選定の儀に現れたその少年は、槍を背負っていました。
その槍は
その少年は少女に対して聞いてきたのです。
「貴方が、この選定の剣を引き抜くものですか」と、なぜか少女が抜くことを確信しているようでした。
そして、少女は答えます。
「はい、私が王となる者です」と、自信を持ち答えた。
そうして答えたものは、少年にとってはどのようなものだっただろうか。少なくとも頭を抱えた時点で、あまりいいものではなかっただろうか。
頭を抱えた少年が意を決して聞いてきたのは、少女にとっても残酷なことだった。
「例え、その道筋で幾多のものを失い、最後には裏切られて死ぬのだとしても……それでも貴女は、剣を抜き王となるのですか」
と、そう聞いたのだ。
これを聞いた少女はこう言いました。
「きっとそうなのかもしれません……けれど、それでも。私はきっとその道を選ぶでしょう」と
少年は、それを聞いて─────
◆◆──────────────◆◆
鋭い光が放たれる。
それは通常ならば人の命など容易く奪い去る効果を発揮するそれ────銃弾は、まっすぐ此方に向かってくる。
それが、無数に。
音速で射出され、人を殺すために開発されたその弾丸がある二人の人間に向けられる。
そうして、その二人は弾丸を避けることなどできず、そのまま貫かれて無残にも絶命し────
弾丸が弾かれる。
目にすら留まらぬ速度で槍を振り、後ろの少女に当たる前に一振りでそのすべてを叩き落とした。
後ろの少女はすこし驚いており、驚愕の顔を浮かべている。
しかし、それを放った者にとってはたまったものではない。
なにせ、後ろの少女───リリィは別として、あの男を殺せないのは明らかにおかしい。
CHARMによるマギの防壁をもつリリィに対して銃弾が有効打にならないのは分かっている。
しかし、それはリリィ及びCHARMユーザーの場合の話。
特にCHARMも持たない、ただの槍しか持たないそれが一振りですべてを弾くなんてあってはならない。
その動揺は、致命的な隙となってしまう。
一瞬だけ、されど一瞬。
だが、その男には十分すぎるほどの時間であった。
もう一度、射撃を指示するようにリーダーらしき男が声を出そうとする。しかし────
そんな時間を与えるほど、この男は遅くない。
幾多の光が走ったと認識さえできないくらいに、速く走らせたその一閃により彼らは動かなくなる。
最後に彼らが見たのは、先ほどの場所より自分たちの背後に一瞬にして移動していた男の姿だった。
「あんまり大したことなかったな」
そう言ってのけた彼に、少女───神楽幸はあきれた顔をしながらも、彼から目を離さなかった。
◆◆◆
「大丈夫ですかね?あの人達」
「幸様がついているなら大丈夫です、きっと」
一方その頃、ロスヴァイセの面々は研究所内を突き進んでいた。目標はもちろんこの施設にいる強化リリィの救出である。
内部構造の情報は事前に入手していたため、それに沿って移動していく。
彼らに正面の陽動を任せて、ロスヴァイセは研究所内に侵入することにした。本来ならロスヴァイセが正面で引きつけるはずだったのだが、彼が自ら任せてほしいと言ってきたので悩んだ末に幸と一緒ならと思いそうしたのだ。
ロスヴァイセの面々は、殆ど彼を信用していない。
信用して、いなかった。
しかし、そのあまりの真摯な態度と言葉に、少しだけでも信じてみたいと思ったリリィが多かった。
しかし戦いに関してはまだ別だ。
あの理事長代行が任務に同行させるくらいだから、実力がないことはないと思うが。
あの人はリリィにとても気を使っているから。
それでも、心から信じられるほどではなかった。
だからこそ、幸様がいるならと渋々だが了解したのだ。
しかし今更気にしてもしょうがない。
今は任務を確実に果たして、早く終わらせることが最優先だろう。捕らえられたリリィ達は、今も苦しんでいるかもしれないのだから。
そうして、情報にあったその部屋───リリィ達が捕らえられているその場所まで到達した。
慎重に警戒しながらも、扉を明け放つ。
念のため、自分とロザリンデが先鋒として中に侵入した。
そこには、なにもいなかった。
ただ、白い壁とただ広い空間が広がる地下の施設の一部。
おかしいと伊紀はすぐさま感じる。
手に入れた情報では、この部屋はそこまで広いものではないはずだ。
部屋を間違えた?それとも情報が間違っていた?または──
そんな思考が少しの間で逡巡する。
そして、ある可能性が浮かび上がってくる。
これは、もしや────
「罠です!!!」
「!?」
扉の中に少し侵入していた彼女らは、侵入していなかったレギオンの者たちと分断された。
扉にシャッターが閉まり外部とこの部屋を遮断する。そして加えて、非常用ランプが点灯し内部が赤く染まる。
いかにも非常事態と言う絵面だろう。
だめだ、完全に嵌められた。
そう伊紀が認識するまでに、さほど時間は要さなかった。
元々の情報が間違っていたのか、それとも最初から罠だったのかは分からないが確実なのは今自分たちは袋小路に入ってしまったということ。
「くっ!!」
悔しさが湧き上がってくるが、そんなにものに支配されている時間はない。早く行動をしなければ、何が起きるかわからない。レギオンの皆が無事である保証もない。
扉へと近づき、ブレードモードに変更したCHARMを構える。
幸いこの扉は魔術的な要素までは備えていないようで、CHARMならば簡単に切裂くことができるだろう。
伊紀はCHARMを振り、いち早く脱出の道を開こうと───
「困るわね、その扉高いのよ?」
そんな声が木霊した。
咄嗟にロスヴァイセの面々は声のしたほうに振り返ると、そこには先ほどまでなかったガラス窓があった。
そこに映る女性も、また同じく。
伊紀はすぐに察した。
あの白衣のロゴ、そしてあの滲み出る性根の腐った外道の気配。強化リリィならば殆どが知っているだろう。
「ゲヘナの……研究員ッ!」
「そんな恨みがましく見ないでほしいわね……修理費に頭を悩ませるのはこっちなのよ?」
やれやれというふうにため息をつき、大袈裟な動作をとる彼女に怒りが募る。
しかし、研究員の女はどこ吹く風であり、まったくもって響いていないようだった。
その間にも、伊紀は思考を回し続ける。
なぜ今になってわざわざ現れた?今回はリリィの救出のため逃げる時間はいくらでもあったはずだ。
しかしあの女はそうせず、危険を犯してまで自分たちの前に姿を現した。それはなぜなのか。
ここを放置すれば、とんでもないことになると直感が働いている。だが、何が狙いなのか今の段階でははっきりとわからない。焦燥感だけが募っていく。
そして、シューティングモードに再度切り替えたCHARMを構え女に向けて照準する。
「あら、ロスヴァイセのリリィって荒っぽいのね……人にも平気でCHARMを向けるとは聞いていたけれど」
「……単刀直入に聞きます、貴女はなんの目的で私達を閉じ込めたのですか?」
「あら?目的があることは分かるのね?」
「このような状況なら、赤子でもわかります」
皮肉を交えて言ってみたが大した効果は期待できない。
事実心が揺らいだ様子もない。
嫌な予感はし続けており、さらに言えば先ほどよりも強くなっている。
頬を冷や汗が伝って落ちていく。
「まず一つ、あなたたちという戦力を閉じ込めておく。二つ、できるなら実験体として捕らえたかったから」
なにがおかしいのか、少し笑って。
「そして、最後に三つ………」とそう言って研究員は伊紀達が立っている地面を指差しながら、その言葉を言い放った。
「────時間稼ぎのためね」
「ッ!?退避!!」
その号令と共に後方に跳躍した伊紀とロザリンデ。
直後、轟音を立てながら地面が崩れていく。
爆発も同時に起きているため、それは爆弾か何かによって引き起こされたのだろう。
いくらリリィとはいえ、無条件で空を飛ぶことはできない。
故にしっかりと重力に従って落下してしまう。
幸い、リリィのマギの防壁や身体能力により即死やダメージは入らなかった。
どうやら巨大な空洞のようなものであり、少しだけだが灯りが灯されている。
「……洞窟?」
「みたいね………警戒して、伊紀」
周りを見渡し、少しだけ息をつこうとする。
それでも警戒は怠っていない。
しかし、それだけではゲヘナの罠は終わらない。
「「「「「■■■■■■■────────ッ!!!」」」」」
「ヒュージ!!」
「まさか、地下に飼っていたとでもいうの!?」
無数のヒュージが、暗闇から姿を現す。
ケイブから出てきたような痕跡はない、つまりはこのヒュージたちは元から底にいたということだろう。
しかし、このヒュージの量はなかなかに厳しい。
いや、倒せないわけではない。
実際一人ならまだしも二人ならば倒せるだろう。しかし場所が悪い。
狭い洞窟内で、移動できる場所も限られている状況。
そんななかでこの大群を相手にするのは少し厳しい。
一方それはヒュージも同じことのはずだが、それでも数の利は向こうにある。
それでも、突破するという覚悟を決めてCHARMを構え───
爆音が響く。
上空からだ、それは先ほどの部屋よりも手前の位置であり。 移動していなければ、ロスヴァイセの仲間たちがいる研究所内部である。
「爆発?!」
伊紀は咄嗟に上空を見上げてしまう。
本来ならこんな隙、彼女にとっては大したことのない相手だろう。いくら隙を晒そうとも、彼女の実力ならば切り抜けられる。しかし────
それは、暗闇でない且つ普通のヒュージが相手ならだ。
触手が、マギの防壁を貫通し彼女の腹を貫いた。
「あ────…、」
「伊紀──ッ!!!」
ロザリンデの悲痛な叫びが空間に響く。
本来の彼女なら、避けられたはずだ。
しかし現に命中してしまった、それはなぜか。それは───
「■■■■■───────ッ!!」
ステルス機能のある、特型ヒュージだからだ。
さらにこの場所は薄暗く視界が狭い故に躱しきれなかった。
ヒュージが暗い空間から這い出てくる。
それはかなりの巨躯であり、気づけないわけがないほどに巨大だった。
先ほどの伊紀を貫いた触手を数本振り回しながら、悠然とその巨躯を持ち上げた。
ムカデのような身体に、肥大化した頭。
相変わらず金属の様な体表をしている。
ロザリンデは沸騰しそうになる頭を抑える。
倒れそうになる伊紀を抱え、その場から飛び退く。
先ほどまでいた場所を猛スピードで触手が通過し、攻撃をかわすことに成功した。しかし、そんなことを喜ぶ余裕はない。
「伊紀……!!」
「すみ、ません……上手く回復が……できなくて」
「ッ!」
腕の中で悶える伊紀に声をかける。
返事はできるようだが、明らかに異常なことが起こっていた。
リジェネレーターをもつ彼女の傷が回復していないのだ。
おそらく負のマギが彼女の傷に張り付き、回復を阻害しているのだろう。
しかしそんなことをヒュージが待ってくれるはずはない。
少しずつではあるが、近づいてきている。
このままでは囲まれて数に押しつぶされるだろう。
つまり……絶体絶命であった。
「……くっ……!!」
数多の不安要素と、危機的状況にロザリンデは焦りが募り続ける。そんなことでは足を掬われると分かってはいるが。
それでも不安を抱かずには、いられなかった。
それでも、この場を切り抜けるために。
伊紀を生かすため、生き残るために。
決死の思いを掲げて、CHARMを片手で構えた。
◆◆───────────◆◆
その少し前、研究所の外では幸と涼真が
本来ならば、殺しても文句なんて言われないはずだが、彼は生かしていた。
「………なぜ、殺さなかったのですか?」
「大した理由はないです……まあ強いて言うなら」
そう聞いた幸に、彼は答える。
「あの子たちに、血を見てほしくなかったからですかね?」
おかしな話だ。
彼女達はロスヴァイセ、特務レギオンである。
普通のリリィのように人にCHARMを向けることを忌避しないし、実際に向けて人を傷つけたり────もっと言えば、殺したことだってあったかもしれない。
なのに彼は彼女達に、血を見せたくないと言った。
彼女達が血をみたことあるくらい、彼も察していると思ったのだが。
「……本気ですか?彼女達は特務レギオンロスヴァイセですよ」
「まあ、バカみたいな理由だとは思いますよ?」
「でも……」とそう言ってこちらを向き、彼は真っ直ぐな目です見て言い放った。
まるで子供の夢物語のようなそれを、真剣に言ったのだ。
「だからって、血を見て気分がよくなることはないでしょ?」
当たり前のように、そう言った。
「………はぁー……まったく貴方は、度を越したお人好しのようですね」
「そうですかね?あの人に比べれば劣りますよ」
「あの人って誰ですかまったく……」
まあ敵地にいるとは思えないような会話だが、幸はなんとなくこの人のことが少しつかめた気がした。
そして会話を終えて、また見張りの仕事に戻ろうとした時。
彼の耳は、その音を捉えた。
「………爆発?」
舞台って配信やってないんですかね?
見てみたいんですけどねー。