自身が自分を認識したのはいつのことだっただろうか。
初めて意識が広がり、周りを認識した時だろうか。
あの人間たちには雲と名付けられていたその場所から生誕した時だろうか。
少なくとも、自信に確固たる自我があったようには思わない。自分はあらゆる天体を喰らい、あらゆるものを蹂躙するためだけに生まれた究極の一なのだから。
自我や思考など、あろうがなかろうがどうでも良いのだろう。
あの彗星から飛来し、命生まれし星に着くまででもそれは変わらなかった。
何者か─────不要。
何のために生きる─────不要。
どうして存在している──────不要。
恐らくは以前の己ならば、そんな考えは浮かびすらしなかっだろう。喰らうに値しないそんな情報は不要であり、壊すのには要らなかった。
ただ自分は喰らうために、ここにいるのだから。
けれど、それはある人間と出会ったことで吹き飛んだ。
貧弱なりしその肉体で自身の前に立ち、遥か後方に見えたるその都市を守護するかのように立ち塞がった。
無駄なことを、なんて思考すら必要はない。
自身を前にしてその存在が生きていられる可能性はない。それは演算によって弾き出された確固たる事実であり、覆しようのない真実である。
そんなことは、彼もわかっていただろう。
だがそれでも、彼は
勝ち目がない─────知っている。
敗北は必至─────わかっている。
越えられる壁ではない──────とっくに思い知った。
それでも尚、彼は立ち上がってくる。
傷を増やすどころではない、すでに死んでいるも同然の体で。心の臓を壊されたその身で。
あまりにも弱い、貧弱な人の身で。
どうして?なぜ?どうしてそこまで?
そんな思考は、彼との戦いのさなかで消えていった。
勇者、勇士、英傑。
そんな言葉では表せない。表していいはずがない。
美しかった。綺麗だった。
美しい、美しい、美しい。
わたしとの殺し合いのなかで、一分一秒を凌ぐように強くなっていったその彼は、いつまでもいつまでも見ていたいほどで。
この時間がどうか終わらなければいいとさえ思った。
だから、蘇った。
彼が知っていた召喚式を、彼の左腕を捕食したときに記憶ごと認識し獲得した。故に、その戦いはまだまだ終わらなかった。
いや、終わらせなかった。
この時間を一秒でも長く、長く、長く続けたいと思った。
最早死に体という言葉すら生ぬるいと感じるほどのボロボロな彼と、万全へと立ち戻ったわたし。
差は歴然、勝てるわけがない。
でも、彼は退かない。
記憶で見てわかっている、彼は
それは紛れもない事実であり、変えようのない真実だ。
けれどそれが何の問題があると言わんばかりに、彼はわたしへと向ってくる。
それが、強くなるのに資格など必要ないと、そう伝えているようで。
……嬉しかった。こんなわたしでも、舞台に上がるのに資格は必要ないと言ってもらえたようで。
だから戦った、死力を尽くして。
立ち塞がった、英雄譚の怪物として。
そして、また蘇る。
今度は確実に終わるだろうか?それともまだ続くだろうか。
恐らくまだ終わらない、いや終わらせない。
ここで永遠に、わたしと彼は踊り続ける。
ずっとずっと、私達の世界は続くと、そう信じている。
だから、まだ─────
その夢を穿ったのは、彼の槍だった。
◆◆───────────────────◆◆
127:名無しの転生者
アールヴヘイムが出撃してからかなり経つけどなんか戦況変わらんぞ?
128:名無しの転生者
流石に最強のレギオンといえど、単体でひっくり返すのは無理があるわ
129:名無しの転生者
そんなことできるならそもそも柳都女学館のリリィたちがやってる
130:名無しの転生者
それはそうなんだけど、なんかなぁ
131:名無しの転生者
まあ対ヒュージ戦闘はそんな甘くないってことだ
132:名無しの転生者
訓練された軍人なんてミドルやスモール級ですらバラバラにされるからな
133:名無しの転生者
通常兵器は役に立たないし、かと言ってリリィなら楽に倒せるかっていうとそんなことないし
134:名無しの転生者
リリィですら単体だとラージ級が限界だし
135:名無しの転生者
ギガント級以上は通常兵器は完全に役立たずになっちまう、足止めにすらならねえ
136:名無しの転生者
世知辛いなー
137:名無しの転生者
そんなことより、やっぱリリィって美人多くね?
138:名無しの転生者
急に話題変わったな……
139:名無しの転生者
確かにそうだけど、今することか?
140:名無しの転生者
まあ美人、美少女なのは否定しない
141:名無しの転生者
ワールドリリィグラフィックなんて雑誌があるくらいだからな
142:名無しの転生者
正直言って堪らんわ
143:名無しの転生者
緊張感の欠片もなくて草
144:名無しの転生者
どでかい戦いの最中だってのにぽまえら……
145:名無しの転生者
生きるか死ぬかをやってる人だっているんですよ!?
146:名無しの転生者
こちとら防衛軍の補給で働き詰めだが?
147:名無しの転生者
俺達だってリリィの話題でキャッキャしてぇよ!!
148:名無しの転生者
指揮の最中に余計な情報詰め込みやがって……
149:名無しの転生者
こんな掲示板見てないで配信の掲示板か見ずに指揮してろや
150:名無しの転生者
アールヴヘイムとか美少女ばっかりやからな
151:名無しの転生者
亜羅椰……(ボソッ)
152:名無しの転生者
なんでや美少女やろがい!!
153:名無しの転生者
見た目はな
154:名無しの転生者
喰っちまいますわよが口癖なのはヤバいのでは?
155:名無しの転生者
でもいっちゃんとの百合やくすみんとの百合好きだろ?
156:名無しの転生者
好きっす!!(大声)
157:名無しの転生者
辰姫ちゃんも忘れんな
158:名無しの転生者
全員かわいい(思考放棄)
159:名無しの転生者
お前等まじでよ……
160:名無しの転生者
ていうかそろそろ救援終わったか?
161:名無しの転生者
電撃新潟奪還戦ではそこまで掛かってない筈だけど
162:名無しの転生者
ここは現実だから、何が起きようとおかしくないが……
163:名無しの転生者
まーたイレギュラーですか……
164:名無しの転生者
いやになりますねぇ
165:名無しの転生者
ちょお前等コレ見ろ!!
166:名無しの転生者
なんだよ急にどしたん?
167:名無しの転生者
今百合を語ってんだけど
168:165
そんな場合じゃねえって!!コレコレ!!
【アールヴヘイムの隣にいる謎の黒衣のフード野郎】
169:名無しの転生者
……は?なにこれ
170:名無しの転生者
コラ画像か?
171:名無しの転生者
救出された一般人?
172:名無しの転生者
いやそれにしては、なんか雰囲気が変というか……
173:165
【ヒュージを両断するその黒衣の人物】
174:名無しの転生者
………え?
175:名無しの転生者
なに……コレ……
176:名無しの転生者
なんだ、こいつ……?
◆◆──────────────────◆◆
彼女たちの仲間の救援を終えて、柳都女学館へと向かった。
まあ勿論、あのあとも変な雰囲気は続いていた。
彼女たちがなんか変な空気になってしまったのは俺のせいのようなので、申し訳なく思うが。
何が悪かったのか分からないので、直しようがなのだが。
そんなこんなで、柳都女学館へと足を踏み入れた俺は───
「────よし、治療完了だ」
「……感謝する」
「礼は必要ないよ、宮入さん」
野戦病院のような有様となってしまった治療棟で、ひたすら怪我人を治療魔術にて治していた。
合流したときから言われたことだが、治療を優先するのは当然なため、特に異存はなかった。
特にひどい者たちは生死すら危うかったので、大急ぎで治療したのだが、なんとか間に合ったようだ。
「……すまない、菜乃葉が迷惑を掛けた……」
「気にしてませんよ、俺が変なことを言ったみたいですし」
先程から、しきりに謝られていることが気がかりだが。
おかしい、謝るべきは俺のはずなのだが。
わからないがやらかしてしまったのは事実だから。
救援に来たのに士気を下げてれば世話がない。
なんとか信用……とまではいかなくとも、少しは信じてもらえたかと思ったところでこれだ。
自身の軽率さに吐き気がするが、最早すぎたことは取り返せない。
天野さんに原因を聞いても、「……大丈夫、ちょっとクラッときただけだよ」とのお言葉を頂戴してしまった。
まずい見捨てられたような気がする。
「……何があったのか聞いてはいるが、他にも何か言ったのか?」
「いや特には……まじで心当たりがないんですよね」
「そうか……重ね重ねすまないな」
「いや全然!むしろ救援に来たのに申し訳ない………」
互いに謝りまくっているが、これでは話が進まないと彼女が折れてくれた。すんませんホントに。
そうして、彼女に連れられながら生徒会室へと向かっていく。
道中で出会った治療したリリィたちに挨拶されて、初めて歓迎されてるような気がして嬉しかった。
まじで初対面でいい感じの出会いしたのって殆どどころかこの世界では皆無だろうから。
そうして、彼女達リリィが集まる生徒会室へと到着する。
そこには白蓮や菜乃葉たちのレギオンの面々、それに加えてアールヴヘイムが揃っていた。
この世界に於いて、錚々たる面子の集まりであり、トップクラスの集団だろう。
こんな面子が集まって尚、簡単には行かないところがヒュージ戦闘だが。
「風舞姫お姉様!」
「菜乃葉、心配をかけたようだな」
「いえ、そんな!わたしこそ軽率な真似を───」
「わかっている、あとでお説教だ」
そう言われた彼女の顔は、すこし気まずそうでありながらもそれ以上の嬉しさが宿っているようだった。
愛し野お姉様と再会できて、申し訳なさを歓喜が上回っているようだ。
一方で、こちらに視線を向けた彼女は気まずそうに視線を逸らしてしまった。
先ほどのことを、気にしているのだろうか。
こっちは気にしていないと伝えられればいいのだが、いかんせん避けられてて言葉を交わせないのだ。
まあだが、無事に再会できたのはよかったと思う。
俺なんか嫌われたままでもいいから、仲良くしてほしいものだ。できれば心配掛けないように。
ふと、こちらを見ている視線に気づいた。
白い髪の、比較的(この世界にしては)幼いような外見をしている。天野さんにひっついていたあの人だ。
確か名前は───江川樟美さん、だったか。
「えっと……」
「!」
何か用かと思い声をかけてみるが、彼女は緑髪の少女───田中壱さんの後ろに隠れてしまった。
すこし申し訳なく思って壱さんの顔をみると、彼女も困惑している様子だった。
なにかしただろうか、いや何もしてないと思うのだが。
「……ごめんなさい、人見知りなんですよ樟美は」
「ああそういう……ごめんなさい、ちょっと軽率だったかな」
「いえ、問題ないと思いますよ」
なんというか、彼女は結構フラットだ。
こちらに気負うこともなく、ただ単に事務的に話しかけてくれる。友好的ではなくとも、やりやすい相手だ。
避けられるよりずっといい。
そうしていると、白蓮さんが手を叩いた。
どうやらもう始めるらしい。
「続きをよろしいですか?」
「ああ、始めてくれ」
「はい、風舞姫様」
そう答えた宮入さんに対して、彼女は短く返答した。
そして生徒会室のスクリーンのようなものに、現在の情報が映し出されていく。
未だ数々の場所が危険地帯のようだが、これでもアールヴヘイムやあの御台場のレギオンが来てからマシになったらしい。
生徒会長である八鍬さんは、これまでの状況、そしてこれからやるべきことを端的に説明していく。
それを宮入さんは、真剣な面持ちで閲覧していく。
これまでの遅れを取り戻すつもりなのだろう。
それを横目に、俺は田中さんに聞いてみることにする。
勿論情報は頭に叩き込みながら。
「そういえば、御台場のレギオンってどこが来たんです?」
「ロネスネスと、ヘオロットセインツですかね。どちらも東京最強クラスのレギオンですよ」
「なるほど頼もしい」
そう言って、会話を終了させる。
なるほど東京最強か、頼もしい事この上ないだろう。
「新潟港には今『オルトロス』がいるわ。セインツとドゥーヴァだけで大丈夫なの?」
菜乃葉がそういった。
彼女の懸念は最もだろう、話を聞くにそのヒュージは相当な強敵らしいから。
しかし、天野さんはそうは思わなかったようだ。
一点の曇りもない瞳と表情で、言ってみせた。
「大丈夫。椛たちなら、きっと道を開いてくれる」
彼女たちへと信頼がそうさせるのだろう、負けることなど考えられないと言った具合で言ってのける。
そうして彼女は新潟港の方向を想起するように、そちらに視線を向けた。
いい信頼関係だと、そう思う。
すこし羨ましくなってしまうほどだ。
そうして、会議が終了する。
この後は、各自待機で要請があれば出撃するということらしい。今はどこにヒュージが現れるか分からないため、不必要な戦力の移動は避けたいらしい。
自分も生徒会室から退出し、怪我人の治療へと向かおうとする。かなり治したとはいえ、まだ完治とは行かない。
なるべく早く治してやるべきだろう。
思い立ったが吉日という言葉もあるし、さっさとやってしまおうと考えて治療棟へと向かい─────
「きゃ!?」
「おっと」
不注意で会議室から出てきた白い影とぶつかってしまった。
咄嗟に手を伸ばして手首を掴み、転ぶのを阻止する。
「大丈夫か?ごめん不注意だった」
見ればその影は、江川樟美さんだった。
扉らへんの後ろには、天野さんもいる。
二人して会議室から出てきたところだったらしい。
こちらに天野さんが駆け寄ってくる。
「大丈夫樟美!?」
「咄嗟に手を取ったから大丈夫だとは思うが……すまんもっとよく見て歩くべきだった……」
そうして彼女に謝ろうとして、違和感に気づいた。
なぜか江川さんがまったく動かないのだ。
見れば少し震えているようで、様子がおかしい。
「あの……江川さん?もしかして気にでも障ったか?」
そう聞くが、彼女からの返答はない。
俯き顔を確認できないため、彼女が怒っているのかはわからないが、普通の状況ではないだろう。
それを心配した天野さんも、江川さんに言う。
「ホントに大丈夫?樟美……」
その天野さんの声に、ようやく彼女が反応した。
恐る恐るといった様子で顔を上げると、天野さんの服をつかんだ。
「……天葉……姉様?」
「何かあったの?さっきぶつかってから様子がおかしくて……」
「ぶつかっ……て……」
そうオウム返しでまだ呆然としている彼女は言ったが、俺の顔を認識した途端驚愕に目を見開く。
その顔は、ただ俺がここにいることに驚いただけではない。
もっと別のナニカが、様々な感情がないまぜになってグチャグチャのまま収集がつかなくなっているようだ。
おかしい、何があったんだ?
やがて彼女が言った言葉に、俺は心底驚かされることになった。
「あな……たは……────────
────円卓の、番外席……」
「……………え?」
なぜ?なぜそのことを知ってるんだ?
この世界にそんな情報を知っている人なんて居ないはずだ。
ここは円卓が存在した場所でも時代でもない。
いくら常識外の力を持っていても、そんなことは分からないはずだ。
そうこうしているうちに、彼女は頭を押さえながら言葉を口ずさむ。
「あの人は……
「樟美!落ち着いて!!」
彼女が知るはずのない情報が、彼女の口から漏れ出てくる。
なんだ?何が起こっている?なぜ彼女がかの大蜘蛛のことを知っている?そしてあの竜のことをなぜ。
しかしそんなことを今どうでもいい、このままでは彼女の脳が壊れてしまう。
が壊れてしまう。
恐らく規定以上の情報が駆け巡り、頭がオーバーヒートしそうになっているのだろう。
早く止めなければまずいことになる。
「ごめん、天野さん!ちょっと乱暴するよ」
そう告げて、彼女の首に手を当て彼女の意識を刈り取った。
「あっ………」
倒れる彼女を、怪我をしないように優しく支える。
意識を喪った彼女は、体から力が抜けたようになった。
しかし倒れる直前……彼女は言った。
「………
それは彼女ではない誰かの声のような気がして、俺はなぜか罪悪感が膨らんだ。
くすみんが見てしまった記録は、ある人物が彼の隣で見続けた光景です。まあ最後の最後は置いて行かれたんですけど。