生まれ変わった世界は   作:月影うみ

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呪術原作編
26話


最近、ようやく東京に戻ってこれた。

 

何ともう、8月目前である。

 

(まさか2シーズン丸々出張させられるとは思わなかった)

 

出張先はなんとイギリス。

恵先輩がフラグ立てるから、ほんとに海外になっちゃった。

 

一級になったからって、いきなり海外案件ぶっ込んでくるのどうなんだろう、悟さん。

 

俺が出張してる間、日本では、あの『両面宿儺』の器たり得る存在が見つかったらしい

そして、最近死んじゃったらしい

 

(絶対上層部がなんかしたでしょ....)

 

寮の自室に荷物を放り投げて、

着替える間もなくベッドに沈み込む。

 

その時だった。

 

――ピロリン。

 

ポケットの中で携帯が震える。

 

画面を見ると、送り主は案の定。

 

from: 五条悟

『うみー、生きてるー?暇ー?(※暇じゃなくても暇)』

 

「……嫌な予感しかしない」

 

既読をつけた瞬間、すぐに追撃が飛んできた。

 

『今から地下の隔離部屋まで来て―。

やってほしいことあるんだけど』

 

「……隔離部屋って、絶対ろくでもない」

 

そう呟きながら、俺は重い腰を上げた。

 

出張帰りで体はまだだるいし、

時差ボケも抜けてないし、

そもそも今日は休ませてほしい。

 

(....悟さんが呼ぶってことは、何か"事件"なんだろうけど)

 

階段で地下へ降りると、

ひんやりとした空気が肌にまとわりつく

 

隔離区画の前に立つと、

既に悟さんが壁にもたれて待っていた。

 

「おっ、来た来た。おかえりうみ~」

 

「……ただいま戻りました。で、何の用ですか」

 

「まあまあ、そんな怖い顔しないで。

ほら、ちょっと見せたい子がいてさ」

 

「子?」

 

五条さんは、ひょいと顎で隔離室の扉を指した。

 

「中、入ってみ?」

 

嫌な予感しかしないが、

ここまで来て帰るわけにもいかない。

 

俺は深呼吸して、扉を開けた。

 

そこにいたのは一人の少年だった。

 

短い黒髪。

健康的な体つき。

そして、どこか"普通の高校生"みたいな雰囲気。

 

隔離室の中にいた少年は、こちらに気づくと

「あ、五条先生おかえり〜」と手を振った。

 

隔離室でそんな軽いテンションある?

 

五条さんはサングラスを押し上げながら、にこにこしている。

 

「ただいま〜。で、悠二。紹介するね。

こっちは僕の可愛い教え子、月影うみくん」

 

その瞬間だった。

 

少年――虎杖悠二は、俺を見た瞬間、目をまん丸にした。

 

「うわっ……すっげぇ美少女。

先生の妹さん?」

 

「失礼な。美少年ですよ」

 

「えっ!!? マジで!?」

 

「マジです。月影うみと言います。よろしくお願いします」

 

「あ、ど、どうも……!

俺、虎杖悠二です!よろしくお願いします!」

 

「敬語要らないですよ?多分、悠二先輩の方が年上なんで」

 

悠二先輩と軽く挨拶を交わした後、

悟さんは「うんうん、いいねぇこの初々しさ」と満足げに頷き――

 

そして、急に俺の肩をぽんと叩いて、

 

「で、この虎杖悠二君。両面宿儺の器なんだけどさ」

 

と言い放った。

 

隔離室の空気が、一瞬で変わった。

 

俺は思わず、悟さんの顔を二度見した。

 

「……は?」

 

悠二先輩も、ぽかんと口を開けている

「なんで言っちゃったの!?」と言わんばかりである。

 

「あの、悟さん。"宿儺の器は死んだ"って聞いてるんですけど...」

 

「うん、死んだよ?建前上はね」

 

悟さんは、悪びれもせずに言った。

 

「上はさ、悠二を"特級案件にぶち込んで処理する"つもりだったんだよねぇ。

で、実際そうされた。結果? 死んだことになった」

 

「……いや、死んだことになったって」

 

「でも実際は生きてる。僕がそうした」

 

悟さんはサングラスを押し上げ、にこりと笑う。

 

「だってさ、この子、まだ高校生だよ?

若い子の青春を、じじいどもの心の安寧のために潰すなんて、

僕はまっっったく賛成できないの」

 

言い方は軽いのに、

その奥にある"怒り"だけは隠しきれていない。

 

「で、悠二をこのまま表に出しても、

おんなじことの繰り返しなわけ」

 

「だからうみ。

悠二を"殺せないくらい強くする"ために、

君の力が必要なんだよ」

 

「……俺の?」

 

悟さんは当然のように頷いた。

 

「うみは呪力操作が異常に上手い。

術式の相性もあるけど、基礎操作だけなら、

僕より綺麗だよ」

 

「いやいやいや!?

五条先生より上手いって何!?」

 

悠二先輩が絶叫を上げる

 

悟さんは続ける。

 

「悠二には術式がない。

だから、"呪力の扱い"が生命線なんだけど

呪力の流し方が壊滅的でねぇ……」

 

悠二先輩がしょんぼりと肩を落とす。

 

「……そんなにひどい?」

 

「ひどいよ。

でも、だからこそ伸びしろがある」

 

悟さんは俺の肩を軽く叩いた。

 

「うみ。

君には悠二の"呪力操作の家庭教師"をお願いしたい」

 

「家庭教師……」

 

「そう。

虎杖が普通に戻ったら、また殺される。

だったら"殺せないほど強くする"しかないでしょ?」

 

悠二先輩が、不安そうに、でもどこか期待を込めて俺を見る。

 

「……うみ。

俺、強くなりたい。

だから……頼んでもいいか?」

 

「分かりました」

 

即答した。

 

「えっ!?そんな簡単にいいの!?」

 

悠二先輩が驚いた声を上げる

 

俺は軽く肩をすくめる。

 

「悠二先輩って、今年の一年生なんですよね?」

 

「え?あ、うん。そうだけど」

 

「ってことは、恵先輩の友達ってことですよね?」

 

悠二先輩が一瞬きょとんとして、

次の瞬間「あっ」と小さく声を漏らした。

 

俺は続ける。

 

「なら、断る理由がないです。

恵先輩の友達なら……俺にとっても"先輩"ですから」

 

悠二先輩の目が、ほんの少しだけ丸くなる。

 

驚きと、

嬉しさと、

ちょっと照れたような色が混ざっていた。

 

「……そっか。

ありがとう、うみ」

 

「いえ。俺でよければ、いくらでも」

 

悟さんはそのやり取りを見て、

満足げに手を叩いた。

 

「はいはい、青春だねぇ。

じゃあ二人とも、今日からよろしく~」

 

そう言って、悟さんは去っていった。

 

悠二先輩が姿勢を正す。

 

「じゃ、まず何すればいい? 座禅とか?」

 

「いえ、そんなめんどくさいことはしませんよ」

俺は軽く手を振った。

 

「まずは、呪力が"流れる"って感覚を覚えるところからです」

 

「流れる……?」

 

「はい。

俺は悟さんと同じ目なので、呪力の流れが"視える"んですけど……

悠二先輩はそういうわけにもいかないので」

 

虎杖先輩は苦笑いしながら頭をかく。

 

「だよなぁ……俺、そういうの全然分かんねぇし」

 

「でも、悠二先輩って多分"感覚派"ですよね?」

 

「え、俺そんな感じする?」

 

「します。なので――」

 

俺は悠二先輩の背後に立ち、手を背中に押し当てる

 

「俺が先輩の中で呪力を"ぐるぐる"させます。

その感覚を覚えてください」

 

「……え?そんなことできんの?」

 

「できますよ。

呪力操作が得意って、そういうことです」

 

悠二先輩は一瞬だけ不安そうに眉を寄せたが、

すぐにぐっと拳を握った。

 

「……よし、頼む!」

 

「じゃあ、力抜いてください。

変なところに力入ってると、気持ち悪くなるので」

 

「えっ気持ち悪くなるの!?」

 

「大丈夫です。死にはしません」

 

「死ぬ前提みたいに言うなよ!?」

 

俺は苦笑しながら、悠二先輩の中の呪力に接続する。

 

(これが宿儺の呪力の一端....)

 

「じゃあ動かしますよ」

 

「お、おう……!」

 

悠二先輩の体内で、

"青い線"がゆっくりと走り始める。

 

「……っ!?な、なんか来た!?」

 

「それが呪力です。

今は俺が動かしてますけど、

その“流れる感じ”を覚えてください」

 

悠二先輩は目を見開き、

自分の胸元を押さえた。

 

「うわ……なんだこれ……!

すっごいぞわぞわする」

 

「そのぞわぞわを覚えてください

初めは、そのぞわぞわをイメージしながら、

流せるようになってもらうので」

 

「イメージ……」

 

悠二先輩は眉を寄せ、

胸の奥に意識を集中させる。

 

俺はその様子を見ながら、

悠二先輩の体内の呪力の"流れ"を少しだけ強めた。

 

青い線が、

胸から腹へ、

腹から腕へ、

腕から指先へ――

ゆっくりと、でも確かに巡っていく。

 

「……っ!今、腕の方に来た!」

 

「はい、それです。

"どこを通っているか"を感じ取れるようになれば、

あとは自分でなぞるだけです」

 

悠二先輩は息を呑み、

自分の腕を見つめた。

 

「……すげぇ……

なんか、血が逆流してるみたいな……

でも、熱い……!」

 

「その"熱さ"が呪力です。

じゃあ――一回止めますね」

 

俺が呪力の流れを切ると、

悠二先輩は「あっ……」と名残惜しそうに声を漏らした。

 

「今の感覚、覚えてますか?」

 

「……うん。

なんか……体の中をぐるぐる回ってる感じ。

熱くて、でも変な感じで……」

 

「じゃあ次は――

先輩自身で、さっきの“流れ”を再現してみてください」

 

虎杖先輩は目を閉じ、

拳を握りしめた。

 

「……やってみる!」

 

俺は少し距離を取り、悠二先輩の呪力を六眼で見つめる。

 

(さて、悠二先輩が想定通りの人なら...)

 

悠二先輩の胸の奥で、

小さな火花のように呪力が揺れた。

 

「……っ、あれ……?

なんか……あっ!……さっきの感じ!」

 

「そのままです。

胸から、腹へ。

腹から、腕へ。

腕から、指先へ。

"流れ"を思い出してください」

 

悠二先輩の腕に、

かすかに青い線が走る。

 

ほんの少し。

でも確かに。

 

「……っ!来た……!

来たぞこれ!!」

 

「はい。

それが"自分で動かした呪力"です」

 

虎杖先輩は目を開け、

信じられないものを見るような顔で自分の手を見つめた。

 

「……すげぇ……!

俺、できた……!」

 

「できますよ。

先輩は感覚派なので、こういうのは得意です」

 

悠二先輩は照れくさそうに笑った。

 

「……なんか、月影に教わると分かりやすいな」

 

「それはよかったです。

じゃあ次は――"流し続ける"練習をしましょうか」

 

「お、おう!任せろ!」

 

(……ほんとに素直で、教えやすい人だな)

 

俺は軽く手を叩いて、気持ちを切り替えた。

 

「じゃあ次は――"一定に流し続ける"練習をしましょうか」

 

「一定に……?」

 

「はい。

今は"平常時"だから流せてますけど、

実戦では、緊張したり、焦ったり、痛かったり、

いろんな状況で呪力が乱れます」

 

悠二先輩は真剣な顔で頷く。

 

「なるほど……確かに、戦ってる時に狂ったらやばいよな」

 

「そういうことです。

なので――どんな状況でも呪力を一定に保つ訓練をします」

 

「どんな状況でも……?」

 

「はい。

そのために――悟さんが置いていった"これ"を使います」

 

俺は隔離室の隅に置かれた、

妙に存在感のある段ボール箱を指差した。

 

悠二先輩が首をかしげる。

 

「……これ? なんか書いてあるけど……」

 

箱の側面には、

大きくマジックでこう書かれていた。

 

『悠二用♡ 呪力操作・精神負荷トレーニングセット』

 

箱の中から、

見覚えのあるパッケージがごそりと姿を現した。

 

映画のDVDが、

ぎっしりと、

それはもうぎっしりと詰まっている。

 

「……うみ、これ……」

 

「はい。映画です。あとは....これですね」

 

俺は段ボールの奥に手を突っ込み、

バスケットボールくらいのサイズの呪骸を取り出した。

 

「……なにそれ。かわいい……けど、なんか怖い……」

 

「正道さん....学長のお手製呪骸です。

こうして一定の呪力を流すと――」

 

俺は呪骸の頭を軽く撫でながら、

指先から細く呪力を流し込む。

 

すると呪骸は、

「キュ……」と小さく鳴いて、

その場にコテンと横になった。

 

すぅ……すぅ……。

 

完全に寝た。

 

悠二先輩が目を丸くする。

 

「……寝た!? 今の一瞬で!?」

 

「はい。

"一定の呪力”を流すと、こうして寝ます。

つまり――」

 

俺は呪骸を指差す。

 

「"呪力が安定しているかどうか"を、

この子が教えてくれるわけです」

 

「なるほど……!

じゃあ、俺が呪力を一定に保ててれば――」

 

「寝ます」

 

「分かりやすい!」

 

悠二先輩が感心している横で、

俺は呪骸への呪力をほんの少しだけ乱した。

 

その瞬間――

 

バチッ!!

 

呪骸の目がカッと開いた。

 

「キュアアアアアア!!」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 

呪骸は跳ね起き、

弾丸みたいな速度で悠二先輩に飛びかかった。

 

拳を振り上げ――

 

ドゴッ!!

 

「ぎゃああああああああああああああああああ!!」

 

悠二先輩が床を転がる。

 

俺は呪骸の次の一撃を片手で受け止めた。

 

「はいはい、ストップ。

今のは俺がわざと呪力を乱しただけです」

 

呪骸は俺の手の中で「キュイ」と鳴き、

またコテンと寝た。

 

悠二先輩は涙目で俺を見る。

 

「……うみ……

これ……殴ってくるの……?」

 

「はい。

呪力が乱れると、こうして殴りかかってきます」

 

「いやいやいやいや!!

絶対もっと優しい方法あるだろ!!?」

 

俺は肩をすくめる。

 

「痛いのが嫌なら死ぬ気でがんばれってことじゃないですか?」

 

「理不尽すぎるだろ!!?」

 

「悟さんですよ?」

 

悠二先輩は、床に座り込んだまま俺を見上げる。

 

「ああ、そっか。五条先生だもんな...」

 

俺は軽く手を叩いて、空気を切り替えた。

 

「――まあ、その辺は置いといて」

 

悠二先輩がビクッと顔を上げる。

 

「修行の内容は簡単です」

 

「……簡単……?」

 

「はい。

この子に"一定の呪力"を流しながら、映画を見る。

それだけです」

 

呪骸は「キュイ」と寝返りを打って、

すぅすぅと気持ちよさそうに寝ている。

 

(……さっきまで暴れてたのに、切り替え早いな)

 

悠二先輩は呪骸を見て、震えながら言う。

 

「……いやいやいや……

 “それだけ”って言うけどさ……

 殴ってくるじゃん……?」

 

「殴られなければいいんですよ」

 

「言い方ァ!!」

 

俺はDVDの山から一本を取り出し、

パッケージをひらひらと見せた。

 

「とりあえず、一本。

一本だけでいいので――

"殴られずに最後まで観る"のを目標にしましょう」

 

悠二先輩は固まった。

 

「……一本……殴られずに……?」

 

「はい。

できれば、泣いても笑っても怒っても、

呪力を乱さずに」

 

「いや無理だろそれ!!?」

 

呪骸が「キュイッ」と跳ねて、

悠二先輩の足元にぴたりと張りつく。

 

完全に"準備万端"の顔だ。

 

俺は淡々と続ける。

 

「大丈夫ですよ。

先輩は感覚派なので、慣れればできます」

 

「その“慣れるまで”が地獄なんだよなぁ!!?」

 

「俺の中の悟さんが言ってました。

"悠二ならいけるっしょ"って」

 

「絶対言ってるわそれ……!」

 

悠二先輩は頭を抱えながらも、

どこか覚悟を決めたように立ち上がった。

 

「……よし。

やるよ、うみ。

殴られずに観ればいいんだろ……?」

 

「はい。

じゃあ――始めましょうか」

 

呪骸が「キュイッ!」と元気よく鳴いた。

 

(……たぶん一番やる気あるの、この子だな)

 

----

 

あれから、だいたい数時間。

最初こそ殴られまくってた悠二先輩だけど....

 

呪骸は、悠二先輩の膝の上で丸くなり、

「すぴー……すぴー……」と小さく寝息を立てていた。

悠二先輩は悠二先輩で、映画にめちゃくちゃ集中している。

 

(ほんっとに飲み込み早いな....)

 

俺が感心していると──

 

カツ、カツ、カツ。

 

階段を降りてくる軽い足音。

 

悠二先輩が映画に集中していて気づかない中、

俺はそっと顔を上げた。

 

案の定、階段の影から現れたのは──

 

「やっ、調子はどう?」

 

悟さんだった。

 

なぜかめちゃくちゃ小声である。

 

「視ての通りです。もうだいぶ安定してます」

 

「へぇ。以外との見込み早いね」

 

それだけ言って音もなく悠二先輩に近づいていく

 

「悠二」

 

悠二先輩がびくっと震える

 

「五条先生!?用事は?」

 

(もう話しかけてもいけるんだ...)

 

「出かけるよ。あ、うみも一緒ね」

 

「今度は何ですか?」

 

悟さんは、ちらっとテレビ画面と、

悠二先輩の膝で寝ている呪骸を見て、にやっと笑った。

 

「これはね、多分うみも見たことないと思うんだよね」

 

「呪術戦の頂点。『領域展開』を二人に教えてあげる」

 

いうや否や、悟さんは俺と悠二先輩を引っ掴み、"トんだ"

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