解散になったとはいえ、校庭の空気は落ち着く気配がなかった。
悠二先輩は、野薔薇先輩に代わった恵先輩に詰められているし、
その野薔薇先輩は京都校相手に「東京ナメんなよ?」と謎の圧をかけてる。
そして俺の隣では、葵先輩が俺の肩をポンポン叩きながら、
「交流会後に語り合おうな!」と満面の笑み。
(この人はどうせ止まらない。あきらめよう
...今回はどれくらいで解放されるかな?
今日中に解放されるといいな)
そんなことを考えていると──
「うみくん」
背後から、控えめな声。
振り返ると、霞先輩が両手を胸の前でぎゅっと握りしめて立っていた。
さっきより顔が赤い。いや、赤いというより……煮えてる?
「霞先輩?どうしたんですか?」
「さ、さっきの……その……"髪の綺麗な女性"って……」
(それ引っ張るんだ...
霞先輩もこういう話は興味あるんだなぁ)
霞先輩はもじもじしながら、視線を泳がせて──
ちらっと自分の髪を触った。
「わ、わたし……ちゃんと、手入れ……してるから……!」
「えっ、あ、はい。すごく綺麗だと思いますよ?」
言った瞬間。
霞先輩は固まった。
次の瞬間、耳まで真っ赤になって、ぷしゅーっと湯気が出そうな勢いで俯いた。
「~~~~っ!!」
(……え、なに...どうしたの?
なんか変なこと言ったかなぁ)
すると横から桃先輩が飛んできた
「うみくんのばかぁぁぁ!!
霞が溶けちゃうでしょぉぉぉ!!」
「わっ!急に何ですか桃先輩。
びっくりするじゃないですか」
「びっくりするのはこっちよ!!
あんなこと真正面から言って!霞は三日は再起不能よ!!」
(そんな馬鹿な...)
横で真依先輩が額を押さえている。
「桃、落ち着きなさい。
三輪が蒸発する前に冷やすわよ」
「だってぇぇぇ!!」
真依先輩はため息をつきつつ、霞の肩を支えた。
霞先輩はというと──
「~~~~~~っ……!」
完全にフリーズしていた。
顔は真っ赤、耳まで真っ赤、首元まで真っ赤。
湯気が見える気がする。
(……ほんとに溶けそう。なんで?)
「……おい、月影」
恵先輩が横からぼそっと言う。
「はい?」
「お前……自覚ないだろ」
「え、何がですか?」
「……いや、もういい」
恵先輩は視線を逸らした。
その耳も、ほんのり赤い。
(なんで恵先輩まで赤いの!?)
野薔薇先輩はニヤニヤしながら肘でパンダをつつく。
「ねぇパンダ見た?あれ。
あれはもう……落ちてるよねぇ?」
「いや、うみは天然だからなぁ……
あれで狙ってないのが逆にタチ悪いぞ」
「しゃけ」
(???)
――──月影うみは、本気でわかっていなかった。
四歳の頃から呪術師として育てられ、
呪霊、術式、任務、訓練──
彼の人生は“危険”と“責任”が中心だった。
誰かに褒められて照れる、
誰かの言葉に動揺する、
誰かの仕草に意味がある──
そんな“青春の機微”とは、ほとんど無縁のまま成長してきた。
だから。
霞が顔を真っ赤にして固まっても、
桃が地面を転げ回って悶えても、
真依がため息をつきながら妹分を支えても、
恵が視線を逸らして耳を赤くしても、
野薔薇がニヤニヤし、
棘が“しゃけ”で全てを語っても──
うみだけが、その理由を理解できない。
彼にとって"髪が綺麗"と言うのは、
ただの事実確認であり、
ただの素直な感想でしかない
しかし周囲にとっては──
それは"直球の好意"に聞こえる。
そのギャップが、今この校庭の混沌を生んでいた。
(……なんなの?ほんとに。
そんな騒ぐようなことあったかなぁ)
桃先輩はまだ俺の肩を揺さぶっている。
「うみくんはねぇ!!
もうちょっと自覚しなさぁぁい!!」
「えぇ……?何をですか……?」
真依先輩はため息をつきながら言った。
「……あんた、ほんとに気づいてないのね」
「え、だから何を……?」
「……まあいいわ。
三輪が復活するまで、あんたはあっち行ってなさい」
「えぇ……?」
(ほんとに、なんで?)
俺の疑問は深まるばかりだった。
その時──
「うみー?」
背後から、やけに軽い声が降ってきた。
振り返ると、悟さんが片手をひらひら振りながら近づいてくる。
「ちょっと時間もらえる?
交流会の直前で悪いんだけどさぁ」
いつも通りの軽い感じだったが、いつになく真剣な様子が視える
(……何かあったのかな?)
「……分かりました」
悟さんは満足げに頷くと、
周囲の騒ぎを完全に無視して俺の肩を軽く押した。
「じゃ、ちょっとこっちね。
すぐ終わるから」
「え、あ、はい」
---
悟さんに連れられてきたのは応接室のうちの一室
中に入ると歌姫さんがいた。
「歌姫さんも呼ばれてたんですね」
「えぇ。
それで、うみくんまで呼んで話すことって何?」
歌姫さんは腕を組んだまま、悟さんを睨んでいた。
悟さんは湯呑みを置き、軽く息を吐いた。
「さて。
交流会の前に、ちょっと確認したいことがあってね」
歌姫さんが眉をひそめる。
「……あんたが"確認"なんて珍しいじゃない」
「そう?僕、いつも慎重だよ?」
「どの口が言うのよ」
(いや、ほんとにどの口が……)
悟さんは笑いながらも、
その目だけは笑っていなかった。
「歌姫。
京都側の動き、最近どう?」
歌姫さんは一瞬だけ目を細めた。
「……なにそれ。わざわざ聞くことだと思えないんだけど」
悟さんの視線が、歌姫さんへ。
歌姫さんの視線が、悟さんへ。
「別に、何がどうってのはないわよ
いつも通りってところよ」
悟さんは湯呑みを指で軽く弾き、
「ふーん」と短く返した。
歌姫さんが眉をひそめる。
「……なによ、その顔。
わざわざこんなこと聞いて、何になるわけ?」
悟さんは声音を落とし、より一層新権にその事実を告げた
「高専の中に呪詛師…あるいは呪霊と通じている奴がいる」
空気が、ぴたりと止まった。
歌姫さんの表情が一瞬で険しくなる。
「……は?
ちょっと待ちなさいよ五条!
呪詛師ならまだしも呪霊となんて、
そんなの、あり得ないでしょ!!」
悟さんは肩をすくめた。
「あり得ないなら、それでいいんだけどね。
ただ、最近そういうレベルの奴がゴロゴロ出てきてる」
その言葉に一月前のことを思い出す
「....あの湖畔の特級と何か関係が?」
「さすが。話が早いね。
それに加えて、もう一体。
悠二の出てた任務の方にも新しいのが出たらしい」
「あのレベルのがもう一体って...」
「まあそんなわけで、歌姫には京都側の調査を頼みたい」
悟さんの言葉に、歌姫さんはしばし沈黙した。
そして、ゆっくりと腕を組み直し──
「……で?
もし私が内通者だったらどうすんのよ」
その声は怒りというより、呆れと皮肉が混じっていた。
悟さんは、まるで当然のように肩をすくめる。
「歌姫弱いし、そんな度胸ないでしょ」
「はぁ!?あんたねぇ!!」
「こっわ。ヒスはモテないよ?」
悟さんが軽く笑いながら言った瞬間──
「私の!方が!先輩なんだよ!!」
歌姫さんの怒号が応接室に響いた。
「お、落ち着いてください歌姫さん!
その、歌姫さんのこと信用してるからこそ、
こういう話を任せてるんだと思います」
歌姫さんはピタッと動きを止めた。
悟さんは「ほらね?」と言わんばかりに肩をすくめる。
「そうそう。
僕が本当に疑ってる相手に、こんな話しないでしょ。
歌姫は"味方側"の人間だよ」
歌姫さんはしばらく睨んでいたが──
ふいっと視線を逸らし、ため息をついた。
「……あんたに言われても嬉しくないけどね」
悟さんは湯呑みを置き、俺の方へ向き直る。
「で、うみ。
ここまでの話で何か質問ある?」
俺は一度息を整えてから、核心を突いた。
「……それで?
俺を呼んだ理由は"東京側の調査"ってことですか?」
悟さんはニッと笑った。
「正解。頼める?
うみなら余裕でしょ?」
「はあ...分かりました。
みんないい人なんでやりたくないですけど
あ、悠二先輩と憂太先輩は除外でいいですよね?」
(悠二先輩は呪術と関わって日が浅いし、憂太先輩は海外だ)
悟さんは即答した。
「当たり前でしょ。あの二人は"絶対に白"」
「まあ、五条が自分で拾ってきた子だしね
うみくんを呼んだのもそういう感じでしょ?」
「まあね」
悟さんは立ち上がり、軽く伸びをした。
「さて。
そろそろ時間だし、移動しよっか。
交流会、始まっちゃうし」
---
三人で廊下を歩く。
校庭の喧騒が遠ざかり、
代わりに交流会の準備音が近づいてくる。
着いた部屋の扉を開けると――
大きなモニター、通信機器、そして観戦用の席が並んでいた。
中にはすでに正道さん、楽巖寺学長、冥冥さんがいて、
その視線がこちらへ向いていた
「遅いぞ、お前たち」
正道さんが腕を組んだまま、低い声で言う
悟さんは悪びれもせず手をひらひら。
「いやぁ、ちょっとね。
歌姫がヒスっててさぁ」
「ヒスってない!!」
(勘弁してぇ...)
楽巌寺学長は眉をひそめ、杖で床をコツンと叩く。
「五条。
交流会はもうすぐ始まるのだぞ。
少しは落ち着けんのか」
「落ち着いてるよ?
僕いつも冷静沈着」
「どの口が言うんだよ……」
歌姫さんが小声で吐き捨てる。
そんな中──
冥冥さんだけは、相変わらずの落ち着いた雰囲気でこちらを見ていた。
俺は軽く頭を下げる。
「冥さん、お久しぶりです」
冥冥さんは薄く微笑んだ。
そのまま、俺の全身を値踏みするように視線を滑らせた。
「うみ。
一級になったんだってね」
「はい」
冥冥さんは、ふっと口角を上げた。
「で──どれくらい稼げるようになったんだい?」
相変わらずの様子に思わず苦笑する
「あはは...相変わらずですね。
まあ、相当ですよ。
使う時間もないのでたまってく一方です」
冥さんは満足げに頷いた。
「いいねぇ。
術師は稼げてなんぼだよ。
金があれば大抵の問題は解決するからね」
悟さんが横から口を挟む。
「ほんと、冥さんは金の話ばっかだねぇ」
冥冥さんは即答した。
「当たり前じゃないか。
金は裏切らない。
術師も組織も人間も、平気で裏切るけどね」
(わぁ...すっごい説得力
これでお金に溺れるわけでもなく、
リスクとリターンの計算が完璧なんだからすごいよなぁ)
楽巌寺学長が咳払いをして、場を締める。
「そろそろ始まるぞ。席につけ」
正道さんも腕を組んだまま、モニターへ視線を向ける。
悟さんはマイクを片手にとって...
「開始一分前でーす」
間延びした声で会場に告げる
(気ぃ抜けるだろうなぁ)
モニターには、東京校と京都校の生徒の姿、
みんな開始の合図を待っている
そして俺の横では、悟さんと歌姫さんがいつもの茶番をしている
「それでは姉妹校交流会――」
一拍。
「スタートォ!!!」
その一言で全員が一斉に動き出した
---
「……始まったねぇ」
横で、五条さんが気の抜けた声を出す。
「うみ」
「はい?」
「どっちが勝つと思う?」
「まだ始まったばっかりですよ?
もうちょっと引っ張ってから聞きません?そういうのって」
悟さんは一瞬だけ間をおいてから、
にへっと笑った
「えぇ〜。いいじゃん別に〜。
どうせあとで聞くんだから、今でもさ」
「...はあ、仕方ないですね
分かりました」
「お、素直」
「素直って言うか、逃げられないなって思っただけです」
モニターに視線を戻す。
どちらも今のところ大きな動きはない
「といっても、葵先輩次第ですね」
「……ほう?」
五条さんは、俺の方をちらっと見る。
「その心は?」
「今回のメンバーで葵先輩だけは別格ですから、
東京側はどれだけ葵先輩を抑えられるかで勝ち負け決まりますよ
棘先輩がいるって情報だけで、京都側はパフォーマンス発揮しきれないでしょうし
恵先輩の十種で数の利も取れますしね」
「……なるほどねぇ」
悟さんが関心したように頷く
ただ――
「でも、これは普通に交流会が進めば、の話です」
「……へぇ」
悟さんがいい感じに楽しそうな声を出した
「どういう意味?」
「そのままの意味ですよ」
俺はモニターから目を離さずに答える。
「今回の交流会、参加者が"普通"に動いてくれたら、って前提です」
「前提、ねぇ」
冥冥さんが、面白そうに片眉を上げた。
「ええ。今回の交流会は悠二先輩...宿儺の器という爆弾を抱えてますから
交流会以外に別の思惑があればその限りではないでしょうね」
一瞬、部屋の空気が静まった。
楽巌寺学長が、杖を鳴らす。
「貴様……どういう意味だ」
「いえ、別に」
俺がそう答えた瞬間、
悟さんが「なるほど、なるほど」と楽しそうに頷いた。
「いやぁ、確かにねぇ。
"そういう見方"もあるよね」
そう言いながら、わざとらしく視線を横にずらす。
「で、実際どうなの?おじいちゃん」
「……何を言っとる」
杖を鳴らし、低い声で返す。
「例年通りだ。
勝敗を競い、技を競う。
それ以上でも、それ以下でもない」
「ほんとに~?」
悟さんは、にこにこと笑ったまま。
「五条」
低く、警告するような声。
「憶測でものを言うな」
「え~、憶測かなぁ」
肩をすくめる。
「まぁ、いいや。
"ただの交流会"なら、それでいいしね」
そのやり取りを横目で見ながら、
俺は小さく息を吐いた。
(……まあ、引き際だね)
「それより」
俺は、画面を指さした。
「ようやくですね」
視線が一斉にモニターへ向く。
モニターの中では、ちょうど東京校と葵先輩が遭遇したところだった
---
モニターの中で、
東京校と葵先輩がぶつかった瞬間――
空気が、一変した。
「……散ったね」
五条さんが、どこか楽しそうに呟く。
悟さんの言う通り東京校は一気に散開した
そして――
「……やっぱり」
思わず、ぽつりと声が漏れた。
「悠二先輩が残りましたね」
画面を見ながら、歌姫さんが小さく息を吐いた。
「やっぱりってことは予想してたの?」
「えぇ。そもそも葵先輩を抑えれそうな人って、
パンダか悠二先輩だけですから」
「なるほどねぇ」
今度は冥さんが、納得したように頷く。
「パンダはわかるけど、あの虎杖君はそんなに強いのかい?」
「……はい」
俺は、少しも迷わずに答えた。
「呪力を一切使わないで殴り合ったら、
悠二先輩が勝つと思いますよ」
一拍。
部屋の空気が、
ほんのわずかに止まった。
「へぇ」
冥さんが、興味深そうに目を細める。
「それは、どのくらいの話?」
俺は少し考えてから、正直に言った。
「単純なフィジカルだけで見れば――
誰よりも、それこそ悟さんより上ですよ」
「おっと?」
横で、悟さんが声を上げた。
「それ、本人の前で言う?言っちゃう?」
「事実でしょう。俺も初見で殴り合ったら負けますし」
そう言った瞬間、
「……初見じゃなかったら?」
横から、悟さんが楽しそうに聞いてきた。
「お?」
冥さんも、少しだけ興味を示す。
「じゃあ、二回目は?」
俺は一瞬だけ考えてから、肩をすくめた。
「勝つ、とまでは言いませんけど」
正直なところを、そのまま出す。
「いい勝負にはなると思いますよ」
「へぇ」
「俺の場合、戦えば戦うほど、
悠二先輩のほうが不利になりますから」
「……あぁ」
悟さんが、すぐに理解した顔をした。
「そういえばそんなのあったね」
悟さんが、どこか楽しそうに笑った。
「でさ」
軽い調子で、続ける。
「呪力も術式も全部アリなわけだけど、
結局――どっちが勝ちそう?」
話題が、自然とそこへ戻された。
俺は一瞬だけ考えてから、
小さく首を振る。
「……前提を覆してしまって申し訳ないんですけど」
「ん?」
「勝ち負け、って感じにはならないと思いますよ」
一拍
歌姫さんが、眉をひそめる。
「は?
じゃあ、どういうこと?」
「多分……」
言葉を選びながら、答える。
「葵先輩が、
悠二先輩の"育成"でも始めるんじゃないですか」
「はぁ!?」
ほぼ同時に、声が上がった。
「なんでそうなるの!?」
「意味分かんないんだけど!」
俺は、少し困ったように視線を逸らす。
「いや……
あの二人、その...同じ、なので」
「同じ?」
悟さんが、怪訝そうに首を傾げる。
「何が?」
一瞬だけ、間が空く。
俺は咳払いしてから、正直に言った。
「……女性の好みが、です」
しん、と室内が静まる。
次の瞬間――
「それかぁぁぁ!!」
悟さんが、腹を抱えて笑いだした。
「そっちか!!
確かに!!
葵はそういう男だった!!」
歌姫さんは、頭を抱える。
「最悪……。
一番納得できる理由なのが腹立つ……」
冥冥さんだけが、妙に落ち着いた様子で頷いた。
「価値観の一致は、師弟関係の第一歩だね」
「でしょう?」
俺は肩をすくめる。
「だから、あそこはもう
勝敗とか点数とかじゃなくて、
"気に入られるかどうか"の話だと思います」
(……たぶん殴り合いながら、全然別の話をしてる)
悟さんは、楽しそうに腕を組んだ。
「いやぁ、
交流会で弟子入りイベント始まるとか、
聞いたことないんだけど」
「えぇ。...まあそれよりも」
一度モニターを見る。どの画面にも悠二先輩の姿はない
「映らなくなりましたね。あの二人」
俺の言葉に、
「そうだねぇ」
悟さんが、どこか楽しそうに相槌を打つ。
「まあ、あそこは置いとこうか」
「置いとくって……」
と歌姫さんが呆れた声を出すが、
「今はそうするしかないでしょ」
悟さんは軽く肩をすくめた。
「で」
「他はどうなってる?」
モニターには、
別のエリアで交戦する面々の姿が映し出された。
「呪霊ほったらかしの総当たりですね
あの人らルール分かってるのかなぁ」
画面を見ながら、思わず漏らす。
「ははっ」
その一言に、悟さんが吹き出した。
「いいねぇ!そうそう!
それでこそ交流会って感じ!」
「どこがよ!」
即座に、歌姫さんが突っ込む。
「ほんとにもう...なんで普通にできないのよ」
歌姫さんの嘆きを横で聞き流しながら、
俺は視線をモニターの一つ一つへと滑らせた。
(恵先輩と憲紀先輩、パンダとメカ丸先輩、
野薔薇先輩と桃先輩、真希先輩と霞先輩で、
棘先輩と真依先輩がフリーか
頭の中で、簡単に盤面を整理する
(...野薔薇先輩とパンダのとこはきつそうかな)
「……ふぅん」
その様子を横目で見ていた悟さんが、
不意にこちらへ顔を向ける。
「で、うみはどう思う?」
「え?」
「今の状況。
全体的に見て、どんな感じ?」
悟さんは、楽しそうに質問を投げてきた。
俺は一度モニターに視線を戻し、
整理するように口を開く。
「正直、
野薔薇先輩とパンダ先輩のところは、
少しきつそうですね」
でも、と続ける。
「ただ」
画面全体を見渡す。
「全体で見たら、
東京側が有利なんじゃないですか?」
「ほう?」
悟さんが、にやっと笑った。
「理由は?」
「棘先輩です」
即答だった。
「棘先輩の所在が、
まだ京都校側に割れてません」
歌姫さんが、はっとした顔をする。
「……確かに」
「はい」
続ける。
「京都校は、
今戦っている相手だけじゃなくて、
"どこかにいる棘先輩"にも
常に注意を払わないといけない」
「呪言がいつ飛んでくるか分からない、か」
悟さんが楽しそうに言う。
「その分、パフォーマンスは落ちます」
画面の中で、
京都校の動きが慎重になっているのが見えた。
「結果として、
試合の主導権は
東京側に残りやすいです」
「うんうん」
悟さんは頷きながら、満足そうだ。