時は流れて──交流会の朝。
ここ一週間ほどで、みんないい感じに仕上がったと思う。
今の状態だと、葵先輩の相手がきつそうだなぁと思わんでもないけど...
まあ、そこは今日やっと合流であろう悠二先輩の成長に期待で
(そういえば、いつから合流なんだろ?朝、それとも開始直前?)
そんなことを考えながら、高専の入り口に向かうと、
野薔薇先輩以外はもうそろっていた
「おはようございます。みんな早いですね」
真希先輩が腕を組んだまま、軽く顎を上げる。
「別にそうでもないだろ」
恵先輩は静かに頷き、棘先輩は「しゃけ」とだけ返す。
パンダは手を振ってくれた。
校門の前には、朝の冷たい空気と、どこか張り詰めた気配。
遠くから聞こえる鳥の声が、逆に静けさを強調している。
「な、なんでみんな手ぶらなのー!?」
少し待っていると、大荷物を抱えた野薔薇先輩がやってきた
(すっごい荷物...もしや京都行くつもりだった?)
そう思っているとパンダが聞いてくれた
「お前こそ、なんだその荷物は」
「え、何って...これから京都でしょ?」
(ああ、やっぱり)
「?」
みんなは頭に疑問符を浮かべている
「だって、京都"で"姉妹校交流会って....」
「京都 "の" 姉妹校 "と" 交流会だ。東京で」
それを聞いた野薔薇先輩の絶叫が響く
「うそでしょ~!?」
真希先輩があきれたようにため息をついている
「どうりで最近会話が噛み合わないわけだ」
「ですね」「しゃけ」
恵先輩も棘先輩も短く同意する
「あはは...去年は憂太先輩が勝っちゃいましたからね
前年に勝ったほうのホームでやるんです」
「あぁ、うみは京都に行ってたんだったか。どうだったんだ?」
真希先輩が片眉を上げて聞いてくる。
「圧勝...どころじゃないですね。ワンサイドゲームでした」
そう答えると、恵先輩が僅かに目を細めた。
「確かに乙骨先輩は強いと思うけど、そんなにだったのか?」
「あー。恵先輩が知ってる憂太先輩って、当時よりも弱体化してるんです。
まあ、それでも強いんですけど。去年の憂太先輩は倍どころじゃないですよ?」
「マジか....」
パンダは腕を組んで、しみじみと頷く。
「憂太はほんと強いからなぁ。ま、今年はいないけど」
「許さんぞ乙骨憂太ー!!」
野薔薇先輩はまだ見ぬ憂太先輩に怒りをぶつけている
「おい」
場を引き締めるように真希先輩の声が響く
「来たぜ」
全員が視線を向けると、こちらに歩いてくる面々が見えた
「あらお出迎え?気色悪い」
真依先輩の毒舌が、朝の空気を一気に刺々しくする。
(あはは...前途多難だなぁ。ひとまず空気をどうにかしないと)
「先輩方!おはようございます!!」
俺が声を張った瞬間──
京都組の視線が一斉にこちらへ向いた。
その中で、真依先輩がふっと目を細める。
「……あら、うみ。おはよ」
先程までのとげとげしい雰囲気は鳴りを潜めた
(よかった。ほんとによかった...)
桃先輩はというと──
もう、にこにこが止まらない。
「うみくん〜!今日も可愛い〜!」
(……朝から全開だなぁ)
憲紀先輩は静かに頷き、
メカ丸先輩は淡々と「……問題なし」とだけ言う。
そして──
霞先輩。
視線が合った瞬間、
びくっと肩を震わせて、
それから、そっと近づいてくる。
「……お、おはよう……うみくん……」
「はい、おはようございます。霞先輩」
視界の端で、パンダと野薔薇先輩が話している。
あの二人、内緒話多いよね。今日は珍しく棘先輩も混ざってるっぽいけど
「ねぇパンダ先輩。あれ、どう見ても付き合ってない?」
「いや、三輪は知らんけど……うみは誰にでもあんな感じだろ」
「は?あれが"誰にでも"だったら世の中終わりでしょ」
「しゃけ」
そんな小声のやり取りをよそに、
真依先輩が霞の背中を軽く押した。
「ほら三輪。ちゃんと挨拶しなさい。久しぶりなんだから」
「う、うん……!」
霞先輩は真依先輩に背中を押され、
さらに一歩近づいてくる。
「よ、よろしくね……今日も……!」
「はい。こちらこそ、霞先輩」
霞先輩は一瞬で真っ赤になり、
桃先輩はその場で悶えた。
「はぁぁ……尊い……!」
真依先輩が桃の頭を軽く叩く。
「桃、落ち着きなさい。
朝から騒ぐと、うみが困るでしょ」
「え〜〜〜〜〜〜」
(……ほんとにお姉ちゃんだなぁ)
そんな空気の中──
地響きのような足音が近づいてきた。
「おいおいおいおいおい……!」
(……来た)
葵先輩が、憲紀先輩を押しのける勢いで前に出てくる。
「月影!!俺への挨拶が一番最後とはどういうことだぁ!」
「おはようございます。葵先輩
そりゃあ、葵先輩は主役ですから。最後が一番映えますよ?」
「ふっ……!そうだろう!!」
(……ちょろい)
葵先輩は満足げに腕を組んだあと──
ぐっと俺の肩を掴んだ。
「月影……!
俺たちが出会ってから、もう一年以上……!」
「そうですね。早いものです」
「お前も成長した。
俺も成長した。
ならば──!」
拳を胸に当て、叫ぶ。
「再度問おう!!
月影!!
どんな女がタイプだ!!」
その瞬間。
霞先輩の肩が、びくっ!!と跳ねた。
桃先輩は「きたぁぁぁ!!」と叫び、
真依先輩は額に手を当て、
加茂先輩はため息をつき、
メカ丸先輩は「……またか」と呟き、
野薔薇先輩はニヤニヤし、
パンダは腕を組んで見守り、
恵先輩は心配そうにこちらを眺めている
葵先輩はさらに俺の肩を揺さぶりながら叫ぶ。
「答えろ月影!!
男は理想を語ってこそ男だ!!
一年経った今!!
お前の答えはどう変わった!!?」
(さて、どうしたもんか...
もう先延ばしは通じないだろうし、普通に答えるしかないか)
「んー。そーですね~
髪の綺麗な女性、とかですかね」
一瞬。
空気が止まった。
霞先輩は「……っ!」と息を呑み、
桃先輩はその場で跳ね、
野薔薇先輩はニヤァァと笑い、
真依先輩は「ふーん」とだけ呟き、
恵先輩は「……なるほど」と目を細め、
パンダは「お、無難に来たな」と腕を組み、
棘先輩は「しゃけ」とだけ言った。
そして──
葵先輩は。
「…………」
肩を震わせた。
(え、怒った?いや違う、これは──)
次の瞬間。
「ブラボォォォォォォ!!!!」
校門前に響き渡る大喝采。
「月影!!
お前……!!
ついに"自分の美学"を語ったな!!」
俺の肩をガシィッと掴み、
揺さぶりながら叫ぶ。
「"髪の綺麗さ"!!
それは外見的特徴でありながら、
その人間の生き方や品性すら映し出す!!」
(そんな深い意味あったんだ……)
「つまりお前は!!
"表面的な派手さ"ではなく!!
"日々の積み重ねが生む美"を尊ぶ男!!」
(月影くんって人そこまで考えてないとうみくんは思うな)
葵先輩は拳を握りしめ、天を仰ぐ。
「一年……!!
俺たちが出会ってから一年……!!
月影…いや、うみ!!
…お前は……」
涙ぐんでいる。
「立派な男になった……!!」
(なんかよくわからないけど、俺は生き残れたらしい)
東堂葵の試練を乗り切ったうみは、
安堵に満たされ、東堂の感動を一身に受けている
――故に、その背後の騒ぎに気付かない
校門前では、まるで別の戦場のように反応が割れていた。
まず、京都組。
西宮桃は両手を口元に当てて、
「っっっっ……!」と声にならない悲鳴を上げて跳ねていた。
目は完全に"尊いもの"を見る目になっている。
禪院真依は腕を組んだまま、
「……ふーん。なるほどね」
とだけ呟き、どこか"お姉ちゃんの顔"で妹分を横目に見ていた。
三輪霞は耳まで真っ赤になり、視線が泳ぎ、
「……っ……っ……」と口をぱくぱくさせて固まっていた。
加茂憲紀は眉をひそめ、
「……三輪、落ち着け。呼吸しろ」
と小声で声をかけている。
究極メカ丸は淡々と、
「……心拍数上昇。三輪、限界値に近い」
と分析していた。
そして、東京組。
釘崎野薔薇はニヤァァと笑い、
パンダの脇腹を肘でつつく。
「ねぇ見た?今の。完全に狙ってるでしょアレ」
それに対し、パンダは腕を組んだまま、
「いや、あれ天然だぞ」と苦笑していた。
伏黒恵はほんの少しだけ目を細め、
霞の方へ視線を向ける。
その反応を見て、何かを理解したように小さく頷いた。
「なるほど...でもあいつ気づいてねえだろ」
狗巻棘は伏黒のつぶやきに短く
「しゃけ」と同意した
禪院真希は
「あいつもそういうこと言えんだな」
と少し感心した様子である
そして、当の本人はというと――
「本当に!...本当に立派な男になった....!!!」
(ああ、目が回ってきたなぁ)
東堂に揺さぶられてノックアウト寸前であった
東堂が「立派な男になったァァァ!!」と泣き叫び、
うみが揺さぶられて視界がぐるぐるしている、その少し後ろ。
歌姫が、腕を組んでその光景を見ていた。
「……はぁ。朝から何やってんのよ、あのバカ」
まず東堂に対してため息。
だが次の瞬間、うみの言葉を思い返したのか、
ほんの一瞬だけ目を細める。
「髪の綺麗な女性、ねぇ……」
その呟きは、誰にも届かないほど小さい。
横にいた真希がちらっと歌姫を見る。
「先生、なんか言った?」
「別に。……ただ」
歌姫は視線をうみと霞に向ける。
霞は耳まで真っ赤で、
桃は悶絶し、
真依は「ふーん」と意味深に笑い、
野薔薇はニヤニヤし、
恵は静かに状況を理解し、
パンダは苦笑し、
棘は「しゃけ」とだけ呟く。
その"全員の反応"を一瞥して、歌姫は小さく肩をすくめた。
「すごいことになってるわね」
その声は、呆れ半分、面白がり半分。
そして──
東堂に揺さぶられ続けているうみを見て、
歌姫は額に手を当てた。
「……あーあ。あれ絶対あとで首痛めるやつじゃない」
真希が苦笑する。
「先生、止めなくていいんですか?」
「止めたら私が巻き込まれるでしょ。やるならあんたがやりなさい」
「いや無理ですけど」
歌姫は小さく息を吐いた。
「……ま、いいわ。それで!"あの馬鹿"は?」
その声にパンダ・真希が答える
「悟は遅刻だ」「
あまりに辛辣な発言に伏黒がボソッと突っ込みを入れる
「誰もバカが五条先生のこととは言ってませんよ」
歌姫は肩をすくめた。
「……まあ、どうせそのうち派手に現れるでしょ。あの男は」
そう言った瞬間──
東堂の揺さぶりが、ぴたりと止まった。
「……っ、あれ?」
急に世界が静止したように感じて、
うみはようやく自分の足で立ち直る。
視界がゆっくりと戻っていく。
東堂は、涙を拭いながら満足げに頷いていた。
「よし……!うみ!
お前の"美学"は確かに受け取った……!」
(やっと終わった...
もう少しで意識まで持ってかれるとこだった)
ようやく解放された肩を軽く回しながら、
うみは深く息を吐いた。
その間に背後で何が起きていたのかなど、まったく知らないまま。
周囲を見渡すと──
なぜかみんなの視線が微妙に逸れている。
恵先輩は咳払いし、
野薔薇先輩はニヤニヤし、
パンダはなぜか親指を立て、
棘先輩は「しゃけ」とだけ呟き、
真希先輩は「……まあ、いいんじゃね」と視線をそらし、
真依先輩は妹分の肩を支え、
桃先輩は顔を真っ赤にして悶え、
霞先輩は──
なぜか固まっていた。
「?」
(みんなどうしたんだろ)
うみが首を傾げたその時。
「おまたー!!」
空気をぶち壊すような明るい声が響いた。
(....?なんでキャリーカート?)
五条悟が、
遅刻したとは思えない爽やかさで、
キャリーカートを押してやってきた
白い髪が朝日に反射して、
なんかもう"主役感"だけはやたら強い。
キャリーカートを再度見やると、中からすごく覚えのある呪力が。
(ああ、そういう...すごく滑りそう。
下手したら先輩の命がない)
悟さんはそんな俺の心配など一切気にせず、
芝居がかった口調で語りだした
「やぁやぁ、皆さんお揃いで
私、出張で海外に行ってましてね」
「なんか、急に語りだしたぞ」
「はい、お土産。京都の皆にはとある部族のお守りを
あ、歌姫のはないよ」
「いらないわよ!!」
くるっと反転してこちらを向くと、
さらにテンションを上げていく
「そして東京都の皆にはコチラ!!」
「ハイテンションな大人って不気味ね...」
勢いよく蓋が開き、その中身が姿を現す
「故人の虎杖悠二君でぇーっす!!」
「はい!!おっぱっぴー!!」
――瞬間、空気が凍った
(わぁ……恵先輩たち、すっごい顔してる……
京都の先輩たちはお土産に夢中だし……)
なんなら、一番反応を示しているのは楽巖寺学長である
予想通りというかなんというか、
といった状況に現実逃避していると、
悠二先輩が恵先輩と野薔薇先輩に詰められている
(悠二先輩...安らかに)
とりあえず、骨くらいは拾います
その後は、正道さんから競技の説明が、
東京側は悟さんから、悠二先輩のことについて説明があり、
開始時刻まで解散となった。