廻る世界、渡る魂   作:月影うみ

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挑戦――万能VS最強

吹き荒れる風を切り裂きながら、更地と化した瓦礫の山へと一直線に降下していく。

眼下でこちらを見上げるのは、四つの真紅の瞳と四本の腕、そして腹部に異形の口を持つ完全無欠の呪いの王。

 

(……とりあえず御厨子が厄介だから、初手にこれ見よがしの『蒼』を打ち込んで、展延主体の戦い方にさせるか)

 

重力に従って落下しながら、うみは六眼から流れ込む情報を極めて冷静に処理していた。

 

現在、宿儺が無下限の不可侵を突破する手段は、五条を両断した『世界を断つ斬撃』か、

あるいは術式を中和する『領域展延』の二択しかない。

無下限に適応していた魔虚羅は、すでに五条が消し飛ばしている。

 

ならば、無下限術式を分かりやすく見せつけることで、

宿儺に「展延を使わなければダメージを与えられない」と強制させるのが、

最も被害を抑えられる合理的な初手だ。

 

「――術式順転」

 

――出力は最大。虚空に手をかざし術式を発動する。

 

「『蒼』」

 

放たれた絶対的な引力の球体が、凄まじい轟音と共に空気を捻じ曲げ、宿儺の立つ大地ごと抉り取るように殺到する。

着弾の爆音と、もうもうと舞い上がる巨大な土煙。

その視界不良のどさくさに紛れて瓦礫の上に音もなく着地したうみは、

一切の躊躇なく土煙の奥に潜む異形の気配へと鋭く踏み込んだ。

 

「来い、小童」

 

土煙を強引に払い除けた宿儺の巨体が、踏み込んできたうみを迎え撃つ。

うみの放った渾身の初撃は、宿儺の腕に容易く受け止められた。

と同時に、宿儺の余った三本の腕のうち、下部の二本がうみの胴体めがけて無慈悲な連撃を放つ。

 

(……とりあえず腕が四本もある以上、掴まれたらアウトだ)

 

うみは即座に引きの体勢に入り、宿儺の猛攻をスレスレで回避する。

瓦礫を砕き、空気を震わせる呪いの王の乱打。

 

宿儺の拳が、うみの纏う無下限の『不可侵』に触れる。

瞬時に展延が発動し、術式が中和され、絶対の防御が破られる。

だが、宿儺との攻防の中うみの脳内で、ひとつの冷静な分析が完了していた。

 

(……不可侵の中和と、俺への衝突までにラグがあるのか。それに中和できるのは触れたとこだけ。

四本腕を捌くのはしんどいなぁって思ってたけど、割と余裕あるな? これ)

 

展延がうみの無下限を中和し、実際の肉体に打撃が到達するまでのわずかなタイムラグ。

うみの眼と情報処理能力、そして反射神経は、その僅かなズレを利用して四本腕の軌道を完璧に読み切っていた。

 

(分かってはいたけど、結構舐めてくれてるのも好都合……。今のうちに、一発入れておきたい)

 

うみは宿儺の蹴りを紙一重で躱し、後方へと大きく跳躍して距離を取った。

そして、着地と同時に再び術式を起動する。

 

(とりあえずまずは1本。ここで使うか)

 

今度は攻撃ではない。うみの作り出した『蒼』の引力が、

周囲に散乱する無数の瓦礫を浮き上がらせ、宿儺めがけて猛スピードで引き寄せる。

 

「クックッ……五条悟の猿真似か。芸がない」

 

宿儺は飛来する瓦礫の雨を意に介することもなく、腹部の口で嘲笑う。

先刻の五条は、こうして視界を塞いだ死角から背後へと回り込み、打撃を放ってきた。

故に宿儺は、視界を覆う瓦礫の群れを煩わしげに腕で払い除けながら、その奥から飛び込んでくるであろううみの動きを冷徹に探っていた。

 

だが、うみの狙いは瓦礫そのものでも、死角からの奇襲でもない。

 

(いけ)

 

うみは跳躍の最中、懐から取り出していた『黒く無骨な円筒形の代物』のピンを弾き飛ばし、

引き寄せられる瓦礫の群れに紛れ込ませて投擲した。

 

無数の瓦礫に混じって飛来するその異物――軍用の『スタングレネード』を、宿儺の四つの瞳は確かに捉えていた。

だが、宿儺はそれに何の対処もしなかった。

 

無理もない。その物体からは呪力のカケラも感じられず、形状から殺傷能力も見受けられない。

そして何より、宿儺の生きた平安の世には存在しなかったもの。

自身の器の虎杖悠二や伏黒恵の記憶の中でも見かけたことはなかった。

 

故に宿儺はそれを『ただの瓦礫と同じガラクタ』と判断した、その直後。

 

――閃光。

 

宿儺の眼前に到達した円筒が炸裂し、100万カンデラの強烈な閃光と、空気を劈く180デシベルの爆音が新宿に弾けた。

 

「……ッ!?」

 

呪力の有無など関係ない、純粋な物理現象による視覚と聴覚の破壊。

不意を突かれた四つの瞳が真っ白に灼かれ、三半規管を揺るがす爆音に呪いの王の動きがコンマ数秒、完全に停止する。

 

その絶対的な隙を、うみが見逃すはずがない。

 

(よっし!完璧!!)

「……せーのっ!!」

 

自らは投擲と同時に目を閉じ、聴覚を呪力で保護していたうみが、白い残像を引いて宿儺の懐へと潜り込む。

右の拳を深く引き絞り、術式を起動する。

 

(……インパクトの瞬間に、引き寄せる!)

 

打撃が触れるその極小の瞬間に『蒼』の引力を重ね合わせることで、擬似的なカウンターを強制的に生み出す一撃。

 

宿儺の視界が回復するより早く。

うみの拳が、呪いの王の脇腹に深々と突き刺さった。

 

◆◆◆

 

時間を少しだけ遡る。

待機室のモニターに、空から降下していくうみの姿が映し出された瞬間。

 

「……ホントに行きやがった。あのバケモノの前に、一人で」

 

日下部が、ギリッと奥歯を噛み締めながら呻いた。

事前に日車の領域展開前の15分間をうみが引き受ける作戦は決まっていた。

だが、実際に鹿紫雲を一瞬で屠った完全体の宿儺を前に、

全く怯むことなく飛び込んでいくその姿は、歴戦の術師たちにすら戦慄を覚えさせる。

 

「うみくん……っ」

三輪は両手で顔を覆いながらも、指の隙間から食い入るようにモニターを見つめていた。

『死なない戦い方なら誰よりも上手い』といううみの言葉を信じてはいる。だが、震えは止まらなかった。

 

モニターの中では、『蒼』による一撃を皮切りにうみと宿儺の戦闘が始まっていた。

 

「おいおい……! マジかよ」

パンダが身を乗り出し、驚愕の声を上げる。

 

「四本腕の連撃を、全部捌ききってる……!」

乙骨もまた、信じられないものを見るように目を見開いた。

 

展延によって『不可侵』を破られながらも、うみは紙一重で宿儺の拳を対処し続けている。

 

 

「無下限を中和されて肉体に届くまでの、ごくわずかな『ラグ』を読んで動いてるんだ……呪力操作と反射神経の化け物かよ」

日下部が冷や汗を流しながらその神業を解説する。

 

その時、画面の中のうみが『蒼』で瓦礫を引き寄せた。

 

「あれ、五条先生がやってた……!」

虎杖が声を上げる。

 

「馬鹿っ、同じ手があの宿儺に二度も通じるわけねぇだろ!!」

真希が焦燥の声を張り上げた。

宿儺が瓦礫を払い除け、死角からの奇襲を完璧に警戒している様子が画面越しにも伝わってくる。

 

だが、次の瞬間だった。

モニターの映像が、突如として真っ白な光に包まれた。

 

「うおっ!?」

「何だ!? 術式か!?」

待機室の面々が思わず目を細める。

 

「いや、あんな術式は見たことがない。

なにより宿儺が一切の反応を示していないところを見るに呪力によるものじゃないのだろう」

 

冥冥が即座に看破する。

 

「まさか、軍用のフラッシュグレネード!?」

うみがコロニーへ何かを探しに行っていたことを知る乙骨が、ハッとして叫んだ。

 

画面の光が収まった直後、完全に虚を突かれた宿儺の懐に、うみの拳が深く沈み込んでいるのが映し出された。

 

「入ったァ!!」

虎杖が、歓喜の声を張り上げた。

 

だが、その歓喜に沸く虎杖の横で、日車がモニターから目を離さずに怪訝な声を漏らした。

 

「いや、待て……」

 

「え?」

 

「うみくんの表情が……」

乙骨が気づいたように目を細める。

 

モニターに映るうみの顔は、会心の一撃を入れたはずの明るいものではなかった。

むしろ、不満げに眉をひそめ、舌打ちでもしそうなほど悔しげに歪んでいた。

 

◆◆◆

 

(ああもう! ズレたッ!!)

 

新宿の更地。

拳が宿儺の肉体を捉えたその瞬間、うみは内心で悪態を吐き捨てていた。

 

(できればここで一発、入れときたかったのに!)

 

うみがこの奇襲で狙っていたのは、ただの打撃ではない。

空間の歪みから生じる黒い火花――『黒閃』。

 

六眼による圧倒的な情報処理と、強化睡眠記憶によるこれまでの経験の蓄積。

 

うみは己の感覚と学習能力をもって黒閃発生の条件をある程度導き出していた。

もちろん、そのシビアな条件を実戦の中で整えるのは至難の業であり、おいそれと乱発できるものではない。

だが、一度条件を整えて『狙い』さえすれば、体感で7割ほどの確率で成功させる自信があった。

 

完全に視界を奪った今のタイミングこそ、その条件が整った絶好の好機だったはずだった。

否。絶好の好機だったからだろうか。

 

(ここで、一発――!)

 

その強すぎる思い入れと焦りが、ほんの僅かに、うみの呪力操作を狂わせた。

打撃と呪力の衝突誤差。その極小のズレを生み出すには十分すぎる精神のブレ。

結果として自身でも想定していた『失敗の3割』を見事に引き当ててしまったのだ。

 

(……まあ仕方ない。もう一回チャンスを作るための策はある。まだ最悪じゃない)

 

うみは内心の舌打ちを即座に呑み込み、表面上は余裕の笑みを顔に貼り付けた。

宿儺の視界は、まだあの強烈な閃光から回復しきっていないはずだ。

 

「どう? 現代科学もなかなかなものじゃない?」

 

うみは、重い一撃を食らってわずかに後退した宿儺に向かって、いつも通りの声で言い放った。

 

「特に、そんなに目があるとたまんないでしょ」

 

その軽口に対し。

白く灼かれた四つの瞳を細めたまま、宿儺は腹部の口から低く不気味な声で嗤った。

 

「……まあ、捨てたものではないな。未だに視界が不安定だ」

その様子にはいまだ余裕の色が見える

 

(……まあ、あの程度じゃ崩せるわけないし)

 

うみは内心で冷静に現状を分析する。

宿儺の視界が完全に回復していない今こそ、手数を叩き込む最大の好機だ。

 

(もうちょい攻めとくか……

いつ視界が戻るかわからないし……踏み込みすぎないくらいに)

 

うみは足元の瓦礫を蹴り砕き、無下限の『不可侵』を纏ったまま正面から一直線に突貫した。

宿儺の視界はまだ白いノイズに覆われているはずだが、千年の戦闘経験を持つ呪いの王は、気配と音だけでうみの接近を正確に感知していた。

 

「単調だな」

 

宿儺が迎撃のために下部の二本の腕を振り上げる。

圧倒的な呪力と物理的な質量を宿した豪腕が、うみの進行方向を完全に塞ぐ。

 

(もうちょい……ここ!)

 

宿儺の拳が届く直前、うみは纏っていた無下限呪術をスッと解除し、同時に虚空へ不可視の線を二枚射出する。

 

空中に展開した一枚目の線を思い切り蹴りつける。

凄まじい反発力が、うみの小柄な身体を弾丸のように加速させた。

直進していた軌道が真横へと折れ曲がり、宿儺の迎撃を間一髪ですり抜ける。

 

そして、そのままの勢いで空中の二枚目を蹴りつけ、再加速。

目まぐるしい二段跳躍による変則的な三次元軌道が、視界の不完全な宿儺の死角を完全に突き、瞬時にその背後へと回り込んだ。

 

(……次!!)

 

背後を取った跳躍の最中、うみは即座に別の術式へ切り替える。

そのまま空中で右拳を振りかぶり、背を向けている宿儺へ向けて強烈な打撃を仕掛ける。

 

変則的な高軌道。そして死角からの奇襲。

だが、呪いの王はそれにギリギリで反応し、即座に振り返りながら残った二本の腕を交差させて鉄壁の防御を敷いた。

 

だが、意味はない。

うみの拳が、防御を固めた宿儺の腕に叩き込まれたその瞬間。

凄まじい空間の歪みと共に放たれた衝撃波は、宿儺の物理的な防御を完全に無視し、

交差した腕を透過して直接その巨体へと伝播した。

 

「……チッ」

 

防御不可能の衝撃をモロに受けた宿儺の巨体が、更地の瓦礫を次々と粉砕しながら、後方へと大きく吹き飛ばされていった。

 

(やっぱり使い勝手いいな、烏鷺さんの術式。

……それにしても、視界不良のなかでも防御が間に合うとは。実は結構戻ってきてる?)

 

うみは内心で舌を巻きながらも、吹き飛んでいった宿儺が激突した瓦礫の山へと、悠然と歩みを進める。

急いで追撃をかける素振りはない。

 

もうもうと舞い上がった粉塵の向こう側。

瓦礫に埋もれるようにして座り込んだ呪いの王の四つの瞳から、次第に白いノイズが晴れていく。

 

強烈な閃光と爆音によって奪われていた視界と聴覚が、ようやく明確なピントを結び始めたのだ。

視界の先には、瓦礫を踏みしめながらこちらへ歩いてくる小柄な術師の姿がはっきりと映し出されていた。

 

「防御不能の打撃とはな」

 

宿儺は瓦礫に背を預けたまま、痛みを気にする素振りすら見せずに低く笑った。

 

「つくづく多芸なことだ」

 

「『天衣無縫』って術式を応用したものだよ。空間を面としてとらえてそこに打撃を加えるらしい

空間への攻撃って点だと、悟さんへ打った斬撃と一緒だね。規模は全然違うけど」

 

あっけらかんと種明かしをするうみに対し、宿儺は瓦礫の上で頬杖をつくようにして目を細めた。

 

「……空間への攻撃か。なるほど。不可侵の術式といい、小賢しい手札ばかり揃えている」

 

「この術式を持ってた人はアンタのこと知ってたよ」

うみは瓦礫の手前でピタリと足を止め、宿儺を見据えて言葉を続ける。

「昔に視たこと……いや一発もらったことすらあるんじゃない? 日月星進隊の元隊長だったらしいよ」

 

日月星進隊。

その単語を聞いた瞬間、宿儺の四つの瞳に微かな思案の色が浮かんだ。

 

「……ほう。藤原の暗殺部隊か。確かに、空を引く小癪な女がいたな」

宿儺の脳裏に、千年前の記憶が薄っすらと蘇る。

とはいえ、呪いの王にとっては取るに足らない有象無象の一人に過ぎない。

 

だが、宿儺はゆっくりと立ち上がり、巨体についた土埃を払いながら、目の前の小柄な術師をねめつけた。

 

「千年前の術師の技。それに五条悟の無下限呪術。……それと先の変則軌道もか」

 

宿儺は四つの瞳でうみを値踏みするように見下ろし、口角を歪めて嗤う。

 

「小僧の記憶にある以上、貴様の術式が『模倣』であり、

手札が多いことは知っているが……あとどれだけのものを隠し持っている? 今のところはつまらんぞ」

 

そして、明確な強者の傲慢さをもって言い放った。

 

「俺を退屈させないんだろう?」

 

「言ってくれるなぁ……まだまだここからだよ」

 

圧倒的なプレッシャーを伴うその声。

並の術師であれば、その殺気と呪力の圧だけで膝を折っていてもおかしくはない。

 

だが、うみは瓦礫の上に立つ呪いの王を見据え、ふっと口角を上げて笑った。

 

「言ってくれるなぁ……」

 

どこまでも自然体で、飄々とした声。

 

「まだまだ、ここからだよ」

 

◆◆◆

 

「……今は、どっちが有利なんだ?」

 

待機室のモニターを食い入るように見つめながら、虎杖がポツリとこぼした。

画面の中では、規格外の二人の戦闘がいったんの静寂を迎えている。

 

「見栄えはうみが押してるように見えるけど……一発ももらってないし」

パンダが腕を組んで唸る。

 

「ああ。だが効きは微妙だな」

日下部がタバコを指に挟んだまま、険しい顔でモニターを睨みつけた。

防御不能の一撃を食らってなお、完全体となった宿儺はピンピンして立ち上がっている。

 

その言葉に重苦しい空気が流れる中。

 

「……今更ではあるが」

モニターを見つめていた日車が、ふと疑問を口にした。

 

「月影は、どれくらい強いんだ?」

 

日車のその問いに、待機室の面々が顔を見合わせた。

無理もない。

 

日車や来栖華からすれば、彼の戦闘を見るのはこれが初めて。

周囲が認めていることから一定以上の実力は備えているのは理解できるが、

呪いの王を相手に、単身しのぎ切れるかは疑問なところだ。

 

「……ぶっちゃけ、よくわからん」

沈黙の後、代表して日下部が頭を掻きながら答えた。

 

「呪力操作と身体操作の精度は、間違いなく一級の中でもズバ抜けてる。それは間違いない」

日下部はそこまで言って、やれやれと息を吐く。

 

「だが、術式の都合上、できることが多くてな。

あいつ基本的に単独任務で一人で戦うことが多いし、誰かと組んで戦う時はサポートに回りがちなんだよ。

あいつが『本気で』戦ってるところを見たことある奴、この中にいるか?」

 

その問いかけに、待機室はしんと静まり返った。

長い付き合いのパンダや共に死線を潜った乙骨や虎杖でさえ、

うみが限界まで追い詰められ、全ての手札を曝け出して戦う姿を見たことがないのだ。

 

静寂を破るように、モニターの中の戦況が再び動き出した。

 

宿儺の視界が、ついに完全に戻ったのだ。

瓦礫の上に立つ呪いの王は、再開された目まぐるしい攻防の中で、

四本の腕でうみの打撃を捌きながら、腹部の口から愉悦に満ちた声を響かせる。

 

『大体は、見えてきたぞ』

 

『無下限呪術の不可侵を絶対の盾として構え、俺の出鼻に合わせて術式をすげ替える。

徹底して"後の先"を掠め取る腹積もりか』

 

『……解説しないでよ。性格悪いなぁ』

 

図星を突かれたうみは、表情を変えないまま反射線を起動し、死角へと回り込もうとする。

だが、その動きの先には既に宿儺の巨体が待ち構えていた。

 

『貴様の変則的な動きにも慣れてきた……その上で問うが、これはどうする?』

 

『……ッ!』

 

宿儺の余った腕が、うみの進行方向を完璧に予測してその足首をガッチリと掴み上げる。

そのまま容赦のない力で、うみの小柄な身体が更地の彼方へと力任せに投げ飛ばされた。

 

空中で体勢を立て直すうみ。

だが、投げ飛ばされたことで、宿儺の掌印や指向性を妨害するには遠すぎる距離が生まれてしまった。

 

宿儺は、即座に空中に放り出されたうみに上部の片腕でピタリと照準を合わせ、下部の二本の腕で掌印を結ぶ。

 

そして。

 

『龍麟』

 

モニター越しに響いたその低い声と、宿儺の特異な構え。

それを見た瞬間、待機室の空気が一瞬にして凍りついた。

 

「おい! ヤバいぞ!!」

虎杖が椅子を蹴り飛ばす勢いで立ち上がり、血の気を失った顔で叫ぶ。

 

「避けろ、うみ!!」

日下部が、指に挟んでいたタバコを握り潰しながら怒声に近い悲鳴を上げた。

 

だが、うみは空中に投げ出されたばかりだ。

さらに、空中機動による回避を行おうにも、先ほど変則的な動きを完璧に予測され、捕らえられた事実が重くのしかかる。

 

空中でどれだけ強引に回避行動をとろうとも、ピタリと合わされた腕の指向性を即座に修正され、一刀両断される未来しか見えない。

 

待機室の面々が最悪の結末を幻視したその時。

モニターの中の呪いの王が、無慈悲に呪詞の詠唱を終える。

 

『番の流星』

 

放たれるのは、世界を断つ斬撃。

不可視の一閃が、空間そのものを断ち切りながら、空中のうみの小柄な身体を真っ直ぐに捉えた。

 

ズバァンッ!!

 

「……っ!!」

 

三輪の絶叫すら喉の奥で凍りついた。

モニターには、不可避の斬撃をモロに受け、無残にも"真っ二つ"に両断されたうみの身体が映し出されていた。

 

つい先ほど、五条悟が迎えたのと同じ凄惨な光景。

待機室にいる全員の脳裏に、拭いきれない絶望のトラウマがフラッシュバックする。

 

――だが。

 

「……え?」

絶望の淵で、虎杖が間抜けな声を漏らした。

 

突如モニターの中の呪いの王が不自然な動きを見せたのだ。

 

宿儺は、自ら真っ二つに両断したはずのうみの残骸から即座に視線を切ると、

突如何もない虚空――自身の背後へと急激に向き直り、防御姿勢をとった。

 

その直後だった。

 

何もないはずの虚空から、ノイズが走るようにしてうみが姿を現した。

そしてそのまま呪力で固められた重い一撃が宿儺の防御の上から容赦なく叩き込まれた。

 

ズドンッ!!

 

強烈な打撃音と呪力の衝突が弾ける。

そこに確かな『実体』が存在するという事実が完全に証明されたその瞬間。

宙を舞っていた『真っ二つになったうみ』の肉体が、陽炎のごとく掻き消えた。

 

『気づくの早すぎるでしょ!!』

うみの忌々しげな悪態が響く。

 

「生、生きてる……ッ!!」

「どういうことだ!?」

 

虎杖とパンダが絶望から一転、安堵と混乱の入り混じった声を上げる。

しかし、真っ二つになったはずの肉体が消え、無傷のうみが現れたという理解不能な現象に、誰もが困惑を浮かべていた。

 

そして、その答えは戦場で向かい合う二人によってすぐに明かされた。

 

『十種か……式神を出している様子はなかったが?』

宿儺はどこか感心したような、それでいて値踏みするような声を返す。

 

『やり方はあんたが散々見せてくれてたからね。いいお手本だったよ』

うみはは不敵に笑い皮肉気味に返す。

 

「……なんだそういうことかよ。マジで寿命縮んだぞ……」

パンダが、どっと疲れたようにその場にへたり込んだ。

 

「幻狐の幻覚か……! まんまと騙されたぜ、ビビらせやがって」

日下部も、膝に手をついて大きな安堵の息を吐き出す。

三輪をはじめとした他の面々も、どっと肩の力を抜いて安堵の空気が広がる。

 

一度距離を取り、構え直すうみ。

宿儺は依然として隙を見せない。

 

うみは一歩、踏み出した。

その瞬間だった。

 

これまでの移動や、反射線による加速とは、全く次元の違う加速。

コマ送りのようにブレる異常な初速をもって、うみの身体が宿儺の眼前へと迫る。

 

『速いな』

 

宿儺がその異常な速度を認識し、迎撃のために腕を振るった直後。

うみは攻撃を仕掛けるのではなく、宿儺のその腕にペタリと掌を触れた。

 

ヴンッ!!

 

次の瞬間、宿儺の巨体が完全に静止する。

空中に固定された、一枚の薄いパネルのように。

 

フリーズして完全に無防備となった宿儺の巨体へ向け、

うみは深く沈み込み、渾身の呪力を込めた右拳を叩き込んだ。

 

バリンッ!!

 

フリーズしたパネルごと粉砕するような強烈な打撃が炸裂し、

宿儺の巨体が再び更地の彼方へと弾き飛ばされる。

 

「なっ!?」

「今のは……」

 

モニター越しにその異常な光景を見ていた待機室で、真希が驚愕に目を見開いた。

 

「『投射呪法』……!!」

「はあ!? 禪院家の相伝術式じゃねぇか! 何でうみが……」

日下部が信じられないものを見るように叫ぶ。

 

「直哉の野郎からパクりやがったのか……」

真希が悪態をつきつつも、その事実を誰も知らされていなかったことに、

待機室の面々はまたしても戦慄と驚愕を隠せなかった。

 

更地をバウンドしながら吹き飛ぶ宿儺。

だが、その巨体が体勢を立て直すより早く、うみは投射呪法の異常な加速で追撃をかけていた。

コマ送りのような奇妙な軌道で一瞬にして宿儺の懐に潜り込むと、流れるような連撃を叩き込む。

 

『この術式のもとになる概念が生まれたのが、今からだいたい130年前……』

 

目まぐるしい打撃の応酬の中、うみはあえて飄々とした声で術式のヒントを開示する。

 

『随分長いことお昼寝してたアンタじゃ、さっぱりでしょ?』

 

『……クソガキが』

宿儺の怒気を孕んだ剛腕が、うみをすり潰すように振り下ろされる。

だが、ここまでの観察からの分析により、その迎撃すらも先読みしたかのように紙一重で躱す。

そして、空振りによって体勢の崩れた宿儺の腕に、再びその掌をペタリと這わせた。

 

だが。

 

『……ッ!?』

うみの視界で、宿儺の巨体が『フリーズ』しなかった。

それどころか、宿儺の姿がコマ送りのようにブレたかと思うと、

これまでの彼の動きとは一線を画す異常な超加速を見せたのだ。

 

「なっ……フリーズしなかった!?」

モニターの前で、虎杖が叫ぶ。

 

「……一度食らっただけで、あの術式のルールを完全に理解して、自分に適用したってのか。あのバケモノは……!」

 

真希が、ギリッと奥歯を噛み鳴らす。

投射呪法を破るには、術者と同じように24フレームの動きを構築しなければならない。

 

宿儺は、うみがペタリと触れた瞬間、その術式の強制ルールを即座に理解し、

自ら『1秒間に24フレームの動き』を完璧に構築してフリーズを回避してみせたのだ。

 

それを、たった一度の経験だけでやってのけた呪いの王の圧倒的な呪術センスに、

再び重い空気に包まれる。

 

超加速による宿儺の反撃。

四本の腕から繰り出される目にも留まらぬ乱打が、うみを襲う。

 

『ッ……!』

うみは動体視力と反射神経で、致命傷となる一撃だけをギリギリで捌く。

だが、投射呪法の加速すら上乗せされた呪いの王の連撃を、すべて防ぎ切ることなど不可能だった。

 

ドゴォォォンッ!!

 

『がッ……!』

防ぎきれなかった重い拳が胴体を捉え、うみの小柄な身体が砲弾のように弾き飛ばされる。

無数の瓦礫を粉砕し、土煙を上げながら更地の奥深くへと吹き飛んでいった。

 

◆◆◆

 

「……ッ、いってて……」

もうもうと舞い上がる粉塵の中。

一点読みして呪力を固めてダメージを抑えたものの、

瓦礫の山に深くめり込んだうみは、身体を襲う痛みに顔をしかめていた。

 

(もう対応されたのか……。あと二回は通る想定だったんだけど)

うみは瓦礫を払い除け立ち上がりながら、内心で舌打ちをする。

 

「対応早くない? もうちょっとかかる想定だったんだけど」

 

うみは、土煙の向こうから悠然と歩みを進めてくる宿儺へ向けて、恨めしそうに声をかけた。

 

「クックッ……一秒を二十四に分割し、一秒以内に二十四の動きを作る。

それに反すればフリーズする、だったか」

宿儺は四つの瞳を細め、うみの仕掛けてきた投射呪法のルールをいとも容易く口にする。

 

「生憎と、小僧の肉体が一度それを経験済みでな。思い出し、感覚を合わせるのにそう時間はかからなかった」

 

(……悠二先輩とあの二人のどっちかが接触する機会があったのか。これは想定外)

 

虎杖悠仁の記憶。それが宿儺への強烈なアシストになってしまったという事実に、うみは静かに思考を回す。

だが、絶望や焦りはない。

 

(まあいいや。もともとこれはネタが割れる前提。それがちょっと早くなっただけのことだし)

 

パラパラと肩に乗った瓦礫を払い落とし、うみは再び深く息を吐き出した。

 

「せーかい。フレームレートってシステムでね」

 

うみは瓦礫の上で軽く足を踏み鳴らし、あえて饒舌に語り始める。

 

「この術式のベースになった概念が生まれたのが、今からだいたい130年前。人間が『動く絵』を作ろうとした時にたどり着いた仕組みなんだ」

 

宿儺は油断なくうみを見据えたまま、その言葉を黙って聞いている。

 

「1秒間っていう時間を、24枚の静止画――『フレーム』に切り分ける。

それを超高速で連続再生することで、人間の目には滑らかに動いているように錯覚させる。

この『1秒間に24フレーム』っていうのが、俺たちの世界の映像表現における一つの標準規格ってわけ」

 

ただ術式のルールを復唱するのではない。

宿儺にとって未知の時代で培われた『概念』そのものを言語化して叩きつける。

 

「アンタは感覚だけでそのルールをトレースしたみたいだけど……本来、

その24枚の静止画の設計図を脳内であれだけの動きを完璧に組むって、

途方もない想像力と情報処理が必要なはずなんだけど……」

 

術式のベースとなる未知の概念を開示したことで、縛りが成立する。

術式の出力が上昇、さらに一段階その密度と圧を増した。

 

うみが再び瓦礫を蹴り飛ばす。

先ほどの加速すら児戯に等しい、空間を削り取るような超絶なスピードで宿儺の眼前に迫る。

放たれた拳の軌道に合わせて、宿儺もまた迎撃の構えを取る。

 

宿儺がうみの動きを完璧に見切り、その剛腕を振り下ろそうとしたその瞬間。

うみは紙一重でその迎撃を躱し、再び宿儺の腕にその掌をペタリと這わせた。

 

「懲りんな。もう三度目だ。同じ手は通用せんぞ」

 

触れられた瞬間、宿儺は「24フレーム」の動きを完璧に構築しながら、余裕の笑みを浮かべて言い捨てる。

 

だが。

 

「……言い忘れてたけど」

 

投射呪法の判定は、宿儺のその動きを無慈悲にも『反則(エラー)』と見なした。

 

ヴンッ!!

 

「……ッ!?」

 

宿儺の巨体が、再び空中に不自然なパネルとして固定される。

完全に虚を突かれた呪いの王の静止画へ向け、うみは術式の開示によって底上げされた渾身の拳を叩き込んだ。

 

バリンッ!!

 

ガラスが砕け散るような音と共に、フリーズしたパネルが粉砕され、

宿儺の巨体が再び強烈な衝撃と共に後方へと吹き飛ばされていく。

 

「現代の主流は『60』なんだ」

 

更地を転がる宿儺を見下ろしながら、うみは悪戯っぽく嗤った。

 

「24じゃ、全然足りないよ」

 

宿儺は粉砕された瓦礫の中で、ギリッと奥歯を鳴らす。

未知の概念を完璧にトレースした自負を、さらに先の技術で上書きされた屈辱。

四つの真紅の瞳が、瓦礫の上から見下ろすうみを鋭く射抜いた。

 

その刺すような殺気を受けながらも、うみは飄々とした態度のまま、追い打ちをかけるように付け加える。

 

「ちなみに、現代の最大レートは『144』なんだってさ」

 

その言葉を聞いた瞬間。

 

「……おしゃべりが過ぎたな」

 

土煙の中から、低く地を這うような声が響いた。

宿儺は粉砕された瓦礫を払い除けることもせず、ゆっくりと身を起こす。

 

土煙の中から、低く地を這うような声が響いた。

四つの真紅の瞳が、うみを射抜く。

 

「ならば、常に最大数で動きを構築すればいいだけの術式だろう。

貴様は、その情報を開示するべきではなかった」

 

うみは、宿儺の威圧を意に介さず、肩をすくめてみせる。

 

「……どうだろうね?」

 

その宿儺の推測に対し、うみは明確な肯定も否定も口にしなかった。

ただ悪戯っぽく口角を上げると、答え合わせを後回しにするように四度目の踏み込みを見せた。

 

そして、迎撃の構えを取った宿儺の腕に、再びその掌が触れた。

 

『144』

 

宿儺は、うみが意図的に流した「最大値」という餌に食いつき、

即座に脳内で1秒間に144の動きをトレースする超絶な加速をもって反撃に転じた。

 

ズドォォォンッ!!

 

互いに投射呪法の超加速を得た二人の攻防が、更地を暴風のように駆け巡る。

残像すら追えない超高速の攻防。

 

だが、その攻防の最中。

宿儺の動きが、突如として『等速』へと急減速した。

 

「……ッ!?」

 

144のフレームを完璧に構築し、それをトレースしていたはずの宿儺の身体が、

急激なブレーキをかけられたかのように本来のスピードへと落ちる。

その明らかな隙を、うみが見逃すはずがない。

 

ドゴォッ!!

 

急減速に反応しきれなかった宿儺の顔面に、うみの重い一撃がクリーンヒットする。

呪いの王の巨体が、大きく体勢を崩して吹き飛んだ。

 

「ソフトが高レートで作られてても、ハードの性能が足りてないと意味ないんだ」

 

うみは、大きく距離を取りながら、倒れ伏す宿儺を見下ろす。

 

「俺が今使った術式(ハード)は『24フレーム』規格」

 

うみは、まるでゲームの仕様を解説するかのように、淡々と語りかける。

 

「知らないだろうけどさ、フレームレートが60のモニターで、

120のゲームをやろうとしても、結局60フレームでしか表示されないんだ」

 

「それと同じ。いくらアンタの頭が良くて、脳内で144の動きを完璧に構築したところで、

今の術式は『最初の24個目』の動きまでしかトレースしてくれない」

 

つまり、宿儺が構築した144の動きのうち、最初の24の動きだけが超高速かつオートで実行され、

残りの120の動きは、術式の効果消失により強制的にキャンセルされ、等速に戻されたのだ。

 

「さぁ、俺と読みあいしよーぜ。おーさま」

 

挑発的な言葉と共に、うみが再び地を蹴る。

狙うのは、これまでと全く同じ『掌での接触』。

 

対する宿儺の思考が、初めて明確に『次の手』の予測へと誘導される。

 

(この小僧が次に押し付けてくるのは、24か、60か、あるいは144か――)

 

うみの手に触れられるそのコンマ数秒の間。

宿儺ほどの天才といえど、三つの規格から正解を読み切り、

それに合致した複雑怪奇な動きを一秒以内に構築するという作業には、

必然的に意識の大部分を『思考』へと割くことになる。

 

それが、致命的な隙。

 

触れた掌から、術式が発動する気配はない。

(……何?)

 

宿儺がその不自然さに気づいた時には、すでに遅い。

うみの狙いは最初から『投射呪法』によるフレームの押し付け合いなどではなかった。

 

触れたのとは反対の腕――右の拳を深く引き絞り、呪力を極限まで圧縮して硬く握り込んでいた。

 

「――七対三はっと」

 

『十劃呪法』

対象の長さを線分し、7:3の比率の点に強制的に弱点を作り出す打撃。

思考を読み合いへと誘導され、他の手への警戒が薄れていた宿儺の胸板に、うみの全力のフルスイングが叩き込まれた。

 

ドバキィィィンッ!!

 

「が……ッ!?」

 

強制的なクリティカルヒットによる破壊的な衝撃が、完全体である宿儺の分厚い肉体を容赦なく抉り飛ばす。

防ぐ間もなく血反吐を散らし、瓦礫の山をいくつも貫きながら、宿儺の巨体が遥か後方へと吹き飛んでいった。

 

「読みあいなんてしてあげないよ。ばーか」

 

遠くで土煙を上げる呪いの王に向かって、うみはあっかんべーをするかのように、底意地の悪い笑みを浮かべた。

 

土煙が晴れる中、瓦礫に埋もれた宿儺が立ち上がる。

普段の傲慢な余裕は消え失せ、四つの真紅の瞳には明確な苛立ちが見えている。

 

「……小賢しい真似を」

 

呪いの王の全身から、空気を軋ませるほどの呪力が噴れ出す。

即座に、目にも留まらぬ速度で両者が激突した。

 

幾度目かの近距離戦闘。

四本の腕による暴力的な連撃が、うみの防御を削りにかかる。

だが、その圧倒的な殺意の嵐の中で、うみの脳内は氷のように冷え切っていた。

 

(……ここまでの戦闘で、宿儺の情報処理能力は大体測れた)

 

紙一重で致命傷を躱し、無下限の『不可侵』のオンオフと術式の切り替えにより変化を織り交ぜながら、うみは思考を加速させる。

 

(ここまで散々押し付けた『情報』と、今の宿儺の精神状態から視て――)

 

互いの拳と蹴りが交錯し、空間が歪むほどの衝撃波が連発する。

その目まぐるしい近接戦闘の最中。

ふと、二人の間の上空から、小さな黒い物体が落ちてきた。

 

「そろそろ忘れたころでしょ?」

 

うみが、ニヤリと笑う。

その言葉と共に、宿儺の視界の端に映り込んだソレ。

先ほど、自身の視界と聴覚を理不尽に奪い去ったフラッシュグレネード。

 

記憶がフラッシュバックし、宿儺の四つの瞳がその物体に僅かに吸い寄せられた。

直後。

 

――二度目の閃光。

 

「……ッ!!」

 

再び炸裂した強烈な光と爆音が、宿儺の感覚を白く塗り潰す。

 

(……セカンドチャンス!)

 

視覚と聴覚を呪力で完璧に保護していたうみが、その絶対的な隙へ滑り込む。

呪力の三要素、角度、タイミング、エトセトラ(その他諸々)の条件を満たし、空間の歪みを生み出すトリガーを引く。

 

狙い澄ました、確実な一撃。

先ほどは焦りによって生じたコンマ数秒のズレを、今回は完璧に修正し、叩き込む。

 

――迸る黒――

 

ドッ……パァァァンッ!!!

 

真っ白に染まった視界の中、黒い火花が弾けた。

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