(.....本当に、五条悟?
見た目だけのそっくりさんとか)
あまりの衝撃に思考がまとまらず現実逃避を___
「ねぇねぇ、聞こえてる」
___する余裕もくれないんですね、この人は。
「......はい」
とりあえず返事だけはする。
一応まだそっくりさんの可能性もある。
「そっかそっか。じゃあさ、ちょっとだけ質問してもいい?」
目の前の五条悟(仮称)がサングラスの奥で笑った気配がする。
「君、今......どんなふうに"見えてる"?」
(なんで...)
「なんで、俺の目が見えてるって」
その疑問が口から零れるのと同時に、
五条悟(仮称)は指先で自身の目元をトントンと軽く叩いた。
「見ればわかるよ。
この包帯越しでもしっかり“見えてる”だろ?
君の目はそういうモノなんだよ」
(そういうもの?いやまずはこの人のこと...)
「えっと、その...あなたは?」
「僕?五条悟、最強だよ」
俺の問いに目の前の男はあっけらかんと名乗った。
あぁご本人だった。そっくりさんはいなかったのか。
とりあえず、相手にだけ名乗らせるのはよくないから、
「俺は、月影うみです」
「ご丁寧にどーも。なかなかいい名前だね」
五条さんは肩をすくめて言った。まるで日常会話のように自然だ。
「あの、それで『そういうモノ』っていうのは?」
五条さんはベッドに腰かけこちらを見やり、サングラスを少しズラす。
日本じゃめったにお目にかかれないような、吸い込まれそうな青い瞳。
されど、最近では見慣れた瞳が露わになった
「君の目は特別製。六眼って言うんだけど...」
五条さんは指を一本立てて空中に円を描く。
「普通の人の目はね、表面しか見えない。」
彼は傍らのテーブルから果物籠を引き寄せ、リンゴを手に取った。
「大人も子供も『赤いリンゴ』って思う。でも君の目は違う。
リンゴの種や茎の根元の傷まで全部視える。それに___」
彼はリンゴをくるりと回し、軽く握る。
「中身の水の流れとか、種の位置までわかるんだ。」
(あぁ、特殊な目だって知識はあったけど
そういう感じで特殊なんだ...やらかした?結構不便?)
「つまり......」
「そう!すごすぎる目ってこと。
だから見えすぎて頭痛くなったりしちゃうんだよね」
五条さんは眉をハの字にして笑った。
「まぁ、そんな感じで君は普通の人よりいっぱい見えちゃうんだよね
数十倍とか数百倍とか......そういうレベルで。」
「....そんなに?」
「うん。そんなに」
五条さんはリンゴをサイドテーブルに置き、腕を組んだ。
サングラスを再びかけ直し、急に真面目な声色になる。
「普通の人の脳はね、目の見るものを整理して、
『これはリンゴだなー』ぐらいにしか認識しない。でも君の場合──」
彼は指先で自分のこめかみを軽く叩く。
「脳ミソがフル稼働で処理してる。
だから昨日みたいにオーバーヒートして倒れたり……最悪の場合」
言葉を切り、五条さんの声が僅かに変わる
「死んじゃうかもしれない」
その言葉に全身が粟立つような感覚に包まれる
「死……?」
思わず息をのむ。脳みそが爆発するイメージがよぎる。
「だいじょうぶ。」
五条さんはぱっと両手を広げた。
「 それは慣れと扱い方を覚えれば何とかなる」
「それよりも問題なのは.....
彼は窓の外を見やり、声を落とした。
「君みたいな特別な目はね、欲しがる奴らがいるんだ」
ゆっくりと視線を戻す。
「……だからね、うみくん。
君をこのままここに置いておくのは、ちょっと危ない」
「......危ない?」
「うん。君の目を"欲しい"って思う人たちがいる。
そういう人たちは君を傷つけてでも奪おうとする。
そうなったとき.......僕でもここじゃ守れない」
(理屈はわかる......でも、そもそもどうして)
ふと、五条さんと視線がぶつかる。
すると五条さんは、にこっと笑った。
「不思議だよね。
なんでそんなこと知ってるの?って顔してる」
驚愕。まさか顔に出てるとは。
(このろくに働かないニートな表情筋が仕事をした...?)
こんな場違いな思考をよそに五条さんは言葉を紡ぐ
「まぁ、僕は"そういう危ない奴ら"と戦う仕事をしてるからね」
「.......おしごと?」
「そう。呪術師っていうんだけど」
(......呪術師)
五条さんは肩をすくめる
「でね、うみくん。
君みたいな子は僕たちが守らなきゃいけない。
それに――」
五条さんの声が少し落ちる
「君には、呪術師としての素質がある。
六眼を持って生まれるなんて、そうそうないからね
いい感じの術式もあるみたいだし」
(術式…?あぁ忘れてた。そんなのつけてもらったっけ)
五条さんは笑いながら言葉をつづける
「まぁ、最初は"保護"のつもりで来たんだけど.....
話してみたら思った以上に"いい子"だったからさ。
才能もあるし、落ち着いてる。
正直、育てたくなっちゃった」
軽い声、口調なのに真剣な"色"が見える
「だから――
僕のところに来ない?」
(多分、五条さんの言う通り。
この人のところに行けば安全なんだろうな。
でも孤児院を離れたくない気持ちもある...)
(あれ?俺が狙われてるってことは――)
「......五条さんの言う"危ない奴ら"をほっといたら、
孤児院の人たちも....危ない?」
「そうだね。十分あり得るよ」
「分かった。でも保護だけは嫌。
五条さ――いや、悟さん。俺を強くして」
体がこわばるのが分かる。
仕方ないね。荒事なんてほとんど経験ないし。でも、
(俺が原因で、あの人たちが危ない目にあう可能性があるのに、
自分だけ安全圏なんて"納得"できない)
五条さんは、しばらく何も言わなかった。
サングラスの奥で、俺をじっと見ている気配だけが伝わる。
やがて──
ふっと、息を吐くように笑った。
「......いいね」
その声は、さっきまでの軽さとは違っていた。
「うん、いいよ。
君がそう言うなら、僕が君を強くしてあげる。」
一度言い切ってから、五条さんは少しだけ肩をすくめ、
俺の頭にそっと手を置いた。
「任せといてよ。僕、"最強"だから」
普通なら、傲慢だとか、自信過剰っていうのであろう発言。
でもこの人のそれには、絶対的な安心感がある。
これを人はカリスマというのだろうか。
「ん。お願いします。悟さん」
---
「じゃあ僕は退院手続きしてくるね~」
と、悟さんが手を振った途端、看護師が飛び込んできた。
「月影くん!点滴の時間です!」
「え?」
腕を見れば点滴が刺さっていた。人生初めての点滴だ。
(気にしてる余裕なんてなかったけど...)
看護師さんはてきぱきと点滴を取り換え、
「明日の朝には退院できますよ」と笑顔で告げる。
(明日の朝....荷物はまとめといたほうがいいかも)
荷物――といっても着替えくらいだけど――を鞄に放り込むと、
五条さんが戻ってきた。
「明日の朝で退院できるらしいです」
と告げれば、
「うん、手続きの時に聞いたよ。
じゃあまた明日、迎えに来るからねー」
といって帰っていった。忙しい人なんだろうな...
(五条悟...最強の呪術師か)
病室の照明は落とされ、
窓の外には街灯の光がぼんやりと滲んでいた。
(そういえば、一人なのは久しぶりだな)
俺がいるのは4人部屋。
ただ、幸い言っていいかわからないが同室者はいない。
(まぁ一般人のいるところでできる話じゃなかったし...)
とはいえ、転生から今まで基本一人になることはなかったため多少のさみしさがある。
(孤児院のみんなはどうしてるかな...)
静かな病室で天井を見つめるうちに、いつしか眠りについた。
ノックの音で目が覚める。
(時間は...6時、病院って朝早いんだ)
扉が開き、看護師さんが入ってくる。
「月影くん、おはよう!よく眠れた?」
「うん、大丈夫」
「そっか。じゃあ点滴外しちゃうね。腕そのまま伸ばしてて」
慣れた手つきで固定テープをはがし、
カチッ、とクランプを閉じる小さな音が響く。
針が抜かれると、看護師さんはすぐに小さな絆創膏を貼った。
「はい、おしまい。痛くなかった?」
「……うん」
「よかった。朝ごはんは七時ごろだから、それまでゆっくりしててね」
そう言って、看護師さんは点滴スタンドを静かに押しながら部屋を出ていった。
病院の朝は、静かで、思ったよりも淡々としていた。
---
現在時刻は8時、食事を終え、着替えて荷物をまとめていると、
「おっはよー!もう準備できてるー?」
ノックもなく勢いよく扉が開き、テンション高めの悟さんが飛び込んでくる
(朝からすごい元気...)
「おはようございます」
俺が荷物の整理をしているベッド際に近づくと、悟さんは満足そうに親指を立てた。
「おおー。完璧じゃん!忘れ物ない?」
「ん。着替えくらいしかないし」
「そっか。あ、あとこれあげるよ」
手渡されたのは1枚の黒い布
「.....?これは?」
突然渡された布を見ながら尋ねる。
「視界制限用の目隠し。いつまでも包帯ってわけにもいかないでしょ?」
(あぁ、確かに)
「ありがとうございます。あの、付け替えてもらってもいいですか?」
遠慮がちに言うと、悟さんは笑顔で....
「いいよ!この
悟さんは片膝をつき、俺の前にしゃがみこんだ。
真新しい黒い布を指先でひらひらさせる。
「えっと……どうすればいいですか?」
「簡単簡単♪ 包帯ほどくよー。目はつむってなよ」
慣れた様子で包帯の端を探し当て、しゅるしゅると解いていく。
次に、頭に何か当たる感触がある。まぁあの布だろう。
包帯のようにきつくなく、ゆったりとしたフィット感だ。
「よーし、できた。もう目開けてもいいよ」
言われたとおりに目を開ける。
(包帯の時よりも少し楽な感じがする...?)
「その目隠しはね、余計な情報が入りにくいように調整されてるんだ。」
確かに――布越しの視界は依然として世界を捉えていたが、
包帯の時よりもノイズが減ったような感覚だ。
「どう?少しは楽になったでしょ?」
「……うん。だいぶ」
「よかったよかった。じゃ、あとは退院の最終チェックだけだね」
悟さんが立ち上がり、軽く伸びをしたところで、
タイミングよく病室の扉がノックされた。
「失礼します。月影くん、診察いいかな?」
白衣の医師がカルテを抱えて入ってくる。
***
「……よし、これで完了です」
医師は一通りの確認を終えると、カルテにペンを走らせながら告げた。
検査結果と診断書の最後の一項目に印鑑を押すと、
白衣のポケットから折り畳まれた書類を取り出す。
「今日一日は安静に。外出は構いませんが無理は禁物です。異変があれば必ず連絡を」
「わかりました」
受け取った書類を鞄に入れようとすると、悟さんにひょいと取り上げられる。
「僕が持っとくよ。君が持ってても無くしそうだし」
軽口に内心反論しつつも、確かにその通りなので頷く。
五条さんはいつも通り飄々としているが、
受付で手続きする際は妙に事務的かつスムーズで、
そのギャップに戸惑ってしまう。
「お世話になりました」
医師に頭を下げてから、悟さんと並んで廊下を歩く。
すれ違う看護師や患者さんが、悟さんを見るたびに二度見している。
(……サングラスしてても分かるくらい顔がいいんだよなぁ。この人。)
悟さんはそんな視線をまったく気にしていない。
むしろ慣れているのか、軽く手を上げて挨拶まで返していた。
「じゃ、受付で最後の手続き済ませてくるから。
うみくんはそこのベンチで待ってていいよ」
「....はい」
言われたとおりにホールの端のベンチに腰を下ろす。
少しして、受付のほうから悟さんの声が聞こえた。
「はーい、サインね。ここでいい? ……うん、了解了解」
事務的なやり取りなのに、
どこか軽い調子なのがこの人らしい。
やがて悟さんが書類を片手に戻ってきた。
「お待たせー。全部終わったよ。さ、行こっか。」
悟さんの後ろをついて病院の玄関を出る。
外の空気は少しひんやりしていて、
たった一日の入院生活だったのに、
妙に懐かしい感じがした。
そのまま悟さんに案内され、
俺たちは孤児院へ向かった。
孤児院の門をくぐると、馴染みのある土の匂いと子供たちのざわめきが胸に沁みた。
玄関で靴を脱いでいると、背後から大きな声が飛んでくる。
「うみくん!おかえりー!!」
振り返ると、遊具小屋の方から春が突撃してきている
それに続くように、他の子供たちも寄ってくる
「遅かったじゃん」やら「その目隠しどーしたの」やら、
その他もろもろの質問攻め。むり、さばききれない。
するとみんなは俺の隣の長身白髪の男に気づいたのか一瞬固まる
「……だれ?超イケメン」
「モデルさん…?」
「…………」
各々、バラバラの反応をし、悟さんを見上げている。
当然ながら、彼らの純粋な視線に五条さんは軽く手を挙げて応えた。
「やっ、僕は五条悟。うみくんの保護者になる予定なんだ」
その言葉にみんなは「え?」という顔で俺を見つめる。
さて、なんといったものかと返答に困っていると、
奥の方から静かな足音ともに、院長がやってきた。
「おかえりなさい、うみくん」
院長先生の穏やかな声が響く。
「ん、ただいまです」
いつもの調子で軽く答える
院長は、それに笑みを見せ頷く。
そして、悟さんをじっと見つめると、悟さんと俺の間で視線を行き来させる。
普段の優しい眼差しとは違う、探るような鋭さがあった。
「……そして」
院長は悟さんに向き直り、一歩前に出る。
「お越しくださったのは……?」
悟さんはサングラスを外し、その青い瞳を見せた。
「初めまして。五条悟と申します。
今日はうみくんをうちで引き取りたいと思いまして、
お伺いさせていただきました。」
「引き取り...ですか。」
「えぇ、いわゆる里親ってやつです。」
「一応、理由をお伺いしても?」
「月影くんの症状を専門的に治療する環境が必要なんです。」
悟さんはサングラスを掛けなおしながらそう語る
「どういうことです?」
「簡潔に言えば」
悟さんの口調が変わる。軽薄さが消え、真剣そのものの空気を纏う。
「うみくんは目が良すぎるんです。
ゆえに、普通の人には見えないところまで見えてしまってる。
人間の脳はそんなところまで処理できるようにはなってませんから、
放っておけば.....」
悟さんはそこで言葉を区切った。それだけで伝わるだろうということか。
こどもの前だっていうこともあるだろう。それにしても...
(上手いなぁ。嘘ではない、でも全部は言ってない。)
「なるほど……」
院長は少し顔を曇らせる
「まぁそんなわけで、一般的な病院環境では対処が難しいんです。」
「では、どのような施設へ?」
院長は冷静に尋ねる
悟さんは軽く笑みを浮かべてサングラスを調整する。
「東京にある特殊療養施設です。専門の医療チームがいて……まぁ少々辺鄙な場所ではありますが」
(療養所…?あぁ、さっき言ってた"高専"のことかな)
ここに戻ってくるまでに聞いた話を思い出す。
---回想---
『ああ、そうだ。うみくんがこれから過ごす場所のことを先に教えとくね』
『過ごす場所...』
『うん、そう。うみくんがこれから過ごす場所の名前は「東京都立呪術高等専門学校」
僕らは略して「呪術高専」とか「高専」って呼んでるんだけどね。
東京の郊外にあって、表向きは宗教法人の運営する教育機関って扱いになってる。
そこが一番安全だからさ、基本的にはそこで暮らしてもらって呪術について勉強してもらう』
---回想終了---
悟さんとの会話を思い出していると、ぎゅっと服が引かれる
そちらに目を向けると、春が涙目で服の裾をつかんでいた。
「嫌だよ!うみくんがいなくなったら誰がブランコ押してくれるの?」
「別にもう会えなくなるわけじゃないよ?
悟さん、週末は戻ってこれるんでしょ?」
「本当?」
春の目が輝やかせて、悟さんに視線を向ける。
「うん、心配しないで。必ず戻ってこれるよう調整するからさ」
悟さんは穏やかに諭すように言ってウインクしてみせる。
その仕草に子供たちが少し緊張を解いたようだ。
「分かりました」
院長は悟さんと私を交互に見ながら静かに宣言した。
「うみくんをお預けします。ただし...」
院長は厳しい眼差しで悟さんを見据えた。
「毎週必ず連絡を入れること、月に一度は面会に来ること、
うみくん自身が『帰りたい』と言った時は即座に帰すこと。
これが守れなければ、すぐに連れ戻します」
悟さんはサングラスの奥でしっかりと目を合わせた後、微笑んだ。
「全てお約束します」
その言葉を聞いて、俺は胸の内で小さく息をついた。
(これで普通とはさよならだね。)
「よし!」
悟さんは軽やかに拳を握った。
「じゃあ荷物まとめたら出発だね!僕は外で待ってるから準備してきなよ」
悟さんはそう言い残して踵を返し、玄関の方へ歩いていった。
俺はしばらくその背中を見送り、
それから黙って、部屋の方へ向かった。
ちょっと長めになりましたが許してください。
ここまで進めたかったんです。