生まれ変わった世界は   作:月影うみ

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23話

あの交流会からおよそ二か月

 

特に何事もなく....

しいていえばちょっと任務が多かったこと以外は、

特に何事もなく過ごしていた

 

最近は、任務の方も落ち着いてきたので、

いつか霞先輩に言った"アレ"をお願いしようと、

篤也さんのもとに来ている

 

「――というわけで、

篤也さんからいろいろ教えてあげて欲しいんですけど」

 

「あー……そうだなぁ……」

口では、肯定するものの、すごく顔に出ている

 

「そんな露骨にめんどくさいって顔しないでください」

 

「だってさぁ」

篤也さんは椅子に深くもたれながら言う。

 

「お前の話聞く限り、俺が一番扱いづらいタイプじゃん」

 

「そうなんですか?」

 

「下手に変なこと言うと、全部真に受けるし」

「放っておくと勝手に悩むし」

「一言褒めると、それだけで無駄に頑張り始める」

 

「よく伝聞だけでそこまでわかりますね」

 

「これでも教師だからな」

 

少しだけ間を置いて、こちらを見る。

 

「で?」

 

「それを見て、俺に何をさせたい?」

 

「最初に言ったみたいに、いろいろ教えてあげて欲しいんですけど、

まあ最優先は、指標を示してあげて欲しいって感じですかね」

 

「ほう」

 

「誰がどう見ても、篤也さんは霞先輩の完成系の一つです」

 

「同じ手札で、どれだけのことができるかっていうのは

自分の方向性を決める指標になると思うので」

 

「ったく」

小さく舌打ちする。

 

「そういう頼み方されると断りにくいんだよな」

 

「お願いします」

 

しばらく黙ったまま、

篤也さんは天井を見上げていたが――

 

「……一回だけだぞ」

 

「本当ですか?」

 

「京都まで行く。

ついでに顔も出す」

 

きっぱりと言う。

 

「ただし」

指を一本立てた。

 

「俺は"優しく教える"つもりはない」

 

「知ってます。俺の時もそうだったし」

 

「....そうだったな」

 

「泣きそうになったら、

お前がフォローしろ」

 

「そこは任せてください」

 

篤也さんは立ち上がりながら、

少しだけ笑った。

 

「面倒なことを思いつくのが、

お前の才能だな」

 

「えへへ~」

 

「褒めてねえぞ」

 

「準備しとけ。京都、行くぞ」

 

***

 

京都校に着いたのは、昼前だった。

 

境内に足を踏み入れた瞬間、

空気が一段、ひんやりと変わる。

 

(……やっぱり、重いな)

 

東京校と比べて、

音が少ない。

人の気配も、どこか慎ましやかだ。

 

その中で――

 

「あっ……!」

 

聞き覚えのある声がした。

 

視線を向けると、

廊下の向こうで、

見慣れた青い髪が揺れる。

 

「霞せんぱーい!」

 

思わず声を張り上げると、

霞先輩がびくっと肩を跳ねさせた。

 

「えっ!?」

きょとんと目を瞬かせてから――

 

「あ、うみくん……!?」

ぱっと表情が明るくなる。

 

「ど、どうしたの?京都に何か用事?」

 

「約束、覚えてます?」

近づきながら言う。

 

霞先輩は一瞬考えて、

それから目を見開いた。

 

「え、まさか……」

 

俺は一歩横にずれて、

後ろを指差した。

 

「捕まえてきました!」

 

そのまま、胸を張って宣言する。

 

「一級の篤也さんです!!」

 

「はったおすぞ」

 

即座にツッコミが飛んできた。

篤也さんが不機嫌そうにこちらをにらんでいる

 

「俺は虫かなんかか」

 

「ほら、ちゃんと生きてます」

適当にフォローする。

 

「そういう問題じゃねえよ」

 

三輪先輩は、

そのやり取りをぽかんと見ていたが――

 

「……あっ」

遅れて気づいたように、

慌てて背筋を伸ばす。

 

「は、はじめまして!

京都校一年の、三輪霞です……!」

 

深々と頭を下げた。

 

日下部先生は、

ちらっとこちらを見てから、

霞先輩に視線を戻す。

 

「……日下部だ」

 

それだけ。

 

余計な前置きも、

愛想もない。

 

けれど霞先輩は、

なぜか少し安心したように息をついた。

 

「よろしくお願いします……!」

 

「よろしくされるほどのことはしねえぞ」

ぶっきらぼうに言う。

 

「ほら、篤也さん。霞先輩、素直でかわいいでしょ?」

 

一瞬。

 

「え?」

霞先輩が一瞬きょとんとしてから――

 

「えっ!?」

顔が一気に赤くなる。

 

「か、かわっ……!?」

慌てて手を振る。

 

「ち、違っ……!!

そんなことないです!!

ふ、普通です!!」

 

「ほら、こういうとことかも」

俺は肩をすくめる。

 

「お前なぁ」

篤也さんがあきれたようにこちらを見ている。解せぬ....

 

「まあいい。お前、三輪って言ったか...」

 

霞先輩が、

ぴしっと背筋を伸ばす。

 

「は、はい……」

 

「今日は一回きりだ」

指を一本立てる。

 

「優しくも、丁寧にも教えない」

 

「……は、はい!」

 

即答だった。

 

「分からなかったら、分からないって言え」

「変に強がるな」

 

霞先輩は、

少し驚いた顔をしたあと、

小さく頷く。

 

「……はい」

 

その様子を見ながら、

俺は一歩、後ろに下がった。

 

(うん……大丈夫そうだ)

 

日下部先生は、

周囲を見回して、

短く言う。

 

「……人、少ないな」

 

「今日は比較的、静かな日です」

霞先輩が答える。

 

「なら都合がいい」

 

先生はそう言って、

腰に手を当てた。

 

「始めるぞ。

遊びに来たわけじゃねえからな」

 

「はい……!」

 

霞先輩の声には、

さっきまでよりも、

ほんの少しだけ、芯が入っていた。

 

---

SIde : 東京

同刻――東京高専

 

「来たる12月24日!!

日没と同時に!!我々は百鬼夜行を行う!!」

 

「場所は、

呪いの坩堝、東京・新宿!!

呪術の聖地、京都!!」

 

「各地に千の呪いを放つ。下す命令はもちろん"殴殺"だ

地獄を描きたくなければ、死力を尽くして止めにこい」

 

「思う存分、呪い合おうじゃないか」

 

---

SIde : 京都

 

――それから、少しだけ時間が経った。

 

訓練の内容自体は、

派手なものではなかった。

 

構え。

間合い。

簡易領域の維持。

それに伴う、無駄な動きの洗い出し。

 

ただ――

一つひとつを、徹底的に。

 

霞先輩は、

何度も息を切らしながら、

それでも一度も逃げなかった。

 

最後に、

篤也さんが短く言う。

 

「今日はここまでだ」

 

霞先輩は、

深く息を吸ってから、

ぴしっと頭を下げた。

 

「……ありがとうございました!」

 

声は少し掠れていたけど、

目はまっすぐだった。

 

「どうでした?先輩は」

 

篤也さんは、

ちらっとこちらを見てから、

ぽつりと言う。

 

「……悪くねえ」

 

それだけ。

 

でも、

霞先輩の表情が、

ぱっと明るくなるのが分かった。

 

「ふふ、そうですか。篤也さんのデレ、いただきですね」

 

「ぶっ飛ばすぞ」

 

その時だった。

 

――ぶる、と震える。

 

日下部先生のポケットから、

携帯が鳴る。

 

一瞬、

眉をひそめてから、

短く応答した。

 

……俺だ」

 

数秒。

 

返事は、

ほとんど「……ああ」だけ。

 

けれど――

通話が終わった瞬間、

空気が変わったのが、

はっきり分かった。

 

「……うみ」

 

名前を呼ばれる。

 

「...なんですか?」

 

「東京に戻るぞ」

即断だった。

 

「....わかりました」

 

俺は一度だけ、

霞先輩の方を見る。

 

「ごめんなさい、霞先輩。

急な任務みたいで、もう戻らないとです」

 

そう言うと、

霞先輩は一瞬きょとんとして――

 

すぐに、小さく笑った。

 

「あ、ううん。

大丈夫だよ」

 

首を横に振る。

 

「むしろ……」

 

少しだけ言葉を選んでから、

 

「今日は、ありがとう」

 

そう言って、

ぺこりと頭を下げた。

 

「いえ」

こちらも自然に頭を下げる。

 

「また来ますね。

今度は、もう少し余裕のある時に」

 

「……うん」

霞先輩は強く頷いた。

 

「うみくんも、

気をつけて」

 

その言葉に、

一瞬だけ胸が詰まる

 

「はい」

 

それだけ返して、

踵を返した。

 

---

 

京都校を発って、

新幹線に乗り込む。

 

席に座ると、

篤也さんは静かに腕を組み、

外の景色を眺めていた。

 

「それで....何があったんですか?」

 

篤也さんは、

少しだけ視線を下げてから、

淡々と言った。

 

「宣戦布告だ」

 

「....宣戦布告?いったい誰が?」

 

「夏油傑」

 

(たしか、特級の...)

 

「百を超える一般人を呪殺し、呪術高専を追放された最悪の呪詛師だ」

 

「そいつの対策会議みたいなもんをするんだとよ」

 

「....そうですか」

 

---

 

――東京高専会議室

 

「夏油傑、呪霊操術を操る"特級呪詛師"です」

 

「主従契約のない呪いを取り込み操ります

設立した宗教団体を呼び水に、信者から呪いを集めていたようです」

 

(呪霊操術...じゃああの時のも?)

 

「伊地知さん、質問いいですか?」

 

部屋の視線が、

一斉にこちらに向く。

 

伊地知さんは、

一瞬だけびくっと肩を揺らしてから、

眼鏡を指で押し上げた。

 

「……は、はい。

どうぞ」

 

「呪霊操術って具体的にはどう操るんですか?

式神みたくいうこと聞かせる感じ?それともマリオネット方式?」

 

「えっと」

伊地知さんは一瞬だけ言葉を探してから、答えた。

 

「どちらかと言えば……前者、ですね」

 

「ふむ。なるほど...ありがとうございます。伊地知さん」

 

それだけ言って、口を閉じた。

 

会議室の視線が、

一瞬だけこちらに集まり――

すぐに、別の資料へと流れていく。

 

「うみ。今ので何がわかった」

 

正面から、低い声

――正道さんだ

 

俺は、少しだけ考えてから答える。

 

「分かった、というより……」

 

言葉を探す。

 

「腑に落ちました」

 

「というと?」

 

「夏にあった京都での実習授業の時のことです」

 

「悟さんから報告来てません?情報にない一級が出たってやつ」

 

「……ああ」

正道さんは、少しだけ表情を和らげた。

 

「確かにあったな、そんな報告」

「京都での実習中に、

記録にない一級相当の呪霊と遭遇した、という件だ」

 

伊地知さんが、

資料をめくりながら頷く。

 

「はい。

当時は単発の異常発生として処理しましたが……」

 

俺は、

その先を引き取る形で続けた。

 

「あれが、件の夏油さんの仕業なんじゃないかって話です」

 

そこで黙っていた悟さんが声を上げる

 

「なるほどねぇ」

 

「うみのことを測りに行ったわけだ...."五条悟の秘蔵っ子"を」

 

「まぁ、あれからちょっかいっぽいものはないので、

あの時に測り終えて、今は憂太先輩に夢中ってところじゃないですか?」

 

場が、

一瞬だけ静まった。

 

そこでぱんっと手を叩いて流れを切る

「俺の推測は置いといて、今は対策の方に話を戻しましょう」

 

「僕もそれでいいと思うよ。

とりあえず、もとから持ってた呪霊も合わせたら、

2000って数はハッタリじゃないと思う」

 

悟さんが作ってくれた流れに正道さんが続く

 

「だとしても、統計的にほとんどが雑魚。

相手側の術師だって多く見積もっても50程度が関の山だろう」

 

「だから怖いですね。あいつが負け戦を挑むとは思えない」

 

(まあでかい呪霊の動きがあれば、上層部が見落とさないだろうし、

大半が雑魚ってのは納得。悟さんが知った仲っぽいし、

負け戦を仕掛けたわけではないとすると....)

 

「....リカちゃん狙い、とかじゃないですか?」

 

「……確かに」

正道さんが腕を組んだまま言う。

 

「祈本里香は規格外だ。

単体でパワーバランスを覆すことも可能だろう」

 

伊地知さんも頷く。

 

「はい。

現状確認されている呪霊の中でも、

制御外要因としては最大級です」

 

「ただし」

正道さんはすぐに続けた。

 

「先ほども説明があった通り、

夏油傑の呪霊操術が扱えるのは

"主従契約のない呪霊"のみだ」

 

「祈本里香は、

乙骨憂太との主従関係――

少なくとも強固な縛りを持つ存在だ」

 

「奪う、あるいは取り込むというのは、

理論上、難しい」

 

(確かに)

 

呪霊操術は万能じゃない。

奪えないものもある。

 

では――

 

俺は、

少しだけ言葉を選んでから口を開いた。

 

「じゃあ……」

 

視線が集まる。

 

「もし、憂太先輩が死んだら」

 

「その主従契約は、どうなるんですか?」

 

空気が、止まった。

 

伊地知さんが、

一瞬だけ言葉を失う。

 

正道さんも、

すぐには答えなかった。

 

「……理屈の話をするなら」

悟さんが静かに言う。

 

「解除されるってことになるだろうね」

悟さんは、淡々と言った。

 

「なんせ、契約者がいないんだから」

 

一瞬の静寂。

 

伊地知さんが、

ぎこちなく喉を鳴らす。

 

「……つまり」

言葉を選びながら口を開く。

 

「最悪の場合、

祈本里香は"主従の縛りを失った呪霊"として

残る可能性がある、ということですね」

 

「そう」

悟さんは軽く頷く。

 

「そうしたら、

呪霊操術の術式対象ですよね?」

 

静かな声だった。

 

けれど――

その一言で、会議室の空気が決定的に変わった。

 

「……理論上は」

正道さんが、低く応じる。

 

「主従の契約が消失し、

祈本里香が"自由状態の呪霊"として残った場合」

 

「夏油傑の術式対象になる可能性は、否定できない」

 

伊地知さんが、

資料をぎゅっと握りしめる。

 

「……それは……」

 

言葉が続かない。

 

「つまり」

正道さんが続ける。

 

「乙骨憂太を落とせば――」

 

言い切る前に、

悟さんが口を挟んだ。

 

「やめとこ、その言い方」

軽く、けれどはっきりと。

 

「"落とせば"じゃない」

「落とすつもりで来る、ってだけ」

 

悟さんの言葉で、

会議室にあった不用意な表現が、

きれいに削ぎ落とされた。

 

正道さんは一度、

深く息を吐く。

 

「……いずれにしても」

低い声で続けた。

 

「乙骨憂太の周囲は、最優先で厚く固める」

 

「百鬼夜行への対処を並行しつつ、

主戦力は東京側に集中させる」

 

伊地知さんが頷き、

資料に走り書きを加える。

 

「新宿は人命優先だ。

雑魚が多数とはいえ、

放置すれば被害は跳ね上がる」

 

「乙骨の護衛を削るわけにはいかない以上――」

 

正道さんは、

ゆっくりと視線を動かした。

 

「京都へ回せる戦力は、東京側からはどうしても限られる」

 

その言葉で、

全員が状況を理解する。

 

京都。

もう一つの指定地点。

しかも"呪術の聖地"と名指しされた場所。

 

(……千の中に特級とか混ざってる可能性まで考えると人手不足か?)

 

「じゃあ俺、そっち行きます」

 

場の空気が、

一瞬だけこちらに集まった。

 

正道さんが、

ゆっくりと視線を向ける。

 

「理由は?」

 

「まず、術式で移動に時間がかかりません

移動時間が少ない分、人一倍の呪霊を相手できます」

 

指を折って説明する。

 

「それと手札が多いので、対応幅が広めです

大概のやつなら一人でもなんとかなります」

 

「京都は多分、掃討戦って感じになると思うので相性がいいです」

 

「……確かに」

最初に口を開いたのは、伊地知さんだった。

 

「移動時間がほとんど存在しない、というのは

この状況では明確な強みですね」

 

資料に目を落としながら、続ける。

 

「京都側は戦力の"質"よりも

初動対応と回転率が重要になるはずです」

 

「対応幅が広い、という点も」

小さく頷く。

 

「種類豊富であろう呪霊群を相手するには有効かと」

 

正道さんは、

一度だけ深く息を吐いた。

 

「……分かった」

 

短く、しかしはっきりと告げる。

 

「うみは京都側へ配置する」

 

「ぎょいに~」

 

思わず、間の抜けた返事が出た。

 

けれど、

その一言で空気が和らいだのは事実だった。

 

正道さんは、

小さく咳払いをして会議を締めに向かわせる。

 

「配置に関しては以上だ」

 

時刻が来次第、

各自、所定の位置につけ」

 

椅子が引かれ、

資料が閉じられる音が重なる。

 

会議は終わった。

 

 

そして訪れた――12月24日 百鬼夜行 当日

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