生まれ変わった世界は   作:月影うみ

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3話

「はい、とうちゃーっく!」

 

そう言って、悟さんは車を降りた。

 

俺もそれに続いて外へ出ると、

少しひんやりした空気が肌に触れた。

周囲は静かで、街中とは音の質が違う。

 

「ここが、これからの君の家だよ」

 

(家……)

視界に入ったのは古風な建物群。

寺社仏閣を思わせる荘厳な佇まいだが、その一角には現代的な校舎も見える。

 

「ようこそ、『東京都立呪術高等専門学校』へ」

 

---

『東京都立呪術高等専門学校』――

日本に2校しかない呪術教育機関の1校

---

 

悟さんが軽快に歩き出す。

(ここを潜ったら、もう普通ではいられない)

今一度覚悟を決めて悟さんの後を追う

 

「まずは学長に会おうね」

その足取りは確かで、高専内を熟知しているのが分かる。

 

廊下には学生服姿の人たちが、ちらほら見える。

(あの人たちも...呪術師?)

 

「失礼しまーす」

悟さんがノックもせずおそらく学長室であろう部屋の扉を開ける。

 

「失礼...します」

悟さんに続いて部屋に入ると――

 

――いわゆるコワモテおじさんが人形を作っていた。

(おじさんが可愛いを作ってる.....)

 

「遅いぞ、悟。

攻めるほどでもない遅刻をする癖は直せ」

 

「いやぁ、ちゃんと来たでしょ?

ほらほら、"攻めるほどでもない"って自分で言ってるし」

 

 

悟さんはそう言いながら、肩をすくめた。

咎められているはずなのに、まるで気にしていない。

 

「はぁ、もういい。

それで、その子が例の?」

コワモテさんが人形から視線を上げ、こちらを見ながらそう言うと、

悟さんもチラリと俺を見て、にやっと笑った。

 

「そうそう、本日の主役だよ」

 

(あいさつ、した方がいいよな...)

「月影うみです....よろしくお願いします。」

 

「......夜蛾正道だ。ここ『呪術高専』の学長をしている」

淡白な返答。余計なことは言わないタイプの人かな。うん、見た目通りの人っぽい

 

「夜蛾さん…? 正道さん…? 学長さん…?うーん...」

 

「......好きに呼べばいい。呼び名は別に気にしない」

 

(それじゃあ...)

「わかりました。改めてよろしくお願いします。正道さん」

 

「ああ……」

正道さんはそれだけ言って、再び人形に視線を落とした。

 

「……」

無言の時間が流れる。

(あれ?おしまい?)

 

「学長」

悟さんが唐突に口を開く

「予定通り、今日からうみくんはここに住むことになる。

当面は僕の監督下で生活しながら六眼のコントロール訓練ね」

 

「わかった。書類を用意「それと、」す...?」

スムーズにすすむなぁ、と思っていると、

悟さんが正道さんの発言に割り込んで、ニヤリと口角を上げる。

 

「この子、呪術師にすることにしたから」

 

「……何?」

 

正道さんの手が止まる。

怒りをこらえるかのように、針を持った手が微かに震えている。

正道さんが顔を上げる。先程までと違い、とても重い雰囲気だ。

サングラス越しでも、その視線の鋭さを理解できる。

 

「悟、自分が何を言ってるのか理解しているのか?」

低い声が部屋に響く。

 

「その子は一般人だぞ?症状管理のために――」

 

「この子がさ、なりたいんだって」

 

その言葉に正道さんが口を閉じて、こちらを向く

(すごい迫力....)

 

正道さんは、しばらく俺を見ていた。

 

それから、ゆっくりと息を吐いて、悟さんに視線を向ける

 

「……悟、少し黙っていろ」

それだけ言って再びこちらへ視線を向ける

 

「......なぜ、呪術師になりたい?」

 

(否定からじゃないんだ...

普通なら、たかだか、4歳児の戯言って流すところだろうに)

 

「お前がどこまで聞いてるかは知らんが...死ぬかもしれんぞ?」

 

(この人は"大人"なんだな)

「うん...」

 

「悟さんから聞いた。この目のこと」

目隠し越しに目に触れる。

 

「これを欲しいって思う人たちがたくさんいて、危ないって」

 

「そうだ。だから我々は君を保護しようと動いている」

 

「うん。わかってる。

悟さんたちに守ってもらえば安全だってことぐらい」

 

「ならば、「でも、」...」

 

「この目のせいで、孤児院の人たちも危なくなるかもしれないってことも聞いた。」

 

「俺のせいでそうなるかもしれないのに、

自分だけ安全圏、なんて、そんなの俺が"納得"できない」

 

「.....だから、『呪術師』になりたい」

 

正道さんは、何も言わない。

(なんか間違えたかな...?)

不安に思っていると、正道さんは長く深く息を吐いた。

針を針山に収める音が鋭く響く。正面から俺を見据える。

 

「『納得できない』か……」

低い声が部屋に響く。

 

「4歳の子供の台詞とは思えんな」

(あきれられてる?)

 

「お前の覚悟は分かった。だが改めて聞く──」

 

正道さんの視線がさらに鋭くなる気配。

 

「『呪術師』とは命を張る仕事だ。

喧嘩とは訳が違う。本気の殺し合いだ」

 

「覚悟はある。だが……」

 

正道さんはしばし黙考し──

 

「お前はまだ弱い」

現実をたたきつける

 

「体力も技術もない。『覚悟』だけでは戦えない」

正論。これ以上ないほど当然のこと。まったく否定できる要素がない

 

「だからこそ──」

 

正道さんは床を軋ませて立ち上がった。

 

「鍛える」

 

(...!いいんだ、今の流れで)

 

「悟が教官を買って出た以上、奴の責任だ」

 

「だが私が補佐する」

正道さんは初めてわずかに表情を和らげた。

 

「お前を死なせはせん。それが我々の務めだ」

「よし」

 

悟さんが、ぱん!っと手をたたきながら口を開いた。

(....そういえば、この人居たんだっけ)

 

「じゃあさ。

合格、ってことでいいよね?」

 

悟さんの軽い口調に対し、正道さんは呆れたように天を仰いだ。

 

「……お前はいつもそうやって」

深い溜息と共に鋭い視線が悟さんを刺す。

「試験内容すら事前に伝えず、結果だけ押し付ける」

 

悟さんは肩をすくめて悪びれる様子もなく笑う。

「え~?だって『覚悟』が見たいって言ったのは学長でしょ?」

 

正道さんは、はぁっとため息をつきながらこちらへ向き直る

 

「ようこそ、『呪術高専』へ」

 

「……」

部屋が一瞬静まり返る。

 

「それじゃあ行こうか」

悟さんがくるりと踵を返した。正道さんは何か言いたそうな顔をしたが結局口を閉ざす。

正道さんに一礼してから、悟さんの後を追う。

廊下に出るとひんやりした空気が肌を撫でた。

悟さんはすたすたと迷いなく歩いていく。

 

「はい、到着」

 

悟さんがそういうと、足を止め一つの扉の前に立つ。

 

扉を開けて中に入る。

「おお~」

(意外と広い)

シンプルな机とベッドが置かれていて、窓からは校庭が見える

 

「ここが君の部屋ね。今日はもう休んで、明日は初授業だ」

荷物を置いて窓の外を眺めた。夕暮れの高専が茜色に染まる。

孤児院とは違う、研ぎ澄まされた空気。それでも不思議と安堵があった。

 


 

翌朝。食堂で朝食を摂った後、悟に連れられ教室へ向かった。

黒板のある普通の教室だが、棚には奇妙な標本ケースが並んでいる。

 

「じゃあ今から『呪術の基礎講座』を始めまーす!」

悟さんが、ぱちぱちと手をたたきながら宣言する

「あ、ここからは僕のこと『先生』って呼んでね」

 

(先生...急に学校っぽい)

「うん。わかった、せんせい」

 

「うんうん、素直でよろしい」

悟さんは満足げに手を合わせる。

 

「じゃあ、呪術に関して説明をする前に、

一つだけ覚えておいてほしいことがある」

 

「この世界にはね、

"見えないからって、存在しないわけじゃないもの"がある」

 

「?」

不思議な言い回しに頭をかしげる

 

悟さんは、その様子を見てかふっと笑って説明をつづける

 

「人はね、感情を持つ」

 

「好きとか、信じるとか、祈るとかの正の感情

反対に、怖いとか、嫌だとか、憎いとかっていう負の感情

そういうの、誰にでもあるでしょ」

 

少し間を置いて、続ける。

 

「そういう感情が、溜まると――

形になることがある」

 

「……感情が、形に?」

 

「そうそう」

 

悟さんは、軽く頷いた。

 

「正の感情で言えばさ。

神様とか、そういうの」

 

「まあ、実際にいるかどうかは知らないけどね」

 

(いたなぁ、神様)

この世界に来る前のことを思い出す

 

「で、問題なのは――」

 

悟さんの声が、少しだけ落ちる。

 

「負の感情の方」

 

「負の感情はね、溜まると"呪い"になる。

呪いが集まると形になって、勝手に動き出す」

 

「そんな風に、負の感情が集まって人を害する形になったものを

僕らは"呪霊"って呼んでる」

 

「呪霊.......」

聞きなれない言葉を反芻する俺に、悟さんは少しだけ笑った。

 

「そんな危ない呪霊たち、

もしそれが"見えない"としたら?」

 

「避けられない...?」

 

「そう。そして――

――普通の人にはそれが見えない。」

 

「…………なんで見えないの?」

 

「普通の人には、

それを"見るための力"が足りないんだよ」

 

「ちから?」

 

「そう。さっき、負の感情は集まって呪いになるって言ったよね?」

 

その問いにうなずいて答える

 

「実は呪いになるまでにもう1ステップあってね。

負の感情っていうのは、呪力ってエネルギーに変換されるんだ。

その呪力が集まって形作られるのが呪霊...」

 

「つまりさ、呪霊っていうのは呪力の塊なわけ。

だから、呪力を持ってないと、見えないし、触れない」

 

「.....普通の人にはないの?」

 

「んー。ないっていうよりは少ないって感じかな」

 

「少ないから、それを知覚する機能が発達してない

知覚する機能が発達してないから、呪力の塊である呪霊を認識できない」

 

「なるほど...じゃあせんせい達は?」

 

「僕たち?」

 

悟さんは、少しだけ肩をすくめた。

 

「生まれつき見える人もいれば、

後から見えるようになる人もいる」

 

「基本、共通してるのは、呪力がある程度より多いこと。

そして――呪力を"使える"こと」

 

「……つかう?」

 

「そう。呪力を意識して、

外に出したり、形を変えたりできる人間。

それを『呪術師』って呼ぶ」

 

「呪霊は呪力の塊、呪力でしか干渉できない。

つまり、"呪いを祓えるのは呪いだけ"

呪力を使えないと、呪霊をやっつけれない」

 

(呪いは呪いでしか祓えない――)

理解した。これから自分のすることを。

 

「――だから、僕たち『呪術師』が祓う。

呪霊を見れて、呪霊に干渉できる力を使える、僕たちが。」

 

「呪いで呪いをやっつける.....それが呪術師」

悟さんの話を頭の中でまとめていく

(ひとまず、呪力を扱えるようにならなきゃ話にならないのか)

 

「――と、ここまでは話としては簡単な方」

 

「呪力が使えるだけじゃ、戦ってくのは難しい」

どうやら、まだこれ以上のものがあるらしい

 

「同じ呪力でも使い方次第で全然変わるからね」

 

「使い方?」

 

「そう。どうやったら呪力を強く扱えるかって話さ

そのやり方を、僕たちは"術式"って呼んでる」

 

「で、これからその術式の説明を、

って思ったけど、いったん休憩にしようか。

もう結構時間たったし」

 

言われて時計を見ると、なんと昼過ぎ。

(確か、朝ごはんのあとすぐに始めたよね?

そんなに時間たった気がしないなぁ)

 

「一時間くらい空けるからゆっくりしててよ」

そういって、悟さんは教室を出て行った

 

(とりあえずご飯食べよ)

 

ご飯を終えて教室に戻る。時計を見るとあと30分くらいある。

(ちょっと寝とこう...)

椅子に座り腕を枕に机に突っ伏す。

 

意識が次第にぼんやりしてくる。

まどろみに身を任せて――

 

目を閉じた。




一話一話のタイトルがいいの思いつかないからとりあえず数字にしてるんですけど
「こんなのどう?」みたいなのがあればコメントに書いてくれると嬉しい...
採用させてもらうかも
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