1話
そんなこんなで孤児院生活が始まってから1年――
この孤児院での生活にも大分なれたといっていいだろう。
決まった時間に起きて、決まった時間にご飯を食べて、本を読んで、手伝いをして...
幼児の体の使い方にも慣れてきた。転生当初はほんと大変だったなぁ
多分、周りからは「落ち着いてて手のかからない子」って認識されてるんじゃないかなぁ
騒いだりしないし、やることはちゃんとやるし。
そもそも前と合わせたらもう20超えるしね!!これで手がかかったら救いようがない...
まぁそんなことはどうでもいいし置いといて、
この1年間でこの世界のことはおおよそ理解できたと思う
中でも特にこの世界のこと、
結論から言うと、この世界は前世の世界とかなり似ている
漫画やアニメの作品は一部ないものもあるが、大体は同じだし、
電子機器もスマホも一般的に普及している
歴史書の中身なんかも大体記憶と合致する
そして、もう一つ。これは完全に個人的なことだが
「強化睡眠記憶がやばすぎる...」
(もうほんとにびっくりするくらいやばい
書物の難かしさにもよるけど、読み切った内容が
次の日どころか昼寝の後には理解できてる)
一人、静かな図書室でそんなことを考えながら本を読んでいると、
職員の人に声をかけられる
「うみくん? また難しい本読んでたの?」
この人は確か、川...川山さん?だったっけ
「ん、そんなとこ」
川...川山さんの言葉に短く応じると、彼女は軽く苦笑して去っていった。
それを横目に読みかけの本へと視線を戻す
(これでおしまいっと)
最後の一行を読み終え、ゆっくりと本を閉じる。皮の表紙が鈍い音を立てて手の中で収まる。
窓から差し込む光がいつの間にか赤みを帯びていたことに気がついた。
ふと、外を確認する
「あれ、そんなに読んでたのか?」
外は、夕陽により橙色に染めまっており、空には濃紺の夜の気配が滲み始めていた。
(時間は...)
気になって時計に目を向けると、長針は二を指し、短針は五と六の間____17時10分を指していた
「.......やばい」
そこで思い出した。今日は夕食の手伝いの日だったことを。
本を棚に戻し、急ぎ足で廊下を進む
(普段なら忘れないんだけど....まさかボケか?この年で?
最近妙にぼんやりすることもあるし、
もしや肉体年齢じゃなくて精神年齢が適応されてるのか?
いや、だとしても早い。前を合わせても二十ちょいだ。)
厨房の前につき扉を開ける。
中にいた...川山さんがこちらを向き少し驚いたような顔をする
「ごめんなさい。遅くなりました。」
「ううん。大丈夫だよ。
でも珍しいね。なにかあった?」
心配されてしまった。
「本読んでて、気づいたら...」
若干気まずくて目をそらしながら答えると、川山さんは小さく笑った
「あの後ずっと読んでたの?
ふふ、ほんとに本読むのが好きなのね。
今日は大丈夫だけど、次からは気を付けようね?」
「……はい」
短く応じながら厨房に入ると、既に食材が整然と並べられていた。
蒸気の立ち上る鍋からは野菜スープの甘い匂いが漂ってくる。
「ジャガイモの皮むきからお願いできるかな?
ちょうど手が空いてなかったの」
川山さんがボウルいっぱいのジャガイモを差し出してくる。
それに黙って頷き、エプロンの紐を結び、作業を始める。
ザクザク。ペティナイフがジャガイモの皮を剥ぐ音が規則的に続く。
手のひらサイズの芋を左手に持ち替え、またザクザク。
五歳児としては異常な速度でボウルのジャガイモが減っていく。
(ふむ。もう前の俺の作業速度とほぼとんとん...
これも強化睡眠記憶の恩恵か。やっぱ異常だな。)
「わぁ、うみくんはやーい!!」
自身の得た能力に感動していると、とても明るい声が響く。
そちらを振り返ると、一つ年上の女の子....春が目を輝かせていた。
「ん、別に普通だと思う」
(実際普通ではないと思うけど...
このほうがいい反応するからなぁ)
「え~?絶対はやいって~!」
春がぷくっと頬を膨らませる。うん、かわいい。
これがアニマルセラピーか。
「こ~ら。おしゃべりもいいけど、手を動かしてね?」
春の反応にほっこりしてると、川山さんからのお叱りを受けた。
「はっ!ごめんなさーい!」
「ごめんなさい」
春と共に頭を下げ、残りを終わらせるべく作業に戻る。
「でも確かに、本当に上手になったよね。
最初はあんなに不器用だったのに」
「慣れただけですよ?」
(確かに、最初は危うかったけど)
当時の幼児の体の動かしづらさを思い出す。それがわずか半年でこのレベル。
強化睡眠記憶がどれほど便利かを再度実感する
最後のひとつを向き終え、ふぅと小さく息を吐き、
他の作業に移っていた川山さんに声をかける
「終わりました」
「えっ、もう!?」
隣で作業中の春がぱっと顔を上げる。
その声には純粋な驚きと賞賛が見える。
「ん」
そっけなく返しながら籠いっぱいの剥き芋を示す。
それを見た春は自分の手元を一瞥し、
「ねぇ……ちょっとだけ手伝ってくれない?」
と、遠慮がちに口を開いた。
その様子にほほえましいものを感じながらその手元を見ると、
まだそこそこの量が残っている。今のペースだとまだまだかかりそうか....
「ふふ、いーよ。なにしたらいい?」
笑いながら答えると、春はパッと顔を輝かせた。
「ほんと!? じゃあね、こっちの...」
春が自分のまな板を指さしながら、
包丁を握り直そうとした、その瞬間——
「——あっ」
「春?」
川山さんが反応するより早く、
春の指先から赤いものがにじみ出す。
「い、いたっ……」
見れば指先に小さな切り傷ができている。
自然に手を伸ばして指先を軽く抑える
「ちょっと我慢。川山さん、ばんそうこう持ってきて?」
そう言うと川山さんが厨房から出ていく
(ガーゼは...厨房にあるわけないか。
ひとまずはキッチンペーパーでいいや)
いつか読んだ止血の方法を思い返しながら応急処置を進めていく
「絆創膏持ってきたよ」
出血が収まり始めたころ、川山さんが戻ってきた。
「ん」
川山さんからばんそうこうを受け取り、春の指先に貼り付ける。
「よし、おしまい」
「....ありがとう」
春がぽつりと言った。
「ん。でもよそ見はダメ。危ない。」
「.....うん」
しゅんとする春。しょーがないなぁ、と思いながら頭をなでる
「次は気をつければいい」
そんな会話をしてると、
「すごいねうみくん。止血の仕方もテキパキしてたし、誰かに教わったの?」
川山さんがそっと近づいてきて、感心したように聞いてきた
「んーん。前に本で読んだ。」
「へぇ〜本だけで覚えちゃったの!?」
春が興味津々で身を乗り出す。
「すごいね!やっぱりうみくんって特別だよね!」
(ん~。ただのずるっこだからちょっと複雑...)
「たぶん...?」
とりあえずあいまいに答えておく
ふと、視線を感じそちらに目を向けると、
「♪」
川山さんが小さく笑みを浮かべていた
「.......?」
どうかしたのかと首をかしげると、彼女は軽く咳払いをする
「……さあ、準備を続けましょう?」
とくに何もないようだ
夕食の準備も終わり、食堂へ運ぶ
すでに他の人たちはそろっているようで、にぎやかな声であふれている。
いつも通りの席に着く。
「全員揃っていますね」
院長が食堂を見渡して確認をとる。そして
『いただきまーす!!』
院長の合掌に続き、食堂が揃った声で満たされる。
俺も手を合わせ「いただきます」と小声で告げ、手を伸ばす。
「うみくんって食べるの早いよねー」
隣の席の春がニコニコしながら言う。指には絆創膏が白く光っている。
「まあ……そうかも?」
「私まだ半分も食べてないよぉ」
彼女はフォークを持ったままこちらを見つめる。
「慌てて詰まらせないでよ?」
忠告すると、春は「わかってるよー!」と頬を膨らませてからパクパク食べ始めた。
その様子を反対側の川山さんが微笑ましげに見守っている。
---
「ごちそうさまでした」
小さく合掌をし、食器を重ねていると隣の春が突然抱きついてくる。
「うみくん! 一緒にお皿洗おうよ!」
「ん、分かった」
断る理由もないので了承する。
春はまだ食べ終わってないようなので座りなおして、待つことにする。
---
「お疲れさま、今日はお手伝いありがとうね」
2人で洗い物を終えると川島さんの労いを受け、入浴時間を迎える。
風呂場は混み合うが慣れたものだ。入浴後は髪を乾かし自室へ戻った。
---
部屋に戻ると既に何人かが布団に潜り込んでいた。
(俺ももう寝よう)
そう思いながらベッドに倒れ込み天井を見上げると___
「っ....?」
___視界の端で光が一瞬だけ揺れた気がした。
「......気のせいか」
そちらに目を向けるものの、特に気になるものはない。
疲れてるだけだと結論づけて、布団にもぐりこむ
(さて、明日は何をしようか)
---翌日---
「みんなおはよう、起きる時間だよ」
職員の柔らかな声とカーテンが開けられ、差し込んだ光によって目が覚める。
目を開けると見慣れた天井。壁時計の針は6時を指している。
ベッドから起き上がり大きく伸びをする。
(今日は何を読もうかな)
そんなことを考えながら顔を洗おうと廊下に出た瞬間───
「........っ!?」
世界が破裂した。
色でも光でもない“何か”が一気に押し寄せてくる。
壁の木目、床の傷、空気の揺れ……
視界を埋め尽くす全てが、同時に、等しく、はっきりと流れ込んでくる。
(はっ!?え...なに...これ....?)
頭が割れるような激痛が走る。
(むり...立ってられない...!)
膝から崩れ落ちる。
指先が痙攣し、冷たい汗が背筋を伝う。
「うみくん!!うみくん!!」
春の声が聞こえるが、応えられるだけの余裕はない。
(やばい……意識がもたな…)
そこで俺の意識は暗転した
* * *
「ん」
意識が覚醒すると同時に、消毒液の匂いを無機質な電子音が届く。
(病院か...?)
そんなことを考えながら目を開けるが....
「んっ……!」
反射的に目を固く閉じる。意識を失う前と同じよう視界が埋まり頭痛がする。
(はぁ....なんなのほんと
「うみくん? 意識戻ったのね!」
俺の様子に気づいたのか声を掛けられる。この声は川山さんかな?
「川山さん?」
「うん、そうだよ。調子はどう?」
「目が開けられないです...すごく眩しいというか
今は、なんでもいいので視界を遮りたいです」
「そっか、今から先生呼んでくるからお願いしよっか」
しばらくして、川山さんと一緒に戻ってきた先生に案内をしてもらって一通りの検査を終えた。
今は、検査を終え病室に戻ってきている。川山さんは検査の結果を聞いた後、孤児院に帰った。
頭には目を覆うようにして巻いてもらった包帯があるため、目を開けても平気ではあるが...
(....この状態でも周りが見える。どうなっちゃったんだ俺の目)
急な異常に原因を探るように思考を巡らせる。
その刹那____
バンッ!!!!
「おっじゃましまーす」
聞きなれない、妙に軽い声が響いた。
そちらに目を向けると、
そこにいたのは、異様に高い、壁と表現できるほどの長身の男性。
真っ黒な服。
首元まで隠れるハイネック。
白い髪がふわっと揺れて、光を反射する。
黒いサングラスが顔の上半分を覆っていて、
表情は読み取りづらいのに、
口元の笑みだけで“軽い人だ”と分かる。
だというのにその雰囲気は異様。
部屋に入った瞬間、空気が軽くなるような、張り詰めるような不思議な感覚
明らかに普通の人ではない、と直感で分かる。
「やぁ、調子はどう?」
今まで一度もあったことはない。前の人生合わせてもこんな知り合いはいない
____でも知っている。この人は...
(ごじょう、さとる...)
ありえない。
だってその人は"画面の向こう側"にいたはずで。
でも実際に、この人は俺の目の前に立っている...
(じゃあ......
まさかこの世界は____
___『呪術廻戦』の世界なの?)