【仮題】ドリジャ男性観破壊RTA   作:花火師

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やっぱりもっと初投稿です


第13話

「まずは改めて、朝日杯FSおめでとう」

「ありがとうございます」

 

 心底嬉しそうに、だけど少しだけ申し訳なさそうな顔のトレーナーさん。恐らく、朝日杯FSのレース内容をそこまで覚えていない事を気にしているのだろう。相変わらず表情が解りやすい。

 

「それで、改めてこれからのプランについて、色々考えてみた」

 

 そう言って机の上へ置かれる資料の束。レース当日からまた一つ番号が増えたノート、その傍らに並ぶ細部まで書き込まれた手書きの資料。紙の端には書き直した跡、消し跡、何度も思考を重ねた形跡が残っている。

 

 ……相も変わらず、この人は休日に休まなかったらしい。

 

 恐らく、いや確実に寝ていない。目元には薄っすら隈が浮かび、ほんの少しだけ顔色も悪い。だがまぁ、それを問いただすのは後でも良いだろう。今はまず、彼が考えてくれた案を聞くべきだ。

 

「今のジャーニーの課題は、やっぱりパワーだと思う。スタミナもスピードも、少なくとも皐月とダービーなら十分に通用するだろう……ここまでは大丈夫?」

 

 資料を指でなぞりながら、トレーナーさんが言う。

 

「油断は出来ませんが……確かに、過去のクラシック三冠路線のウマ娘と遜色ない程には鍛えられているかと」

「ありがとう。それで、パワーが課題になる理由について……有名税、とでも言えば良いかな。ジャーニーもそれは分かってるだろ?」

「G1ウマ娘という解り易い実力の指標がある以上、集団でブロックされる可能性が高い、ですよね?」

「その通り。やっぱ賢いな、ジャーニーは」

 

 そう言って、さらにもう1枚資料が取り出される。

 

 ……やはり手書きだ。というか文字量が多い。なんなら簡単な図解まで描かれている。流石にそろそろ電子化しませんか? と思わなくもないが、操作方法を覚えることが出来ないという事情があるので強く言えない。メールとかは覚えられたのだから、慣れれば行けると思うのだが。

 

「でまぁ、集団で塞がれた場合の選択肢は3つある。1つ目が隙間が出来るまで待つ。2つ目が一旦大きく下がって、一気に内か外から抜く。そして3つ目が、パワーで押し通る。……今のジャーニーなら、1つ目と2つ目だけでも十分戦えるとは思う」

「けれど1つ目は、完全に受動的な動き。2つ目は後ろまで塞がれていた場合、選択できない……ですね?」

「そう。だから結局、3つ目が出来るに越した事は無い」

 

 トレーナーさんの指が、資料に描かれたコース図の上をなぞる。

 

「特にクラシック級になると、今まで以上にこっちの“勝ち方”を研究される。ジャーニーは追い込みだからこそ、動くタイミングもコース取りも比較的読まれやすい。だったら最終的には、“塞がれても抜けられる”っていう択を持っておきたい」

 

 静かな声だった。

 

 けれど、その言葉には確かな実感があった。恐らくトレーナーさんは、何度も何度も過去のレース映像を見返し、私が塞がれた場合を想定し続けたのだろう。

 

「とはいえ、無闇に筋肉を付ければ良いって話でもない。ジャーニーの強みは持久力と加速の鋭さだ。そこを潰したら本末転倒だから……正直、かなり難しい」

 

 困ったように笑う。

 

 けれどトレーナー室の中には、“難しい”だけで終わらせなかった痕跡が山のように積まれている。何枚ものメニュー案。筋力増加と持久力維持の両立についてのメモ。過去の小柄なウマ娘達のデータ。全部、私のために調べたのだろう。

 

「だから年明けまでは、とりあえず今まで通りのトレーニングを基にしてやっていこうと思う。年明けまでには、解決案を考えておくよ」

「わかりました……ご無理なさらず」

「無理なんかしたことないよ」

「……そうですか」

 

 その返答に、思わず目を細める。

 

 ――覚えていないだけで、貴方は相当無理をしていますよ。

 

 とは、言わない。

 

 トレーナーさんは、私に対して記憶のことを殆ど口にしない。だから私もまた、彼が忘れていることは基本的に“無かったこと”として扱う。

 

 踏み込まない。踏み込ませない。

 

 恐らくそれが、この人なりの線引きなのだろう。

 

 ……まぁ、それはそれとして。出来るケアはする。

 

 疲労に効果があるとされるシトラス系の香りを香水に混ぜてみたり、眠気覚ましに紅茶やコーヒーを差し入れたり、胃に優しいお茶漬けを作ったり。言葉で言ってもこの人には三割も届かないので、こういった実力行使じみた手段ばかり増えていく。

 

「で、これが一番大事な事。年末はガッツリお休みね」

「長期間の休暇……ですか」

 

 なんでもない事のように、「休みは大事だからね」と笑うトレーナーさん。

 

 きっとこれは純粋な善意で、模範的なトレーナーとして導き出した結論なのだろう。休める時にしっかり休ませる。成長期のウマ娘には大切なことだ。

 

「いえしかし、今の私は長期の休暇を取れるほどの余裕がある状況では――」

「そうかな? さっきも言ったけど、僕が思うに君の課題は体格由来のパワー不足だけ。他に関しては十分以上にあると思う。十分余裕がある状況だよ」

「そう、ですか……!」

 

 違う。違うんですよ、トレーナーさん。

 

 長期休暇ということは、長期間貴方と会えないということ。

 

 土日や連休、GW程度でも私の存在を曖昧にされかける状況で、長期休暇など――。

 

「私に死ねというのですか……?」

「言ってないよ??」

 

 言っています。ほぼ同義です。

 

 こちらは、貴方相手には得意技(根回し)が意味を成さないからと、羞恥を必死に飲み込みながら直接的な努力を積み重ねているのだ。香りを変え、会話を増やし、印象を刻み、存在を刷り込むように。

 

 それを長期休暇で丸ごとリセットされる可能性があるなど、流石に致命傷が過ぎる。

 

 私だって、流石に死ぬ。

 

「いやほら、御両親だったり、妹さんとゆっくりする時間が必要だろうし」

「それは……そうですが……!」

 

 ぐ、と言葉に詰まる。

 

 実際、家族のことを言われると否定出来ない。オルはともかく、父や母とゆっくり過ごせる時間など長期休暇くらいしか無いのは事実だ。当然、会いたいという気持ちもある。一緒に食卓を囲み、他愛ない話をする時間は嫌いではない。

 

 もう打てる反論の手が……断る理由が無い。本当にとことん私の事を考えて……! そういう所が好ましいのだけど……!!

 

「……トレーナーさんは、休暇中どう過ごすおつもりですか?」

 

 ならばせめて、休暇中も会える状況だけは確保するべきだろう。

 

 我ながら名案である。別に“学園に来てはいけない”訳では無いのだから。

 

「僕は……いつも通り仕事かな。休みにすることもないし」

「休みには休んでください……」

 

 本当に休んで欲しい。切実に。過労で倒れられたらこっちも心労で倒れてしまう。そっち方面の道連れは勘弁願いたい。

 

「ですがまぁ、とりあえず休みの間も学園にいらっしゃるんですね?」

「多分ね」

「そうですか。では、私がトレーニングに来ても問題はないと」

「まぁ、軽いトレーニングなら僕が見るよ……仮に僕が居なくても、教官に見て貰う手もあるから来てなんもやれない、ってことはないと思うし」

 

 あっさりと返ってくる了承。

 

 ともあれ、これならば。毎日とまではいかないが……しっかりと顔を出せば、流石に忘れられないだろう。きっと多分。

 

「休んで欲しいんだけどなぁ」

「それはこちらのセリフです……それに、あまり休んでばかりは性に合わないので」

「うーん……共感できるからなんも言えないな」

 

 えぇ本当に、言っても言っても休まない貴方に言う権利はありません。

 

 しかしまぁ、そのお陰で冬休みにも会えるのだから、一概に否定もできないのが辛い所……ですね。

 

 

 


 

 

 

「休養! 流石にそろそろ休んでくれおじ様! あまり良くはないが有休を勝手に入れさせて貰った! もちろんその間は学園には立ち入り禁止!」

「え?」

 

 

 

『ごめん、ジャーニー。学園に立ち入り禁止になってしまった。僕も強制的にお休みなので、ジャーニーも十分に休んでください。』

「……ぐうっ!?」

「姉上!?」

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