生まれ変わった世界は   作:月影うみ

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19話

翌日。

 

昨日のあれこれが嘘みたいに、

朝は普通にやってきて。

 

俺は最低限の準備だけを済ませて、

高専を出た。

 

(.....せめて、もっと前に言ってくれてれば)

 

何度目か分からないため息をつきながら、

新幹線に揺られる。

 

(まぁ、ぎりぎり手土産は用意できたからいいけど)

 

新幹線の座席に深く腰を下ろして、

鞄の中身を一度だけ確認する。

 

(京都校....か)

 

前にも一度、行ったことがある。

 

いや、行ったというよりも、

連行されたって言った方がいいか

 

(確か、やたらお寺みたいなところだったよな)

 

静かで、

古くて、

空気が重たくて。

 

東京校とは、

見た目も雰囲気も、まるで違う。

 

(あの時は、歌姫さんが暴走して……)

 

思い出して、少しだけ肩をすくめる。

 

(……うん。元気そうだったな

そういえば会うの久しぶりかも.....)

 

そんなことを考えながら、

流れていく車窓の景色をぼんやりと眺める。

 

前に京都に来た時は、

悟さんに連れられて、

勢いだけで校舎に踏み込んだ。

 

準備も、心構えも、

何もないまま。

 

今回は――

 

(...あれ?)

 

気づいてしまった。

急であることに変わりないこと、なし崩し的に向かっていることに

 

(4年経っても何も変わってない....?)

 

そんなことを思って、

思わず苦笑いが漏れた。

 

(いや、今回は目的がわかってるだけマシか...)

 

前は、

何の用事かも分からないまま連れて来られて、

気づいたら京都校の門の前に立っていた。

 

今回は違う。

 

京都校の生徒と、

ちゃんと"顔合わせ"をする。

 

理由も、目的も、

一応は聞いている。

 

(...そういえば、中学校にはなんて言ってるんだろ?

しばらく京都って言ってたけど....期間すら知らないや)

 

改めて自分に共有されている情報の少なさを理解し、あきれるしかない

 

(向こうの生徒....どんな人たちかな)

 

そう思ったところで、車内アナウンスが流れ、

新幹線がゆっくりと減速していく。

 

「あんまり変わってる人いないといいけど...」

 

小さく息を吐いて立ち上がる。

 

ホームに降りた瞬間、

むわっとした初夏の空気が肌にまとわりついた。

 

(東京とは、やっぱり空気が違うな)

 

人の多さも、街の雰囲気も、

昨日までのドタバタとはまるで別世界だ。

 

(……さて。行くか)

 

鞄を持ち直して、改札へ向かった。

 

タクシーを降りて、

京都校の門の前に立つ。

 

(……やっぱり、重いな)

 

静けさが肌にまとわりつくようで、

東京校とはまるで違う空気だ。

 

鞄を持ち直して一歩踏み出した、その時──

 

「うみくん」

 

さっきまでの静けさを軽く揺らすような、

どこか弾んだ声が聞こえた。

 

顔を上げると、

門の影から歌姫さんが歩いてくるところだった。

 

前に会った時よりも落ち着いた雰囲気なのに、

俺を見る目だけは、ほんの少し柔らかくて明るい。

 

「来るって聞いてたから、迎えに来たわ。

ひとりで大丈夫だった?」

 

「はい。特に問題はなかったです」

 

歌姫さんはふっと微笑んで、

俺の前で足を止めた。

 

「そう。ならよかった。

……五条が一緒じゃないなら、安心して案内できるしね」

 

(……やっぱり前のこと、根に持ってるんだ)

 

歌姫さんはくるりと踵を返し、

門の奥へと歩き出す。

 

「さ、入って。

今日は予定通り、顔合わせと説明があるから」

 

説明──?

 

その言葉に、胸の奥がひっかかった。

 

(まさかとは思うけど.....顔合わせだけじゃない?

「しばらく京都」ってのは変だと思ったけど)

 

歌姫さんの後を追いながら、詳細を聞くべく話しかける

 

「あの……歌姫さん。

『説明』ってことは何かあるんですか?

俺、"京都の生徒と親睦を深めておいで"って言われただけで……」

 

歌姫さんの歩みが、ほんの一瞬だけ止まった。

 

そして──

深いため息。

 

「……五条ね」

 

歌姫さんはこめかみを押さえながら、

ゆっくりこちらに向き直る。

 

「うみくん。

近々、東京校と京都校で交流会があるのは知ってる?」

 

「いえ……初耳です」

 

「でしょうね。

五条がちゃんと説明してるわけないもの」

 

(反論できない)

 

歌姫さんは軽く肩をすくめて続ける。

 

「まあ、うみくんはまだ中学生だから、交流会に参加しないんだけどね。

運営側で、イレギュラー時に動ける人材として参加してもらおうってことになったの」

 

(……なるほど。そういう扱いか)

 

歌姫さんは歩き出しながら、

少しだけ柔らかい声で言った。

 

「そのために、うちの生徒とも顔合わせしておきたいの。

向こうもあなたのことは聞いてるから、安心して」

 

(……聞いてるんだ)

 

胸の奥が、少しだけそわそわする。

 

歌姫さんは廊下の奥にある一室の前で立ち止まった。

 

「ここよ。

みんな、もう集まってるはず」

 

扉の向こうから、

複数の気配が静かに揺れている。

 

(……いよいよ、か)

 

歌姫さんが軽くノックし、

扉を開ける。

 

静かな空気が、ふっと流れ出てきた。

 

中に入った瞬間──

落ち着いた声が、まっすぐこちらに向けられる。

 

「……君が、月影うみくんだね」

 

声の主は、

部屋の中央に立つ黒髪の青年だった。

 

姿勢が崩れず、

視線も揺れない。

 

整った立ち姿と、

無駄のない所作。

 

(とても礼儀正しい人....ほんとに術師?)

 

歌姫さんが軽く紹介する。

 

「彼が加茂憲紀。

京都校二年の代表みたいなものよ」

 

(『加茂』...か。確か御三家だっけ)

 

憲紀先輩は一歩こちらに近づき、

静かに言葉を続けた。

 

「初めまして。

君のことは.....五条悟の弟子と聞いている」

 

探るような視線。

でも敵意はない。

 

ただ、

"どんな人間なのか確かめようとしている"

そんな空気。

 

俺は目隠しを外し、軽く頭を下げた。

 

「月影うみです。よろしくお願いします。憲紀先輩。

別に悟さんの弟子ってわけではないですよ?

いろんな人に教えてもらってますし」

 

とりあえずここは訂正しとかなければ、篤也さんとかに失礼だ

 

「……そうか。

"五条悟の弟子"という言い方は、

少々、語弊があったようだね」

 

加茂さんが静かに頷いた、その瞬間だった。

 

部屋の奥から、

空気を震わせるような声が飛んできた。

 

「おいおいおいおい……!」

 

(……え?)

 

ずしん、と床が鳴る。

大きな影が、憲紀先輩の横を通り抜けてくる。

 

「加茂!

お前ばかり先に話すんじゃあない!」

 

(でか……)

 

筋肉の塊みたいな人が、

俺の目の前までずんずん歩いてきた。

 

そして──

いきなり俺の肩をがしっと掴む。

 

「月影うみ!!」

 

「は、はい!?」

 

「どんな女がタイプだ!!」

 

(.....はい?)

 

歌姫さんが後ろで

「ちょっと東堂!!」

と声を上げる。

 

「えっと...まずどちら様ですか?」

 

俺が恐る恐る聞くと、

目の前の巨体は一瞬だけ固まった。

 

そして──

胸を張り、どん、と拳を自分の胸に当てる。

 

「俺は東堂葵!!

京都校二年!!

そして!!」

 

(まだあるの……?)

 

「"親友"になる男は、

俺がこの目で選ぶ!!」

 

「.....ちなみに基準は?」

 

「基準は一つ!!」

 

葵先輩が俺の肩をさらに強く掴む。

 

「どんな女がタイプだ!!」

 

(あぁ、だからさっきの....)

 

納得した瞬間、

葵先輩の顔がぐいっと近づいた。

 

近い。

いや、近すぎる。

 

「男の価値は"どんな女がタイプか"で決まる!!」

 

「そうなんですか?」

 

俺がつい素直に返してしまった瞬間──

 

「東堂!!

初対面でそれ聞くのやめなさいって言ってるでしょ!!」

 

「それに!うみくんにはまだ早いわよ!!」

 

歌姫さんが俺の前に出る

 

葵先輩は一瞬だけ目を丸くしたが──

 

次の瞬間、

胸を張り、拳を握りしめて叫んだ。

 

「黙れ歌姫!!」

 

(うっそ...生徒だよね?この人)

 

「魂に"早い"も"遅い"もない!!

男はいつだって己の理想を語るべきなんだ!!」

 

「語らせないわよ!!

中学生に何言わせようとしてるのよ!!」

 

「中学生でも関係ない!!

魂はもう戦場に立っている!!」

 

「立ってないわよ!!

まだ義務教育よ!!」

 

(……この二人、会話が成立してるようで成立してないな)

 

葵先輩は歌姫さんの制止を完全に無視して、

再び俺の肩をがしっと掴む。

 

「月影うみ!!

歌姫の言うことは気にするな!!

答えろ!!

どんな女がタイプだ!!」

 

歌姫さんが慌てて俺の腕を引っ張る。

 

「うみくん、答えなくていいからね!?

ほんとに答えなくていいから!!」

 

(……いや、これ答えないと終わらないやつだ)

 

部屋の空気は完全にカオス。

 

(さて...どうしたものか

ぶっちゃけ考えたことがない

.......先送りにするか)

 

「えと、ごめんなさい葵先輩。

今まで考えたことがないのでわからないです。

また、分かった時でもいいですか?」

 

俺がそう言った瞬間──

 

葵先輩の動きが止まった。

 

本当に、ぴたりと止まった。

 

(……あれ?ミスった?)

 

次の瞬間。

 

「……ッッッッッ!!」

 

肩を掴む手に、さらに力がこもる。

 

「なんて……なんて純粋なんだお前はァァァァ!!」

 

「え、えぇ……?」

 

「"考えたことがない"だと!?

そんな答え、俺は聞いたことがない!!

だが!!だがな!!」

 

葵先輩は俺の肩を揺さぶりながら叫ぶ。

 

「それはつまり!!

"これから見つける"ということだ!!」

 

「そ、そう……なんですか?」

 

「そうだ!!

男は成長する生き物!!

理想の女もまた、成長とともに形を変える!!

お前はまだその途中!!

つまり!!」

 

拳を握りしめ、天井に突き上げる。

 

「伸びしろしかないッ!!」

 

(これは褒められてるでいいのかな……?)

 

後ろで歌姫さんが頭を抱える。

 

「東堂……お願いだから落ち着いて……」

 

落ち着いた声が、呆れ半分で響く。

振り向くと、長い黒髪を後ろでまとめた女性が腕を組んでいた。

冷静で、どこか大人びた雰囲気。

 

(……この人、絶対苦労してる)

 

その隣では、

金髪の女の子が口元を押さえて笑っている。

 

「うみくん、東堂君に気に入られたわね。

……可愛いから仕方ないけど」

 

小柄で、ふわっとした雰囲気。

 

(.....歌姫さんと似た感じかも)

 

さらにその後ろでは、

青い髪の女の子が半泣きで手をばたつかせていた。

 

「と、東堂先輩……!

うみくんが困ってます……!」

 

声も仕草も優しい。

たぶん一番常識人。

 

(……守ってあげたくなるタイプだな)

 

部屋の隅では、

機械のような体をした人が、無機質な声で呟く。

 

「……東堂の興奮度、通常の1.8倍」

 

(メカだ!!ロボット!ビーム出るかな?)

 

そして最後に、

加茂先輩が静かにため息をついた。

 

「……もう好きにさせておけ」

 

落ち着きと諦めが混ざった声。

この人が一番"京都校の空気"を体現してる気がする。

 

(結構、癖強いのかも京都校……)

 

そう思った瞬間、

葵先輩がふっと力を抜いた。

 

さっきまでの“魂がどうこう”の圧が消えて、

代わりに──

なんというか、妙に優しい目になっている。

 

「月影うみ……」

 

「は、はい……?」

 

「お前……いい子だな……!」

 

「え、あの……?」

 

気づけば、

俺の頭を大きな手でわしわし撫でてくる。

 

「純粋!!

素直!!

伸びしろ!!

この三拍子が揃った男はな……!」

 

撫でながら、なぜかしみじみ語り始める。

 

「大事に育てたくなるんだ……!!」

 

「育て……?」

 

(え..いや、一転してこども扱い?)

 

後ろで黒髪の女性が肩をすくめる。

 

「……親戚のおじさんみたいね」

 

金髪の子は笑いをこらえながら言う。

 

「うみくん、東堂君に懐かれたわね。

……まあ、気持ちは分かるけど」

 

青髪の子はほっとしたように胸を押さえる。

 

「よかった……落ち着いた……」

 

機械の人は淡々と。

 

「……東堂、保護者モードに移行」

 

加茂先輩は静かに目を閉じる。

 

「……あれはもう止まらない」

 

(いや、止まらないのは困るんだけど……)

 

葵先輩は俺の肩をぽん、と叩いた。

 

「月影!!

これから色んなことを学べ!!

悩め!!

迷え!!

そして強くなれ!!」

 

「は、はぁ……」

 

「分からないことがあったら俺に聞け!!

女のことでも!!

人生のことでも!!

筋トレでも!!」

 

(最後だけ妙に説得力あるな……)

 

歌姫さんがため息をつきながら俺の横に立つ。

 

「……うみくん。

気にしなくていいからね。

東堂はこういう人だから」

 

「は、はぁ……」

 

(いや、気にしないのは無理があるよ歌姫さん)

 

葵先輩は満足げに腕を組んだ。

 

「よし!!

月影は今日から俺が立派な漢に育ててやる!!」

 

「そんな制度ありましたっけ?」

 

「ある!!

俺の中に!!」

 

(なにそれ……)

 

葵先輩は満足げに腕を組んだまま、

まるで"今日の仕事は終わった"と言わんばかりの顔をしている。

 

歌姫さんは深いため息をつき、

加茂先輩は静かに目を閉じ、

他の人たちはそれぞれの反応で場を埋めていた。

 

(……おかしい。まだ二人目なのに、

なんだか一日分くらいの疲労感がある)

 

京都校の空気に圧倒されつつ、

俺は気持ちを切り替えるように小さく息を吐いた。

 

──その時、別の気配がすっと近づいてきた。

 

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