生まれ変わった世界は   作:月影うみ

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7話

あれから、二年が経って、

パンダと過ごす時間はすっかり日常になっていた。

 

いつも通り本を読んで、

いつも通り話して、

夕方には別れる。

それを何度も何度も繰り返す。

 

あの頃と違うことを上げるとすれば、

パンダも授業や鍛錬に顔を出すようになったこと。

 

正道さん曰く、「そろそろ学ばせる頃合い」ということらしい

 

あともう一つ、パンダが一回りほど大きくなったこと。

いつだったかは忘れたけど、ある日突然大きくなった状態で部屋に訪れたのだ

あれはビビった...俺の背丈が小さいのもあり本物のぱんだが来たのかと思った

 

パンダの突然のサイズアップについて正道さんに聞いたら、

「精神的成長に合わせて外殻を更新した」

との返答をいただいた。

 

一方俺の方はというと、特段何が変わったとかはない。

今まで通り、勉強して、体を鍛えて、呪術を鍛えて、パンダと戯れて、孤児院で遊んで。

変わったことと言えば、体術の訓練を始めたことくらいだろうか

 

呪術界に足を踏み入れてから3年経って、

それに伴う鍛錬により、ある程度体ができてきたこと、

反発線の実戦的な使い方を試したいのに、体が動かなすぎてうまくいかなかったため、

1年ほど前から体術の訓練に手を出したのである

 

解剖学の本を読み筋肉の動きや可動域を学び、

いろいろな武術の動作を視て、実際にどういう風に動くのかを知り、

悟さん並びに先輩術師の方々に協力をしてもらって自分で試したりなどなど。

とにかく知識・経験を集め、強化睡眠記憶で定着させる日々を送った。

 

そんな日々を送っていると、ある日というか今日、悟さんに呼び出された

 

(今回はなんだろ?いつになくまじめだったけど...

というよりも、なんで毎回要件言ってくれないんだろ。あの人)

呼び出しの要件について思考を巡らせていると、

見覚えのある白髪とベージュのコートが見えてきた。

 

「悟さん。篤也さん。おはようございます。」

 

「おはよー。早いね」

「おう」

うん。二人ともいつも通りだ。

それにしても....

 

「篤也さんも呼ばれたんですか?」

(また訓練のお手伝いしてもらうのかな?)

 

「……まあな。詳しい話は、そっちに聞け」

疑問に思って聞くと、篤也さんは悟さんを指しながらそう言う。

 

悟さんの方に視線を向けると、いたずらっぽく笑っている。

(あぁ...普通のことじゃなさそう)

 

「今日はねー、特別授業」

悟さんは指を一本立てた。

 

「うみには、日下部さんの任務を見学してもらう」

 

「......見学?」

 

「つまり――

実際に現場に出てもらいまーす」

 

(現場を....?ってことは呪霊がいる?)

さすがに言葉が出なかった。

今まで、一度も呪霊を見たことがなかったのを思い出す。

 

悟さんは楽しそうに笑っていて、

その隣で、篤也さんがあきれたように頭を押さえている。

 

「まぁ、現場って言ってもうみが直接呪霊の相手するわけじゃないから

そんなに緊張しなくてもいいよ?」

 

「......?」

現場に行くのに緊張しなくていいとは、これ如何に。

 

「今日やってもらうのは、さっきも言った通り『見学』だ。

『日下部さんの隣で』とかじゃなくて、

ちょっと離れたところから見てみようってこと」

 

「基本は窓の人の隣で見学兼護衛って感じだよ」

 

(窓...

たしか、術師じゃないけど呪霊が見える人たちの総称、

だったかな?)

 

「...わかりました。

えっと...篤也さん。今日はよろしくお願いします」

 

「......ああ」

篤也さんは短く返事をして、声を低くして言葉を続ける。

 

「一つだけ言っとく....

現場では俺の指示に従え、

分からんことがあったら、俺か窓のやつに聞け。

必ずだ。いいな?」

 

「は、はい」

あまりの雰囲気に少し、尻込みしてしまう

 

「行くぞ。遅れる」

そういって踵を返す篤也さんを、悟さんに一礼してから追った。

 

---

 

しばらく篤也さんの後をついていくと、スーツ姿の男性が見えてくる。

その男性は、篤也さんの姿を認めるとこちらに近づいてきた。

 

「日下部さん。お疲れ様です。」

深く頭を下げる男性に、篤也さんは手を挙げて答えた。

 

その男性は頭を上げると、

そのまま篤也さんの隣に視線を移し――固まった。

 

「......?」

どうしたんだろうと小首をかしげると、男性はすごい勢いで篤也さんに顔を向け、

 

「く、日下部さん!?

まさかとは思いますが....この子は。」

とても慌てた様子で、篤也さんに確認する

 

「......あぁ、そのまさかだよ」

篤也さんはため息をつきながら答えた。

 

「………」

篤也さんの返答に男性は声を失い、唖然としてしまった。

 

ひとまず、なんの挨拶もなしなのは失礼なので自己紹介でもしておこう

 

「えっと、見学の月影うみです

よろしくおねがいします。」

 

「あぁ、これはご丁寧にどうも。

私は、『窓』の伊地知です。よろしくお願いします。」

 

そういってから、ほんの一拍

 

「....ってそうじゃないですよ!?

よろしくお願いされる年齢じゃないですよね?」

 

(見事なツッコミ....世界取れるな)

 

「日下部さん!どういうことですか!?

子供を、しかも女の子を現場になんて!!」

 

「あっ....」

(また、間違えられてしまった...)

 

「……落ち着け」

篤也さんが、淡々と言った。

 

「任務は俺の管轄だ。

許可も出てる」

 

一拍。

 

「あと、そいつは坊主だ」

 

「……え?」

 

伊地知さんの視線が、もう一度だけ俺を見る。

 

「えっと、一応?」

 

「そ、それは失礼しました。」

 

「……それで、あの」

伊地知さんは一瞬言葉を選び、声をひそめた。

 

「本当に……本当に許可、出てるんですよね?

冗談とか、そういうのじゃなく」

再度、伊地知さんが篤也さんに確認する。

 

「出てる」

 

即答だった。

 

「文句があるなら後で上に言え。

現場で時間使うな」

 

一歩、、前に出る

 

「さっさと行くぞ」

 

「……了解しました」

伊地知さんはうなだれるように頷き、表情を引き締めた。

 

(あ、諦めた)

そんなことを考えながら

二人に続くように歩き出した。

 

***

 

「そういえば、任務っていうのは聞きましたけど、

具体的に何するんですか?」

 

伊地知さんの運転する車で揺られながら、

詳細を聞いてないことを思い出したので篤也さんに聞いてみる

 

「あぁ...言ってなかったな。伊地知。」

 

「はい」

伊地知さんは短く返事をすると、ハンドルを握りなおす。

 

 

「今回の任務は、住宅街一帯の哨戒です。

数日前から"夜になると、奇妙な音が聞こえる"という通報がありました。

残穢も確認されているので、呪霊で間違いないかと」

 

「残穢って、たしか指紋の呪力バージョンでしたっけ?」

 

「えぇ、おおよそはその認識で大丈夫です。続けます。」

 

「確認された残穢から、呪霊は一体。

階級は三級相当と思われます。」

 

「....等級?等級って何ですか?」

 

「あ、えっと」

伊地知さんはミラー越しにチラリとこちらを見る

 

「簡単に言ってしまえば、呪霊の危険度を大まかに階級分けしたものです。」

 

「下を4級から上を特級までといった感じですね」

 

「う~ん?どれがどのくらいなんです?」

 

「そうですね...呪霊に通常兵器が聞くものと仮定した場合で説明します」

 

「まずは四級。木製バットで余裕です

次に三級。拳銃があれば安心、といったところでしょうか

続いて二級。散弾銃でギリになります

そして一級。戦車でも心もとないレベルです

最後が特級。クラスター弾の絨毯爆撃でトントンです」

 

「クラスター弾.....!?」

(そんな物で絨毯爆撃なんかしたら、更地になっちゃうよ...)

 

「えぇ。そして、任務は基本的に呪霊と同等級の術師が当たります」

 

「術師にも等級があるんですか?」

 

「はい。術師も呪霊と同じ区分の等級があり、

四級~一級までは、

"自分と同等級の呪霊を単独で安定して祓えるかどうか"

が等級を判断するための一つの基準になります」

 

「あれ?特級は違うんですか?」

 

「そうです。特級の判断基準はただ一つ。

"単独で国家転覆が可能であること"これにつきます。」

 

「た、単独ですか!?単独ってあの、

"他の者の助け・協力・同行を伴わず、ひとりだけで行うこと"

を指す、あの単独ですか!?」

 

「えぇ、その単独です。

よくそこまで詳しく知ってますね」

 

「えへへ~」

 

「話を戻します。

現在、日本で公的に認定されている術師は2名です」

 

「二人だけなんですか?」

 

「えぇ、そしてそのうちの一人はうみくんもご存じの、

五条悟術師となっています」

 

「....やっぱりすごい人なんですね。悟さんって」

 

「えぇ……えぇ、それは間違いありません

五条さんは正しく、"現代最強の術師"ですから」

 

「....最強」

 

「えぇ。ちなみに日下部さんは――」

伊地知がバックミラーで篤也の表情を伺いながら言葉を紡ぐ。

「一級術師です。今回の等級を考えれば十分すぎるお力ですね」

 

(一級!!篤也さんって術式ないんだよね?

それで一級....あれ?一級?)

 

「じゃあ、今回の任務に篤也さんが出てるのって...

俺がいるからですか?」

 

「おそらく、その側面は強いでしょうね。

しかし、呪術師は万年人手不足ですから、

等級が下の任務に駆り出されることは自体は、

そう珍しいことではありません」

 

「そうなんですか....」

(事実なんだろうけど...仕事増やした感が否めない)

 

「そんなもんいちいち気にすんなよ」

篤也さんが車窓に肘を預けながら言った。視線は前方を向いたまま。

 

「今も伊地知が言ったが、呪術師は万年人手不足なんだ。

後発を育てるために動くのは普通なんだよ。これはいわば先行投資だ。

さっさと強くなって俺を楽させてくれ」

 

「....はい!」

(これは期待してくれてるってことでいいよね♪)

篤也さんの素直じゃない物言いに心を弾ませる。

 

それ以上は誰もしゃべることなく、車内に沈黙が落ちる

 

「もう少しで到着です。準備をお願いします」

伊地知さんが前方を見据えたまま言った

 

***

 

車がゆっくりと減速し、路肩に寄せられた。

 

「ここで一度、降ります」

 

伊地知さんがエンジンを切ると、周囲の音が一気に戻ってきた。

遠くで車が走る音。住宅の裏手から聞こえる生活音。

さっきまでの車内の密閉感が、嘘みたいにほどけていく。

 

「通報のあった地点はもう少し先なのです」

 

「じゃあ何でここに?」

気になって聞くと、伊地知さんが地図を確認しながら答える。

 

「あの辺りは駐車できるスペースがありません。

それに、呪霊が移動している可能性もあるので、

それを加味して、哨戒範囲を広めにとっています」

 

(あぁ、そりゃそうか。

呪霊が動かないなら、呪術師は困ってないよな)

「なるほど」

納得したので、篤也さんに視線を向けて指示を待つ

 

篤也さんは無言で周りを見渡すと、

「じゃあ行くぞ。俺が前。伊地知が俺の後ろで、

うみはその横...ってよりは一歩後ろだな。」

 

(何かあったら、伊地知さんの守りに入れる位置にいろってことかな)

「わかりました」

 

「で、通報があったのはどっちだ?」

 

「あちらです」

伊地知さんが、住宅街の奥へ続く道を指さした。

 

「……」

それに篤也さんは無言で歩き出す

 

篤也さん、伊地知さんの後をついてしばらく歩くと、

横道の方に、今にも消えそうなもやもやがあるのが目に入る

 

「伊地知さん。あれって何ですか?」

もやもやを指さして、伊地知さんに問う

 

「......どれ、でしょうか?」

 

「あそこにある...もやもやしたやつです」

 

伊地知さんが俺の指した先を注視し、表情を引き締める

「.....なるほど

それが呪力の残穢です。

位置的には...通報位置とは少し離れていますね

やはり移動してると見ていいでしょう」

 

「....そうか。うみ、残穢はどっちに続いてるかわかるか?」

篤也さんに聞かれたので、横道全体に視線を走らせる

 

「ん~。10mくらいのところで途切れて...あっ」

 

「どうした?」

 

「えっと...10mくらいのところで途切れてたんですけど...

あそこの屋根の上にそれっぽいの見つけて。

多分、上に移動してったんじゃないかなと」

 

「わかった。にしても便利だな。残穢が見えるってのは」

 

「普通は視えないんですか?」

 

「お前以外に見えるって言ってんのは五条ぐらいだな」

 

「じゃあ二人とかほかの術師や窓の人はどうやって...」

 

「私たちの場合は、そこに"ある"と感覚的にわかる形ですね

なので、あまりにも残穢が弱いと見落とすこともあるんです」

 

「おしゃべりはそのくらいにしておけ。呪霊を追う。

残穢が上に逃げてるなら、動線は屋根の上だろう。」

 

「うみ、お前は上だ。

残穢を視て、こっちに報告しろ。」

 

「俺と伊地知は下から並行して動く」

その指示に伊地知さんが反応する

 

「日下部さん、大丈夫なんですか?」

 

「別に戦わせるわけじゃない。それに離れるわけでもないしな。

あいつならすぐに戻ってこれる距離だ。」

伊地知さんに答えてこちらを見る

「見える範囲でいい。無理に追いすぎるなよ」

 

「わかりました」

篤也さんに返事をして、反射線で屋根の上に跳び上がり周りを見渡す

 

(......あっちか)

「どうだ?」

残穢を視認すると同時に、下から篤也さんの声が飛んでくる

 

「あっち、路地の奥の方に続いてます!」

距離があるので気持ち声を張って報告する

 

「了解。移動するぞ。変化があれば、また報告しろ」

 

「はい」

 

***

 

しばらく移動すると、もやもやが濃くなってきた。

「篤也さん、もやもやが濃くなってます。近いってことでいいですか?」

 

「えぇ、その認識で問題ありません」

伊地知さんが声を落として答えた。

 

「残穢が濃くなってきているなら、

呪霊本体との距離はかなり詰まっています」

 

「よし。ここからは移動のペースを落とす。

うみ、少し後ろに下がって今まで以上に注視しろ

変化があったら、すぐ言え」

 

「りょーかいです」

横目に篤也さんたちの位置を見ながら少し後ろへ下がり、残穢の先を視る

 

「ここから、8mくらいの位置で残穢が途切れてます。

多分、下に降りたんだと思いますけど...いそうですか?」

 

「.....あぁ、捕捉した。戻ってこい。お前は伊地知の護衛だ。」

少し間をおいて、そんな返答が帰ってきた

 

「わかりました」

屋根から降りて、伊地知さんの少し前を陣取り、

反射線を自分と伊地知さんを囲むように展開する。

 

(物理攻撃しか弾けないとは言え、ないよりはましでしょ)

 

篤也さんの方に目を向けると、路地の奥に"それ"はいた

 

(あれが呪霊...思ったよりグロいな)

 

次の瞬間――

日下部さんが刀を振り抜いていて、呪霊の首が飛んだ

 

(...嘘、初動がわからなかった。

予備動作がほぼない....)

残った呪霊の体が崩れていく

 

「...伊地知」

 

「呪霊の反応は消失しています。

他がいないかを確認したら、任務は終了です」

 

「了解。うみ、行くぞ。」

 

「あっ、はい」

(すごいな...あれ、正面から受けたら切られたこともわかんないんじゃない?

これが一級術師....遠いなぁ)

 

「周囲、問題ありません」

伊地知さんが、端的に言う

「これで任務は完了です。

通報者の方には、こちらで対応しておきます」

 

「おう」

篤也さんはそれだけ答えると、脱力した

 

「よし、帰るぞ。

それと、うみ。帰ったら今日の内容をまとめとけ。

夜蛾学長あたりが、提出させるだろうからな。

『将来、報告書を書く練習』、とか言って」

 

「あはは...わかりました」

篤也さんのその言葉に

あまりにも自然にその光景を想像できてしまい、

苦笑しながら答えた。

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