星殺しの英雄   作:Castella

7 / 18
たぶん後編まで続きます。


英雄片鱗 中編

 

先ほどの爆発により、地面が崩壊した時。

ロスヴァイセのメンバーは動揺を隠せないでいた。

今までの任務では、罠にかけられたことはもちろんある。

当然だ、ゲヘナだって馬鹿ではない。対策もする。

 

しかし、こうまでして情報を欺いてきたのは初めてだ。

百合ヶ丘の情報が絶対というわけではないが、それでも信用できる情報だと判断したからそこ、百合ヶ丘上層部は自分たちをここに送り込んだのだから。

それが、このような形でリーダーたちと分断されるに至った。

 

「………総員、ここの扉を破ります」

 

そのこと悔いていると、唐突に碧乙から声が掛かった。

その声は、今までの自信のなさ気な声からは想像できないほど静かで冷酷な感覚がした。

伊紀やロザリンデが閉じ込められたからだろうか。

それとも、別の────

 

しかし、そんなことを考えている暇はない。

この場では選択こそが鍵だ。迷えば迷うほど二人の身に何かが起こる確率が上がっていく。

あのゲヘナが、閉じ込めた相手をただ放っておくわけがないから。

 

「……了解です」

 

故に代表するように、彼女らの一人が声を上げた。

それを聞いた碧乙はCHARMを振り上げて。

 

ピーッという音とともに、あたりが爆煙に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにが!?」

「爆発……爆弾!?」

 

しかしマギの防壁によってそれを凌いだ彼女らは驚愕する。

このような研究所そのものを吹き飛ばすような仕掛けを、どうやって自分達が来る前に作ったのか。

 

それとも、初めからこのつもりで──────

 

その思考は唐突に打ち切られる。

 

「「「「「■■■■■■■───────ッッッ!!!」」」」」

 

ヒュージという悍ましい怪物の声によって。

先ほどまで居なかったそのヒュージの大群は、此方に向かってきている。

 

おそらく、先ほどの爆発によって呼び寄せるられたのだろう。

アレほど大きな音を出せば、それはそれは目立つだろう。

故に格好の餌というわけだ。

 

「ヒュージ!……っく……」

「だめ!早く立って!!」

「……ごめんなさい、少し瓦礫に当たってしまったみたいッ」

 

しかもそれに加え、凌いだと言っても無傷ではない。

ところどころに傷を負っているし、当たりどころが悪く瓦礫に衝突してしまったものもいる。

命に別状がないというだけでも、相当運がいい。

流石にあのレベルの爆発を食らえば、運が悪いと致命傷を負っていたかもしれないから。

 

「クッ!!」

 

普段の彼女達がしないような悪態もついてしまうというものだ。

まさか情報が間違っていた挙句に、このような仕掛けまで用意されていたとは。

おそらく最初から囚えられているリリィなんていなかったのかもしれない。すべて、こちらをおびき寄せるための。

 

「舐めるなッ!」

 

ヒュージの攻撃が飛んでくる。

しかし、その攻撃はまさに当たる直前でほかのメンバーの手によって防がれる。

 

「ほら早く立って!!急いで!!」

「撤退します!さあ早く!」

 

そうやって負傷が軽いメンバーに支えられ、離脱を試みる。

 

「まって……まだお姉様と伊紀が!」

「無理です!今の状態では助けに行くどころかこちらが全滅します!」

「でも!!」

 

それを認めたくないものも、もちろんいる。

碧乙は叫び、先ほどまで部屋があった場所に向かって走ろうとする。しかしロスヴァイセのメンバーに止められ、行くことはできない。

ロスヴァイセのメンバーだってこんなことはしたくない。しかしこのままでは2人どころか全滅もあり得る。

それだけは避けなければならない。

 

故に非情な判断を下すしかない。

 

だがそんな葛藤はヒュージには関係ない。

 

「あっ───」

 

ヒュージが腕を振り上げる。

このような近くまで接近されては、いかにリリィといえども避けられない。

このままでは攻撃が当たる、そう感じても身体は動かない。 反応速度の限界だ。撤退に時間を掛けすぎた。

 

死ぬ。確実に死ぬ。

この距離で直撃すればマギの防壁も役には立たない。

確実な死がそこには待っている。

 

走馬灯か、二人の知覚速度は何倍にも引き伸ばされて。

すべてが遅く見えていた。

遠くで此方に来ようとしているほかのメンバーも、ヒュージの腕の攻撃も、すべてが。

だが、それでも身体は動かない。

 

そして、彼女達は虚しく致命傷を負う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はずだった。

黄金の一閃が、ヒュージの大群を薙ぎ払う。

少しも反応できなかったようで、ヒュージたちは抵抗することなく真っ二つになる。

それはまさに死の直前に起こる奇跡のようで、幻覚とさえ思えるほどの一閃だった。

 

それは槍だ。

横一直線に薙ぎ払われたその槍は容易くヒュージを両断し、大群の上から全部を消滅させたかのよう。

なんと綺麗な一閃だろう。

どのような鍛錬を積めばこうなるのだろう。そう感じるのも無理はなかった。 

それほどまでにそれは、人外の域にある技だった。努力でどうこうできるものではない。

 

そして、それを成した人物は槍を一振し、こちらを向いた。

 

「大丈夫か?死傷者はいないか?」

 

その言葉には、いもしれぬ安心感があった。

まるでその背中に守られているようで。

ああ……もう、大丈夫だと心の底から思うことができた。

 

「彼女達は無事ですか?!」

「大丈夫、死傷者もいないみたいだ………ただ二人ほど姿が見えないな」

 

遅れてやってきた幸に、彼は淡々と報告していく。

それを聞いた幸は、急いで応急処置を施そうと怪我人に近づく。

それを見て、ようやく動けるようになった碧乙たちは呆然としたままの思考を切り替える。

 

「ぁ………りょうま……さん」

「すまん、遅れて……もっと早く来とけばよかったな」

「あ……ああ……」

 

少し泣きそうになりながらも、碧乙は彼の黒い衣服をつかむ。なんて恥知らずなのだと思う。

ちっとも信じていなかったはずなのに、自身は傲慢にも頼み事をしようとしている。

 

彼はそれに少し驚きながらも、何か言う前に碧乙は続ける。

 

「おねがい……します………伊紀と……お姉様を!!」

「………何があったんだ?」

「急にシャッターが閉まって………それから分断されて……!」

 

「あの……場所に………!!」と、指をさす場所には大穴が空いていた。下はなにか暗くなっていて見えないが、耳を澄ませば金属音が聞こえてきた。

その場所をみたことを確認した碧乙は、本当に必死に訴えを止めない。

 

「おねがい………たすけて……おねがいします……」

 

「あの……ふたりを……」と訴えてくる碧乙はもう限界だった。

精神的な意味でも、肉体的にも先ほどの爆発をくらっている。

マギの防壁で助かっただけで、頭を強く打っているようだ。

現にふらふらとしている。

 

それでもやめない。

あの二人を助けるために、これしか道がないのだ。

このままでは……本当に────

 

「わかった……任せろ」

 

そんな声が聞こえた。

碧乙が見上げれば、彼は少し笑っていた。

安心させるように、もう大丈夫だと言うように。

それを見た碧乙は、意識を手放す。

きっとあの人はやってくれると、そう思えたから。

 

そうして、少しの間夢の中へ旅立った。

 

 

◆◆────────────◆◆

 

 

「はあ……はぁ……はぁ………」

 

血が流れる。

流血し、酸素を運ぶ意味を持つ液体が流れ出ていく。

本来なら人体にはかなりの傷でないとそうはならないはずだが。

この場合はかなりの傷にふくまれるだろう。

 

先程から、伊紀を庇いながら閉所での戦闘をし続けたロザリンデはすでに限界だった。

彼女も相当な実力者であり、半端な傷ならリジェネレーターで再生するはずだがそうはならない。

 

先ほどの伊紀と同じく、負のマギが傷に絡みついて再生を阻害しているのだ。

それによって負傷は治らず、そのままとなっている。

 

「……ロザ……さま……」

「はあ……はあ…………大丈夫よ………」

 

腕の中で伊紀が反応する。

しかしそれは先ほどよりも相当弱々しく、かなり憔悴しているようだった。

当然だ、彼女の傷はロザリンデよりも深く。リジェネレーターで治らないため血が流れ続けている。

Zによって少しは出血を抑えているようだが、それでも雀の涙だ。

一刻も早く治療、もしくはマギ交感をしなければならない。

 

だがそうも行かない。

このヒュージの大群を突破できないのもそうだが、問題は───

 

「あら、限界みたいね」

「黙りな……さい」

「やせ我慢はしなくていいのよ?どうせ死ぬんだし」

 

ヒュージをまるで操るように、スピーカーから声を発するあの女だ。このせいで無駄に統率の取れた集団とかしたヒュージはこちらの体力を正確に削ってくるようになってしまった。

どのような手品を使えばヒュージを操れるのかは知らないが、現に操っているのだからどうしようもない。

 

普段は多少の知恵はあっても、ここまでの統率ではないのだが。それが変わればこうも厄介なのだと思い知っているところだ。

 

「こんなに簡単に追い詰められるなんて、やっぱり入念に準備したかいがあったわね」

 

そうスピーカーから木霊する声は、とても忌々しい。

だが、それを止めるすべも今の彼女たちにはない。

端的に言って、詰みに近いのだ。負傷は酷く場所は閉所で、それに加えて伊紀を庇いながらでは上手く戦闘はできない。

 

死の一文字が頭によぎる。

それを無理やり振り払い、一瞬の隙も晒さぬようにCHARMを構える。

 

しかし、それでも状況は変わらない。

 

「ぐッ!?」

 

ステルス状態を解除した特型ヒュージが触手を振るう。

その速度は凄まじく、直接当たれば致命傷は避けられないだろう。

それが数回にわたって続く。

 

しかしそこはロスヴァイセのリリィ、直撃を避けて流す。

だが逸らし方が悪い、片手しか使えない状態では衝撃を殺しきれなかった。

衝撃で後ろを後退してしまう。

 

それを逃さないように、ヒュージは数本ある触手の内二本を横合いからたたきつける。

突然の衝撃に、ロザリンデは伊紀を庇いながら自分を背にして壁に激突するしかなかった。

 

「がはっ!??」

 

思い切り壁に叩きつけられ、肺から空気が強制的に吐き出される。

岩の壁にへこみを作るほどの勢いで飛ばされたが、マギの篭らない攻撃なためそこまでではない。

ただし、衝撃は直に伝わったが。

 

止めと言わんばかりに特型ヒュージは触手を突き放す。

間違いなく当たれば死に至る攻撃、それを受ければ終わりである。

足にマギを込めて跳躍し、横向きに飛び去る。

彼女達がいた場所に大穴が開き、土煙が舞い上がる。

 

道を塞ぐように、小型のヒュージが前に出る。

包囲網を敷き、ここで確実に仕留めるつもりだろう。

 

だが、ロザリンデは斬撃を放ちながら上へと跳躍。

壁を走りながら反対側へと抜けた。

そしてさらにシューティングモードへと切り替え、牽制として射撃を放った。

 

「はぁ………はぁ………ぐっ……」

 

見事な技だが、彼女の体力のほうが限界のようだ。

それに傷も決して浅くない、良きここまで動けていると言っていいだろう。

 

マギの光弾が放たれる。

それをとっさにモードを切り替え切り払う。

幾重にも放たれるその攻撃を連続して切り払うが、それでも万全ではない彼女には捌ききれず。

傷が、一つ二つと段々と増えていく。

それでも彼女は抵抗を止めない。

今止めれば、伊紀も自身も共倒れになるとわかっているから。

だから引けない、ここで引けば確実に死ぬ。

 

決死の覚悟を込めて、 振るう。

振るって振るって振るって、振い続けた。

やがて攻撃が止む、しかし─────

 

「がっ………ぁ………」

 

彼女自身も、ただでは済まなかった。

数多の攻撃にさらされた体はとっくに限界であり、いつ倒れてもおかしくない。

もう、立つことすら厳しい。

 

ここまで追い詰められて尚、戦えていることが異常なのだ。

並のリリィではこの時点で既に死んでいる。

 

「………本当に、リリィって健気ね」

 

感嘆を込めて女は言い放つ。

だが同時に、それは憐憫と憎悪をも含んでいるように感じられた。

哀れに思っているのか、それとも憎んでいるのかは判断しかねるが。

女がリリィに対し、複雑な感情を持っているのは確かだろう。

 

「ロザさま………もう……いいです………貴女だけ、でも……」

「馬鹿なこと………言わないで……!!」

 

「こんなの……どうってことないわよ……」と言い放つ。

しかしどう見ても痩せ我慢でしかなく、それは虚勢というにも弱すぎた。

こけおどしにもならない、ただの意地だが。

それ無くしてそこに立ってはいられないだろう。

 

「そう………でも、もう終わりね」

 

「やりなさい」と、そう女が言葉を放つ。

それと同時に、特型が動いた。

触手をうねらせ咆哮を上げ、周囲の空間を震わせる。

まるでそれは死刑宣告にも等しく感じられ、まさに死神の鎌だった。

これが、人を殺す怪物なのだと改めて二人は実感する。

 

だがしかし、それでもロザリンデは立って武器を握る。

決して心まで屈してはいけないと、そう決めて。

 

「………本当にごめんなさい、伊紀。貴女の命を頂戴」

「………!」

 

ここで果てても、あのヒュージは殺さなければならない。

ここで逃せば、ロスヴァイセの面々も危なくなる。

そう言葉にしないまでも、伊紀には伝わってきた。

 

彼女は、死場所をここに決めたのだ。

それを伊紀はとても哀しく思うと同時に、悔しかった。

もしも自分が攻撃を喰らっていなければ、こうはならなかったかも知れない。

もし、自分があの時別の判断をしていれば、こうはならないかも知れない。

もしも────

 

そんな悔恨が湧き出てくる。

しかしそれでも、彼女は答える。

いくら悔恨に苛まれたとしても、自身のお姉様の決意を無駄にしないために。

その答えを、彼女の耳に届けた。

 

「………はい」

「…………ありがとう」

 

謝罪の言葉ではなく、感謝を伝えた。

そうして、彼女は自身の半身を握りしめる。

もう迷いはない。あの子のことはとても心配だけれど、考えすぎたら未練ができてしまうから。

だから、信じる。

どうか、生きて欲しいと。

 

特型ヒュージの攻撃がくる。

それに合わせて跳躍し、自身の全生命をつかいこいつらを一体も残さず仕留める。

たとえこの身朽ちようとも、命を使い果たそうと。

必ず倒すと、妹に誓って。

 

そうしてヒュージは、その触手を撃ち放っ──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特型の動きが停まった。

何が起きたのか、飛び出そうとしていたロザリンデにはわからなかったが。

しかしその答え合わせは、すぐにやってきた。

 

黄金の槍を握り立っている片腕の男。

先ほどまでなかった白いマフラーのようなものを付けている。

それがいつの間にか、自分の前に現れていたのだ。

それは、よく知っているわけではないが、この任務に同行していた者。

自身が信ずるに値するか迷っていたとき、その誠実な言葉と態度で示してみせたなかなか気骨のある人物だと思った。

しかしそれでも、まだ信じるには足りなかった人物だ。

自分たちが、遠ざけてしまった人物だとわかった。

 

「……すまん、すこし遅れた」

 

申し訳なさそうにこちらを見ながら彼は言う。

どう言うことだろう、なぜ彼が謝るのだ。

悪いのは、窮地に陥っている自分だと言うのに。

彼女はそう思う。

 

「だけど、もう大丈夫だ」

 

そんな気持ちをつゆ知らず、彼は言葉を続ける。

ああ、どうしてここまで安心するのだろう。

信頼できないと無礼を働いたものに、どうしてそんな顔ができるのだろう。

わからない、わからない、わからない。

だけども、それでも。

 

「あとは任せろ」

 

その背中は、まるで英雄(ヒーロー)のようだった。

 

 

◆◆──────────────◆◆

 

 

急いで来てみれば、もうあと一歩で特攻するところだった。

危ないと思うと同時に、間に合ってよかったという気持ちが強く響く。

だが喜んでばかりも居られない。

伊紀さんの負傷は深く、ロザリンデさんも同様だ。

早く治療しなければ命が危ない。

 

そのためには、まず。

 

そう思考していると、戸惑っていた特型が再度動き出す。

怒っているのかは分からないが、少しの苛立ちと困惑を感じる。ヒュージも困惑するのだなと思いすこし可笑しく思った。

 

しかしこの場では敵だ。

撃滅する以外に手はない。

槍を構え、穂先をヒュージの大群に向ける。

そして──────

 

「ふっ!!」

 

投擲した。

その一撃は、ヒュージの大群を風圧で容易く吹き飛ばした。

もちろん彼女達のほうに行かないように調整したが、思いのほか吹っ飛んだようだった。

 

特型めがけて放ったその一撃は、容易く奴の体表を抉り貫通する。そうして、なにが起こったのか分からないまま終わりを迎えるように轟音を立てながら倒れ伏した。

 

一番デカいのは掃除した。

あとは、チビどもだけだ。

そう思う間にも、小型のヒュージは接近してきていた。

こちらに飛びかかり、今にもその腕で引き裂こうという気概を感じるが。

それだけだ、俺にとっては脅威ですらない。

 

「邪魔」

 

そう言って、ヒュージの顎に当たる部分に蹴りを下から叩きつける。

体表がひしゃげてぐちゃぐちゃになり、中から内臓が飛び出る。

それを構わずそのヒュージの腕を掴み、地面へ引き摺りながら先ほど吹き飛んだそのヒュージの方へ投げつけた。

マギのこもったその体が超高速でぶつかったことにより、ボーリングのピンの如く吹き飛びながバラバラになる複数のヒュージ。

 

そして、まだまだ残っているそいつらを掃討するために、()()()()()()()()()

 

「来い」

 

そう一言発すれば、先ほど投擲した筈の槍は黄金に穂を回転させながら自身の手元に舞い戻る。

つくづく便利な技だと思うが、まあそれはいい。

呼び戻す間にも駆け出し、ヒュージを殴る蹴るで数多撲殺していく。

 

最近気づいたのだが、別にマギを込めずとも()()()()()()()()()()()()で殴れば普通に殺せるようだ。

魔力以外の攻撃を受け付けない対魔力の反対の効果を持つ概念防御だと思っていたが、そうではないらしい。

普通に殺せる、少し厄介な幻想種のようなものだろう。

 

そうして槍を手元に引き寄せ、撲殺に加えて斬り殺すことも追加した。

穿ちぬいて殺す、叩き殺す、真っ二つにして殺す。

それを繰り返しているうちに、数秒でみるみるヒュージが減っている。

そこまで強くはないものということだろう。これだけ倒せるなら。

 

そうして、みるみるヒュージが減っていき、全てのヒュージを掃討し終えた。

案外楽に終わって拍子抜けだが、早く治療しなければならないためこれで良かったのだろう。

後からやって来ていた幸さんに近づく。

 

「……ごめん、少し時間かかった」

「いえ………というかあの数のヒュージをあんな瞬きの間に倒すなんて信じられないのですが……」

「今はそれはいいだろ?それより治療を────」

 

そう言って、治療に取り掛かろうとした時だった。

 

 

 

「⬜️⬜️⬜️─────ッッッ!!!」

 

あのデカブツ、特型ヒュージが傷からボタボタと体液を垂れ流しながら襲ってきたのだ。

どう見ても致命傷だった筈なのだが、ヒュージ特有の再生能力に難を逃れていたのだろうか。

なんにせよ、仕留めたと思っていた怪物が再び起き上がり、こちらを狩ろうとしているのだ。

これはさしものリリィといえども、驚愕するほかない。

 

そうして怪物は、自身に致命傷を負わせた憎っくき人間を屠ろうと────

 

()()()()()()()()

 

この怪物の狙いは別にある。

それは、負傷したロスヴァイセのリリィだ。

これまで戦ってきた中で、確かに傷を負わせた相手を確実に仕留めようと考えたのだ。

 

あの人間には勝てない。

それは先ほどの攻撃で思い知った。

なんだあれは。怖い、恐ろしい。人間を狩るために生まれた自分が人間如きに恐怖している。

いや、本当にあれは人間なのか?

 

そして湧き上がるは恐ろしいまでの憤怒。

この自分が人間如きに敗れたことへの敗北感、そしていわゆる悔しさだ。

だからこそ、この手負の人間どもを殺すことで勝ち逃げをしようとしていたのだ。

そうすればこの人間が守ろうとしたものを引き裂き、屈辱を与えた上で死ぬことができる。

 

そう、自分は殺すべきものに負けていない、勝てるのだと信じて。

 

 

「想定済みだ、外道」

 

そう、絶望の声色が響いた。

 

下から槍を振り上げ、縦一文字に閃光が走る。

黄金の一閃は、断罪の刃のようにヒュージの脳天まで上がっていく。

そしてそれがてっぺんまで到達し、ヒュージに動きが完全に止まる。

 

そうして、そのヒュージは頭から真っ二つになり絶命した。

 

体液も内臓も何もかもが彼女らにかかることなく、何も残せずにその怪物は死んでいった。

 

 

◆◆────────────◆◆

 

 

何か邪な気配のしたヒュージを普通に殺して、再び二人へ向き直った。

 

「幸さん、少し手伝ってくれ」

「……わかりました」

 

そう言えば、彼女も手伝いに来てくれた。

彼女の協力のもと、座り込んでいる二人の治療に取り掛かった。

 

やはり酷いのは伊紀さんの方だろう。

腹から貫かれ、出血し続けている。

これはまずいだろう、早く治療しなければ命に関わる。

治療魔術を展開しながら、傷口にかかっている悍ましい魔力を剥ぎ取っていく。

 

「ん?回復してる?」

「……この子も私も、リジェネレーターを持っているわ。普通なら傷は塞がるのよ」

「なるほどね」

 

そんな疑問に答えを貰い、治療を続けていく。

やがてそのリジェネレーターの効果もあり、傷口は完璧に治っていった。

そうして、次はロザリンデさんの治療だろう。

 

再び治療魔術を展開し、同じように傷口から魔力を剥ぎ取っていく。

その最中、彼女が声を掛けてきた。

 

「……あなた、何も言わないのね」

「えっと?何を?」

「こんな有様になっていることを……よ」

 

いまいち要領を得なかったが、罪悪感でも感じているのだろうか。

普通に罠に嵌められたのだし、口には出さないものの仕方なかったと思うのだが。

それとも────

 

「ちょっと冷たくあたったことですか?」

「………」

「まあそれは仕方ないでしょ、あんな怪しい奴自分でも信じられませんもん」

「でも────」

「別にいいんですよ、別に──はい、この話お終いね」

 

少し微笑んで安心させようとそう言う。

するとロザリンデさんも、悩ましい顔を変えて少し笑ってくれた。

 

「……ありがとう」

「……そうそう、それでいいんですよ」

 

「はいお終い」と言って、治療魔術を終了させる。

幸さんも応急手当てを終えて、伊紀さんを背負ってこちらに来ていた。

これで完全に終了だろう。

先ほど、恐らく指揮していたやつはここにはいないようだし、探しても見つからないだろう。

探ってもいなかった。

 

それより、地上に戻ることが先決だろう。

 

「ちょっと失礼しますー」

「きゃっ!」

 

動く体力を使い切っているだろうロザリンデさんをお姫様抱っこの要領で抱え、思いっきり跳躍した。

後ろに幸さんもついてきていることを確認し、穴の外へと降り立つ。

そこにはロスヴァイセのメンバーがおり、こちらの二人を視認すると駆け寄ってきているのがわかる。

ロザリンデさんを抱えたままだが、普通に互いの無事を喜んでおり、もう大丈夫そうだと感じた。

あとで伊紀さんも目を覚ますだろう。

 

ロザリンデさんを預けて、自分は少し見回りでもしようかと思ったが。

 

「ちょっと待って」

「はい?」

 

ロザリンデさん本人に呼び止められた。

なんだろうと思って近づいてみれば、こう言ってきた。

 

「あとで、お礼させてちょうだいね」

「いや別にだい────」

「ちょうだいね?」

「………はい」

 

得てして美人の凄みは怖いものだ。

ここは大人しく従おう。

俺はマーリンではない方の師匠を思い浮かべてそう思った。

 

なぜそこまで拘るのかは全然わからんが。

こう言う時は刺激しないに限る。

 

そう思い、渋々約束した後に幸さんに報告しておこうと思うことがあったのを思い出す。

安心しているロスヴァイセのメンバーに負担を掛けたくないので、少し離れた場所で話すことにした。

 

「それで、なんですか?なにかあったのでしょう?」

「ああ、実は───」

 

あの場に恐らく指揮している奴がいたこと。

遠隔かはわからないが、マギによって恐らく操っていたことを報告した。

 

「……なるほど、ロスヴァイセほどの特務レギオンが苦戦したのはそういう」

「たぶん、ですけどね。あとで二人に聞いてみないとわかんないですけど」

「この情報が入るだけでも十分でしょう」

 

彼女ならばしっかりと共有してくれるだろう。

そう思い、話した甲斐があったというものだ。

 

そうして任務は終了し、ようやく一息がつける。

 

筈だったのだが───

 

 

 

 

 

 

──────────────

 

 

367:名無しの転生者

誰か救援!!救援!!

 

368:名無しの転生者

無理無理、百合ヶ丘内なんてすぐ行けんわ!

 

369:名無しの転生者

夢結様のルナトラが止まらないんだけど!?

 

370:名無しの転生者

そんなんこっちに聞くなよ!!俺だって知りてえわ!

 

371:名無しの転生者

あーもうめちゃくちゃだよー

 

372:名無しの転生者

ネタ言っとる場合か!!

 

373:名無しの転生者

えこれどうすんの収集つかんくない?

 

374:名無しの転生者

やばいヤバい梨璃ちゃんが死ぬー!!

 

375:名無しの転生者

現場の転生者何としても守れ!!夢結様に人を殺させるな!

 

376:名無しの転生者

いや夢結様自体が強くて無理ゲーなんですけど

 

 

 

──────────────

 

 

車両内でみた掲示板が大変なことになっていた。

何があったんだこれ。

 

 

 

 




次回が後編になります。
恐らくそのあとからまた掲示板形式になるのでよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。