダがにやにやしながら口を挟んだ。
「いやー、でもさ」
「初日から"ちゃん付け"は、なかなか攻めてるぞ」
「……っ!?」
憂太先輩が、さらに赤くなる。
「ご、ごめん……!」
「わざとじゃないって分かってる」
真希先輩が、まだ笑いを堪えながら言った。
「うみは、よく間違われるらしいしな。今に始まったことじゃない」
「……おかか」
棘先輩も、こくこく頷く。
「……え、そうなの?」
憂太先輩が、不安そうにこちらを見る。
「えぇ、まあ」
小さく笑って答える
「なので、あまり気にしないでください
呼び方も、そのうち慣れます」
その言葉に、
憂太先輩は、ほっとしたように肩の力を抜いた。
「……ありがとう」
優太先輩は、少し照れたように笑った。
その様子を見て、悟さんが手を叩く。
「よーし。自己紹介も済んだことだし――」
「早速、実技授業と行こうか!」
「え?」
思わず声が出た
「.....あれ?じゃあ俺、顔合わせのためだけに呼ばれたんですか?」
悟さんは、きょとんとした顔をする
「そうだけど?」
「何当たり前のこと言ってんの?」と言わんばかりの返答
「顔合わせだけなら、別に今日じゃなくてもよかったんじゃ....
時間、あるとおもうんですけど?」
そういうと、悟さんは、
本当に何でもないことみたいに言った。
「ないよ」
「……は?」
「だって、うみ」
少し首を傾げて続ける。
「明日から、しばらく京都だもん」
一拍。
「…………は?」
教室の空気が、また一瞬止まった。
「え?きょうと?」
「うん。京都校」
さらっと。
「向こうの生徒とは顔合わせたことないでしょ?
親睦を深めてもらおうかと思って」
悪びれもせず言い切る悟さん。
(ほんと、なんで....なんでこの人は...)
「何で今言うんですか!!何にも準備してないですよ!?
いつもいつも。なんで事前の共有がないんですかぁ!!!」
勢いで言い切ると、
教室の中が、しん……と静かになった。
真希先輩が、少しだけ視線を逸らす。
「……まあ、それは、気の毒だな」
パンダも、苦笑いしながら頷いた。
「うん。お前いっつもそんなんばっかだよな」
棘先輩は、首を傾げて一言。
「……おかか」
たぶん「がんばれ」
勘違いしてはいけない。
同情はされているが、だれも助けてはくれていない
悟さんはというと、
まったく気にした様子もなく言った。
「まぁまぁ、サプライズってやつだよ。サプライズ」
……本当に、この人は。
「……分かりました
行けばいいんですよね、行けば」
そう言って、憂太先輩の方を見る。
「今日は、騒がしくてすみませんでした。
改めて、よろしくお願いします」
憂太先輩は、少し慌てた様子で首を振った。
「う、ううん!
こちらこそ……!」
「それでは、俺は準備があるので
ここで失礼します」
「それと」
そういって悟さんを見る
「次からは、せめて一週間前に言ってください」
「考えとく!」
即答だった。
……期待しないでおこう。