【仮題】ドリジャ男性観破壊RTA   作:花火師

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オルフェを育成しました初投稿です


第11話

 朝日杯FSまで指折り数えて、あと一ヶ月を切った。じっとりと暑かった初夏のメイクデビューが嘘だったかのように冷え込み、随分と過ごしやすい季節になってきた。日本にいると、季節ごとにがらりと変わる風景の多様さには毎度のことながら驚かされる。

 

 ……季節をいくつも跨いだということは、かれこれ数ヶ月もの長い時間をジャーニーと過ごしてきたのだろう。まぁ、相も変わらずカスの脳ミソである俺の主観からすると体感はせいぜい1週間くらいなので、なんだか申し訳ない気もするが。

 

 とはいえ、変に情が沸かないという意味では俺的には好都合だったりもする。この調子でいけば、ウマ娘にとって重要らしい最初の3年間を終えたあたりで、ようやく少しずつ情が湧いてくるくらいのペースだろう。

 

 ジャーニーの夢の旅路。その少なくとも一区切りまでは、きちんと見届けられるはずだ。

 

 ……そしたら、また旅に出よう。

 

 その時には、6年間この学園に身を置いたことになる計算だ。流石にそれだけ居れば、もう十分だろう。長く居すぎ――

 

「――ま、後のことは後の”俺”に任せるか」

 

 やっぱり考えるのは止め。どうせ考えてたって大体忘れるんだし。

 

 さぁて、大人しく仕事しよ。最近学園から割り振られる方の仕事サボり気味だったから全然終わってない。さすがにこのままだとやよいちゃんとたづなちゃんに怒られ……いやでも僕の記憶力の問題については2人とも知ってるんだから、そんな僕に仕事を割り振るほうが問題じゃないか?

 

 問題じゃないな。実際今のところ問題無く出来てるはずだし。納得の人事と仕事の割り振りしおってからに。まったく優秀だなぁ2人とも若いのに。はい、言い訳終了、仕事の時間だ。

 

 

 


 

 

 

「……ふぅ」

 

 秋も終わり、空気はすっかり冬のそれへと移り変わっていた。吐き出す息は白く、頬に触れる風は鋭い。それでも1600mをインターバルを挟みながらとはいえ五周も走れば、ジャージの上着を脱がざるをえない程度には体は熱を帯びる。むしろ、芯からじんわりと火照るような感覚すらあった。

 

 実際、私の周囲には結露した水分が、白い煙のようにふわりと漂っている。冷たい外気と、熱を持った体。その差が、はっきりと可視化されていた。

 

 これで今日のメニューは一通り終了。呼吸を整えながら、体の状態を確かめる。脚はまだ動く。心肺も、余力を残している。――やはり、というべきか。明確に、以前よりも上の段階に踏み込めている感覚があった。

 

 この感触は、すぐに共有すべきだ。

 

 そう思い、足早にトレーナーさんの元へ向かう。

 

「お疲れ様、ジャーニー」

 

 間を置かずにかけられる声。視線を上げれば、いつも通りの穏やかな笑みと共に、スポーツドリンクとタオルが差し出されていた。

 

「ありがとうございます」

 

 受け取りながら、ちらりと傍らのノートに目をやる。

 

 一面、文字。細かく、びっしりと書き込まれている。ぱっと見ただけでは灰色の塊のようにすら見えるそれは、よく見れば文章だけでなく、走行中の私のフォームを捉えたスケッチまで描き込まれていた。

 

 どこまで見ているのか。どこまで拾っているのか。改めて、少しだけ呆れる。

 

「この調子なら、朝日杯FSも、その後のクラシック路線も何とかなりそうだね」

「えぇ、私もそう思います……油断は出来ませんが」

「それは当然、だけど自信は持っても良いと思うよ。これはジャーニーの頑張りなんだから」

 

 ――あぁ、やはり。

 

 その言い方。その視線。その、ほんのわずかに含まれる申し訳なさのような色。トレーナーさんは、本当に心の底からこの成長を私“だけ”の手柄だと思っているのだろう。どこか一歩引いた位置に立って、自分はあくまで補助に過ぎないのだとでも言いたげに。

 

 何度も伝えた。繰り返し、繰り返し。「貴方のお陰です」と。遠回しにでは足りないと思い、直接言葉にしたことも一度や二度ではない。

 

 それでもなお――恐らく彼は、その事実も、その言葉も、綺麗さっぱり忘れている。そして今この瞬間も、疑いなく「私が凄いのだ」と思っている。

 

 ……本当に、厄介な人だ。

 

 けれど同時に、それが彼の在り方であり、変えようのない前提でもある。ならば私がやるべきことは、一つ。言葉ではなく、結果で刻み込まなければならない。貴方は優秀だと。間違いなく、誰よりも優れたトレーナーなのだと。

 

「――トレーナーさん、次のメニューを」

「もう!? まだ息が整ってないんじゃ……」

「今日は、調子が良いので」

 

 即答する。迷いはない。まだいける。まだ積める。ここで止める理由はない。

 

「……そう? まぁ、軽めのやつから再開すれば……いやでも……」

 

 一瞬の逡巡。こちらを気遣う視線。

 

「意思優先、かな。分かった、それじゃあ――」

 

 しかし、最終的には、こちらの選択を尊重するその判断。やはり、彼はそういう人だ。だからこそ、その選択が間違っていなかったと、私が証明してみせる。

 

 

 


 

 

 

「流石に、こうなると実感が沸くなぁ」

 

 吐き出す息も白く濁る、すっかり冬空模様な阪神レース場。

 

 今日、ここで、僕の担当が重賞を――G1を走る。

 

「初めての担当が、もうG1を走るだなんてなぁ……」

 

 生涯でこの景色を見られるトレーナーの数は、決して多くは無い。だと言うのに、初めての担当が、ジュニア級でこの景色を見せて、この舞台に立たせてくれる――僕は、なんて恵まれているのだろう。

 

 かつて垣間見た黄金。ジャーニーのメイクデビューで見た黄金の一本線。このG1という特別な舞台で、果たして、”俺”の脳ミソに焼き付くような走りを、彼女は今日も魅せてくれるのか。

 

 客席から遠目に見えるパドック、そこに立つジャーニーは平静、いつも通り落ち着いている。控室で実際に話しても、至って落ち着いていた。緊張なんてないかのような振る舞い……実際、緊張していないのだろう。

 

 激励はした。G1に出走することが出来ただけでも上出来なのだと伝えもした。その上で、ジャーニーは「貴方の初G1ウマ娘として誇れるような走りを」と啖呵を切った。

 

「正直、勝利とかはどうでも良いんだよな、”俺”個人で考えれば」

 

 ”俺”が見たいのはあくまであの黄金に類するモノ。ジャーニーがメイクデビューで見せてくれたアレはか細いながらも、黄金を求める”俺”と旅路の果てを目指す彼女との巡り会わせに運命を感じさせてくれた。

 

「一番はジャーニー、二番に黄金を再び垣間見ること――だから今日は、自分だけのために走って欲しんだけどね」

 

 ドリームジャーニーよ、夢の旅路よ。僕の事なんて関係ない、旅路の果てに至るために、勝利の冠を君の頭に。あわよくば、あの黄金を僕に。

 

 出走の時が――近い。




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