敷地内を、全力で駆けていた。
足裏に伝わる地面の感触が、
だんだんと硬さを失っていく。
視界の先。
空気が、目に見えて歪み始めている。
黒い帳。
結界が、
ゆっくりと、確実に――下りてきていた。
「五条ッ!」
横を走る歌姫さんが、
声を荒げる。
「帳が下り切る前に先行って!
あんたなら間に合うでしょ!」
一瞬、
本気の指示。
だが――
「無理」
悟さんは即答だった。
走りながら、あっさり。
「……は?」
歌姫さんが、一瞬理解できない顔をする。
「ちょっと、あんた何――」
その言葉に被せるように、
「ね、うみ」
悟さんが、何でもないことのようにこちらを見る。
唐突なパス。
でも――
視線の先にある帳を視れば、
言いたいことは分かる。
「そうですね」
息を整えながら、短く肯定した。
「あの帳、術式効果自体はすでに完成しています
視覚効果を後回しにしているみたいです」
そう言った直後だった。
「ま、下りきったところで破りゃいいでしょ」
悟さんが、軽い調子で言う。
そのまま、走りながら片手を――
帳の境界へと伸ばした。
次の瞬間。
バチッ!!
空気が弾けたような感触が、
こちらにまで伝わってくる。
「……あれ?」
悟さんの手が、
はっきりと"押し返されていた"。
帳は揺れもしない。
罅も入らない。
「……は?」
一拍遅れて、
歌姫さんが眉を吊り上げる。
「ちょっと、何それ」
そのまま減速もせず、
歌姫さんは帳に手を突っ込んだ。
「……っ!」
――何事もなく。
腕は、すっと帳の内側へ通った。
「……入れる?」
そのまま一歩、
歌姫さんは帳の中に足を踏み入れる。
何の反発もない。
次の瞬間。
「はぁ!?!?!?」
振り返って、
本気で叫んだ。
「何であんたが弾かれて、
私が入れんのよ!!」
思わず、
こっちにも視線が向く。
「うみ、どう?」
「……確認します」
俺も一歩踏み込み、
帳へ手を伸ばす。
指先が、
境界に触れる。
――すんなり、通った。
「……問題なく侵入できますね」
さらに半身を入れる。
抵抗は、まったくない。
俺は一度だけ振り返り、
悟さんを見る。
「弾かれているのは、悟さんだけみたいです」
歌姫さんが、
完全に納得いっていない顔で叫ぶ。
「意味わかんないんだけど!?
何なのよそれ!!」
そのやり取りを聞きながら、
悟さんは口元を歪めた。
「あー……」
顎に指を当てて、
一瞬だけ考える。
そして、
結論は早かった。
「なるほどね。この帳――」
軽く指を鳴らす。
「"五条悟"の侵入を拒む代わりに、
その他"全ての者"の出入りを許可してる」
歌姫さんが、
目を見開く。
「うみ。
中、任せられる?」
「はい」
迷いなく答えた。
「よし。何とか破るからさ、三人は先行ってて」
悟さんは肩をすくめる。
「何が目的かは知らないけど、
こっちは一人でも死んだら負けだよ」
「わかってます」
「さっさと行くわよ」
「はい」
俺は頷き、
帳の内側へと完全に足を踏み入れる。
---
一歩。
帳を越えた瞬間、
空気の"質"が変わった。
(この感じ...)
肺の奥に入ってくる息が、
わずかに遅れる。
音も、遠い。
足音が、地面に吸われる。
「……嫌な空気ね」
歌姫さんが、低く呟く。
俺は立ち止まり、視線を巡らせた。
「どっかに居ますね。特級」
そう言った、その直後。
「おいおい」
軽薄な声が、
静まり返った森に響く。
「五条悟、いねぇじゃん」
上裸に工作用のエプロンのスキンヘッド
(情報量多いな....)
歌姫さんが、
低く吐き捨てる。
「……呪詛師」
「…二人とも」
低く、
しかしはっきりした声が割り込む。
俺たちに続いて入ってきた――
楽巌寺学長だ。
「先に行け。
学生の保護を最優先」
一拍。
「極力、戦うな」
短い。
だが、迷いのない指示。
歌姫さんが舌打ちする。
「……聞いたでしょ?」
その瞬間だった。
「待て待て待て」
呪詛師が、
両手を広げて笑う。
「五条悟が居ねえんだ
せめてそっちの女二人、置いてけよ」
視線が、
歌姫さんと――俺に向く。
「じじいのスカスカの骨と
シワシワの皮じゃ、
なーんも作れねぇだろうが」
空気が、
一瞬で凍った。
――言い切る前に。
俺は、踏み込んでいた。
離は五歩。
躊躇は、ゼロ。
「……っ!」
呪詛師が何かを察するより先に、
地面を蹴る。
呪力を最低限、
脚部に集中。
そして――
ゴンッ!!
鈍い音。
蹴りが、
呪詛師の顎を正確に捉えた。
頭部が、
あり得ない角度で跳ね上がる。
男の身体が、
弾かれたように後方へ飛ぶ。
「――ッ!?」
呻き声が、
森に響く前に、
俺は、低く叫んだ。
「女じゃない!」
反動で着地。
すでに次を見ている。
歌姫さんが、
一瞬だけ目を見開き――
すぐに、口角を上げた。
「……いい蹴り」
楽巌寺学長のあきれたような声が、
わずかに遅れて届く。
「……行け」
(ごめんなさい、我慢できなかったんです)
---
走りながら、
歌姫さんが肩越しに振り返る。
「ここからは二手で行くわよ
時間を無駄にしない。最高効率で行く」
「わかりました。無理しちゃだめですよ、歌姫さん」
走りながらそう言うと――
「は?」
歌姫さんが、ぴたりと足を止めて振り返った。
一瞬。
本気で目が据わる。
「……あんたね」
次の瞬間には、ニヤッと笑った。
「それ、こっちの台詞でしょ」
言い切ると同時に、
歌姫さんは進路を切り替えた。
減速はない。
そのまま、走りながら自然に。
「私はこっち。うみくんはそっち。」
視線だけで示される、
二方向。
「わかりました」
それだけ返して、俺も足取りを変える。
目の前は森
(さて、万能術師の本領発揮_)
地面を蹴りながら手印を組む
「――来い」
影が、脈動する。
次の瞬間、
黒い影から音もなく――
翼が、弾けるように広がった。
小さなコウモリが
束になって飛び出してくる。
羽音は、ほとんどない。
ただ空気が、わずかに揺れるだけ。
「――探れ」
短く命じる。
次の瞬間、
響蝠たちは一斉に散開した。
前方へ。
左右へ。
上空へ。
木々の間を縫うように、
幹をかすめ、
枝をすり抜けて――
森の奥深くまで入り込んでいく。
キィ……ン。
超音波が、幾重にも重なり、
森全体に広がった。
(……来た)
世界が、
頭の中で描き替えられる。
木の密度。
地表の起伏。
倒木の位置。
湿った土と乾いた落ち葉の差。
そして――
呪力反応
(川の方にでかいのが一つ...これが特級か
近くには恵先輩と真希先輩か?少し弱ってるな...!)
と、そこで二人に近づいていく大きめの反応が二つ
(葵先輩と悠二先輩だ!
葵先輩がいるなら、こっちは優先度下げていいかな)
次。
上空――
(……弱い)
極端に、
弱った反応が二つ。
高度がある。
移動は安定。
(棘先輩と、憲紀先輩か。
飛んでるってことは桃先輩が回収したってことだよな
ならこっちも除外)
さらに――
(……ん?)
東側。
大きめの反応が、
葵先輩たちの方へ移動している。
(パンダか...多分葵先輩が、
恵先輩たちを回収させるために呼んだのかな)
こちらも問題なし。
(……残るのは)
野薔薇先輩。
そして――
霞先輩と真依先輩
反響を、もう一度重ねる。
(……野薔薇先輩は、動いてる
意識は戻ったんだ)
単独行動は不安だが、周りにほかの反応はない。
"今すぐ"回収が必要な状態じゃない。
次。
真依先輩。
位置は――
歌姫さんの進路、その少し後方。
(すでに合流済み)
最後。
霞先輩。
(……動かない
まだ、寝てる...?)
どういう状況かまではわからないけど、
放置はできない
(優先度――最上)
俺は進路を固定する。
響蝠が、
霞先輩の周囲に密集した。
反響が、細かくなる。
地形、遮蔽、到達経路。
(よし。オールグリーン)
足に呪力を載せ直し、
一段ギアを上げる。
響蝠は周囲と進行方向に限定
付近・進行方向に敵性反応は――なし
今のところ、
割り込んでくる気配もない。
倒木を越え、
張り出した根を踏み、
斜面を斜めに駆け下りる。
視界の先。
森が、
ほんの少しだけ開けている。
距離――
十メートル。
五。
木の影を抜けた瞬間、
人影が見えた。
地面に崩れるように横たわる、
小柄な体。
「……霞先輩」
声を抑えて、呼ぶ。
反応はない。
(棘先輩の呪言...強力だなぁ。
不眠症治療に使えるんじゃないの...)
……いや、今はそれどころじゃない。
俺は息を吐き、
膝をついた。
「起きてください、霞先輩」
肩を軽く叩く。
反応なし。
呼吸は安定。
脈も問題ない。
――やっぱり、深い。
「……仕方ないか」
小さく呟いて、
頭の後ろと膝裏に手を差し込み、
霞先輩の身体を持ち上げる
(軽...ちゃんとご飯食べてるのかな)
そんな場違いな考えが一瞬だけ浮かび、
すぐに意識を切り替える。
(まあ、これなら呪霊がでても祓えるし問題なし)
視線を上げる。
響蝠の反響――
依然としてクリア。
敵性反応は、
今のところ、確認できない。
(とりあえず歌姫さんと合流...霞先輩を預けて特級の方に、かな)
響蝠に指示を出し、索敵の範囲を限定する
歌姫さんの位置は、
はっきりと把握できている。
その近くには反応が二つ。
一つは真依先輩。もう一つは野薔薇先輩
(野薔薇先輩、合流できたんだ...よかった)
一息だけ、胸の奥が緩む。
だが、すぐに意識を切り替えた
「最短経路を割り出して」
指示を飛ばした瞬間、
響蝠たちの配置が素早く変わった。
複数の反響が重なり、
進行方向に一本の"線"が引かれる。
木々の間。
起伏。
障害物。
(……ここ)
俺はそちらに進路を切る。
――が。
次の反響で、
一瞬、眉がひそめられた。
(……歌姫さんたちの周囲)
反応が、過剰に鋭い。もはや臨戦態勢。
(……あ)
「やば、戻ってこい」
即座に判断して、
歌姫さんたちの周囲を回っていた響蝠を
一斉に引き上げさせる。
軌道が上に流れ、
反響が一気に薄くなる。
(……そうだよな)
胸の奥で、
納得が落ちた。
(響蝠を見たことあるの、恵先輩と霞先輩くらいか)
歌姫さんも、
真依先輩も、
野薔薇先輩も――
初見なら、警戒して当然だ。
ましてや、この状況。
(……完全に、こっちの配慮不足)
「霞先輩、ちょっと揺れますよ」
返事はない。
分かってる。
響蝠の示すルートをなぞるように走り出す。
――その途中。
地面から、
嫌な気配が立ち上った。
(……来た)
木の根元。
腐葉土の間から、
小型の呪霊が這い出してくる。
……っと」
足を止めない。
霞先輩を抱えたまま、
体をわずかにひねり――
ゴッ。
踵で、顎を蹴り抜く。
呪霊は音もなく、
ブラックアウトするように霧散した。
それに合わせるように
前方に複数の反応が出現。
(……邪魔)
一も二もなく蹴り飛ばす
最初の一体を蹴り飛ばした反動で、
前に踏み込む。
次の瞬間、
右側の茂みが揺れた。
二体目。
三体目。
どれも、重くて鈍い。
どれもこれもせいぜい三級。
「急いでるの。どいて」
言葉と同時に、
地面を強く踏み鳴らす。
呪力を載せた衝撃が、
地表を震わせる。
足元から立ち上がろうとした個体が
体勢を崩した。
そこに追撃
順番に、一発ずつ叩き込む。
減速なし。
跳躍も最小限。
霞先輩を抱えた体勢は崩さず、
ただ前へ、前へ。
木立の影から現れる気配も、
土から這い出す反応も、
すべて"追いつく前に"消える。
響蝠の反響が告げる。
――進路、クリア。
前方の反応が、
完全に重なった。
歌姫さん。
真依先輩。
野薔薇先輩。
最後の一体を蹴り払って、
俺はそのまま木立を抜ける。
視界が開けた。
「――歌姫さん!」
呼びかけながら、踏み込む。
木立を抜けた瞬間、視界が一気に開けた。
その直後――
ヒュンッ! バンッ!!
釘と銃弾が、ほぼ同時に俺の顔面めがけて飛んできた。
「えっ!? わっ、あぶな!!」
反射で身をひねり、霞先輩を抱えたまま地面を滑るように回避する。
着地と同時に顔を上げると――
「……アンタねぇ!!」
野薔薇先輩が、釘槌を構えたまま仁王立ちしていた。
「急に飛び出してくんじゃないわよ!!
殺す気!? 死ぬ気!? どっちよ!!」
「す、すみません……!」
本気で怒ってるというより、驚きの反動で声が大きくなってる感じだ。
その横で真依先輩が銃口を下げ、深いため息。
「……はぁ。
あんたねぇ……三輪が寝てるからいいものの」
視線が、俺の腕の中へ落ちる。
「……」
真依先輩の眉が、じわっと寄る。
「……その抱き方、やめなさいよ。
余計ややこしくなるでしょ」
「え? あ、はい?」
何がややこしいのか分からず、首を傾げる。
その横で――
「ふっ……」
野薔薇先輩が、口元を押さえてニヤニヤし始めた。
「ねぇ真依、見た?」
「余計なこと言わないでよ」
「いやいやいや、これはもう……
この子が起きたら三日は寝込むわねぇ」
「え、なんでですか?」
俺が素で疑問を口にすると――
二人の視線が、同時に俺へ向く。
真依先輩は呆れ顔。
野薔薇先輩はニヤニヤ。
「……あんた、ほんとに自覚ないのね」
「???」
頭の上に、でっかい「?」が浮かんでる気分だ。
そんな俺の横に、歌姫さんが歩み寄ってきた。
「うみくん、三輪は?」
「あ、はい。
霞先輩は棘先輩の呪言で眠ってただけです。
状態は安定してます。」
歌姫さんは一瞬だけ目を細め――
「……そう。
よく回収してくれたわ」
短く、でも確かに安堵の色があった。
その横で野薔薇先輩が、またニヤニヤしながら俺の腕元を見る。
「で? そのまま抱えてる気?
うみ、あんた……案外大胆じゃない?」
「? いえ、ここからは歌姫さんにお任せしますけど……
これから別のとこ行かなきゃなので」
「別の場所?」
歌姫さんが眉をひそめる。
その横で、野薔薇先輩と真依先輩も同時にこちらを見る。
「……あんた、何しに行くつもりよ」
真依先輩の声は低い。
「ここに特級が来てるんです
葵先輩と悠二先輩が交戦中なので、
大丈夫だとは思いますが念のためにそっちへ」
「……はぁ!? 特級!?」
野薔薇先輩が声を上げる。
「ちょっと待ちなさいよ、なんでそんな大事なことを――」
「言ってないわけないでしょ」
歌姫さんが割って入る。
「私と楽巌寺学長は、帳に入った時点で聞いてるわ
あんたたちに、私が状況整理する前に合流しちゃっただけ」
「……っ、そういうことね」
野薔薇先輩はまだ納得しきれてない顔だが、
歌姫さんの落ち着きに引っ張られて、少しだけ肩の力を抜いた。
一方で――
真依先輩は、俺をまっすぐ睨んでくる。
「で? アンタはその特級のところに行くつもりってわけ?」
「はい。
葵先輩と悠二先輩が交戦中なので、
そこまで危険ではないと思いますが……
念のため、合流しておきたいです。
三人そろえば、さすがに祓えるでしょうし」
そう言った瞬間。
「はぁ~~~~……」
真依先輩が、心底呆れたように額を押さえた。
「……アンタねぇ。
特級がいる場所に"念のため"で行くやつがどこにいんのよ」
その声音は呆れ半分、苛立ち半分。
だが、止めるというより“理解が追いつかない”という色が強い。
横で野薔薇先輩が、目を丸くして叫ぶ。
「いやいやいやいや!!
特級よ特級!!なんでそんな顔で言えるわけ!?」
二人の声が重なり、場の空気が一気に騒がしくなる。
歌姫さんは逆に落ち着いていて、腕を組んだまま小さく息を吐いた。
「……まあ、うみくんなら行くでしょうね。
そういう子よ、あんたは」
「え、褒められてます?」
「褒めてないわよ」
そんなやり取りをしていた――その瞬間。
ガサッ。
木立の奥、ほんの十メートル先。
「……おーおーおー」
姿を現したのは、金髪をサイドテールにした男
(高専の人じゃない
あの悪趣味な剣....呪詛師か)
警戒し、戦闘態勢に入ったところで――
「女の子がいっぱいだぁ~」
一拍。
二拍。
三拍。
「――女の子じゃない!!」
ドンッ!!
考えるより先に、体が動いていた。
霞先輩を歌姫さんへ預けるより早く、
地面を蹴り、一直線に呪詛師へ踏み込む。
呪詛師が驚いて目を見開く。
「は? ちょ、待っ――」
ゴッッ!!
ノーガードのところにクリティカルヒット
呪詛師の身体が、木の幹にぶつかるどころか――
そのまま森の奥へ“消える”レベルで吹っ飛んだ。
「……あ」
うみは、蹴りの反動で着地しながら固まった。
(やば……
捕まえなきゃいけないのに……
飛ばしすぎた……)
後ろから、三人の声が重なる。
「「「…………」」」
野薔薇先輩は口をぱくぱくさせ、
真依先輩はこめかみを押さえ、
歌姫さんは深く深くため息をついた。
「……うみくん」
「……はい」
「……理由、聞いてもいい?」
「……“女の子がいっぱい”に俺が含まれてると思って……
つい……」
三人の沈黙。
そして――
野薔薇先輩が、腹を抱えて笑い出した。
「っははははは!!
ちょっと待って、あんた最高でしょ!!
そこ!? そこなの!? 理由!!?」
真依先輩は呆れを通り越して、空を見上げる。
「……もう好きにしなさいよ……」
歌姫さんは眉間を押さえながら、
「……はぁ……
とりあえず、飛ばした呪詛師は後で回収するわ。
うみくん、行くなら行きなさい」
「はい!」
霞先輩を歌姫さんに預け、手印を組む。
響蝠たちが一斉に飛び出し、森の上空へ散開。
反響が重なり、立体的な地図が頭の中に描かれる。
(……位置、把握)
特級の呪力は、川沿い。
葵先輩と悠二先輩の反応は、まだ健在。
(よし。行ける)
響蝠を影へ戻し、術式を切り替える。
空間に、細い"線"が十本まで展開される。
術者にしか見えない、淡い呪力の軌跡。
一本目を地面すれすれに固定。
(まずは――踏み台)
足裏で線を踏む。
バンッ!!
反射。
身体が斜め上へ弾かれる。
空中で二本目を展開。
角度はほぼ垂直。
(次)
手刀で線を"触れる"
キンッ!!
反射。
身体がさらに上へ跳ね上がる。
三本目。
四本目。
五本目を踏み込んだところで、
視界が一気に開けた。
高度――約二十メートル。
帳の"天井"ギリギリ。
風が頬を切る。
(見えた)
川沿いの開けた場所。
黒い塊のような呪力。
その前に立つ、二つの人影。
葵先輩。
悠二先輩。
そして――
特級呪霊。
(花の奴か...)