呪術界に足を踏み入れてから約1年が経過した。気づけばもう5歳早いもんだね
あれからは、呪術の勉強をして、体を鍛えて、一般教育の勉強もして
勉強が休みの日は孤児院に行ったり、本を読んだり、なんだかんだ充実していた。
そういえば、悟さんはなんか「面白い子を拾った」って言っていた。俺の一個上の子らしい。
「そのうち合わせてあげるからね~」って言ってたけど、あの様子じゃしばらく先かな
結城さんと会ったあの日から、特に新しい術式に手を出したりはしていない。
「とりあえずは術式を使うことに慣れる方針で行く」という悟さんの宣言のためだ
そのため、とことん『反射線』を研究し、縛りを用いて発動条件の身体動作を消去することに成功した
---縛りの内容---
・同時に展開していられる最大枚数を制限
無制限→10枚
・同時展開による一枚当たりの出力低下
1枚展開→100%
2枚展開→90%
3枚展開→80%
といったような感じ
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[こういった縛りを課すことで、腕を振るう条件があった都合上、腕の射程でしか展開できなかったのが
自分より半径6~8m圏内の任意の位置に展開できるようになった]
と、まぁこの一年に関してはこんなところでいいか。
細かくみればもっといろいろあるだろうけど、
今はそんなことはどうでもいい。
そんなこと気にしてられないくらいに意味の分からん状況に放り込まれている。
俺は今――
「おい、うみ。今度はこれを読んでくれ」
――
(なんでこうなったんだっけ?)
――数時間前――
「んっ」
いつも通り、窓から差し込む朝日で目が覚める。
顔を洗い、部屋着を着替え、朝食を済ませ、鍛錬をする。
いつもなら、体づくりや術式訓練は午後にしているが、
今日は珍しく正道さんに呼ばれているため、先に済ませた。
(う~ん。正道さんから呼び出しなんて。
なんかやらかしたっけ?)
不安になりがら廊下を進み、学長室の前にたどり着く
(ちょっと早いけど大丈夫だよね?)
コン、コン、コン。
リズムよくノックをし、返事を待つ
「....なんだ?」
少し疲れたような声で返事が返ってきた
「うみです。少し早いですけど大丈夫ですか?」
「...入れ」
許可が出たので扉を開ける。
「失礼しま...す?」
室内の光景が目に入り、困惑する。
結論を言おう。学長は居た。否――学長
そう。学長とは別の存在がいたのである。
全身が白と黒の配色で構成され、
丸みを帯びた小柄な体躯は、
どこかぬいぐるみめいて見える。
柔らかそうな毛並みは無駄にふわふわとしていて、
触れれば指が沈み込みそうなほどだ。
その奥で、黒く小さな瞳がつぶらに光っている。
――そう、ぱんだである。
老若男女問わずを虜にする動物園のアイドル、子ぱんだがそこにいた。
(え...ぱんだ?何で?)
「おまえ、だれだ?」
唐突に
(...しゃべった。ぱんだが?)
あまりの情報量に頭はショート寸前である。
「うみ。理解できないのはわかる。
いったん座って落ち着け」
固まっていると正道さんから声がかけられる。
正直助かるのでおとなしく言葉に従い、ソファに腰掛ける
一つ深呼吸してから、正道さんに問いかける
「えと、それでその...ぱんだ?はいったい...」
「こいつは、俺の作った呪骸だ」
(...呪骸?)
「呪骸って...しゃべりましたっけ?」
「基本的な呪骸は、命令に従うだけの道具だ。
自律的に思考したり、会話したりはしない」
「俺も、そう教わりました...」
だからこそわからない。このぱんだが一体何なのか
「だがこいつは...俺もよくわからん」
「....へ?」
思わず抜けた声が出る
「こいつを作ったのは確かに俺だ...
だがなんでこいつがしゃべるのか...自我を持つのかはさっぱりわからん
言ってしまえばこいつが生まれたのは奇跡に近い偶然だ」
「....ひとまず、その子のことはわかりました。
えっと、それで、俺を呼んだ理由は?」
突然のしゃべるぱんだの登場で忘れていたが、俺は正道さんに呼ばれてここにきたのだ
「ああ、それもこいつにかかわってくるんだが。
単刀直入に言う。こいつの遊び相手になってやってくれ」
「あそびあいて...?」
「ああ、さっきも言った通りこいつは最近、俺が作った
つまりは、こいつは生まれたばかりなわけだ。
なんだが、俺も高専の管理やら、上層部との何やらで
ついていてやれる時間が少なくてな。」
「あぁ、なるほど。
分かりました。そういうわけでしたら問題ありません。
ただ、授業とかの時間はどうするんですか?一緒に受けます?」
「いや、それはさせない」
「お前はお前で学ぶ時間が要る。
こいつを横に置いて、気が散る状況にする気はない」
「その時間は俺ができうる限り調整する
それ以外の空いてる時間に、相手をしてやってくれればいい」
「わかりました」
「終わったか?終わったよな?」
会話に区切りがついたところで、黙っていたぱんだが声を上げた。
....けっこう賢い?
「オレ、パンダ。よろしくな。
お前は?」
「そのまんまなんだね...
俺はうみ。月影うみだよ。
よろしくね、パンダ」
「なあ、うみ。お前、字は読めるか?」
「大体は読めるけど、なんで?」
「オレは読めないんだ
だから、本を読んでくれ」
「ん、いいよ
じゃあ俺の部屋行こう。本ならいっぱいあるから」
――現在に戻る――
(あぁそうだった。自分から飛び込んだんだっけ
でも....もう10冊目だよ?)
「ねぇ、パンダ。ちょっと休憩してもいい?
さすがにちょっと疲れちゃった」
パンダが首を傾げる。黒い瞳がじっと見つめてくる。
「んー……いいぞ。 でもあと1冊だけ!」
尻尾をぷるんと震わせながら提案してきた。
(しかたないなぁ...)
「ん、一冊ね。そしたら....これでいいかな」
そういって引き抜いたのは『不思議の国のアリス』
日本語訳で200~250ページあるものが、
絵本だと30~40ページにまでなるんだから作家って偉大なんだなぁと思う
パンダの様子を伺いながらぺーじをめくり、読み上げていく。
(ほんと楽しそうにするなぁ)
あまりにもパンダが楽しそうで少しうれしくなってくる
「『そうしてアリスは、
大きくなってからも、
子供のころのやさしい心を、
ずっと忘れませんでした。』
おしまいっと」
「んー!!ちょっと休憩」
椅子に寄りかかって大きく伸びをする
パンダを見やればベッドの方でくつろいでいる
(さすがに疲れてたっぽい?)
「パンダ。お茶持ってくるからこっち座ってまってて」
そう声をかけ、ポットに水を入れ湯を沸かす
マグを2つ取り出し、お茶のパックを放り込んで湯を注いで運ぶ
「はい。こっちがパンダのね」
「熱そーだな.....」
「猫舌?」
「.......ああ」
「ぱんだなのに?」
「ぱんだなのにな」
「ふふっ」
「へへっ」
あまりにくだらない問答に自然と笑みがこぼれる
「そーいえば」
ふと疑問が浮かんだので聞いてみることにする
「お?なんだ?」
「パンダっていつくらいからいるの?
俺、ここに来た頃から今日まで、大体1年くらいいるのに
一切見かけなかったけど」
「んー...よくわからん
でも、最近だぞ?正道が言ってた」
「そっか。」
深く聞くほどのことでもないのでわからんならそれでよし
ふと、時計を見ると19時を回ろうとしていた
(...そろそろ送ってかないと)
「パンダ。もうそろそろ時間だから、正道さんのところ戻るよ」
「イヤだ。まだ読んでほしいのがあるんだぞ」
パンダが不服そうに拒否する
「正道さんが待ってるだろうからだーめ。
ほら、明日も来ていいから」
「ホントか?」
「うん。俺が授業の時間以外ならね」
「じゃあ帰る」
現金なやつだなぁ、と思いながらパンダの手を取る
「ほら、行くよ?」
パンダの手を引きながら廊下を歩いていると、悟さんに出会った
「あれ?うみにパンダじゃん。何してんの?」
「よっ悟!」
「あっ悟さん...」
どうやらパンダは悟さんと知り合いだったらしい
「悟!コイツ、うみ。オレのトモダチ」
どうやらパンダは俺を友達だと思ってくれてるらしい。うれしい...
「ん。友達」
そう告げると、悟さんが今までにないくらい優しい表情をする
「へぇ~。友達、ね」
「うん、いいじゃん。青春してるね♪」
「そうですかね?
あっ、パンダ。早くいかないと正道さんおこるかもよ?」
「マズイぞ!正道は怒ると怖いんだ...
うみ!急ぐぞ」
ちょっとした冗談のつもりだったが、
パンダは本気にしたらしく、慌てて走って行ってしまう
「あっ、ちょっとパンダ!!
すみません、悟さん。もう行きますね」
それだけ言って返事を待つ間もなくパンダを追って走り出す
「....ほんと、青春してるねぇ」
二人のいなくなった廊下に、
小さく、何かを懐かしむようなつぶやきが溶けていった