生まれ変わった世界は   作:月影うみ

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28話

悟さんと別れ、俺はゆっくりと高専の廊下を歩き始めた。

 

(……さて。先輩たち、どうしてるかな)

 

半年ぶりの自由時間。

 

廊下の窓から差し込む午後の光が、やけに明るく感じる。

 

(多分、交流会に向けて特訓中だろうし……校庭の方だよね)

 

自然と足は外へ向かっていた。

 

階段を降り、中庭を横切り、校庭へ続く道へ出る。

その途中──ふと視界の端に、違和感が引っかかった。

 

「……あれ?」

 

校舎の一角。

見覚えのある建物の壁が、大きく抉れていた。

 

(……なんかあったのかな?)

 

俺が出張に行く前は、こんな壊れ方してなかったはずだ。

 

近づいてみると、そこそこに新しい損壊痕。

 

つい最近、誰かが派手にやらかした痕跡。

 

(特訓の一環……にしては、ちょっと派手すぎない?

後で先輩に聞こ...)

 

そんなことを考えながら校庭へ足を向ける。

 

校庭の入口が見えてきたところで──

遠くの方で、何かが宙を舞った。

 

「……え?」

 

よく見ると、それは短めの髪で、ジャージ姿の女の人だった。

細身なのに動きが鋭く、空中で体勢を立て直そうとしているのが分かる。

 

そのまま地面に向かって一直線。

 

そして、投げた張本人は──

 

(パンダだ...何やってるの?)

 

どう見てもパンダの姿をした存在が、

豪快に腕を振り抜いた直後だった。

 

(...え、いや....ほんとに何やってるの?)

 

地面に叩きつけられたジャージの女の人は、

砂埃の中からむくりと起き上がり、

遠目でも分かるくらいの勢いで怒鳴っている。

 

(……元気だなぁ、あの人)

 

そんなカオスな光景に目を奪われていたら──

視界の端で、白い髪がふわりと揺れた。

 

「あっ……」

 

校庭の端。

木陰に立ってこちらを見ているのは、

口元を布で覆った先輩。

 

(棘先輩だ……!)

 

「棘せんぱーい!!」

 

気づいたら、もう走り出していた。

 

校庭の入口から駆け出した俺に気づいたのか、

木陰に立っていた棘先輩が、わずかに目を見開いた。

 

そのまま、ほんの一拍置いて──

 

「しゃけ」

 

いつもより、少しトーンが高い気がする

 

「先輩、久しぶりです!」

 

勢いのまま近づくと、棘先輩は軽く手を上げて応える。

 

そのとき──

 

「お、うみだ!」

 

パンダの声が校庭に響いた。

 

見ると、さっきぶん投げられていたジャージの女の人が

砂埃を払いながら立ち上がっている

 

そのすぐ横で、パンダが何かを必死に説明している。

ジャージの女の人は、目をまん丸にして大げさに手を振っている。

 

---

 

side: パンダ

 

「お、うみだ!」

 

手を振りながら、校庭の端に駆けていく小柄な影を見て目を細めた。

 

(久しぶりだなぁ。あいつ帰ってきてたのか)

 

そう思った瞬間──

横からぐいっと引っ張られた。

 

「ねぇパンダ先輩!!」

 

「うおっ、なんだよ釘崎」

 

そっちを見ると、釘崎が目をキラッキラに輝かせながら腕をつかんでいた

 

「今の!あの白い子!!

誰!?めっちゃ可愛いんだけど!!」

 

「いや、だから落ち着けって。

あいつは──」

 

「狗巻先輩の彼女!?

そうでしょ!?絶対そうでしょ!!」

 

「違う違う違う!!」

 

とんでもないことを言い出す釘崎に全力で首を振る。

やめなさい。そういう人たちが立ち上がっちゃうでしょ。

 

「まず彼女じゃないし、

ていうか男だぞ、あいつ」

 

「……は?」

 

釘崎の動きが止まった。

 

「男?」

 

「男」

 

「……男ぉ!?」

 

釘崎は両手を広げて天を仰いだ。

 

「嘘でしょ!?どう見ても美少女じゃん!!

なんで男なのよ!!」

 

「知らんよ。生まれた時からそうなんだよ」

 

「納得いかない!!」

 

釘崎はその場でぐるぐる回り始める。

 

「ほら、行くぞ。自己紹介要るだろ?...変なことは言うなよ?」

 

「言わないってば!!……多分!!」

 

sideout

 

---

 

(なに話してるんだろ?パンダ楽しそう)

 

そんな二人のやり取りを横目に見ていると──

 

「……お前、帰ってきてたのか」

 

低い声がすぐ近くから聞こえた。

 

振り向くと、真希先輩と恵先輩がこちらへ歩いてきていた。

 

「真希先輩、恵先輩。お久しぶりです」

 

「久しぶり、で済ますもんじゃないだろ。

半年も顔見せなかったくせに」

 

真希先輩は腕を組んで、呆れたように眉を上げる。

 

「いやー……一ヶ月前には帰ってきてたんですけど、

新しい仕事頼まれちゃって」

 

「へぇ、一級は大変だな」

 

恵先輩が淡々と言った、その瞬間──

 

「……は?」

 

と声が聞こえてきたので、振り向くと、

パンダとジャージの人がすぐ近くまで来ていた

 

「今、アンタ"一級"って言った!?

ちょっと伏黒、それ本当!?」

 

恵先輩は少しだけ肩をすくめる。

 

「本当だよ。こいつは一級術師だ」

 

「うっそでしょ!?

どう見ても美少女なのに!!」

 

(……おお。悠二先輩と同じこと言ってる)

 

ジャージの人はさらに距離を詰めてきて、

ぐいっと顔を近づけてきた。

 

「ちょっとアンタ!名前は!?

ていうか本当に男なの!?」

 

「あ、えっと……月影うみです。

はい、男です」

 

「マジかぁぁぁ……!

世の中って不公平!!」

 

後ろでパンダが「だから言っただろ〜」と肩を揺らして笑っている。

 

真希先輩はため息をつき、

恵先輩は小さく首を振り、

棘先輩は「しゃけ」とだけ呟いた。

 

なんだか、帰ってきたなって感じがする光景だった。

 

---

 

ジャージの人はまだ俺の顔をじーっと見ていた。

距離が近い。というか近すぎる。

 

「……ねぇアンタ、本当に男なんだよね?」

 

「はい」

 

「……納得いかない!!」

 

頭を抱えてその場でぐるぐる回り始める。

真希先輩がため息をついた。

 

「おい、落ち着け。こいつはこうなんだよ」

 

「落ち着けるかぁ!!」

 

(……元気だなぁ、この人)

 

とりあえず、この人の名前が知りたい。とても不便

 

「あの……えっと、あなたは?」

 

ジャージの人はぴたりと動きを止め、

勢いよくこちらを指さした。

 

「私!? 私は釘崎野薔薇!!一年の紅一点よ!!」

 

(なるほど、こういう感じの人か。悠二先輩とか悟さんと相性よさそう)

 

「よろしくお願いします!野薔薇先輩!!」

 

釘崎は一瞬だけ固まった。

そのあと、にやりと口角を上げる。

 

「ふふん、分かってるじゃない。

そうよ、私は一年の紅一点にして──」

 

「うるせぇ、紅一点は事実だけど自分で言うな」

 

真希先輩が後頭部を軽くはたいた。

 

「いったぁ!?

ちょっと真希さん、今いい感じに自己紹介してたのに!!」

 

「いい感じじゃねぇよ。うるさいだけだ」

 

恵先輩はその横で小さくため息をつく。

 

「……騒がしいな」

 

野薔薇先輩は胸を張って俺の前に立ち、

改めて指を突きつけてきた。

 

「というわけで!

アンタ、今日から私の後輩だから!!」

 

「はい。よろしくお願いします!」

 

「よろしい!!」

 

(……元気だなぁ、本当に)

 

---

 

野薔薇先輩が「よろしい!!」と胸を張ったところで、

ようやく場の空気がひと段落ついた。

 

(……さて)

 

ふと思い出して、俺は校庭の方から見えていた建物のことを口にした。

 

「そういえば、向こうの建物が破損してたんですけど……

なにかあったんですか?」

 

その瞬間──

棘先輩、真希先輩、恵先輩、パンダ、野薔薇先輩の動きが、

ほんの一瞬だけ止まった。

 

「あー……」

 

最初に口を開いたのはパンダだった。

 

頭をかきながら、どこか気まずそうに笑う。

 

「実はさ、少し前に──

京都校の東堂が来たんだよ」

 

「……あぁ」

 

恵先輩が小さく頷く。

 

真希先輩は額を押さえた。

 

「あいつが、恵に絡んでな」

 

野薔薇先輩は両手を広げて叫ぶ

 

「そうよ!!

いきなり"どんな女がタイプだ"とか聞いてきてさ!!

意味わかんないのよアイツ!!」

 

「あぁ、恵先輩も"アレ"やったんですね」

 

どうやら、恵先輩もあの"試験"を受けたらしい

 

すると、野薔薇先輩の顔がビクッとこちらを向いた。

 

「え?ちょっと待って。

アンタもアレ聞かれたの!?

"どんな女がタイプだ"ってやつ!!」

 

勢いよく距離を詰めてくる。

近い。やっぱり近い。

 

「え、えっと……はい。聞かれました」

 

「で!?なんて答えたのよ!!」

 

(……やっぱり聞かれるよね)

 

俺は少し肩をすくめて答えた。

 

「考えたことなくて分からないので……

"分かってからでいいですか?"って、

先延ばしにしてもらいました」

 

野薔薇先輩は目をまん丸にして固まった。

 

「……は?」

 

真希先輩が吹き出しそうになりながら腕を組む。

 

「お前、それ東堂相手に言ったのかよ。

よく生きて帰ってきたな」

 

恵先輩も小さく頷く。

 

「……あの人、そういう答え嫌いそうなのに」

 

パンダは肩を揺らして笑った。

 

「いや〜、逆に気に入られたんだよなぁ、うみ。」

 

「なんか伸びしろがどうのって言われましたね」

 

俺がそう付け加えると野薔薇先輩が頭を抱えている

 

「伸びしろって何よ...?

性癖に伸びしろとか意味わかんないんだけど?」

 

大分混乱しているらしい

 

真希先輩は腕を組んで、呆れたように鼻で笑う。

 

「東堂の言う"伸びしろ"は性癖じゃねぇよ。

あいつの中の"男の器"みたいなやつだ」

 

「余計わかんない!!」

 

野薔薇先輩が叫んで、場がまた少し騒がしくなる。

 

パンダは肩を揺らして笑い、

恵先輩は静かに目をそらし、

棘先輩は「おかか」とだけ呟き、

野薔薇先輩はまだ頭を抱えている。

 

そんな空気の中──

 

真希先輩が、ふっと息を吐いて俺の方を見る。

 

「……で、これからお前どうすんの?」

 

その声は、さっきまでの騒がしさを一瞬で落ち着かせるような声

 

俺は姿勢を正して答える。

 

「少しの間だけ休暇をとって……

そのあとは、特訓のお手伝いでもしようかと」

 

真希先輩が片眉を上げる。

 

「特訓の手伝い?」

 

「はい。

葵先輩も一級ですし、

ちょうどいい仮想敵だと思いません?」

 

その瞬間──

 

真希先輩は「はっ」と笑い、

恵先輩はわずかに目を見開き、

パンダは「おー、いいじゃん!」と手を叩き、

棘先輩は小さく「しゃけ」と呟いた。

 

野薔薇先輩は、俺の言葉を聞いた瞬間、

バッと一歩前に出てきた。

 

「ちょ、ちょっと待って!

ちょうどいい仮想敵って、

あんた、どれくらい強いのよ!!」

 

俺は少しだけ考えてから、正直に答えた。

 

「葵先輩相手だと、最近ようやく……勝率が五分になったんですよね。

通算だと、まだ負け越しですけど」

 

「…………は?」

 

野薔薇先輩の目が、またまん丸になる。

 

真希先輩は、口の端を上げて笑った。

 

「へぇ。すげぇじゃん、お前」

 

恵先輩も、わずかに目を見開いて俺を見る。

 

「あれ相手に五分か....ほんと強いんだな」

 

パンダは嬉しそうに手を叩いた。

 

「やっぱり強くなってるよな〜、うみ!」

 

棘先輩は小さく「しゃけ」と呟く。

 

野薔薇先輩はというと──

 

「……ちょっと待って。

アンタ、あの筋肉ゴリラと五分って……

それもう一年の領域じゃないでしょ……?」

 

その言葉に、俺は首をかしげた。

 

「え?

俺、一年じゃないですよ?」

 

「……はぁ?」

 

野薔薇先輩が眉をひそめる。

 

「だってあんた、真希さんたちのこと"先輩"って呼んでるじゃない」

 

「呼んでますよ?

だって俺、今中三ですし。

野薔薇先輩と恵先輩のことも"先輩"って呼んでるじゃないですか」

 

一瞬、空気が止まった。

 

野薔薇先輩は「は?」と素で声を漏らし、

パンダは「そういえばそうだったな」と頷いている。

 

そして──

 

「ちょ、ちょっと待って!!」

 

野薔薇先輩が叫んだ。

 

「中三!?

中三で一級で、東堂と五分で、

しかもその顔で男!?

どういう人生送ったらそうなるのよ!!」

 

(……なんか怒られてる?)

 

棘先輩は小さく「しゃけ」と呟き、

真希先輩はため息をつきながら俺の肩を軽く叩いた。

 

「……まぁ、うみはうみだろ。

変に考えるだけ無駄だ」

 

野薔薇先輩はまだ混乱していたが、

その横でパンダが楽しそうに笑っていた。

 

「ほら釘崎、うみはこういうやつなんだよ

びっくり箱と一緒だ。すぐ慣れるって」

 

「慣れたくないわよ!!」

 

(……賑やかだなぁ)

 

---

 

野薔薇先輩の心からの叫びの後、

一回だけ、俺を仮想敵にした訓練した

 

校庭の真ん中には、砂埃と、五人分の疲労と、俺の息切れが残っていた。

 

「……いや〜……さすがに五対一はしんどいですねぇ……」

 

俺がその場に腰を下ろすと、真希先輩が竹刀を肩に担ぎながら鼻で笑った。

 

「当たり前だろ。こっちは連携してんだよ」

 

パンダは大の字になって寝転びながら手を振る。

 

「でもさ〜、うみ。

途中から普通に俺らの動き読んでたよな?

あれ地味に怖かったぞ?」

 

棘先輩は木陰に戻りながら、ぽつりと一言。

 

「ツナマヨ」

 

(……褒めてくれてるのかな?)

 

恵先輩は汗を拭きながら、俺を横目で見る。

 

「……確かに。

途中から、こっちの術式のタイミングずらされてた」

 

野薔薇先輩はというと──

 

「ちょ、ちょっと待って!

あんた、なんでそんな余裕そうなのよ!!

こっちは全力でやってたんだけど!?」

 

俺は苦笑しながら肩をすくめた。

 

「いやいや、余裕じゃないですよ。

特に棘先輩がいるって情報があるだけで、

術式だけに集中ってわけにはいかなくなりますし」

 

棘先輩は小さく「しゃけ」と呟いた。

 

真希先輩が腕を組んで俺を見る。

 

「でもまぁ……

東堂と五分ってのは伊達じゃねぇな。

動きが完全に"上"のそれだった」

 

パンダも頷く。

 

「だよな〜。

うみ、前より読みが鋭くなってるし、

なんか"間"の取り方が東堂っぽくなってたぞ?」

 

「……あぁ、それはあるかもです」

 

俺は立ち上がりながら、軽く伸びをした。

 

「葵先輩相手には、

大分"学習"できましたからね」

 

その瞬間──

 

野薔薇先輩がビシッと俺を指さした。

 

「学習って何よ!!

あの筋肉ゴリラから何を学ぶのよ!!」

 

俺は少し考えてから答えた。

 

「俺の体質の話になるんですけど、学習能力がとても高いんです」

 

野薔薇先輩が、またもや勢いよく食いついてきた。

 

「……体質〜? なにそれ。

あんた、さらっと意味わかんないこと言わないでよ」

 

真希先輩も片眉を上げる。

 

「それはあたしらも知らねえな」

 

恵先輩は腕を組んだまま、じっと俺を見る。

 

「……学習能力が高いって、どういう意味だ」

 

パンダは寝転んだまま手をひらひらさせる。

 

「うみのことだから、またなんか変な秘密あるんだろ〜?」

 

棘先輩は木陰からひょこっと顔を出し、

 

「すじこ」

 

とだけ呟いた。

 

俺は軽く息を整えて、みんなの視線を受け止めた。

 

「えっと……これを説明するには、

まず人間の記憶について説明しないといけないんですけど」

 

野薔薇先輩が、すかさず手を挙げて叫ぶ。

 

「ちょっと待って!

なんで記憶の授業みたいな入り方してんのよ!!」

 

俺は苦笑しながら続けた。

 

「そのほうが分かりやすいんですよ。そんなに難しくはなりませんから」

 

そう言うと、一応納得してくれたようなので、一息ついて進める

 

「簡単に人間の記憶についてまとめると、

人間ってその日に経験したことの記憶を夜、寝ている間に整理・定着しているんです」

 

周りを見渡すと、みんなここまでは大丈夫そう

 

「で、俺の場合はその機能が人より少し極端らしいんです」

 

「極端?」

野薔薇先輩が腕を組んで身を乗り出す。

 

俺は軽く頷いた。

 

「はい。普通の人は訓練とか勉強を繰り返して、

寝ている間にその日の経験を整理して、必要な情報を"記憶"として、

毎日ちょっとずついろいろなことを覚えていくんです」

 

真希先輩が顎を引く。

 

「まぁ、それは分かる。人間の仕組みだな」

 

「俺の場合は、『ひと眠り』で学んだことを、

『ほぼ100%』自分の経験に反映してるんです」

 

「…………は?」

野薔薇先輩の口が、ぽかんと開いた。

 

真希先輩は目を細める。

 

「そりゃ...やべえな」

 

恵先輩は静かに息を吸い、

「……だから東堂の動きが短期間で再現できたのか」

と納得したように呟く。

 

パンダは腹を抱えて笑い出した。

 

「そりゃ強くなるわ!!」

 

棘先輩は木陰から小さく、

 

「しゃけ」

 

「まぁ、そんなわけなので、

俺相手だと、戦えば戦っただけ不利になるんですよ。

俺が手の内を覚えちゃうんで」

 

野薔薇先輩は両手を天に向けて叫んだ。

 

「なんでそんなチート能力持ってんのよ!!

中三で一級で、東堂と五分で、顔は美少女で、

しかも寝たら全部覚えるって……

もう意味わかんない!!」

 

真希先輩は肩をすくめる。

 

「だから言ったろ。

うみはうみだって。考えるだけ無駄だ」

 

パンダは楽しそうに笑い、

 

「まぁでも、頼もしいよな〜。

交流会の仮想敵としては最高じゃん」

 

恵先輩も静かに頷く。

 

「……確かに。

これなら、いい訓練になる」

 

棘先輩は木陰から一歩出てきて、

俺の肩を軽く叩きながら一言。

 

「しゃけ」

 

「それより、俺は野薔薇先輩の術式とか、

恵先輩が影から呪具を取り出したほうが気になります」

 

野薔薇先輩は、俺の言葉にぴたりと動きを止めた。

 

「……は?

なんで急に術式の話?」

 

「いや、単純に気になってて。

野薔薇先輩の術式は当然見るの初めてだったし、

恵先輩は、俺が出張出る前にはなかったやつじゃないですか」

 

恵先輩は、俺の言葉にわずかに眉を動かした。

 

「……あぁ、それか。

最近になって使えるようになったんだよ」

 

淡々とした声。

でも、ほんの少しだけ気まずそうに視線をそらす。

 

「交流会に向けて特訓してて、

呪具の持ち歩きに困って……色々試してるうちに、

影の"中"にしまうのが安定してきた」

 

真希先輩が鼻で笑う。

 

「こいつ、影に呪具突っ込んでは落として、

影の中でガチャガチャ音させてたからな。

最近ようやく形になったんだよ」

 

パンダが手を挙げる。

 

「最初は呪具の半分だけ影に沈んで止まってたんだよな〜。

あれ、地味に怖かったぞ?」

 

恵先輩は少しだけ肩をすくめた。

 

「……うるさいです。

とにかく、"最近"使えるようになっただけだ」

 

野薔薇先輩は腕を組んで頷く。

 

「便利よね、あれ。

私も欲しいわよ影の倉庫」

 

棘先輩は小さく「しゃけ」と呟いた。

 

「そっか。

十種"影法術"だもんなぁ……

こういう応用ができてもおかしくないのか」

 

式神を呼び出す術式にしか思ってなかった。

根っこはそっちの方なんだ

 

(……イメージが膨らむなぁ)

 

「便利ですね。

これ、真似っこしてもいいですか?」

 

「別にいい」

 

恵先輩は短く答える。

 

「ありがとうございます!」

 

野薔薇先輩は両手を広げて叫ぶ。

 

「ちょっと待って!!

影の倉庫を真似するって何よ!?

なんでそんな当然みたいに言ってんのよアンタ!!」

 

---

少年説明中...

---

 

野薔薇先輩は、俺の説明を聞きながら腕を組み、

「ふんふん」と頷いたり、

「はぁぁ?」と眉をひそめたり、

忙しなく表情を変えていた。

 

「つまり?アンタは術式を"理解"できたら自分のものにできるってわけ?」

 

「いろいろ細かいところがありますけど、

すっごくすっごく簡単に言えばそういうことです」

 

野薔薇先輩は腕を組んだまま、じろっと俺を睨む。

 

「何それ!?体質も相まってぶっ壊れじゃない!!」

 

術式理解したらコピーできるとか、聞いたことないんだけど!!」

 

「いやいや、そんな万能じゃないですよ。

コピーしても結局は俺の技術依存ですし……」

 

と言いかけたところで、

 

「で、今まで何コピーしたのよ!!」

 

ぐいっと顔を近づけてくる。近い。やっぱり近い。

 

「えっと...恵先輩の十種と、加茂家の赤血操術、葵先輩の"アレ"、

あとは、悟さんの無下限とかですかね」

 

「ちょっと待って、ちょっと待って!!」

 

野薔薇先輩は俺の肩を掴んで揺さぶってくる。

 

「アンタ、十種も赤血も無下限も使えるって……

それもう"術式ガチャSSR全部持ってます"みたいな状態じゃん!!

なんでそんなことになってんのよ!!」

 

「いやいや、そんな万能じゃないですよ。

どれも"俺の技術"で扱える範囲だけですし……

無下限なんて難しすぎて、瞬間的な防御にしか使えないですし

悟さんの足元にも及ばないです」

 

「当たり前でしょ!!

及ばれたら困るわよ!!」

 

真希先輩が肩をすくめる。

 

「でもまぁ……

うみの"理解したらコピー2って体質と相性はいいんだろうな」

 

恵先輩も頷く。

 

「……理屈は分からないけど、現実として成立してるのが怖い」

 

パンダは手を叩いて笑う。

 

「いや〜〜〜、釘崎の反応が一番面白いわ〜〜〜!」

 

野薔薇先輩はまだ混乱していたが、

ふと俺がじっと彼女の手元を見ていることに気づいた。

 

「……な、なによ?」

 

「いや、野薔薇先輩の術式……

すごくかっこよかったので」

 

「…………は?」

 

一瞬、野薔薇先輩の動きが止まる。

 

「釘を打ち込む動きも、呪力の乗せ方も……

すごく綺麗で、見惚れました」

 

野薔薇先輩の耳が、ほんのり赤くなる。

 

「ちょ、ちょっと……

何よ急に……

かっこいいって……本気で言ってんの?」

 

「はい。

あれ、めちゃくちゃかっこいいです」

 

野薔薇先輩は顔を覆って叫んだ。

 

「いやいやいや!!

芻霊呪法なんて"悪趣味"って言われる術式よ!?

なんでそんなキラキラした目で褒めてんのよアンタ!!」

 

「藁人形に釘!

呪術といえばで一番にイメージできる王道呪術じゃないですか!

とってもロマンがあります!!」

 

「ロマン!? 芻霊呪法に!?

アンタ正気!?」

 

「はい。

呪力の伝達効率も高いし、術式構造も美しいし……

なにより"釘を打つ瞬間"のあの迫力、最高です」

 

野薔薇先輩は頭を抱えながら、地団駄を踏む。

 

「ちょっと待って!!

なんでそんな真面目に褒めてんのよ!!

悪趣味って言われる術式なのよ!?

藁人形に釘よ!?

普通引くでしょ!!」

 

「引きませんよ。

むしろ"呪術師って感じだ……"て感動しました」

 

「やめて!!

そんな純粋な目で見ないで!!

こっちが恥ずかしくなるじゃない!!」

 

パンダがゲラゲラ笑い、

真希先輩は「お前ほんと変なとこ真っ直ぐだな」と呆れ、

恵先輩は「……まぁ、釘崎の術式は強いしな」と小さくフォローし、

棘先輩は「しゃけ」とだけ呟いた。

 

野薔薇先輩は顔を真っ赤にしながら俺を指さす。

 

「アンタ!!

もうちょっとこう……!

普通の反応しなさいよ!!

なんで芻霊呪法で照れさせられてんのよ私!!」

 

俺は首をかしげる。

 

「え?

だって本当にかっこよかったので」

 

「うるさぁぁぁい!!」

 

校庭に野薔薇先輩の叫びが響いた。

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