英雄とは何か。
その問いを、ある騎士に言われたことがある。
なぜそんなことを末席たる自分に聞くのかと思うが、その騎士は期待に満ちた眼差しで見つめてきたため、そんな事を言うのも憚られた。
本来なら
それでも、そこ眼差しがあんまりにも綺麗だったから、少しくらいならと了承してしまった。
未だにこの時の答えは、他人から借りたようなものだから納得はしづらいが、それでも確実に俺の原点だろう自覚はあった。
この言葉のお陰で、俺は走り出したのだと。
『英雄ってのは────まだ見ぬ誰かのために走り出せる奴らのことだろ』
生きる時代は違えども、かの太陽神スーリヤの子であるあの大英雄の言葉こそが、俺の英雄としての行動原理だった。
◆◆────────────────◆◆
そんな事を、空を走るさなかに思い出していた。
今でも思うが、もっと自分の言葉で伝えられてればよかったのだろうが、俺としてもあれが全てだったので他に言いようがなかったのだ。
そうを思いながらも、俺は新潟へと向かっていた。
アールヴヘイムの外征先であり、同時に陥落の危機にある土地だ。
恐らくその場所は、かなり悲惨な戦場となっていると予測できる。それも、地獄絵図に近い形で。
正直もっと早く助けに行けばよかったと思うが、新潟の事を知ったのが偶然見た掲示板だったから今まで知らなかったのだ。依頼を受けた時にようやくつながったカタチになる。
「
生徒会三役から言われたのは、そういう依頼の旨だった。
つまりは他は見捨てて構わないと言っているのと同じであり、そんな事を子供に判断させるのはどうかと思うが。
だが、それが紛れもなくこの世界の現状なのだろう。
納得はしづらいが。
だから、ぶち壊してやることにした。
そういう
犠牲者が出ないなら怪我人を減らし、少しでも傷つく人を抑える。それが騒がしくも尊敬する、円卓の騎士たちに近づく方法だと思うから。
「────もうすぐ見えてくるか………ん?」
そんな考えは置いておいて、ある程度新潟に近づいたときに少し違和感を感じる。
いや、聞いていた通りの惨状ではあるのだが、それでも何かがおかしいと思ったのだ。
勘……とでも言えばいいのだろうか。
戦場を駆け回ってきた円卓の騎士としての感覚が齟齬を訴える。
空を駆けるさなかに、そんな感覚を感じ取った俺は、上空から戦場を俯瞰する。
建物はくずれ崩壊し、そこら中が炎上している。
それに加え、人の領域を我が物顔で闊歩するヒュージどもが目に入る。本当に人を殺すことしか頭にないようだ。
だが、それはあまり問題ではない。
言い方は悪いが、俺にとっては取るに足らない相手だ。アルトラ級ならば兎も角。
問題なのは─────
「ヒュージのではない、リリィや人のとも違う気配がある………?」
異常を訴える感覚の根源はそれだ。
おかしい。この世界にヒュージ以外の幻想種は居ないはずだ。これまで掲示板の人達もそのようなことは言っていなかった。
にも関わらず、この場には違う気配がする。
人をいたずらに殺す、ある意味ヒュージと同類で。それでいてそれよりも遥かにたちが悪いものが。
悍ましき無垢なる生命の気配が───する。
「………いや、今はいい。逃げ遅れた人がいないかの確認をしてから向かおう」
一旦思考を中断して、救援へと切り替える。
もともとそのためにここに来たのだ。
そうして、俺は一通り確認したあと、地上に降りようとして。
「────ッ!」
爆発音を聞いた。
すぐさま駆け出す。迷っていたのでは間に合わない。
故にコンマにも満たない秒数で走り出す。風圧を出さぬように工夫しながら
そこにいたのは、倒れ伏すリリィや確かマディック?という戦闘員の少女たちだった。
その眼前には、巨大なヒュージがいる。
恐らくこの惨状を創り出したのはあのヒュージだろう。
まるで巨人のようなその風貌をもつ、巨大で悍ましく強いものだ。
風貌、そして周りのリリィやマディックたちの辛うじての生存を確認しヒュージに向かい突貫する。
槍を前方に構え、一筋の光閃となり駆け出す。
時間を掛ければそれだけで彼女達の生命が危うくなる。
故に狙うは短期決着、すぐ様の撃滅。
流星のように駆けたその光は前に出ていた巨人の上半身を吹き飛ばし、後の単眼の大巨人の腕を消し飛ばした。
まさにその速度は光にも劣らないと感じるほどの一撃であり、規格外の威力を誇った。
しかし少し急いで放ったからか狙いが甘かった。
本当ならば二体一気に仕留めるつもりだったのだが、少しズレたらしい。
周りの雑魚もかなり掃討できたとはいえ、それでも一撃で仕留められなかったのは悔いるしかない。
(────
そんな事を考えながらも、すぐ様反転し巨人を殺そうとして。
仕留め損なった単眼の巨人に、巨大な砲撃が突き刺さった。
おそらくはリリィの────しかしかなりの威力だ。
今までみたどのリリィの砲撃よりも、込められたマギが多かった気がする。よほどの使い手だろう。
すこし落ち着いて見渡してみれば、先ほど倒れていた内の一人が砲撃の放たれた方向を見ていた。
俺のせいかかなりの困惑があるようだが、それでも言葉を発する。
その少女はこう言った。
「アールヴヘイム」と。
つまりは今砲撃を放った彼女たちが、援護対象の─────
「彼女たちが、アールヴヘイム……」
百合ヶ丘屈指の、戦乙女。
◆◆─────────────────◆◆
生徒会長、八鍬白蓮に頼まれてLGヘヴリングとLGフレンの救援へと駆けつけたアールヴヘイムは、とてつもなく戸惑っていた。
それも無理はない、なにせ救援に向かった先にはすでに片腕を喪い瀕死の状態のギガント級ヒュージ───『サイクロプス』と、すでに亡骸となっている────上半身が消し飛んでいるためわからないが恐らくは────『テペゴス』がいた。
それを成したと思われる人物は、フードを目深く被り顔を認識できないが、天葉や初代アールヴヘイムのメンバーには感じられた。
────とんでもなく強い!!
そして、それと同時にこの場で味方かどうかもわからないその人物に警戒を抱く。
全員でかかれば倒せる?………否。
あれは倒せない。それほどまでの圧倒的な格差があちらとこちらには広がっている。
つまりは敵だった場合、こちらはほぼ詰みの状態となる。
「あれは………」
「殿方?なんでこの戦場に……」
田中壱と遠藤亜羅揶が言う。
優秀すぎるほどに優秀な一年とはいえ、流石にすこし経験が足りない。踏んだ場数の数なら確実に初代アールヴヘイムのメンバーに軍配が上がる。
つまりは上手くこの事態を認識できていない。
相手の機嫌次第でこちらが終わるということに。
「動かないで、壱、亜羅揶」
多分に警戒を含んだその声色で、天葉は言った。
それに驚いた壱と亜羅揶は、初めて聞く天葉の緊張を含んだその声にこの場の異常を察する。
同じく江川樟美は、こんなにも余裕のない姉の姿を初めて見たのか戸惑っている。
いつも余裕たっぷりで、どこか安心する笑いをしながらもいつでも助けてけれた自身の姉様が、そこまで警戒するそれは何なのだろうと考える。
そうこうしている内に、天葉が動いた。
時間にして数秒経った頃だろうか、天葉はその謎の人物に近づいていく。
「あー、ごめん」
その前に、向こうから声が掛かった。
落ち着き払った声色で、何とも思っていなさそうな感覚のする声をかけてきていた。
どこか緊張を溶かすような、安心する声だ。
恐らくはその込められた優しさがそうさせるのだろうが、この場では誰もわからないことである。
「君達は、アールヴヘイムか?」
「………うん、そうだよ」
そう天葉は言葉を返す。
取り敢えずは言葉が通じそうで助かったが、それはイコールとして味方であると決まったわけではない。
警戒は緩めぬように、向こうを注視し続ける。
もし急に行動を開始し、それが仲間たちや他のリリィに向いた時に命をかけてでも止めるために。
そしてギガント級であるあの巨人の動向も不可解だ。
先程から動きがない。それ自体が不気味だが、何よりもその雰囲気がおかしい。
怯えと、憤怒を感じ取れるのだ。
明らかにおかしい、そんな事をヒュージがするなんてある訳がない。今までのヒュージはそういう者だった。
「俺は百合ヶ丘の理事長代行から依頼されてここに来たんだ」
「………理事長代行?」
それが本当ならば味方と言うことになるが、それを示す確たる証拠がなければならない。
それだけで信用するのは甘すぎる。
「■■■■■────────ッッッッ!!!」
しかし時間は待ってはくれない。
先ほどまで平静を保っていたあの巨人が動き出したのだ。
このまま睨み合っていては、助けられるものも助けられない。
故に天葉は思考を飲み込み、言葉をかける。
「……ごめん、すぐには信じられない……証明できる?」
「直接の依頼書ならばある……だから矛を収めてくれないか?」
「………わかった」
それだけ聞くと、天葉はCHARMを下ろしてレギオンの面々に声を掛ける。それは号令だ。
「アールヴヘイム!戦闘開始!!あのサイクロプスを討つよ!」
その言葉に反応し、アールヴヘイムの面々はすぐ様戦闘態勢へと移行する。まさに歴戦である彼女たちの構えはそれだけで美しさすら感じられる。
「……任せていいのか?」
「うん、そっちは取り敢えず怪我人の救助をお願い」
「了解した……信じてくれて助かる」
それだけ言って、彼は怪我人のもとへと走っていった。
一瞬で到達していたが、そんな人物が敵ではなかった事に安堵する。しかしそんな思考もそこまでだ。
他のメンバーと合流し、天葉はサイクロプスへと向かっていく。
その途中、茜に声を掛けられる。
「………信じてよかったの?」
「うん、悪い人じゃなさそうだったし………それに────」
「それに?」
少し溜めて、天葉は言った。
「ホントに悪い人なら、あの子たちを助けたりしないでしょ?」
相変わらずのお人好しな言葉を告げた。
それに対して茜は呆れながらも、微笑する。
なんともそれが彼女らしいと。
ならば、自分は天葉を信じよう。自分たちのリーダーである彼女を。
「さあ、行くよ!アールヴヘイム!」
新潟に来てからの、初陣である。
◆◆─────────────────────◆◆
「凄まじいな」
怪我人の治療をしながら、あの巨人とアールヴヘイムの戦いを横目で見る。それはまさに圧倒的であり、高度な連携だった。
これがこの世界最高峰のレギオンであり、人類の希望なのだなと感じる。
少し、昔を思いだす。
転生するよりも前に刻まれた記憶。あのインドの大英雄の言葉が蘇ってくる。
『我々は、お前たちという未来のために走ったのだから……』
影法師、されど痛みはあるはずだというのに、そう言い放つその光景。全力を尽くし立ちはだかったその大英雄は、少年に向ってそう言葉にしたのだ。
一対一の勝負ではなくとも、自身の敗北だと認めて。
その言葉にどれほどの信念と意志が乗っていたのかは計り知れない。未だ届かぬ身ではあれど、その言葉こそが自身が英雄の末席として走り出した言葉だったのだから。
(………貴方が見たかったのは、こんな光景だったのか?カルナ)
あったこともない大英雄に思いを馳せながらも、治療魔術を終えたのだ。
それと同時に、彼女たちも戦闘を終えたようだ。
こちらに向ってくる彼女らは、どこかまだ警戒しているようだが、それでも先ほどよりはマシだ。
そして、
彼女たちにも事情を少し説明しているのか、戸惑いながらもこっちに敵意は向いていないようだ。
「────貴方が、百合ヶ丘女学院の協力者ですか?」
そういったのは、コレまたとても美少女な子だ。
そんな事を考えているが、答えは決まっている。
「ああ、そうだよ」
「そうですか………あの外征に否定的だった百合ヶ丘が援軍を出してくるとは思いませんでした」
そう言う彼女は、少し意外そうにしながらもこちらに言ってくる。まあ、確かにそう思うよな。
実際百合ヶ丘上層部は俺を出す気すらなかったみたいだが、理事長代行が直接というか生徒会三役を通して護衛の依頼をしただけだし。
だがわざわざ言うことでもないだろう、救援にきたのは本当だし、依頼書もまたその通りだ。
余計なことを言っても仕方がない。
「まあ援軍と言っても、俺一人だけですけどね……」
「十分ありがたいですよ……貴方ほどの規格外の実力者ならば………申し遅れました、私は柳都女学館現生徒会長、八鍬白蓮と申します」
「こちらこそ、俺は涼真といいます」
互いに挨拶を交わし、そうして話題は救援の内容に移り変わる。
「……ところで、先ほどの治療術は他のものにも行えるのですか?」
「ああ、問題ないよ」
「では、ガーデンに帰還し次第怪我人に治療をお願いします」
「了解しました」
魔術のとことは聞かれること思ったのだが、かなり追い詰められているようで何でも使うという気概を感じる。
役に立ってくれるなら何でもいいということなのだろう。
ある意味では楽は相手だ。
「じゃあ動こうか」
「え?」
「助けに行くんだろ?他のメンバーも」
「そ、それはそうですがなぜ……」
「さっきから、そっちの娘が何か頼みたそうにしてたし」
それは先ほどアールヴヘイムと呟いた少女であり、ずっとこっちに視線を向けていた本人だ。
こちらに用があるのだと思っていたが、恐らく救援を頼みたかったのだろう。
「流石に名前や容姿を知らないと動けないけど……教えてくれるか?」
「…………はいッ!」
そう聞いて、彼女は少し泣きながらも答える。
涙をためながらも、そうして行動を開始した彼女によって、救援目標が定まった。
「すまない、少し同行させてもらってもいい?」
「………わかった、いいよ」
「天葉姉様……?」
「大丈夫だよ樟美、悪い人じゃないから」
「そう……ですか……?」
そんな反応されると少し傷つくけど、まあ仕方ないのだろう。
どこまで行こうとまだ部外者だからな。
そんなこんなで俺達は、アールヴヘイムと現地のレギオンの人達と共に救援に向かうこととなった。
無事でいることを祈り、マギを使い駆け出す彼女たちに追走する。なるべく早く着くように気配を探りながら向かうことにした。
なぜか別の場所からの視線が、こちらに注がれたような気がする。
「ッ?」
この気配は───さっきのやつか?
ヒュージとも人とも違う別の気配。だがもう視線は消えた。
なんだ、何がいる?そこには何が─────
いや、今は救助が最優先だ。
それはあとで考える。
そう思い、俺はまた走り出した。
◆◆─────────────────◆◆
そこに立つのは、竜だ。
正確には、竜を模した姿形の歪なる生命。
ある英雄譚に於いて、英雄と争い討ち取られたものの名前をつけられたその怪物───アルトラ級ヒュージファーヴニルは、悠然と鎮座していた。
見据える先は、今もなお抵抗を続ける忌々しき人間どもの在処。ガーデンだ。
先ほど消えた二つのギガント級の反応から、とてつもないナニカがこの地にやってきたことはわかっていた。
しかしその竜に焦りは見られない。
それは上位者ゆえの驕りか、それとも何か策があるのか、または────
「ドラゴンさんが、悩んでるの?」
「そうですね、ね……母も……そう……思います」
不意に、二つの影が現れる。
片方はただの金髪の幼き少女だ。容姿は整っているが特筆すべきことはないだろう。
その手に光る、
もう一つの影は、まさに異質であった。
その小さき身体に不釣り合いなその巨大なヤギのような神聖な角。見るものを魅了するその美貌に加えて、その圧倒的な威圧感。
母の如き慈愛を纏いながらもどこか歪であり、嫌な感覚で言い表せないほどの悪寒も発していた。
その二つの影にたいして、竜は────何もしなかった。
もう片方は兎も角、片方は確実に人間であるというのに。
ただ、何も思っていないように、変わらずガーデンを見つめいていた。
「実験体666、あまり近づかないようにね」
「はかせ?」
「危ないから、その
「はーい」
唐突にそんな声が響く。
現れたるはもう一人の人間。その風貌は────ロスヴァイセを嵌めたあの研究者だった。
なぜ彼女がここにいるのかはわからないが、最早ここは今までの世界と違うような気さえしてくるほどに違和感があった。
それを創り出した張本人は、何食わぬ顔でアルトラ級を見あげた。
「………実験開始ね、乗り越えられるかしら?リリィ達は」
その悪意は、まっすぐにリリィたちの方を向いていた。
憎しみを滾らせながら、その瞳は輝いている。
絶望は、振りかかるときを待っていた。
主人公がこの世界にやってきたのは、ある理由があります。
抑止の影響ですね。
ここから本来の正史からかなり外れていきます。