転生したら石神親子のお隣さんだったガキンチョ♀   作:魚骨

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4 100億%完璧なピザ

「ではでは、『一色先生の楽しいお料理教室』、開講といきましょうか!」

 

 キラッ☆ と言いながら親指・人差し指・小指を立て、例のポーズを取ってみました。が、千空くんには伝わらなかったようで、「わけが分からない」と言いたげな顔をされてしまいました。

 

「一応、今ちょうど放送されてるアニメなんですけど、深夜ですしね……知りませんか、知りませんよねえ……はああ」

「なんでガッカリされてんだ俺は……」

「まあ伝わらなくてもいいんですけど、自己満足なので」

 

 東京に出てきてよかったことの一つは、「観たかったアニメが地元では放送されない」なんてことがないことです。大人のわたしが生きていた二〇二〇年代ならともかく、今のわたしが生きている二〇〇八年はアニメのネット配信がそれほど広まっていませんから。

 

(と、そんなことはどうでもよくて)

 

 ふるふると頭を振って余計な考えを振り落としました。季節は夏、いつまでも外廊下にいては材料が痛んでしまいます。

 

「おうち、上がってもいいですか?」

「おお。……マジで俺らだけで作んのか? つーか作れんのかよ」

「ええ! 大丈夫ですよ、今日は最初ですから、そんなに難しいことはしません」

 

 千空くんにも手伝ってもらって、野菜やらチーズやらが入った買い物袋を石神家のキッチンに運び込みました。要冷蔵のものはとりあえず冷蔵庫へ、野菜は洗ってざるに入れておきます。

 

「千空くん、包丁は使ったことありますか?」

 

 手を洗い、トートバッグから二着、エプロンを出しながら千空くんに尋ねました。

 

「無え。けど百夜が昨日、『一応』っつって子ども用の包丁買ってきてたな」

「なら折角ですし使ってみましょうか。エプロンはわたしが使っていたものがありますけど……」

 

 ちょっと大きいですかねえ、と千空くんの身体に当ててみます。

 

「あら、可愛い」

 

 千空くんはものすごーく嫌そうな顔をして、わたしの腕を掴みました。

 

「なんつーもん着させようとしてんだコラ」

「えっと、なにってエプロンですが……」

「あ゛あ゛、エプロンなー、確かになー? ――正しくは『ピンクでいちご柄のやたらフリフリした』エプロン、だけどなァ!!」

 

 千空くんはわたしからエプロンをむしり取り、床に叩きつけました。「あっ、ひどい!」と私は悲鳴じみた声を上げます。

 

「……だめですか? フリル」

「……」

 

 睨まれてしまいました。

 

「ま、そりゃだめですよねえ」

「当然だ」

 

 よく似合っていると思っているのは本当ですが、わたしとしても他に持ち合わせがなかったので持ってきたのであって、フリルを着せたくて持ってきたわけではありません。

 

「まあ、汚れてもいい服なら、エプロン着ける必要はないですから」

「クク、なら問題ねえな。汚れるかも、つって今日は濃い色の服選んでんだ」

 

 なるほど確かに、今日の千空くんは紺色のTシャツに黒のズボンで、多少汚れがついても目立たないでしょう。わたしはいちご柄のエプロンを拾って畳んでトートバッグに仕舞い、代わりに自分の調理器具を取り出しました。キッチンは二人で作業するには狭いですし、冷房の効きも悪いので、千空くんにも手伝ってもらって必要なものをダイニングテーブルに運びます。

 

「――じゃ、始めましょうか! 今日作るのは『簡単! モリモリ夏野菜のピザ』です!」

 

 

 

「手はこういう風に……『猫の手』にして、抑えてください」

「なんでだ?」

「こうしておくと包丁がつるっと滑っても、指が切れないんです。あとは切る位置の目印にもなりますから」

 

「切ったナスは水を張ったボウルに10分くらいさらして、灰汁を抜きます」

「なんでだ? つーか『アク』ってなんだ?」

「灰汁は……食べ物の中の渋みとか苦みの元になる物のことです。そのままにしておくと美味しくないですし、切り口の色が変わって見た目が悪くなります」

 

「千空くんはピーマン好きですか?」

「…………」

「わ~、渋い顔。フフフ、嫌いなんですね? ……じゃあこういう風に……縦に長く切りましょう」

「……なんでだ? こう……輪になるように切るんじゃねえのかよ?」

「確かに見栄えは輪切りの方がいいんですけど、こっちの方が苦くならないし、シャキシャキして美味しいんです」

「なんで切り方で味が変わんだ?」

「それはですね……」

 

 

 

 千空くんは最初の内、手つきが危なかったり具材の厚さがばらばらだったりと見ていてハラハラドキドキしましたが、流石子ども、スポンジ並みの吸収力です。コツを掴むのが早く、作業は思っていたよりも順調に進んでいます。

 

(全ての行いに「なんで」が返ってくるのにはちょっと困りましたが……)

 

 このくらいの歳頃の子は「質問期」といって、とにかく何にでも疑問を持つものですが、千空くんはもう、そんなレベルではありません。なんというか、アレです。アレなんです。

 

「次はなにすんだ?」

「次はですね~……生地にピザソースを塗って、切った具材を乗せていきま~す」

 

 今回はピザ生地もソースも既製品を使うので、あとは好きなように具を乗せて焼くだけです。元々わたしはあまり凝ったものを作れませんし、千空くんにも言った通り今日は最初ですから、難しいことをするより、楽しさに触れてもらった方がいいでしょう。

 

「なんでも乗せていいのか?」

「ええ、なんでも! 千空くんの好きなように乗せてください」

 

 少し疲れの色が見えていた千空くんの瞳が、途端にキラキラと輝き始めます。

 

「チーズとウインナーは乗せるとして、あとはどうすっか……」

「手作りピザは『何を乗せるか』、自分で選べるのがいいですよね~♡」

 

 むむむ、と真剣な顔で具材を乗せていく千空くんを見て、わたしはにっこりしました。

 

「ではでは、わたしはキッチンで作業をしていますから、一枚完成したら呼んでください」

「あ゛あ、わかった」

(千空くんがピザの準備をしている間に、オーブンを予熱して……。百夜さん、『料理はしない』と言っていましたが、電子レンジではなく結構立派なオーブンレンジを買っている辺り、やる気はあったんでしょうね……)

 

 千空くんに美味しいものを食べさせてあげたかったんでしょうか。そんなことを考えて、また頬が緩みます。わたしのお父さんも百夜さんのような人だったら……、大人のわたしはどうだったか覚えていませんが、今のわたしはそういう家族との温かい記憶を持っていないので、少し羨ましいくらいです。

 

(あとは流石にピザだけでは寂しいですから、もう一品、作っておきましょう)

 

 ピザ用から取り分けておいたコーンとベビーリーフ、ハムなんかをマヨネーズベースのソースと混ぜて、サラダを作ります。お皿に盛りつけたところで、ちょうど後ろから声がかかりました。

 

「一色! 『100億%完璧なピザ』ができたぞ!」

「お、どれどれ…………――」

 

 絶句。

 

「確かに好きなように乗せてください、とは言いましたが……」

 

 わたしは眉間を抑えました。具材を盛りすぎて、ピザの上が小高い丘のようになっています。

 

「えーと、何と何を盛ったんです? これ」

「全部だ!」

「なるほど、全部ですか~」

 

 男の子って、そういうとこありますよね~。これは想定して、「一枚に乗せていいのは三種類まで」とか言っておかなかったわたしが悪いでしょう。悪いのですが……、

 

「ごめんなさい、千空くん。乗ってる具、ちょっと減らしましょうか……」

 

 流石にこのまま焼くわけにはいきません。

 

「あ゛あ゛?! なんでだよ!」

「これだと内側に火が通らなくて、べしょべしょになってしまうので……」

「……――あ゛ー、なるほどな……」

 

 乗っている具材を空いているお皿に移すと、千空くんは目に見えてしょんぼりしてしまいました。

 

(折角自分が作ったものを人に壊されるの、嫌ですよねえ……)

 

 わたしの考えが足りなかったばかりに、千空くんに悲しい思いをさせてしまいました。けれど、それで終わらせる気もさらさらありません。

 

「千空くん! これ、火が通るように並べ直して『100億%完璧なピザ・2』を作りましょう!」

 

 千空くんの耳が、ぴくりと動きます。

 

「……『100億%完璧なピザ・2』?」

「はい、ツーです! 料理というのは、試行錯誤を繰り返してより良くしていくものですから!」

 

 次作るものは、もっといいものになります! そう言ってガッツポーズをすると、少しだけ千空くんの口角が上がります。「ククク、そうか……」

 

「死ぬほど美味い『100億%完璧なピザ・2』、作ってやろうじゃねえか……! んで百夜もビビらせる! ――ワクワクするぜ、これは……!」

 

 その笑みは、とてもピザ作り中の子どもがすると思えない、素敵で不敵な笑みでした。それを見て、

 

(……この頃はまだ『唆るぜ』じゃないんですね)

 

 なんて、どうでもいいことを考えながら、わたしもつられて笑ってしまいました。

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