生まれ変わった世界は   作:月影うみ

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5話

あれから、一週間。とことん呪力操作を詰めた

 

今では呪力を"流す"という感覚を、迷わずに掴めるようになって

日常訓練として基本呪力を流し続けて生活している。このまま呪力操作を洗練していこうと思う。

 

当初の約束通りちゃんと孤児院にも一度帰った。みんな元気そうだったよ。

 

最初の数日は、ほとんど同じことの繰り返しだった。

視て、巡らせて、止まって、散らして。

思うようにいかない部分を、一つずつ潰していく。

 

悟さんは、最初だけ付きっきりだった。

理屈を教えて、やってみせて、

「まあ、あとは慣れだね」と言って姿を消した。忙しい人らしいし仕方ない。

 

その代わりに現れたのが、悟さんの紹介だという術師――

日下部篤也さん。術式を持っていないらしい。

でも、呪力の扱いが異様に上手かった。

 

流れている呪力に、引っかかりがない。

無駄な揺れも、余計な膨らみもなくて、

最初からそこに収まる場所が決まっているみたいでとっても綺麗だった。

 

篤也さんは教えるのもとても上手だった。淡白ではあったけど...

余計なことは言わない。

できていないところだけを、短く指摘する。

姿勢、呼吸、呪力の偏り

 

そんなことを繰り返してるうちに、

気づけば自然に呪力を操れるようになっていた

 

強化睡眠記憶による部分も大きいだろうけど――

(篤也さん居なかったらもう少しかかってたんだろうな...)

 

また、おまけで六眼にも慣れてきた。

今なら、日に15分程度なら目隠しなしで入れる。大進歩だ。

 

そんなわけで、

呪力操作が安定したため――

 

悟さんが、

俺の術式について教えてくれるらしい

 

「さて、そろそろいいかな」

待ち合わせの校庭。陽が西に傾き始めた頃、悟さんが現れた。

「術式のお勉強タイムだよ」

 

「はーい。せんせい、しつもーん」

 

「はいはい、どうぞー」

 

授業のノリでいうと、悟さんは乗っかって両手を広げ、

わざとらしく教師っぽい声を出す。

 

「俺ってどんな術式があるんですか?」

 

悟さんがニヤリと笑う。

「ふふ〜ん、気になる?」

 

「うん。一週間前はあるとしか言ってなかったし」

 

「ごもっとも」

悟さんがベンチに腰を下ろす。長い脚を投げ出して指を一本立てる。

「名前を付けるなら、『術式写経』」

 

「.....写経?」

(名前からじゃさっぱり、"写経"なんて言葉初めて聞いた)

 

「仕組みとかを省いて簡単にいえば――

『他人の術式をコピーする』

――それが君の術式だよ」

 

「....コピー?いろんな術式が使えるようになるの?」

 

「理論上はね」

悟さんが肩をすくめる。

 

「理論上....なにか条件が?」

 

「その通り!

コピーの条件は対象とする術式を理解すること」

 

「術者が解説してくれれば、うみくんの理解力次第。

そうじゃないなら....自力で分析するところからやらなきゃいけない」

 

「理解.....あれ?」

(もしかして強化睡眠記憶とめちゃくちゃ相性いい?)

 

「ん~なになに?めっちゃ気になる反応するじゃん

何に気づいちゃったわけ?」

 

(....悟さんには話しといたほうがいいか

ひとまず、以前通院したときにわかったことにして)

「悟さんに会うずっと前に、病院に行ったときに言われたんですけど...

俺は、とっても学習能力が高いらしくて」

 

 

……一瞬、間が空いた。

 

さっきまで軽く笑っていたはずの悟さんが、

ゆっくりと瞬きをして、表情を落とす。

 

「へぇ」

 

短く、音だけを置くように言った。

 

「それ、もうちょっと詳しく聞いていい?」

 

「えーっと、たしか...

人間の脳は睡眠をとったときに記憶の定着や整理をする、

らしいんですけど、俺の場合はその機能が人より少し極端らしいんです」

 

「だから、普通の人が勉強したり、訓練したりして、

『毎日ちょっとずついろいろ覚えていく』ところを、

俺は『ひと眠り』で学んだことを、

『ほぼ100%』自分の経験に反映してる....

だったと思います」

 

「だから...その、相性よさそうだなぁって」

 

「なるほど……」

 

悟さんが腕を組み、俯いた。その背筋がふいにピンと伸びた。

 

「最悪だね」

 

「え?」

 

予想外の言葉に慌てて顔を上げる。悟さんは呆れたように空を仰いでいた。

 

「いやいや冗談だよ」

悟さんが笑いながら首を振る。

「最高だってこと。最高。天才と天才が出会った気分だよ」

 

「?」

 

「だってさ」

悟さんが急に前のめりになる。

「君の術式って『理解』が必要じゃん?普通の人だったら『理解』するまでのハードルが高くてしょうがないのよ」

 

彼が指を折りながら説明する。

「でも君は……」

指がパチンと鳴った。

「寝るだけで『理解』できちゃう可能性があるんだぜ?」

(確かに.....)

 

「それだけじゃない」

 

「.....?」

(まだ、これ以上あるの?)

 

「だってさ……」

 

悟さんは一歩、距離を詰めた。

 

「君には、六眼がある」

 

「六眼は、呪力の流れや、挙動を把握することができる

それも、情報が最適化された状態で、だ」

 

悟さんが身を乗り出し、俺の目の前で指を立てる

 

「しかもその六眼で見た情報は……」

 

指が私の額をトンと軽く叩いた。

 

「君のその『一晩でほぼ完全習得』する体質で即座に消化・吸収される。」

 

「六眼×体質×術式、その相乗効果は計り知れない」

 

(....相性がいいとかの次元じゃなかった)

 

「ま、どこまでのことができるのかはさっぱりなんだけどね」

 

悟さんは、いつもの調子で肩をすくめた。

 

「そのあたりは、

時間をかけて確かめていこうか」

「今日は、いい時間だしここまでにして、明日から実際に術式を使ってみようか」

 

***

 

翌日。

 

校庭で待機していると、悟さんが一人の男性を伴って現れた

 

「お待たせ。紹介するよ」

と言って隣の男性を指しそのまま、

「こちら、術式の実験に付き合ってくれる術師の結城さん」

 

「どうも、結城です。

ってか実験ってなんですか?聞いてないんですけど」

 

「まぁまぁ、細かいことは後でね」

悟さんは軽く手を振った

 

「今日はこの子の術式を、

ちょっと試させてもらうだけだからさ」

 

「えっと....月影うみです。よろしくお願いします」

 

それを聞いてから、

結城さんは一度、俺の方を見る。

 

「……ああ、どうも」

軽く会釈してから、悟さんに視線を戻した。

 

「しかし……ほんとにこの子、戦えるようにするんですか?」

 

「するよ」

悟さんは即答した。

 

「いやいや」

結城さんは苦笑して、

「だってまだ子供じゃないですか。

それに……女の子、ですよね?」

 

「あ、あの...これでも一応男の子...です」

 

遠慮がちに訂正すると、結城さんが固まった。

 

「.....マジで?」

再起動した結城さんが悟さんに信じられない、

といったような眼を向け確認する

 

「マジだよ」

悟さんはあっけらかんと答えた

 

「あー、えっと...ごめんね?」

 

「んーん。だいじょうぶ」

見た目が幼女なことは自覚しているため、普通に答える

 

「それじゃ、本題に入ろうか。誤解も解けたことだしね」

 

「そーですね。まだほっとんど説明されてないですけど

結局俺は何すればいいんですか?」

結城さんが不服そうに手を組みながら聞く

 

「別に難しいことはないよ

ただいつも通りに術式を使ってこの子に見せてくれればいい」

 

「.....?まぁわかりました

いつも通りでいいんですよね?」

 

「うん。それじゃ、うみくん

よーく見てなよ?」

 

悟さんが含みを持たせて言う

 

「?...あ」

遅れて意味を理解し、目隠しを外す。

途端に情報量が増える。

が、今はまだ大丈夫

 

「じゃ、行きますね」

結城さんがそう言って片手を横に振ると――

 

すう、と。

空間の輪郭が一段、浮かび上がった

 

「......呪力の線?」

 

 

俺のつぶやきに反応して

結城さんが、ほんの少しだけ眉を寄せた。

 

「…見えてるの?これが」

 

「はい...そこにすぅって」

指でさし示して伝える

 

「あってる…」

結城さんは小さく息を吐いた。

「五条さん以外にも見える人間がいるとは...」

 

「ふふーん!うみくんは僕とおんなじ目を持ってるからね♪すごいでしょ?」

 

結城さんがぴたりと動きを止めた。ギギギっと音が聞こえそうな動作でこちらを向き――

 

「....マジで?」

――と言葉をこぼす

 

「マジです」

そう簡潔に返すと、

 

「はぁ。うん、もう考えるのやめよう」

天を仰ぎため息をついて、小さくつぶやいた。

 

そして一度、深く息を整えて。

「じゃあ、とりあえず続き行くぞ」

 

そういって、足元の石を拾い上げ――

「よっ」

――"線"に向かって投げた。

 

石が放物線を描き、『呪力の線』に到達した瞬間――

 

ピンッ

 

――と、はじかれて悟さんの足元に着弾した

 

「これが俺の術。

触れたものを反射する不可視の線を作り出す

『反発線』だよ」

 

「反発線.....」

(なんか、ワートリのあれに似てるな。グラスホッパー)

 

「それで?五条さん。

実験って言ってましたけど、この後どうするんです?」

 

「ん?簡単だよ。

うみくんに今のを使ってもらうのさ」

 

「......は?」

「いや、え?失礼を承知で言いますけど

頭大丈夫ですか?」

 

「ひどいな~。別に僕がおかしくなったわけじゃないよ?

この子の術式はね、術式のコピーなんだ」

 

「なっ!?」

結城さんが絶句する。それを華麗に無視した悟さんがこちらに向き直る

 

「それで?今のでどれくらい分かった?」

 

「..."線"をできるまで流れはだいたい。

"線"をできるまでの工程は大きく分けて3つ」

 

「1つ、呪力を術式に流し込む。これは全部の術式で共通。

2つ、術式を介して呪力が空間に放出される。

3つ、放出された呪力が空間に固定される。

大まかな流れはこんな感じだと思う。」

言い切ってから結城さんに視線を向ける。

(さて、どれくらいあってるか)

 

「まあざっくり言っちゃえば、その通り」

 

「うん。じゃあ一回試してみようか」

 

「はい」

悟さんの言葉に首肯し、何もない空間に向き直る。

 

呪力を自分の術式に流し込む。

さっき見た結城さんの動きをまねて腕を横一文字に振り払う

――何も起きない

 

「失敗...です

なんとなくわかってたけど、まだ足りないみたい」

 

「うんうん。まぁ想定内だよ」

 

悟さんは、にっと笑った。

 

「だからここからは――」

 

手をパン、と一つ叩く。

 

「質問ターイム!!」

やけに楽しそうな声で宣言する。

 

「せっかく、術者が目の前にいるんだ。遠慮は一切なし!!

気になることは全部聞いちゃおう。これメモ帳ね」

そんな悟さんの様子に、結城さんは遠い目をしている

 

「えと、それじゃあ...お願いします?」

 

「ああ、うん。どうぞー」

もう、考えることはやめたらしい

 

「じゃあまず、線って同時にいくつまで出しておけるんですか?」

 

「特に制限はないよ。一回出したら消えるまでそのまま」

 

(ふむ、なるほど。じゃあ次は...)

 

「数が増えると反射出力が下がったりしますか?」

 

「そういうのもない。というか、出力は任意で決める感じ」

 

(そこはグラスホッパーより使い勝手がいいなぁ)

 

そのあともいろいろと質問をした。

「ほかの形にできたりしないのか?」「反射できるものの制限は?」などなど

 

質問タイムを終え、現状分かっていることをメモにまとめなおす

 

---

1.術式の流れは以下の通り

 術式に呪力を流して起動→"線"に付与される反射属性の出力設定

 →呪力の放出→呪力の固定・設定した反射属性の付与

 →触れた対象を反射

2."線"の特性については以下の通り

 ・同時に存在する数に制限はない

 ・数による出力低下はなし

 ・形に関しては線状以外にはできなかった

 ・不可視だが呪力の感知には引っかかる

 ・反射できるものについては、最大出力の場合、

  軽自動車くらいのサイズ、空の仮設トイレくらいまでの重さまでなら弾ける

 ・反射できるものは、実体・質量のあるものに限られる

   →炎などの実体を持たないものはNG

 ・一つの"線"に対し、反射可能回数は一回のみで、一度反射したら"線"は消える

---

 

(うん。大体こんな感じで良し

で、一番重要なのが.....)

 

「術式使用時の腕の一閃は必須....使いづらいですね」

 

「まぁ、それさえなければもう少し便利なのにって思ったことはあるよ」

 

パンッ!!

と乾いた音が響く。そちらを向けば悟さんが手を合わせていた

 

「よしっ」

「いろいろ分かったところで、もう一回やってみようか」

 

「はい」

返事をしながら呪力流す。

まずは出力設定。イメージは成人男性を跳ね返すくらい。

次に呪力の放出、腕を上げ横に一閃。

このタイミングで固定するイメージ。

 

すぅ、と空間に一本の"線"が現れる

 

「.....できた」

(あとは、ちゃんと反射するかどうか...)

足元の石を拾い上げ、"線"をめがけて放る。

石は放物線を描きながら飛んでいき、"線"に触れると――

 

ピンッ

 

――と、はじかれて飛んでいく。

 

「コピー...成功」

思わず小さくこぶしを握る

 

「マジで、やっちゃったよ...」

結城さんが唖然としている

 

「どうだった?結城。

この子の『反射線』は。」

 

「どうも何も、俺のと一緒ですよ。

展開速度は遅かったけど、そこらは慣れかと。」

 

「うんうん。実験は大成功だね」

 

「まぁ、そうなんじゃないですかね

実験終わりなら、俺はもう帰っても?」

 

「うん。今日はありがとね」

 

「いいっすよ。別に。じゃ俺は帰るんで。

うみくんもじゃあね。」

 

「はい!ありがとうございました」

軽く手をあげて去っていく結城さんを見送り、もう一度『反射線』を使ってみる

 

「うーん。どうにかしてこの一閃をなくせないかなぁ」

 

「なくせるよ。うみくん次第だけどね」

 

唐突に、悟さんが言った。

 

「え?でも結城さんは必須って...」

 

「呪術には『縛り』っていうのがあってね。」

 

「お堅く説明すると

『術者が自分(または他者)に現実的・呪術的な不利を課すことで、

 呪力・術式の性能や成立条件を上書きする“契約的仕組み”』

 のことを言うんだ。」

「簡単なたとえで言うなら、『武器を使わないから、力を強くして』みたいな感じかな」

 

「等価交換…?」

 

「そうそう!まさにそんな感じ

だから、上手く縛れば、使い勝手をあまり変えないで、

身体動作の条件を消せるってわけ」

 

「なるほど…」

 

「まぁ、その辺はゆっくり考えなよ。今日はこれで解散ね」

 

そういって去っていく悟さんを、

どうやって術式を縛ってやろうか考えながら見送った。




術式のコピーについては、初回だから詳しめに書いたけど、これからはこんな詳しくやりませんのでご承知おきください。めっちゃ大変なの。これ。
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