その時は、こんなことになるなんて思ってもいなかった。
いつものように笑って、笑い合って、そうして何事も無く過ごすことができると思っていた。
私とお姉様はいつも一緒にいて、これからもそうだと信じて疑わなかった。
でも、それは大きな勘違いだった。
それを思い知ったのは──────
私がお姉様を刺殺した後だった。
◆◆──────────────◆◆
378:イッチ
えなにがあったんこれ
379:名無しの転生者
援護ー!まだか援護ー!!
380:名無しの転生者
最悪だよ、最悪。もう終わりでーす
381:名無しの転生者
諦らめんなお前まじで!!ここで諦めたら世界終了だぞ!!
382:名無しの転生者
人類掛かってる安西先生!?
383:名無しの転生者
ほんとにネタ言ってる場合じゃねえよ!!
384:名無しの転生者
このままだとラプラス持ちと最高に近い戦力である夢結様が死ぬぞ!
385:名無しの転生者
たぶんそうなったらまず都庁が陥落するな
386:名無しの転生者
ラスバレの色々が消し飛ぶ!
387:イッチ
おーい
388:名無しの転生者
うるせぇ黙れ!……ってイッチ!?
389:名無しの転生者
なんでいんのこいつ連絡できないんじゃないの?
390:名無しの転生者
生きてたのかイッチ!!
391:名無しの転生者
遅えんだよ!待たせやがって!!
392:型月解説役
やっと連絡できたー!よかったー!
393:完全記憶能力ネキ
………なんなんです?これ
394:イッチ
さあ?
395:名無しの転生者
早速だがイッチ、お前にやってもらいたいことがあってだな
396:イッチ
えっ?どしたん?
397:名無しの転生者
夢結様の暴走止めてくだち!
398:名無しの転生者
できれば型月パワーで何とか無難にな!!
399:名無しの転生者
できるよな、できないとは言わせないぞ!
やれ
400:名無しの転生者
あそれイッチ!あそれイッチ!
401:名無しの転生者
ていうか早く停めてくれないとヤバいんだけど
402:名無しの転生者
こっち抑えきれないんだけどー!?夢結様強しぎー!!
403:名無しの転生者
こっちもできる限り抑えてるけど限界近いよ!
404:名無しの転生者
周りの人にも募ってるけどヌーベルとか神琳以外だと相手にならんわ!
405:名無しの転生者
なんでこんなに強いんだ?
406:名無しの転生者
元の夢結様の戦闘力の問題じゃね?!
407:名無しの転生者
今ルナティックトランサー発動してデバフ消えてるからか!
408:名無しの転生者
ああ、なんか作者公認で最強って言われたあれね
409:名無しの転生者
敵で顕現してたまるかそんなの!!
410:イッチ
えーと、つまり。その夢結って子をとめればいいと
411:名無しの転生者
そうそう!!そういうこと!
412:名無しの転生者
さあ早くしてくれ!こっちもなかなかキツイから!
413:名無しの転生者
早く早く!!
414:完全記憶能力ネキ
……とんでもないことになっているのはわかりました
ですがそれは難しいと思いますよ
415:名無しの転生者
えっなんで
416:名無しの転生者
完全記憶能力ネキなんか知ってんの?
417:名無しの転生者
まって嫌な予感がする
418:完全記憶能力ネキ
先ほどまで、任務に同行していたので大体は
まあ結論から言いますと─────
私達は現在百合ヶ丘にいません
419:名無しの転生者
420:名無しの転生者
421:名無しの転生者
422:名無しの転生者
423:名無しの転生者
424:名無しの転生者
……は?
425:名無しの転生者
え?
426:名無しの転生者
うそ
427:名無しの転生者
えっじゃあ止めるすべは?
428:名無しの転生者
今なくなった……かな
429:名無しの転生者
………
430:名無しの転生者
………
431:名無しの転生者
………
432:名無しの転生者
どうすんだこれ
433:名無しの転生者
えほんとにどうすんのこれ
434:名無しの転生者
終わった
435:名無しの転生者
唯一の未知が何とかしてくれるという可能性に賭けたらそもそもいないとかわからんよ
436:名無しの転生者
ていうか学内組なんか言われなかったんですか!?
437:完全記憶能力ネキ
いえ極秘任務なのでそういうのは
438:名無しの転生者
あー……そういう
439:名無しの転生者
えっじゃあマギを切らして夢結様が死ぬかこのまま突っ込んで留め続けるしかないの?
440:名無しの転生者
こっちに死傷者が出ることもあるかも
441:名無しの転生者
最悪だな
442:名無しの転生者
このまま止めることはできても撤退はできないぞ……
443:名無しの転生者
ていうか誰かが殺されたらその時点で夢結様ぶっ壊れて終わりじゃない?
444:名無しの転生者
正気に戻れなくなるかもってことか
445:名無しの転生者
……どうする?詰みじゃない?
446:名無しの転生者
……詰みかも
447:名無しの転生者
448:名無しの転生者
449:名無しの転生者
450:名無しの転生者
451:イッチ
……わかった行くわ
452:名無しの転生者
え?でも学外なんだろ?
453:名無しの転生者
どうやってここまで来んだよ、完全記憶能力ネキの言い方的にまじで遠いんだろ?
454:イッチ
走っていく
455:名無しの転生者
は?
456:名無しの転生者
はい?
457:名無しの転生者
ついに頭イカれた?
◆◆────────────────◆◆
まあなかなか散々な言われようだが、それもしかたない。
普通の人間ならそう思うだろう、俺だってそう思う。
だが、俺なら間に合う。そう確信している。
車内の座席より立ち上がり、ドアに向かって近づく。
「……本気で行くのですか?」
「まあ、頼まれたんで」
幸さんがそう声をかけてくる。
おそらく心配、してくれているのだろうか。
まあ普通に考えたら無理だと思うのも仕方ないし、行動で示すしかないだろうか。
いや今の言い方的に行けるのは疑ってなさそうだな。
じゃあなにを。
「……彼らは貴方を信用していませんでした……都合のいい時だけ頼っているに過ぎないのですよ?」
「それでも貴方は行くのですか?」と、そう聞いてきた。
ちょっと驚いた、すこし心配してくれているのだろうか。
嬉しいことだ。まあ確かに他人から見れば虫のいい話だと思うのだろう。
散々貶した相手に助力を乞うなど、厚顔無恥にも程があると。だけど────
「これは俺の矜持の問題だからな。それに、見捨てたら後味が悪いだろ?」
その返答を聞いて、彼女はすこしポカンとして。
そうしてからすこし笑い、運転手に指示をしてくれた。
おそらくドアを開けるように言ってくれたのだろう、ありがたいことだ。
走行中にドアを開けるという常識的にありえないことをしたが、まあここの道は全くと言っていいほど車が通らないので問題ないだろう。
明け放たれたドアの前に立つ。
空気抵抗を直に感じるが、大したことはない。
「……行くのかしら?」
「ロザリンデさん?」
次はロザリンデさんが声を掛けてきた。
なんだろう、なにか言いたいことがあるのだろうか。
「助けに行くのでしょう?」
「……わかるんですか?」
「ええ、まあ」
「貴方の雰囲気、私達を助けたときと似てたもの」と付け加えた。そうして、此方に向かって手を振った。
それはまるで、外出をする子供として見られているようで落ち着かなかったが、それでもよかったと思う。
見送ってくれる人がいるというのは、ありがたいことだから。
「いってらっしゃーい!」「……いってらっしゃいです」「さっきはありがとうございましたー!」「頑張ってくださいね」「その子によろしくねー!」「またね!」「助けてくれてありがとうございました」
「……いってらっしゃい」
「………ありがとうございます」
次々と掛けられる言葉を嬉しく思い、最後のロザリンデさんの言葉を締めとしてこちらも返事をする。
そして、ドアから一歩を踏み出して。
思いっきり跳躍する。
そうして、一息に空に舞い上がり、
この技は鍛えて鍛えて鍛えて、地獄のような思いをして習得した技だが、どこかのフィジギフでみたことある技だと感じた。
まあある意味パクリだろうが、便利だから良いのだ。
まあある大蜘蛛には片腕を侵食された時に簡単に真似されたのだが。めっちゃ悔しかった。
なんだよあいつ理不尽すぎだろ。
まあそれはいいだろう。
取り敢えずこの方法なら、地上に被害を出すことなく高速で移動できる。あいにく自分は転移魔術なんていう便利なものは使えないのだ、得意なのはルーン魔術くらいで。
「とにかく、急ぐか」
どれだけの猶予があるかは知らないが、それでもあまり時間は残されて居ないだろうから。
そう思い、さらに速度を上げていった。
◆◆─────────────────◆◆
失敗した。失敗した失敗した失敗した失敗した。
私がやらなきゃならなかったのに、私じゃなきゃ解決できないのに。それが私の役割なのに。
彼女を……夢結様を正気に戻すことができなかった。
いやそもそもの問題として、夢結様を感じることができなかったのだ。
マギを触れ合わせ、そうして夢結様を正気に戻すはずが、私のレアスキルであるはずのカリスマはうんともすんとも言わなかった。
「こっち援護きて!特型止めるよ!!」
「夢結様は任せて!!こっちも何とかするから!」
「危なくなったら即退避!ほかのレギオンも同様にね!」
「夢結様が暴れるからほかのレギオンも近づけない!もーなんでこうなるのよ!!」
「ごちゃごちゃ言わない!!さっさと動く!」
仲間たちは、今も夢結様と特型ヒュージを止めようと奮闘しているようだった。
しかし、それでも留めきれていない。
怪我人は出ていないようでも、夢結様に攻撃が当たるかもしれないと躊躇してしまっている。
私のせいだ。
私が上手くできなかったから、こうなってしまった。
私は一柳梨璃なのに、彼女を救えなかった。
私が、私が、私が、私が。
「立って!!一柳さん!」
「……ぁ……友美さん」
自身のクラスメイトである彼女────柳友美さんが私の腕をつかむ。おそらくここから連れて逃げようとしてくれているのだろう。しかし、だめだ。
ここで逃げてしまえば、本当に終わってしまう気がして。
自分が失敗したのが悪いというのに、なにを思っているのだろうか。
本当に彼女ならば、しっかりと夢結様を救っていたはずだから。
しかし事実として、ここに彼女はいない。
ここにいるのは、混ざり者の贋作であり偽者だ。
たとえ必死に仮面を被ろうと、人の本質は変えられない。
私はただ、滑稽に踊っていただけ。
「でも……私が………助けない、と」
「今の状態じゃ無理よ!まずここから離れないと巻き込まれるわよ!!」
「でも!!」
「でもじゃない!!」
そうやって強く言い放つカノジョに少し気圧される。
ここまで感情を剥き出しにするのは見たことがない、いつもは教室の端で本を読んでいる子という印象だったのに。
そんな失礼なことを考えているが、それでも彼女がこちらを気遣い逃がそうとしてくれているのはわかった。
おそらくは同じ転生者でありながら、志が段違いだ。
彼女はこちらを、命を賭けてでも逃がそうとしてくれている。
そんな決意に応えることさえ、今のわたしには難しかった。
「……お願い、どうか逃げて」
「私、は………」
「大丈夫よ、きっと夢結様も止めてみせるから!」
そう自信をもって言うのは、きっと慰めの類なのだろう。
しかし、この状況で慰めを言えるのはとんでもないことだと思う。こんなことを言わせてしまっている自分に吐き気がすると同時に、こうなってしまったことへの悔恨が湧き出てくる。
だが、そんな後悔でこの状況は変わらない。
だからそこ、自分は足手まといにならないように逃げるとこが最善だ。
自分にできることなど何もないのだ、いるだけでも邪魔。
自分の咎を、他人に押し付けて私は逃げることが最善なのだ。
でも、自分の身体は動いてくれない。
『後悔のないようにね』
『ルナティックトランサー……レアスキルなんてとても呼べないものよ』
『構えなさい、梨璃さん』
あの悲しそうな横顔を。
自身の何もかもを憎んで恨んでいるような、そんな雰囲気を発する貴方を、自身の役割とは別に惹かれていなかったといえば嘘になる。
そして、貴女の過去を私は知っている。
転生者故に、その失ったものを私は知っていた。
私にその欠落が埋められるかはまったくもって自信がなかったが、それでもやらなければならないのだと思っていた。
でも違うのだ。
私はいつしか、貴女を救いたいと願うようになっていた。
やらなければならないこととはまた別に、自分がやりたいことだと思ったのだ。
だから、ここで逃げることはできない。
「………ごめん、友美さん」
「え?」
「私、行くよ」
「えっちょっと?!」
そうしてCHARMによって地面にサークルを描き、跳躍する。
そうしてもう一度、夢結様のもとへと向かう。
たとえ、ここで死ぬのだとしても後悔は絶対にしない。
たとえ死んでも、彼女を一人にはしたくない。
「梨璃さん!?」
「バカ!戻れ!」
「梨璃ちゃん?!」
周りの人たちが、引き留めようとしてくる。
しかし私はそれでも止まらない。
夢結様のもとへと、走る。
彼女は相変わらず暴れ回っております、とても近づける状態ではない。しかし彼女も無傷ではない。
ところどころに傷が増え、美しいそのきめ細やかな肌から血が流れ出ている。
それすらも美しいと感じるように、彼女は爆炎の中で踊っていた。
ああ、綺麗だなと場違いにも感じてしまう。
夢結様のまわりに、ミサイルのようなものが着弾する。
視界が遮られ、彼女の動きを一時的に止める。
そうして、彼女にまたミサイルのようなものが射出され向かっていく。
それが視界にはいらないのか、避けようとせず突進する夢結様に私は突撃して────
自分ごと、夢結様を突き飛ばした。
「………え?」
彼女の困惑した声が聞こえる。
その勢いは彼女を攻撃の範囲から逃れさせることができたようで、しかし代わりに私はヒュージの攻撃に直撃するだろう。
後から迫ってくる音がする。
確実に攻撃を当てるために、かなりの数のミサイルが飛んでくる。そんなことを冷静に考えれてしまうほど、不思議と私は落ち着いていた。
これが、走馬灯というものなのだろうか。
案外何も出てこないものなのだなと、そう感じる。
ああ、結局自分は主人公になれなかった。
どちらも助けるつもりだったのに、身代わり程度にしかなれないだなんて。
────────────────────────
654:名無しの転生者
まずいまずい!!!梨璃ちゃんが!!
655:名無しの転生者
なんで突っ込んでんだ!!
656:名無しの転生者
救出を!!
657:名無しの転生者
無理だ!!間に合わん!!
658:名無しの転生者
くっそここまできて!!
659:名無しの転生者
梨璃ちゃーん!!誰か頼むから助けてくれよー!!!
─────────────────────────
でも、最期に浮かんだのは夢結様の顔じゃなかった。
ステルスを使うヒュージを切り裂き、真っ二つにして此方に微笑んだ青年。安心感があったその笑顔に、不思議と少し救われた。
あの時、お礼を言いに行ったのは梨璃のエミュだからだけではない。彼のことを、もっと知りたいと思ったからだ。
なぜ自分を助けてくれたのか、なぜそんなに強いのか。
『大したことはしてないよ、いや努力は嫌というほどしたけど』
『それでも、人を助け続けられるのは色んな出会いのお陰なのさ』
『きっと、貴女もたくさんの人に出会えばわかるよ』
そう言って笑った貴方と、もっとお話がしたかった。
たくさん話して、もっといろんなことを知りたかった。
貴方が助けてくれたように、私もリリィとして色んな人を助けたかった。
でも、もうそれは叶わない。 私は、ここで死ぬから。
ああ……それでも、叶うなら。
「……もっといっぱい、話したかったな」
「────これから話せばいいさ」
その声と共に、炎が振り注ぐ。
一本一本が光線のように唸り、ヒュージの攻撃を相殺する。
さらに黄金の光が走り、周囲のリリィに振りかかろうとしていた攻撃を消滅させる。
その光は彼の手元に戻り、収まった。
黄金の穂をもつ、槍だった。
黄金の魔力の燐光を纏いながら、英雄は舞い降りた。
◆◆─────────────────◆◆
660:名無しの転生者
……えっ?だれ?
661:名無しの転生者
男性がなんでここに……
662:名無しの転生者
まさか、あいつ
663:名無しの転生者
……もしかして、イッチ?
664:名無しの転生者
いや今どっからあらわれた!?
665:名無しの転生者
上空から降ってきたように見えたけど!?
666:名無しの転生者
んなバカな
667:型月解説役
イッチ………お前……
668:名無しの転生者
救援………ってこと?
669:名無しの転生者
本当に?
──────────────────
掲示板は混乱に包まれていた。
しかし、彼はそんなことをつゆも気にせず梨璃に向き直る。
その当の梨璃は、とても呆然とした顔でこちらを見つめていた。
状況把握に時間がかかっているのだろう。
「……あ……えっ?」
「無事か?一柳さん」
「えっあっはい!」
そう元気に返事をする彼女に、少し安心しながらも、こちらはあの巨大ヒュージを見据えていた。
あいつが、おそらくこの惨事を引き起こしたやつだろう。
まったくもって面倒なことをしてくれる。
周りは唐突に現れた自分に戸惑っているのか、少し警戒している。まあそれが当然なので異議はないが。
ただ、このままでは困るので声をかける。
「おーい!周りの人ー!」
「「「「「!」」」」」
「こっちは理事長代行に雇われた傭兵みたいなものだ!だから敵じゃなーい!!」
だから一応伝えておく。
まあ普通に考えてこれで信じてもらえるとは思っていないが、それでも言わないよりマシだろう。
さて、そうして俺はヒュージに向き直る。
その背に数多のリリィたちの墓標を貼り付けながら、それを冒涜するかのように振る舞うあの怪物。
まるであの夢結って子のトラウマをほじくり返すためだけに作られたようなものだ。
と、そうやって思考していると、隣から銀閃が走った。
それは夢結という子の攻撃だった。
まあおそらく暴走状態なのだろう。
「でえあああああ───────!!!」
「まずは、少し落ち着かせようか」
そう言葉にし、自分も迎撃する。
といっても本気ではもちろんない、そんなことしたらこの子が死んでしまう。
振るわれるCHARMを、紙一重でかわし続ける。
横、右、縦。なかなか正気を失っているとは思えないほどの技だ。しかし、俺には止まって見える。
振るわれた縦振りを、正面から受けて──────
拳でCHARMをはじき飛ばした。
それを見て、少し呆然としてしまう彼女。
無理もない、この世界においてはあり得ないことだ。素手でCHARMを弾き飛ばすなど。
だが、その隙は見逃せない。
「かわいい後輩が心配してるよ、上級生」
「だから────」と二の句を継ぎ。
俺はその行動と共に言い放った。
「さっさと帰ってこい」
少し強めに、チョップを食らわした。
◆◆──────────────◆◆
微睡みのなかにいる。
お姉様がいて、ほかの皆も何事も無く無事で生きている。
堪らなく嬉しいその光景だけれども、それでもなぜかほんの少し違和感を感じる。
なぜなのだろう。どうしてだろう。
そんなことを考えようとすれば、また意識が沈んでいく。
「どうしたんだい?夢結」
「お姉様……」
ふと、自身を膝枕していた彼女────川添美鈴お姉様が声をかけてくる。
その顔はこちらを真に心配しているようで、それがとても嬉しかった。
「いえ、なんでもないんです……ただ」
「ただ?」
「なにか……少し違和感があって」
そう言うと、彼女は少し笑顔を消して難しい顔をする。
どうしたのだろうか、何か困らせることを言ってしまったのだろうか。
「………夢結は、帰りたいかい?」
「帰りたい?それは─────」
どういう、と繋げようとした言葉は出てこなかった。
なぜかその言葉だけは、出してはいけないような気がしたから。出してしまえば、この夢が終わってしまうような───
夢?夢とはなんだろう。
ここは紛れもない現実であり、私の理想だ。
なのになんでそんなことを────
「すみません、お姉様……忘れて────」
ドガッ!
「いっ!?」
下さいと続けようとした口は、突然の痛みに閉じてしまう。
ソレはまるで頭を強く叩かれたようで、ジンジンとした痛みが走る。
なんだ、なにが起こったのか。
まったくもって分からないが、それでも何かしらの攻撃だということはわかった。
「……大丈夫かい?夢結」
「お、お姉様?」
痛がる頭を擦りながら、ゆっくりと体を起こす。
そして体を起こしてみたものは、仕方ないなと笑っている美鈴お姉様の姿だった。
何故笑われるのだろう。
かなり痛かったというのに。
「どうやら向こうにも、君を連れ戻してくれる人が居るみたいだね」
「向こう?それはいったい───」
「まだ、目を逸らすのかい?夢結」
そう言われてドキッとした。
何から目を逸らしている、そんな自覚がなかったわけではない。しかし、こうも突きつけられたのは初めてだ。
だけど、直視してしまったらそれは。
「……でも、そしたらお姉様と一緒には居られない」
「人はいつか別れるものさ、僕たちだって例外じゃない」
「でも──────!」
「夢結」
そう言って、彼女は私を抱きしめる。
強く強く、温もりを与えるように。
「夢結ならきっと大丈夫……あの子のことも、守れるさ」
「………はい」
あの子のこととは何か、それを聞くことはしなかった。
だってわかっているから、こんな私とシュッツエンゲルになりたがった変わり者のあの子のことは。
『お■■!』
声が聞こえる。
私を呼ぶ、あのこの声が。
ああ、もう終わりなのだろう、きっと。
優しい夢は、もう終わり。
あの場所に戻るときが来たのだ。
「………お姉様」
「夢結」
別れと精一杯の愛を持って、私はその言葉を告げる。
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
そうして私は、夢から覚めたのだ。
◆◆─────────────────◆◆
どうやら、ちゃんと正気に戻ったようだ。
「おはようさん、寝坊助」
「………殆ど初対面なのに、随分とやってくれたわね」
「それほどでもないさ」
殆ど呼びかけていたのは梨璃ちゃんだしな。
それに、自分はただ叩いただけだし。
「お姉様ー!」
「梨璃……ごめんなさい、私……」
「そんなこといいんですよ!お姉様が無事で良かったですー!」
そんなふうに平和なやりとりが行われるが、どうやらそんな時間はないようだ。
特型ヒュージが再び動き出し始めている。
さっきさらっと殴って動きを止めたのだが、ホントに軽く殴っただけなためそこまで効果は見込めなかったらしい。
もっと抉り取るように殴ればよかったか。
「……なんかいま、ヒュージを少し可哀想だと思っちゃいました」
「奇遇ね、梨璃……私もよ」
なぜ可哀想だと思うのだろうか。
奴等は人類の敵ですよ?あれらは人間としての運用はしておりませんので。
まあ馬鹿なことを言うのはおしまいにして、さっさと片付けよう。
「さて────」
槍を、構える。
後ろを見据えながらも、前に穂を突き出しヒュージを捉える。あのヒュージは、俺を警戒しているのだろう。
突如として、横に誰かが降り立った。
その人物は、緑髪に褐色の肌の少女だ。
「さっきの言葉、信じていいんだナ?」
「もちろん、任せてくれて大丈夫だ」
「わかった……じゃあ、あとは任せるゾ」
そう言って、リリィたちを代表し聞きに来たであろう少女は納得してくれたらしい。
では、こちらもすることをしよう。
動き出した特型ヒュージに向けて、投擲の構えを取る。
腕を引き絞り、跳躍する。
空気の面を足場にして、その場に留まる。
「え!?」
「なっ!?飛んだ?!」
黄金の燐光が、魔力として自分のまわりに集まる。
穂が輝きを増し、魔力が収束していく。
それはまるで、遠き理想郷の王────アーサー王の聖剣のようだと、掲示板の民は配信越しに感じ取る。
いつかたどり着く理想郷、そして戦場に散っていく戦士たちの、今際の際に抱く夢。
ある聖杯戦争では、ホムンクルスはそう称した。
それと同種の光が今、人類を侵す怪物に向けられる。
ある意味では人類史を焼却したかの魔術王の使い魔と似たようなものだろうか。
人類を、人を侵すものに対して、その槍と剣は一切の容赦をしない。
そして、それは遂に臨界に至る。
魔力は光となって漏れ出し、槍を包み込む。
「────受けるがいい!!」
ヒュージが恐れ慄き逃げようとする。
だが、遅すぎる。しかし前もって逃げていたとしても、逃げれるはずもないが。
そうして放たれる一撃は極光を描き堕ちる。
流星のようにその光は、太陽にも劣らないように感じた。
そして、放たれたあとに残ったものは。
タダのクレーターでしかなかった。
「……ちょっとやりすぎたか?」
「「「「「やりすぎだよ!!」」」」」
少しボケてみたら総ツッコミされてしまった。
────────────────
430:名無しの転生者
まじでやりすぎだよ
431:名無しの転生者
オーバーキルにも程がある!!
432:名無しの転生者
ていうかイッチ強すぎんか?
433:名無しの転生者
夢結様簡単に止めたしな
434:名無しの転生者
チョップって………
435:名無しの転生者
型月スゲー……
─────────────────
なんか、ヤベぇかもしれんな。
やりすぎたわ。
やっと梨璃ちゃんが転生者であることで起きる出来事を書けました。ちょっと苦戦しちゃいました。
たぶん次回は掲示板形式だと思います。ちなみに今回のエクスカリバーに似た一撃はサーヴァントなら宝具には相当しません。