十月も中頃。 秋晴れの空の下、都内の街路樹は色づき始め、
ショーウィンドウはどこもオレンジと黒のハロウィンカラーで彩られ始めていた。
そんな賑わう大通りの一角にある、オシャレなオープンカフェ。
テラス席の大きな丸テーブルを囲んでいたのは、
高専女子's――釘崎野薔薇、禪院真希、禪院真依、西宮桃、そして三輪霞の五人である。
「でさー! その時の店員の顔ったらなくて!」
「ほんっと、アンタは相変わらずうるさいわね。少しは静かにパンプキンタルト味わえないの?」
「あはは、でも野薔薇ちゃんの話、面白いからいいじゃないですか」
「ていうか、このタルトめっちゃ美味しい! さすが東京の限定スイーツ!」
釘崎の勢いのあるトークに真依が呆れたようにツッコミを入れ、
三輪がニコニコと間を取り持ち、桃がスイーツを堪能する。絵に描いたような、休日の華やかな女子会である。
ただ一人、テーブルの端で腕を組む真希を除いては。
「……なぁ。アタシ、絶望的にこの場に似合わねぇんだけど」
「いいじゃん真希さん! 激務も一段落したんだし、たまにはこういうのも! ほら、このラテ美味しいですよ!」
「まぁまぁ、真希。たまには甘いものでも食べて息抜きしなさいな」
真依が優雅に紅茶を飲みながら真希を宥め——たかと思うと、唐突にその視線を三輪へとスライドさせた。
「で? どうなのよ霞。最近、うみとの進展はあったわけ?」
「ぶっ!?」
脈絡ゼロの、唐突すぎるキラーパス。
両手でマグカップを持っていた三輪が盛大にむせ、顔を真っ赤にして咳き込んだ。
「ちょっ、真依さん!? なんで急にその話……っ」
「えー? だって今日のメインテーマでしょ?」
「そうそう! むしろこっからが本番だからね!」
不意打ちを食らった三輪に対し、釘崎と西宮もニヤニヤと悪戯っぽい笑みを浮かべて即座に便乗する。
息をするように話題を切り替え、一瞬でターゲットを包囲する見事な連携。
その女子特有の恐ろしいテンポ感に、真希がやれやれと深くため息をついた。
「ほら、もうあの初デートから三、四ヶ月経つじゃない?
相変わらず休みの日は絶対そのネックレス着けてるし、
アンクレットに至っては毎日着けてるみたいだけどさ。なんか新しい進展はあったのかなーって」
西宮がストローを咥えながら、ニヤニヤと三輪の肩を小突く。
数ヶ月前のデートでうみが贈ったアンクレットだが、彼自身は着ける足を指定しなかった。
まあ当然だろう。当人はそれを贈る意味すら知らないのだから、それをつける意味など知るはずもない。
「私には恋人がいます」という激重な意味を持つ『左足』に、自ら進んで嬉々として着け続けているのは三輪自身の意思である。
そこを突かれ、三輪はポンッと音を立てて顔を赤くした。
「なっ、ないですってば進展なんて! 何回か遊びに行ったりはしましたけど……
最近うみくん、術師の任務だけじゃなくて、たまにモデルのお仕事も入ってるじゃないですか。
だから、ゆっくり会える時間はだいぶ減っちゃいましたし……」
「あー。あのバカ目隠しどものせいで、そこそこ有名になったからな」
真希が呆れたようにカップを置き、頭を搔く。
五条と東堂の謀略でうみがモデルデビューさせられた騒動は、高専女子'sにとっても記憶に新しい。
「それでも、こっちから遊びに誘えば、ちゃんとしっかり時間作ってくれるんですけどね?
……でも、やっぱりちょっと寂しいなぁって思うことはあって……」
「へぇ。じゃあ、うみが今ここに現れたら、最近の寂しさ爆発させて飛びついて抱きしめちゃうわけだ」
「なっ、野薔薇ちゃん!? そそそそんなことできるわけないじゃないですかぁ……っ! うみくんはただでさえ疲れてるのに……」
しゅんと肩を落としつつも、両手で頬を押さえてモジモジする三輪。そんな乙女全開の姿に、真希が再び頭を掻く。
「あいつの無自覚なタラシっぷりはもう呪いみたいなもんだろ。お前も苦労するな」
「本当に……。でも、うみくんが毎日無理せず、笑って過ごしてくれてるなら……私はそれだけで……」
——その、はずだった。
「ん? あれ……」
ふと、窓側の席に座っていた釘崎が、手にしたフォークを止めて通りへと視線を向けた。
「どうしたの釘崎?」
「いや、あそこの通り歩いてるの。……あれ、うみじゃない?」
「「「「えっ」」」」
釘崎の言葉に、全員の視線が一斉に窓の外へ向く。
大通りの向かい側。
休日の人混みの中を、見慣れた銀青髪が歩いていた。間違いない、月影うみ本人だ。
最近は「モデル」として世間に顔が出てしまったせいで、顔隠しのために昔のように黒い目隠しを着用している。
しかし、モデル業の影響か洗練された私服姿と、何より隠しようのない銀青の髪のせいで、人混みの中でも異様に目を引いていた。
「ほんとだ! うみくんじゃん!」
「休みだったのね。呼んじゃう?」
西宮が嬉しそうに窓を叩こうとし、真依が優雅に手を挙げようとした、その瞬間だった。
うみが小走りで駆け寄った先に、一人の『美少女』が待っていたのだ。
「……誰、あの子。めっちゃ可愛いんだけど」
「待って。うみくん、あの子と待ち合わせ……?」
釘崎と西宮の声が一段低くなる。
ガラス越しのため声は聞こえないが、情景は手に取るように分かった。
少女は、少し不満げにスマホの画面をうみの顔の前に突き出し、ぷくっと唇を尖らせて睨んでいる。
それに対し、うみは困ったように眉を下げて両手を合わせ、謝る素振りを見せた。
そして。
——ぽんぽん、と。
ごく自然な動作で、うみが恵理の頭を優しく撫でたのだ。
瞬間、怒っていたはずの恵理の顔がパッと華やぎ、嬉しそうな笑顔を浮かべてうみの袖口をきゅっと掴んだ。
うみもまた、いつもの無自覚で底抜けに優しい微笑みを返している。
その様子は遅刻して怒る彼女を、甘いスキンシップで機嫌を取る完璧な彼氏。
忙しくて全然会えていないはずの彼が、自分の知らない美少女と休日に密会している事実。
そして誰がどう見ても、ドラマのワンシーンのような空間を演出している。
「ま、まさか……うみの、彼女!?」
釘崎の戦慄したような呟きが、静かなテラス席に落ちた。
ピキィッ。
硬質な音が鳴った。
見れば、三輪が手にしていた金属製のフォークが、ありえない角度にへし曲がっている。
「か、霞……?」
「……………………」
三輪は何も答えない。
ただ、その瞳からは一切の光が消え失せていた。
ほんの数十秒前まで浮かべていた純情乙女の面影は完全に消え去り、
底知れぬ漆黒の深淵のような瞳で、窓の向こうの二人をガン見している。
彼女の背後からは、今にも特級呪霊が産まれ落ちそうなほどドス黒く、おぞましいオーラがゆらゆらと立ち上っていた。
「う、嘘でしょ……!? あのうみくんに彼女!? いつから!? どこで!?」
「ちょっと、落ち着きなさい桃。うみに限ってそんな……いやでも、あの距離感はどう見ても……」
パニックに陥る西宮と真依をよそに、三輪が無言でガタッと席を立った。
視線は窓の外の二人に完全にロックオンされている。完全に理性が焼き切れている。
「待て待て待て待て!!」
咄嗟に真希が立ち上がり、三輪の肩を背後から物理的にガシッと羽交い締めにした。
圧倒的なフィジカルを持つ真希でなければ、今ここで窓ガラスをぶち破って特攻していただろう。
「離して、ください、真希さん……。私、私は……ッ!!」
「尾行するわよ!! 霞というものがありながら……!!」
「そうよ! どこの馬の骨かも分からない女にうみを渡すわけにはいかないわ!!」
暴れる三輪に呼応するように、釘崎と真依に西宮が謎の連帯感でヒートアップし始める。
もはやカフェのテラス席はカオスと化していた。
「あーもう! わかったから全員落ち着け!!」
真希の鋭い一喝が飛び、三人がビクッと肩を揺らす。
「どうせ言っても辞めねぇだろうからそれはいい。私もついて行ってやる。
……だが、相手は『うみ』だぞ!
感情任せの中途半端な距離で突っ込んだら一瞬でバレる! だから、絶対に私より前に出んなよ!」
「「「「了解……ッ!!」」」」
真希の頼れる姉御肌全開の指揮により、高専女子'sの意思は一つにまとまった。
平和な休日の女子会は、開始十数分で終わりを告げた。
うみの高水準な感知能力を搔い潜り、ターゲットの『彼女(仮)』の正体を暴く。
高専女子'sによる『尾行ミッション』が、今、静かに幕を開けた。
***
時間を少し遡る。
秋晴れの休日の午後。
人混みで賑わう大通りを、月影うみは小走りで急いでいた。
目元には黒い目隠し。
モデルデビュー以来、街中で声をかけられることが出てきたので苦肉の策として常用している。
つては六眼の負荷軽減のためだったが、今は純粋な『変装』用だ。
もっとも、声をかけられることはほぼ無くなったのだが、
目立つ髪色に目隠しという異様な姿なため、別の意味で視線を集めるようになったのだが……
「ん、お待たせ」
待ち合わせ場所に到着し、うみは足早に駆け寄った。
その視線の先にいたのは、眼鏡をかけたナチュラルボブの黒髪に、
少し不満げな表情を浮かべる少女――中村恵里である。
かつて精神的な呪いに蝕まれていたところをうみが救い出し、
その後はうみの出身の孤児院の『家族』として暮らしている同い年の少女。
十六歳という年齢もあり、普段は孤児院の年少組たちの前で『しっかり者のお姉ちゃん』をしている彼女だが、
孤児院の誰にとっても頼れる『お兄ちゃん』であり、自身を救ってくれたうみの前でだけは、
こうして年相応の無邪気な素顔を見せるのだ。
「もう、遅いよ兄さん!」
「ごめんね。……でも、当日の朝にいきなり呼び出してきた恵里も恵里じゃない?
急だった割には、俺かなり早く着いた方だと思うんだけど」
「うっ……そ、それは……」
スマホの時計画面を突きつけていた恵里が、図星を突かれて言葉に詰まる。
バツが悪そうに視線を泳がせる彼女に対し、うみは苦笑しながら「次はもうちょっと早く言ってね」と、
その頭をポンポンと優しく撫でた。
頭を撫でられた恵里は、先ほどまでの不満げな顔を一瞬でパッと華やがせ、嬉しそうな笑顔を浮かべた。
そして、うみの袖口をきゅっと掴む。
「はーい。じゃあ、早く行こ! ハロウィンパーティー用の買い出し、たくさんあるんだから!」
「はいはい。分ってるよ」
二人は連れ立って歩き出す。
向かう先は、駅前の大型雑貨店。
そして、もちろん彼らは気づいていない。
自分たちの背後に、『監視者』たちが静かに追尾を開始していることなど。
***
駅前にある大型雑貨店のハロウィン特設コーナーは、仮装グッズや飾り付けを求める家族連れや若者たちでごった返していた。
「兄さん、これ! これ着けてみて!」
「えぇ……。猫耳……」
色とりどりの商品が並ぶ棚の前で、恵里が楽しそうに黒い猫耳のカチューシャをうみの頭に押し当てる。
うみの脳裏に、数ヶ月前の忌々しい記憶がフラッシュバックする。
五条と東堂に拉致され、強制的にファッション誌のモデルとしての撮影をやらされ、
あろうことかそれがファッション誌の表紙を飾ってしまった『Luna』の黒歴史。
普段なら絶対に拒否するような代物だが、
愛すべき家族である恵理のキラキラした瞳に抗えず、うみはされるがままに猫耳を装着させられていた。
「わぁ、似合う! さすが兄さん、何着ても様になるね!」
「はいはい、おだてても何も出ないよ。ほら、まずはお菓子からでしょ」
呆れつつも満更ではない様子で、うみがカゴを持って歩き出す。
だが、その微笑ましいじゃれ合いを、商品棚の陰から血走った眼で監視している集団がいた。
「か、彼氏の仮装を選ぶ彼女ってかぁ!! しかもあのうみが、あんなに大人しく猫耳着けさせられてるなんて……ッ!」
釘崎が、陳列用カボチャの置物を握り潰さんばかりの力で鷲掴みにしながら呻く。
そんな釘崎の横では、三輪の口からついにヤバい音が漏れ出していた。
「ゔゔぅ……あぁッ……!!」
「ちょっ、霞!? 落ち着いて、深呼吸して深呼吸!」
「そうよ霞! ただの……そう! ただの罰ゲームかも!」
必死に三輪を宥めようとする真依と西宮だったが、その言葉はあまりに苦しい。
そんな三人の攻防をよそに、ターゲットの二人は衣装コーナーの前で足を止めていた。
「そういえばさ、今うちの院の子たちって何人だっけ?」
うみがずらりと並ぶ仮装用コスチュームを見上げながら尋ねる。
「えっと、最近新しい子が一人入ったから、20人かな? だから衣装もけっこうな数になっちゃうんだけど……」
「そっか。でも仮装買うなら、種類バラバラだとまた取り合いにならない? 俺、去年は出れなかったから分かんないんだけどさ」
ちょうど一年前のハロウィン。それは呪術界を揺るがした『渋谷事変』の真っ最中であり、うみは当然参加できていなかった。
「一昨年って、確か仮装の取り合いで喧嘩になってたよね? 去年はどうだった?」
「あー……うん。去年もちょっと揉めたかなぁ」
恵里が苦笑いしながら首をすくめる。
「だよね。うーん……ハロウィンパーティーまであと一週間か……。いっそさ、今年はみんなで自作するってのはどう?」
「自作?」
「そう。出来合いの衣装じゃなくて、ここで好きな布とか小道具だけ買っていってさ。
それなら自分がしたい仮装にできるし、みんなで作るのも楽しいんじゃない?」
子供たちのことを第一に考えた、お兄ちゃんとしての完璧な提案。
その言葉を聞いた瞬間、恵里の顔がパァッと明るく輝いた。
「!! 兄さん、天才!!」
「わっ、とと……」
歓喜のあまり、恵里がうみの首に両腕を回して勢いよく飛びついた。
突然のハグに少しよろめきつつも、うみは「はいはい、分かったから」と、
ごく自然で慣れた手つきで彼女の背中を受け止める。
それを数メートル離れた棚の陰から見ていた女子陣の精神ゲージは、これで完全に消し飛んだ。
「だ、抱きついたぁぁぁッ!?」
「しかもあのうみくんが、すっごい慣れた手つきで受け止めてるぅぅぅ!?」
釘崎と西宮が、声にならない悲鳴を上げる。
「私だって……っ! 抱きついたことなんてないのに……ッ!!」
三輪の背後で渦巻く漆黒のオーラは先ほどよりさらに色濃くなり、
もはや周囲の空気を歪ませるほどの質量を持ち始めていた。
純情な乙女の脳が限界を迎え、理性が完全に崩壊しようとしている。今にも突撃しそうな雰囲気だ。
「バカッ、落ち着け! ばれたらぜってぇめんどくせぇことになんぞ!!」
その後から真希がフルパワーのヘッドロックで必死に拘束する。
そんな地獄のような騒ぎに気づくはずもなく。
買い出しを終えたターゲットの二人は、レジ袋を提げて店外へと歩き出していた。
「あ、兄さん! 荷物、半分持つよ!」
「いいって。こんなの軽いし。それに、君らのお兄ちゃんはそこらのアスリートより力があるからね」
大量のハロウィングッズやお菓子が詰まった三つの大きな袋を、うみは片手で軽々と持ち上げる。
「ありがとう……。そういえばさ、兄さん」
ふと、歩きながら恵里がうみの顔を覗き込んだ。
「なんで今日、目隠しなんてつけてるの? 昔はつけてたけど、最近は院に来るときはずっと外してたのに」
「あー……。ちょっとね、最近お兄ちゃんはそこそこ有名になっちゃったから。
顔隠してんの。これ付け始めてから全然バレてない」
うみが苦笑いしながら答えると、恵里の瞳がパァッと輝いた。
「あーっ! 知ってる!! 『Luna』でしょ!? 院の子たちも雑誌見て大騒ぎしてたよ! 『お兄ちゃんだー!』って」
「ちょっ、声大きいって……」
嬉々として声を上げる恵里が、うみとの距離をスッと詰め、その顔に手を伸ばす。
そして、はしゃいだ拍子に少しズレていた目隠しと、銀青の前髪を、ごく自然な手つきでササッと直してあげたのだ。
「……ねぇ、今の見た?」
「ええ……。顔、触ってるわよ。あのうみが、完全にされるがまま……ッ!」
「荷物も全部持ってあげて……スパダリ彼氏と尽くす彼女の図、完成しちゃってるじゃない……」
少し離れた電柱の陰。
密着して顔を触り合う二人の姿をバッチリ目撃してしまった釘崎、真依、西宮の三人は、絶望的な表情で顔を見合わせた。
「離して……真希さん……私、あの女を……!!」
「早まんな霞!せめてうみが一人になるまでは耐えろ!!」
完全に理性を失いかけた尾行部隊を引っ提げ、事態は次なる舞台へと向かおうとしていた。
***
買い出しという名のミッションを無事に終えたうみと恵里は、
駅前の喧騒を抜け、少し落ち着いた裏路地のカフェのテラス席で一息ついていた。
「んー! 歩き回った後のパフェは最高だね!」
「……相変わらず、ほんと美味しそうに食べるね」
「だって美味しいんだもん♪ はい、兄さんも一口食べる?」
ご機嫌な様子の恵里が、ストロベリーパフェをすくったスプーンを、うみの口元へと無造作に差し出した。
当のうみは特に気負う様子もなく、差し出されたスプーンをパクッと咥える。
「……ん。美味しいけど、もうちょっと酸味があるほうが好みかな」
「えー? 疲れた時は甘いものでしょ。兄さん、最近モデルの仕事とかでもっと疲れてるんじゃないの?」
「まあ、そこそこ?」
同じ施設を実家とし、互いを『家族』と認識している二人にとって、食べ物のシェアなど息をするより自然なことだった。
幼少から孤児院との関わりが深く、それが一般的な距離感だと認識しているうみ。
そして、過去の劣悪な環境から救い出され、孤児院の温かな環境に染まりきった恵理。
同じ院の仲間は血の繋がりがなくてもみな家族であり、
兄妹のスキンシップとはこういうものだという、どこかの魔法師の兄妹や千葉の兄妹さながらな価値観を備えてしまったのである。
――しかし、それを数十メートル離れた路地裏から監視している高専女子'sにとっては、世界がひっくり返るほどの衝撃映像だった。
「あ、あーん……『あーん』したわよ、あいつら……!!それも流れるように!!」
「うそでしょ……!? あんなに平然と!? しかもあの子の使ったスプーンで、間接キス……ッ!?」
西宮が頭を抱え、真依は「あの二人……随分慣れた様子ね……」と完全に言葉を失っている。
そして、三輪は。
「――――――――――――ッッ!!」
声にならない絶叫と共に、三輪の瞳孔が限界まで開ききっていた。
もはや彼女の背後に渦巻く漆黒のオーラは、呪術師でない一般人の目にも見えそうなほどの濃度に達している。
「あいつ、絶対許さない……! 私の、私のうみくんを……ッ!」
「待て霞!! さっきからすぐに突っ込もうとすんな! それと、別にうみはお前のじゃねぇ!!」
もう何度目だろうか。
今にもカフェのテラス席に飛び込もうとする三輪の腰に、真希が全力でタックルして路地裏の壁に縫い付ける。
「でももう限界よ真希さん! このままじゃ霞が人の形をしたナニカになっちゃうわ!!」
「分かってるから落ち着け! ここで突っ込んだら、ただのストーカーの逆ギレだろ!」
指揮官である真希の必死の説得により、なんとかその場での暴発は免れた。
だが、女子陣――特に三輪の精神状態はすでにレッドゾーンを振り切っている。
やがてパフェを食べ終えた二人が席を立ち、再び歩き始めた。
向かう先は駅ではなく、静かな住宅街の方向だ。
「……ねぇ、真希さん」
尾行を続けながら、三輪が虚ろな声で呟いた。
「駅の方じゃないですね。これ、完全に……住宅街に向かってますよね?」
「あ、ああ……そうだな」
「もしかして、あの子の家に行くとか……そういう、ことですか……?」
「いや、まだ分かんねぇだろ! 早とちりすんな!」
そうは言うものの、さすがの真希も嫌な予感しかしない推測に、顔色が悪くなる。
もしそうだった時、この少女はどうなってしまうのか。その時自分は少女を止めることができるのか。
そんな思考が頭をよぎる。
やがて、うみと恵里の二人は、住宅街の少し奥まった場所にある、大きく古い建物の前で足を止めた。
門柱には『汐見荘』と書かれた、古びた木製の看板が掲げられている。
「着いたー。ちょっと荷物重かったでしょ、兄さん。ありがとう」
「平気平気。ほら、入るよ」
うみが門を開け、二人が敷地の中へと消えていく。
「……入って、ったわね」
釘崎がゴクリと唾を飲み込む。
「ちょっと、どういうこと? あのデカい家……いいとこの子なの?」
「まさか、同棲……!? いや、でも看板みたいなのあったし……」
遠目からでは看板の文字まで読み取れなかった女子陣の脳内で、最悪の妄想がインフレを起こし始める。
(((まさか……親への挨拶!?)))
もはや全員の思考が一つにリンクしていた。
ト。休日の密会。親しげなボディタッチ。間接キス。そして、二人きりでの家への訪問。
状況証拠は完全に「クロ」だった。
「……待ちます」
三輪が、地を這うような声で言った。
「あの中から、うみくんが出てくるまで……待ちます」
もはや誰も三輪を止められなかった。
真希すらも「……おう」と頷くしかない、地獄の待機時間が始まった。
***
「あーっ! お兄ちゃんだ!!」
「うみ兄ちゃんが来たー!!」
「うわっ、ちょっと待って、一斉に飛びついてこないで……!」
玄関に入るなり、待ち構えていた十数人の子供たちが、雪崩を打ってうみに飛びついてきた。
脚にしがみつかれ、背中に飛び乗られ、服を引っ張られる。
「ほらほら、みんな! 兄さん荷物持ってるんだから、一旦離れて!」
恵理が苦笑いしながら子供たちを引き剥がそうとするが、久しぶりに帰ってきた「長男」への子供たちの熱狂は凄まじかった。
「お兄ちゃん、これなぁに!?」
「ハロウィンのお菓子! 来週のパーティー用だから、まだ食べちゃダメだよ」
「えー!」
三十分ほど、玄関先での
なんとか荷物を運び込み、院長への挨拶を済ませたうみは、ふぅと息を吐く。
そして、煩わしかった黒い目隠しを外し、前髪を軽く手で梳いた。
「そういえば恵里。さっき、新しく入った子が一人いるって言ってたよね? まだ挨拶してないんだけど、どこにいるか分かる?」
うみがそう尋ねると、恵里は苦笑いしながらリビングの隅、大きなソファの陰を指差した。
「ああ、うん。あの子、元々すごく人見知りな上に、さっきの玄関の大騒ぎにビックリしちゃって……ほら、あそこ」
そこから、十歳くらいの小さな女の子が、モジモジとこちらを覗き込んでいる。
うみは足音を立てずに近づき、女の子と目線が合うようにしゃがみ込んだ。
「初めまして。俺はうみ。よろしくね。君は?」
安心させるような、柔らかく底抜けに優しい微笑み。
しかし、女の子はうみの素顔をまじまじと見つめた直後、顔を真っ赤にして口をパクパクとさせた。
「ほ、本物……!? な、なんで『Luna』がここに……!?」
「うぐっ……!」
予想外の角度からの被弾に、うみは思わず言葉に詰まり、ダメージを受けた顔で恵里を振り向く。
「あはは! ほら兄さん、言ったでしょ? 院の子たちも雑誌見て大騒ぎだったって。あの子、すっかりLunaの大ファンになっちゃってさ」
恵里が楽しそうに笑う横でうみは、(あれが見られてると思うと恥ずかしい……とりあえず、後で悟さんをぶん殴っとこう)と内心で決意を固める。
しかし、目の前で目を輝かせている小さなファンをがっかりさせるわけにもいかない。
うみは苦笑いを浮かべつつも、女の子の頭に優しくポンと手を乗せた。
「……雑誌とかはちょっと恥ずかしいんだけど。俺も前はここで暮らしてたからね。君と同じこの院の『家族』なんだよ」
「えっ、そうなの!?」
「うん。あ、このことは内緒ね? 外で言ったらダメだよ? これは家族だけの秘密ね」
うみが人差し指を口元に当てて、
女の子は完全にキャパオーバーを起こして湯気を上げ、コクコクと激しく頷いた。
「よし。これからよろしくね。……あ、俺のことは『Luna』じゃなくて、『お兄ちゃん』って呼んでいいからね?」
「は、はいっ……! お兄ちゃん……!」
憧れのモデルが実はお兄ちゃんで、秘密まで共有してしまった女の子の目は、もはや完全にうみの虜となっていた。
「さてと。ごめんね恵里、今日はちょっとこの後、用事があるからあんまりゆっくりできないんだ」
「ううん、荷物運んでくれただけで十分だよ。来週のパーティーは、ちゃんと来れる?」
「うん、大丈夫だよ。じゃあ、また来週ね」
「うん! バイバイ、兄さん!」
子供たちに手を振りながら、うみは孤児院の門へと向かう。
その後ろを、恵里が小走りで追いかけてきた。
「あ、ちょっと待って兄さん」
「ん? どうしたの」
「もう、服も髪もボロボロじゃない。これから用事があるんでしょ?
だらしない格好で行ったら怒られるよ? それに、目隠しつけるならちゃんと前髪直さないと」
そう言うと、恵里は持っていた小さな櫛を取り出し、うみの前髪をササッと梳かし直した。
さらに、子供たちに引っ張られてヨレていた服の襟元をピンと伸ばして整えてあげる。
「……はい、これで良し。気をつけて行ってね」
「ありがとう。恵里も、準備で無理しちゃだめだよ? 手が必要なら呼んでいいから」
そう言うとうみは、恵里に見送られながら、今度こそ孤児院の門を出た。
***
「……ねぇ、もう三十分くらい経ったわよね……」
建物の外で息を潜めていた釘崎が、ジリジリと焦燥感を募らせた声で呟いた。
「挨拶やお茶だけなら、とっくに終わってる時間ね……」
「まさか、まさかとは思うけど……あの二人……」
真依と西宮が、青ざめた顔を見合わせる。
もはや三輪に至っては声も出ず、虚空を見つめたまま「うみくんうみくんうみくん……」と呪詛のように呟き続けていた。
――そして、地獄のような時間を過ごしていた女子陣の前に、ターゲットが姿を現した。
「あ、出てきたわ……!」
釘崎の言葉に、全員の視線が一斉に門へと突き刺さる。
建物から出てきたうみは、一人だった。
門のところで中の誰かに手を振り、一人で歩き出す。
だが、女子陣の視線は、うみが出てくる直前の『光景』に釘付けになっていた。
「ね、ねぇ……」
西宮が震える声で指を差す。
「さっき、門のところで……あの子がうみくんの髪、直してなかった……?」
「服の襟元も、整えてたわよね……?」
「それに心なしか、うみのやつちょっと息も上がって……」
真依と釘崎が青ざめた顔で言葉を継ぐ。
子供たちに揉みくちゃにされた結果、乱れた身なりを妹に直してもらっていただけなのだが、
そんな事実を知る由もない彼女たちの目には、全く別の意味に映っていた。
家に入って、約三十分。
息を上げて出てきた男と、その乱れた服と髪を甲斐甲斐しく直してあげる女。
(((あの中で……事後のお見送り……っ!!)))
全員の顔が真っ赤になり、直後、サーッと青ざめる。
そして。
「……」
「あ、ちょっと霞! ああもう!! 行くわよ、野薔薇! 桃!」
「ええ! あの女ったらしに目にもの見せてあげましょう!」
もはや真希の制止すら振り切り、無言の三輪を筆頭に、釘崎、真依、西宮が路地裏から飛び出した。
「あ、バカ! お前ら待て!!」
真希も慌てて後を追う。
うみが人通りの少ない道に入った瞬間。
背後から、スッと肩を掴まれた。
「……うみ、くん……」
底冷えするような声。
「え……? 霞さ――」
振り返ったうみの言葉が、ピタリと止まる。
そこに立っていたのは、両目から完全にハイライトが消え失せた三輪だった。
一般人ならそのドス黒いヤンデレオーラと冷たい声のトーンだけで、
恐怖のあまり腰を抜かして動けなくなるほどの、常軌を逸したプレッシャー。
だがそんなものがこの朴念仁に通じるわけもなく、
いつもと様子の違う三輪に若干驚きつつもすぐにいつもの調子に戻る。
その後ろから、同じく殺気を放つ女子陣+疲れた様子の真希がゾロゾロと姿を現し、うみを完全に包囲する。
「えっと……霞先輩? それに真希先輩たちまで。どうしたんですか?」
突然の先輩たちの襲来に、うみは少しだけ首を傾げた。その表情には、純粋な困惑が浮かんでいる。
「とぼけないでよ!! さっきの女は誰!? あんなに服も髪も乱して! 霞というものがありながら何やってたのよ!!」
釘崎が凄まじい剣幕で詰め寄る。
「え、何って……」
問い詰められたうみは、何をそんなに怒っているのか全く理解できていない様子でまばたきをした。
「はぁ……。もう、見てらんねぇな」
見かねた真希が、呆れ混じりに深いため息をついて間に入った。
「悪いな、うみ。さっき偶然お前があそこから出てくるとこ見かけてな。
なんか女子と一緒に居たろ? その女子のことが妙に気になって仕方ないらしくてな、付いてきちまったんだよ」
「さっき一緒に居た女子……? ああ、恵里のことですか?」
真希の「偶然見かけた」という苦しいフォローに、うみは素直に頷く。
そして、さらりと口にした『恵里』という呼び捨ての響きに、包囲していた全員の空気が再びピクリと止まった。
「……えり……って、呼び捨て……?」
三輪が、ドス黒いオーラの残滓を漂わせながら、絞り出すように呟いた。
その瞳には、かつてないほどの激しい動揺が渦巻いている。
(私だって……呼び捨てで呼ばれたことなんて、まだないのに……っ!!)
「お前が呼び捨てるなんてな……そんな近しい間柄なのか?」
さしもの真希も、少しだけ目を見張った。高専内でうみが呼び捨てにする相手といえば、パンダくらいのものだ。
「真希さんの言う通り! よっぽどの関係なんでしょうね!?」
間髪入れずに、釘崎が詰め寄る。
「そりゃあ、妹に敬称なんてつけませんよ。いいとこの家の出身でもあるまいし」
うみは呆れたように肩をすくめてそう答えた。
「「「「「……いもう、と……?」」」」」
全員の声が見事にハモる。
「はい。妹です」
真っ先に反応したのは、三輪だった。
肩を掴んでいた手から完全に力が抜け、その場にへたりと座り込む。
「で、デートとか、じゃなくて……?
「デート? 違いますけど。というか、あれって家族との外出にも適応されるんですかね?」
「よかったぁぁ……! うぅぅ、よかったぁ……!」
安堵のあまりボロボロと涙を流し始める三輪。背後に渦巻いていた漆黒のヤンデレオーラは、嘘のように霧散していた。
「えっ!? ちょっ、霞先輩!? どうしたんですか急に」
突然へたり込んで泣き出した三輪に、うみは心底驚いた様子でしゃがみ込んだ。
そして、彼にとって最も『自然』な行動に出る。
孤児院で、泣いている年下の家族を慰めるときのように。
「……よしよし。何があったか分からないけど、大丈夫だからね」
「ひゃぅっ!?」
うみは泣きじゃくる三輪の背中に腕を回してそっと引き寄せると、
もう片方の手で、その水色の髪をポンポンと優しく撫でたのだ。
相手は年上の先輩である。だが、彼の『お兄ちゃんスイッチ』が完全に入ってしまっている現在、そんな常識は通用しない。
「う、うみくん……っ、ちか、ちか、近い……っ!」
「ん? まだ落ち着かない? 大丈夫、俺はどこにも行かないよ」
無自覚で底抜けに甘い言葉と共に、さらにポンポンと頭を撫で続けるうみ。
先ほどのドス黒いオーラから一転、三輪の頭頂部からはプスプスと沸騰するような湯気が立ち上り始め、
彼女の顔は熟れたトマトのように真っ赤に染まっていった。
(((( うっそでしょ(だろ)この子(コイツ) ))))
一部始終を見ていた女子陣は、完全にキャパオーバーを起こして白目を剥きかけている三輪を前に、戦慄の表情を浮かべた。
「……ほんっと、アンタって子は……」
釘崎に至っては、もはやツッコミを通り越して頭を抱えた。
「……まあ、それは今は置いとくとして。 ……なんなのよアンタら! 兄妹揃って顔面偏差値高すぎでしょ! 舐めてんの!?」
妹だと聞いた時から抱えていた八つ当たりのような理不尽な怒りを叩きつける。
「え? 舐めてるって……そりゃモデルしてるんで多少顔がいい自覚はありますけど……理不尽では?」
うみは三輪を撫でながら、純粋な困惑の表情で首を傾げた。理不尽極まりない。
「……はぁ。じゃあなんだ? さっきのデカい家は、お前の実家ってことか」
疲労困憊といった様子の真希が、話の軌道を修正しようと問いかける。
「実家……うーん。まあ、実家といえば実家……ですかね?」
「なんだよその微妙な反応は。実家なら実家だろ」
「いや、あそこって孤児院なんですよね。実家の定義に当てはまるのか微妙だなぁって」
「「「「「……孤児院?」」」」」
全員の声がハモり、うみはキョトンと首を傾げる。そして、ふと気がついた。
(あれ? そういえば……悟さん以外知らなくね?)
「そういえば、先輩たちには話したことなかったですね。俺、あそこの孤児院の出身なんです」
「「「「「あ……」」」」」
その言葉に、女子陣の間に気まずい空気が流れた。
孤児院に入るということは、基本的に身の上に何かを抱えているケースがほとんどだ。親との死別、育児放棄等々。
いつも底抜けに明るい後輩にも、何か触れてはいけない複雑な事情があるのではないか。
そんな彼のデリケートなプライベートを、勘違いの尾行でズカズカと踏み荒らしてしまったのだ。
「…………悪かったな。完全にアタシたちの早とちりだ。……その、あんま踏み込まれたくないことだったよな。ジュース奢るわ」
気まずそうに頭を掻きながら、真希が腫れ物に触るように謝罪する。
「私も、ごめんなさい……うみくんが、知らない女の子とイチャイチャしてると思って、つい……」
「え? 謝ることないですよ。というか、別に悲しい過去があるとかじゃないですし。
俺、物心ついた時にはすでにあの院にいましたから。ほんと、ただの実家みたいな感覚ですよ?」
西宮もシュンと謝るが、うみは本気で気にした様子もなく、いつもの柔らかい笑顔で返した。
この底なしの人の良さが、また彼女たちの罪悪感をチクチクと刺激する。
「……はぁ。本人が気にしてないって言ってるんだから、あんたたちもいつまでもウジウジ引きずらないの」
真依が呆れたようにため息をつき、気まずそうにしている女子陣、そしてうみを順番に見やった。
「ま、無遠慮に探ったのはこっちだし。……ごめんなさいね、うみ」
「いえ、本当に気にしてないですから」
真依の少し不器用な謝罪にも、うみは変わらず柔らかく微笑む。
真依は「調子狂うわね」と小さくこぼしつつ、まだうみの腕の中でフリーズしている三輪を見下ろした。
そして、パンッと軽く手を叩いて空気を切り替える。
「で。それは今は置いとくとして。ちょっと気になってたんだけど……」
真依が、ふと何か引っかかっていたものを思い出したように、うみの顔をマジマジと見つめた。
「あんたら、全然似てなくない? 目の色も髪の色も雰囲気も。兄妹にしては不自然じゃない?」
「ああ、そりゃあ同じ孤児院出身ってだけで、お互い孤児ですからね。
血は繋がってませんよ。むしろ、院内で血縁がある方が珍しいくらいですし」
うみはあっけらかんと答えた。
「……は?」
「あと、妹って言いましたけど、年齢も俺と同い年です。
まあ、俺の方が誕生日早いんで兄ってことでいいかなって感じになってますけどね」
ピタリ、と。
三輪を撫でるうみ以外の時間が停止した。
「「「それはもう、ただの女じゃん!!!」」」
真依・西宮・釘崎による本日一番のツッコミが木霊した。
血が繋がっていない。しかも、同い年。
世間一般の常識に照らし合わせれば、それはもう完全に「赤の他人」の「同世代の異性」である。
「……? そりゃあ恵里は女の子ですよ? あれで男の子だったら俺は全世界の女性を疑わなきゃいけないじゃないですか」
「どの口が言ってんだバカ」
すかさず、ただ一人正気を保っていた真希から、鋭いツッコミが飛んだ。
「お前がそれを言うなら、アタシらは全世界の男を疑わなきゃいけねぇだろうが」
うみのビジュアルは、超絶美形の中性的。なんなら初対面の野薔薇が「すっごい美少女!」と本気で勘違いしたほどである。
そんな人間が純度100%の天然でそんなことを言えば、特大のブーメランとしてヘイトを買うのは当然だった。
「え? 俺は立派な男ですけど」
「鏡持ってきてやろうか?」
そんなうみと真希の理不尽極まりない掛け合いをよそに。
当のうみの腕の中では、一人の純情乙女が完全にショートしていた。
「同い年の……家族……血は、繋がってない……」
その事実を処理した三輪の口から、魂が抜け出るような声が漏れた。
シュゥゥゥ……という音と共に限界を超えた湯気を吹き出すと、三輪の瞳はグルグルと回り始め、ついに完全に意識を手放した。
「わっ!? 霞先輩!? ほんとにどうしちゃったんですか!」
「だ、ダメだわこの子は……」
「……霞、あんた本当に前途多難ね……」
「……同情するわ」
慌てて三輪を抱き抱えるうみをよそに、真依、西宮、そして釘崎までもが、一周回って深い深い同情の目を、気絶した三輪へと向けていた。
かくして、高専女子'sによるドタバタな休日は、