【仮題】ドリジャ男性観破壊RTA   作:花火師

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じゃあなんすか、3話目の投稿は初投稿じゃ無いって言うんすか


第2話

 契約成立からしばらく。なんとも気分の良い朝を迎えた。

 

 ……その代償として、数日に渡る徹夜を強いられたわけだが。しばらくはやりたくないね、体がもうバッキバキ。

 

 やはり歳か。これは流石に歳のせいにしていいはず。

 

「――今後のトレーニング計画、ですか」

「そう」

 

 放課後の食堂。彼女に用意した資料を手渡す。

 

「君のことだ。既にある程度は計画を固めているんじゃないか?」

「……はい。まさかトレーナーが決まるとは思っていませんでしたので」

「だと思ったよ。だから僕のこれは破棄前提だ。一応見てくれたら嬉しいけどね。――その代わり、君の計画も見せてもらえるかい?」

「わかりました。少々お待ちを――」

 

 差し出された計画書を受け取る。一目見て、異様だと思った。

 

 よく見て、確信に変わる。完成されすぎている。

 

 細部に至るまで綿密。数字も、流れも、無駄がない。考えるまでもなく、今の自分の計画を使う未来は消えた。

 

「今日までのトレーニングをデータ化し、分布図を作成。その上で近似するウマ娘のデータを参照して、3年分の目標を設定しています」

「なるほど……目標はクラシック三冠、で合ってるよね?」

「はい。大目標はクラシック三冠。シニア級は中長距離を主軸に――あ、すみません。長くなってしまいました」

 

 途中で言葉を切る。

 

 ……いや、切らなくていいのに。

 

「いやいや、助かるよ。解説ありがとう」

 

 軽く息を吐く。まさに感嘆というやつだ。

 

「いやぁ……こりゃあ、完璧だ」

「お褒めいただき光栄です。ですが、至らぬ点もあるかと。是非、トレーナーさんのご意見をお聞きしたく」

 

「――ごめん。少し時間をくれないか」

 

 正直に言う。

 

「何分、新人でね。せめて一日、欲しい」

「……わかりました。では資料はお渡ししておきますので、よろしくお願いします」

 

 素直に頷いてくれた彼女は、「ではこれで」と言って席を立つ。

 

 その背に、ふと声をかける。

 

「ああ、そうだ。最後に一つだけ――いいかな」

 

 彼女が振り返る。

 

「君の“夢”を、聞かせてくれないか」

 

 3年間、世話になった先輩の言葉だ。「ウマ娘は、皆“夢”を背負って走る。だからこそ、それを共有することが大切なのだ」と。

 

「………………旅の、果てを見たい」

 

 何かの逡巡があり、彼女は口を開く。

 

「そこに、私の望むものが待っている――」

 

 静かな声。だが、その芯は異様に強い。なるほど、これが”夢”の強さというやつか。

 

「そうか。教えてくれてありがとう」

「いえ。目標の共有は大事なことですから。では、今度こそ」

 

 背を向け、彼女は去っていく。

 

 残されたのは、分厚い計画書と――

 

「はぁ……もう一日、徹夜かぁ……」

 

 自分の未来に対する、軽い絶望。

 

 ……やれるのか? いや、やらなきゃならないだろ、俺。

 

「よし、やってやろうじゃないか」

 

 気合を入れて、立ち上がる。これで、覚悟完了ってやつだ。

 

 ……ん? あれ――

 

「あ」

 

 止まる。

 

 ――伝えなきゃいけないこと、あったなよなぁ……完全に忘れてた。計画書の完成度に全部持っていかれた。

 

 急いで食堂を見回す、当然彼女の姿はない。

 

「……まいったね」

 

 携帯で連絡、という手もあるが――あいにく、そういうデジタル機器は苦手だ。

 

「仕方ない。足で行くか」

 

 行き先は遠征支援委員会。次の徹夜の前に、もうひと仕事。頑張るぞー! おー!

 

 

 


 

 

 

「…………」

「……」

 

 かえりたい。

 

 名前は忘れてしまったが、眼前のウマ娘の事は流石の僕でも少しは覚えている。未だデビューもしていないと言うのに圧倒的才能の片鱗を見せる、間違いなく天才と呼ばれる分類のウマ娘だと先輩が言っていたから。

 

 現に、彼女から感じる圧倒的なオーラとも言うべき圧は凄まじい。部屋に入ってからずっと無言で見つめられているが、一体何分経ったんだろう。身動ぎの一つでも気を損ねるのではないかと思う程の圧を浴び続けられるほど、僕の心は強くない。

 

 ああ、そうだ。「黄金の 覇気に射抜かれ 逃げ場なし」的なね?

 

 ……微妙だなこの俳句、やっぱり僕に俳句を詠む才能はそこまで無いらしい。大人しく読んで満足しておくか。

 

 

 ――既に限界近い。つまりかえりたい。

 

「……姉上の、香り」

 

 そんなくだらない現実逃避をしていると、彼女が口を開いた。ウワーッ良い声! ウマ娘達はどうして皆見た目も声も良いのか。論文探そうかな多分あるでしょ。無かったら書こう。

 

「貴様のようなモノから何故、姉上の香りがする。答えろ」

 

 現実逃避から圧によって引き戻される。ごめんなさいしらないです。貴女の姉上って誰だなんだよ。いやまぁ、多分ジャーニーの事だろう、委員会に居るし。直近で僕と匂いが移るほどの時間を過ごした女性なんてジャーニーくらいしか居ない。

 

 とはいえ、それをどうこの暴君様に伝えたモノか……うぅむ。

 

「――オル。大丈夫だよ」

 

 おっと、救いの女神様の登場か。助かるね、いやほんと。

 

 スモーキーで重厚な――彼女の言う姉上の香り――を伴って現れたのは、やはりジャーニーだった。

 

「彼は、私のトレーナーさんだ。先程まで話をしていたからね、きっと匂いが移ってしまったのだろう」

 

 穏やかな笑顔だった。

 

「なるほど、やはり君が……」

「おや、お気づきになりましたか。ええ、私がオルの姉ですよ。この、誇るべき美しい妹の……ね」

 

 その声音には、誇りが滲んでいた。飾りではない、本心からのものだと分かる。随分と家族思いらしい。……仲が良いのは、悪いことじゃない。

 

「…………なるほど、貴様が、姉上の」

 

 それで彼女――オルフェーヴルに……うん、すごく見られてる。このままだと視線だけで眉間に穴が開くなこれ。

 

 流石にこれ以上圧を浴び続けると、高齢男性の尊厳が涙と共に崩壊しかねない。目線だけでジャーニーにヘルプを求める。助けて。

 

「――オル、そこまでにしておきなさい。お前は眼差しすら特別なのだから。注ぐ相手が違う」

 

 ああ、助かった。本当に助かった。危うく泣くところだった。

 

「ところで、またここで寝ていたのか。空調の効きも悪いだろうに……居心地はどうかな?」

「悪くはない、が……陽が足りぬな」

「なら窓を広くとるように手配しよう。なに、すぐに解決する」

 

 ……スケールが大きい。妹のために学園の設備をどうにかしようとするのは、流石にやり過ぎな気もするが――それだけ大切にしている、ということかなのだろうか。

 

「他に困った事はあるかい、オル? 何でも言いなさい。最近はもうすっかり春だからね、煩わしいコバエが出てこないとも限らない。もし不快に思ったのなら私にすぐ伝えるんだよ、もちろんそうならないように掃除は怠らないけれどね……」

 

 ……言葉の端に、妙な含みを感じるのは気のせいだろう。

 

「……妹のことを、大切にしているんだね」

「勿論ですよ。家族は、何よりも大切なものですから」

 

 僅かに微笑む。

 

「父も母も、そしてオルも。皆が私の誇りです。だからこそ、皆がいつでも幸せであってほしい……それが、私の願いなんですよ」

 

 なんとも、まっとうで、綺麗な願いだ。

 

 ――だからこそ。

 

 少しだけ、胸の奥が痛んだ。

 

「ところで、トレーナーさんは私にご用事ですか? ああ、オル、少し待っていてくれ。きっと大事な話だと思うから――」

「いや、そこまでじゃないよ。どうやらお邪魔してしまったみたいだし、僕はこの辺で」

 

 返事を待たずに、踵を返す。

 

 ――ドリームジャーニー。僕の担当ウマ娘。

 

 才能があり、実力も伴っていて、家族思いで、礼儀正しい優等生。まさにヒトに好かれる理想形。

 

 それは、”俺”がどうしても好きになれなかった「ウマ娘」という存在の、あまりにも理想的な形。

 

 ……こんな歳になってまで。それに当てられて、勝手に心がざわつくなんて。

 

「……全く、情けないな」

 

 

 


 

 

 

「――ところで、オル。私のトレーナーさんはどうだったかな?」

「解せぬな。何故、アレを選んだ? 軽く、容易い……そして何より――アレは、ウマ娘という存在を心の奥底では嫌っている。それに格好だって珍妙極まる」

 

 淡々とした指摘。だが、的確。

 

「そうだね。だから私には相応しくない、と言いたいんだろう?」

 

 小さく笑う。

 

「けれどね、オル。そこなんだよ。私が求めている本質は」

 

 視線を落とし、僅かに細める。

 

「例え好かない存在が相手でも、無意識に手を差し伸べてしまう。あの人の、あまりにも素直で――不器用な優しさ」

 

 一拍。

 

「それはね、意志で作れるものじゃない。だからこそ、得難い」

 

 再び顔を上げる。

 

「軽く、容易く、それでいてあの在り方を崩さない。だからこそ、彼は――私の旅の導き手に相応しい」

 

 ほんの少しだけ、愉しげに。

 

「アネゴへ辿り着くための、“私の旅”のね」

 

 何とも楽しそうに笑う自身の姉を見て、オルフェーヴルはしばし沈黙し――

 

「……ふん。ならば、せいぜい見せてもらおう。その旅とやらを」

 

 興味は失っていない声音だった。




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