生まれ変わった世界は   作:月影うみ

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4話

「んっ..」

 

肩をたたかれる感触で目を覚ます。

机に突っ伏していたせいか首筋が少し痛い。

 

「おー起きた?」

たたかれた方を向けば、悟さんがこちらをのぞき込んでいた。

 

「もう...じかん?」

いまだぼんやりとした意識で聞く

 

「まぁね。そろそろ続きをしようか」

 

「ん。」

悟さんの言葉に首肯し、頭を振って眠気を追い払う

(うん。さっきの内容はちゃんと整理できてる)

 

「じゃ、さっきの続きからね」

 

悟さんはチョークを持って、黒板に大きく書き込んだ

 

『術式』

 

「術式っていうのはさ」とチョークを置いて説明を始めた。

「単純にいえば『呪力を特殊な効果に変換するプログラム』みたいなものかな?」

 

「プログラム?」

 

あまりイメージがつかず、首を傾げる

悟さんが俺の様子に苦笑する

 

「そうだなー……例えば家電みたいな感じだよ」

 

「家電...?レンジとか冷蔵庫?」

 

「そう!同じ電気を使ってるのにできることが全然違うでしょ?

レンジは温める、冷蔵庫は冷やすって感じでさ」

 

「術式もそれと同じだよ。

呪力ってエネルギーを使って何かする。呪力用の専用装置なわけだ」

 

「で、その術式が呪力をどんな効果に変えるかは人それぞれ」

悟さんが指を立てる

「ある人の術式は『火を操る』。また別の人は『傷を治す』。

もしかしたら、『時間を戻す』ことができる人もいるかもしれない」

 

「要は――

呪力で"何ができるか"を決めてるのが術式だね」

 

(なるほど...とても分かりやすい

普通に生きてれば何も関係ないものを

これだけ身近なものに例えれるとは...さてはこの人、頭いいな?)

 

「でね。術式は、基本的に“生まれつき”のものなんだ」

「持って生まれる人もいれば、そもそも持ってない人もいる」

 

(それは、つまり...)

 

「....選べない?」

 

「うん。自分で選ぶことはできない」

 

「それじゃあ...人によってはとてもたいへん?」

 

「うん。正直、大変だろうなって人もいるよ」

「逆に、強い術式を持ってる人はそれだけで有利なことも多い」

 

(....生まれで差がつく世界。呪術師ってたいへん)

 

「でもね、それだけで全部決まるわけじゃないよ」

 

「呪術師の中には術式を持ってない人だっている」

 

「それでもちゃんと強い人はいる」

 

「術式がなくても、呪力操作だけで安定して戦える人もいるし……

"真面目に積み上げるタイプ"は強いよ。ほんとに」

 

(努力型の人ってことだよね...)

 

「まぁ、そういう人は僕とは相性悪いんだけどね」

悟さんはそう言ってカラカラと笑う。

 

けれど、そのあと一瞬だけ視線をそらした。

ほんの一瞬、空気が変わる。

 

「……中にはさ、術式どころか“呪力そのもの”を持ってないのに、

とんでもなく強い人もいたりするんだけどね」

 

「え...呪力がないって...」

(そんなの....そもそも戦えるの?)

 

「うん。そういう“例外中の例外”もいるんだよ。

まぁ、なんの参考にもならないけどね」

 

悟さんは軽く肩をすくめて笑い直したが、

その笑みの奥に、言葉にしない何かが沈んでいた。

 

(……今の、なんだろう)

 

一瞬だけ重くなった空気を、悟さんがぱん、と手を叩いて吹き飛ばす。

「――ま、難しい話はここまでにしよっか。

実際に見たほうが早いでしょ?」

 

「......実際に?」

 

「うん、そう。話聞いてるだけじゃ、ピンとこないでしょ?

だから、ちょっとだけ"本物"を見せてあげる。

ただ呪力を使うだけのと一緒にね」

 

そう言うと悟さんは、おもむろに缶ジュースを2本取り出し、教卓に置いた。

「まずは"呪力操作だけ"ね」

 

そう言って缶に触れた瞬間、

視界に“ざらり”とした黒い粒子が走った。

 

(なにこれ?....もしかしてこれが呪力?)

 

粒子は缶の表面にまとわりつき、

次第にその内部に流れ込んでいく。

 

次の瞬間──

 

パンッ!

 

缶が内側から弾け飛んだ。

あまりの音に思わず肩が跳ねる

破片が机に散らばり、甘い匂いがふわっと広がっている。

 

悟さんは破裂した缶を指先でつまみ上げ、

「これが“呪力だけ”」と軽く言った。

 

(びっくりした...

黒いのが缶の中に入って、

そのあと一気に外に向かって...どかん)

 

(えっと....たしか前に読んだ本にあった...

"内圧で破裂する模型実験"みたいなことなのかな?)

 

俺のそんな考えをよそに、悟さんの実演は次に進む

「じゃ、次は"術式"の方

よーく見ててね?」

そう言って、隣の缶の方に手を触れる。

また、黒い粒子が走っていく。

 

しかし....

(あれ?....さっきとなんか違う)

 

粒は缶の表面をうろつくんじゃなくて、

細い線みたいになって、

缶の側面の一点に“吸い寄せられる”ように集まっていく。

 

(まとまってる...

さっきは縦横無尽って感じだったのに)

 

ベキッ。

 

缶の側面が、そこだけ押しつぶされたみたいにへこんだ。

 

「こっちが“術式”。

呪力をただぶつけるんじゃなくて、

“どこに、どう効かせるか”を決めてる」

 

「さっきのは中でめちゃくちゃに暴れさせただけ。

今のは、力を一点にだけ集めた感じかな」

 

「術式の方が細かい...?」

自分で言っておきながら、

どこまで分かって言ってるのか自信はない。

ただ、さっきとは"違う"ということだけは確かだった。

 

悟さんは苦笑しながら肩をすくめる。

「身も蓋もないけど、超単純にいったらそんな感じ」

 

「呪力操作はね、“殴る・蹴る・押す”みたいな、

ただの力のぶつけ方しかできないんだよ」

 

「でも術式は、その力を

“どこに・どれくらい・いつ”効かせるかを細かく決められる

いわば、力の使い方を“設計”できるってこと」

 

「さっきの缶もそう」

 

「一気に中で暴れさせたのが呪力操作。

へこませたい場所だけ狙ったのが術式」

 

(……なるほど)

さっき見た二つの缶の違いが、頭の中でぴたりと重なった。

 

「でも、もちろん、術式も万能じゃないよ?」

 

悟さんは、へこんだ缶をくるっと回しながら続ける。

 

「できることは限られてるし、

場合によっては呪力の消費も大きい」

 

「それに一番の問題は――」

 

彼の目が、少しだけ鋭くなった。

 

「術式が知られると、対策されやすいってこと」

 

「....?」

 

「手札を全部見せた状態で戦うようなものだからね」

 

「何ができて何ができないのか全部バレちゃうってこと?」

 

「そうそう。何ができて、何ができないのか。

それをどれだけ相手に悟らせないかが大事なわけ」

 

(読みあいと化かしあいってことか)

 

「……で、君の話なんだけどさ」

 

悟さんがこちらを指さす

「安心していいよ。

君にもちゃんと“術式”はある」

 

その言葉に思い出すのは1年前、まだこの世界に来る前のこと

(......あれか。どんなのだったっけ?

忘れた...詰み?)

 

「まあ、呪力を使えないことには術式も使えないから、

それはいったん置いておこうか」

 

そう言って、悟さんは軽く手をひらひらさせた。

 

「レンジがあってもさ、

コンセントに電気が来てなきゃ動かないでしょ?」

 

「術式もそれと同じ。

だからまずは、電気――呪力をちゃんと流せるようにならないとね」

 

(それもそうか。呪力を流す....

まるでイメージつかない)

 

「ま、いきなり流せって言われても無理だろうから、

まずは自分の呪力を認識するところから」

 

「自分の呪力を...?」

(悟さんのはさっき見た黒いのとして、あれと似たのが俺に?)

 

「今まで呪術に触れてこなかった人には、なかなか難しいだろうけど」

そこで言葉を区切る

「――君は別。"視ればいい"

せっかくいいものを持ってるんだからね」

 

「さっき見えたでしょ?

僕の呪力が動くところ」

 

首肯する。

 

「……あれ、普通は見えないからね」

 

「????」

(じゃあどうやって....)

 

「呪力の流れも、形も、密度も。

大抵の人は“感じる”ことはできても、

見ることはできない」

悟さんは、黒板の前に立ったまま肩をすくめた。

 

「でも君の眼は、

そういうのを“視る”側にある」

 

「そういうわけだから、まずは自分の呪力を視てみようか」

 

そう促されたので、ひとまず自分の体を視てみる

手、躰、足と順に視ていく

 

「....なにこれ。

もやもやしてる?」

最後に、教室にあった姿見の前に立って視てみると、

全身の輪郭に青白く濃い靄がまとわりついて、揺れている

(これが俺の呪力...?)

 

「おー、ちゃんと見えてるみたいだね」

悟さんが嬉しそうに近づいてきたのでそちらを向く

「それが君の呪力だよ」

 

再び、姿見に視線を戻して観察する

(.....?)

よく見ると、体の表面だけじゃなく内側の方にもあるように見える。

特に心臓のあたりが濃く、そこから指先や足先へ細い糸のように伸びている。

 

「なんか、血液みたい...」

 

「そう見える?」

悟さんが腕を組みながら鏡越しに言った。

その言葉にうなずくと、満足そうに笑った。

 

「結構いい線行ってるよ」

「呪力は血液に似てる。体の中を巡ってこそ、ちゃんと力を発揮するエネルギーなんだ」

「血の巡りが悪くなると、体を動かしづらくなるでしょ?

それと一緒で、呪力も流れが滞ると、思うように力が出せなくなる」

 

(なるほど...今のはすごくわかりやすい)

 

興味深げに頷いていると、悟さんが急に指をぱちんと鳴らした。

 

「じゃあ次のステップ!その呪力を動かしてみよう」

 

「どうやって?」

思わず首をかしげる

 

「まずはイメージから」

悟さんは供託に腰掛けながら続ける

 

「さっき、呪力は血液に似てるって言ったでしょ?

だからそれをイメージすればいい。血管を流れる血液のように、全身を巡るようなイメージを」

 

目を閉じて想像する。

(血流....医学書にあった血管図みたいな感じでいいかな?)

 

血管図をなぞるみたいに、頭の中でイメージを固める。まずは心臓から――

「....?」

違和感。胸のあたりで何かが蠢いたような感覚

眼を開けると、あの青白い靄が心臓のあたりに溜まっている

(なるほど...これが呪力の感触か

冷たいというか重いというか...)

「...これを血液みたいに」

姿見を視ながら、血管に押し出すイメージをしてみると――

ほんの少量ではあるが、靄が動いていくのが見える。

しかし、お世辞にもスムーズとは言えず、

途中で止まって霧散してしまった

 

「むずかしい.....」

少しの悔しさを覚えながらつぶやく

 

「むずかしい…..」

少しの悔しさを覚えながらつぶやく。

 

「……は?」

 

驚いたような声が返ってきた。

 

「初めてでそれ、だいぶ上出来なんだけど」

 

「見えてる。

動かしてる。

しかも、ちゃんと“流そう”としてた」

 

「普通はね、どれか一つできれば御の字だよ」

 

「もしかして、君も"こっち側(天才)"?」

 

冗談めかしたような言葉。口調。この人がよくする、

からかっているだけ――そう思わせる言い方。

 

でも。

 

一瞬だけ、その目が、

笑っていない気がした。

 

楽しそうで、

面白がっているような、

それでいて――

 

どこか、期待しているようにも見えた。

 

 

「ま、とりあえず今日はここまでね」

 

悟さんは、いつもの調子に戻って言う。

 

「続きはまた明日。

安定して流せるようになるまではおんなじ練習ね」

 

そういわれて、俺は黙ってうなずいた。

 

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