【仮題】ドリジャ男性観破壊RTA   作:花火師

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やはり初投稿


第3話

 世界が回って見える。いくら無理が効く体とはいえ、歳は歳。流石に連日の徹夜は脳が着々と死滅していく感覚がする。「春眠を 振り払ひつつ 灯を守り 君がためなりと 夜を越えにけり」とか回らない頭の中で詠んでみたり。うーんやっぱり僕に詠む才能は無いな。

 

「――あの、もしかしてお疲れではありませんか、トレーナーさん」

「ん? あぁ、そんなことは――いや、そうかもしれないね」

 

 当然、聡い彼女の事だから当然僕の疲労に気付く訳で。全く、彼女に要らぬ心配をかけてしまった、トレーナー失格だな。

 

「放課後まではまだ時間もあります、どうかごゆっくり、休まれてくださいね……では」

 

 そう言って、朝のトレーニングを終えた彼女は校舎へと走って行った。

 

 ――ドリームジャーニーと契約を結んだ日からかれこれ数日。徹夜で練り直した計画書は無事に彼女のお眼鏡に叶い、今はそれに則りトレーニングを進めている。

 

 恐ろしい事に、全てが順調だ。彼女も良く僕を気遣ってくれる……以前感じた違和感もない。

 

 本当に、順調だ。

 

 それはそれとして、言われた通りにちゃんと休まなきゃマズいかもしれない。彼女と契約してからマトモに寝た記憶が無い。

 

「はぁ、トレーナー室でひと眠りでもしようかな」

 

 あーダメだ、意識しちゃうとすごい眠い。寝よう、そうしよう。とりあえずトレーナー室に戻って――

 

「あの、トレーナーさん!」

 

 不意に、声をかけられた。

 

「ん?」

「ああやっぱり! 赤いちゃんちゃんこの人なんて2人居ないですもんね!」

 

 振り返ると、見覚えのない生徒が立っている。

 

「あの、返信すっかり忘れちゃってて……それだけ、謝りたくて。でも良かったです、やっぱり今はジャーニーさんを見てるんですね!」

「……やっぱり、というのは?」

「あれ、ジャーニーさんから聞いてますよね? 指導するトレーナーさん、代わってもらったんです!」

 

 ――あの時の言葉と、今の話が繋がる。

 

 他にも居たんだろうな。担当候補。あるいは、もう一歩のところまで来ていた子が。

 

 それをどうにかして――あのガキ、”俺”をペテンにかけやがった、って訳か。

 

 思わず、口元が緩む。

 

 やるじゃないか。そういう手を使えるなら、ただの優等生ってわけでもないらしい。

 

 ――やっぱり、面白い子だ。

 

「……あぁ、そうだったそうだった。ごめんね、ちょっと疲れてて忘れてたよ」

「そうだったんですか! えっと、それで謝りたかっただけなので、それじゃあ失礼します!」

 

 ぺこりと頭を下げて、その生徒は校舎へと駆けていく。

 

 元気だなぁ、とぼんやり思う。

 

「さて……あの子は誰だったかな」

 

 思い出そうとして、やめた。

 

 俺の頭じゃどうせ、思い出せない。申し訳ないが、向こうも僕をフッたのだからこれでトントンだろう。

 

「……ふぁあ、眠い」

 

 あくびを一つ。とりあえず、今はトレーナー室に戻って寝よう、そうしよう。

 

 

 


 

 

 

「えぇっと、お茶は――あったあった」

 

 自販機にお金を入れて、欲しい飲み物のボタンを押す。これだけでちゃんと欲しい物が出てくるあたり、やっぱり現代ってすごいよなぁ。

 

 取り出し口から飲み物を回収して、と。

 

 よし、それじゃあトレーナー室に戻って、計画のブラッシュアップでも進めるとしよう。ここ数日、彼女の素質には驚かされてばかりだ。無敗でのクラシック三冠だって、あながち夢物語でもない。

 

 なんともまぁ、面白い旅になりそ――

 

「……トレーナーさん」

「うお!?」

 

 背後からの不意打ち。普通にビビった。

 

 振り返れば、そこに居たのは我が担当、ドリームジャーニー。そして彼女の差し出した手のひらには――

 

「お釣り、忘れていましたよ」

「あ、本当だ。いやぁ、情けないところを見せてしまって申し訳ない」

 

 ありがたく受け取って財布にしまう。うーん、やっぱりこういう機械はまだ慣れない。

 

「……それで、私に聞きたいことがあるのではないですか?」

「ジャーニーに、僕が聞きたいこと……?」

 

 ……あれ、なんかあったっけ。

 

 いや、あった気はする。確実にあった。でも思い出せない。

 

「本当にごめん、思い出すからちょっと待ってくれ」

「…………担当を代わってもらった件ですよ」

 

 ――マジかこの人、という顔をしている。

 

「あーそれだそれだ。ありがとう、助かった」

「え、ええ……」

 

 ――嘘だろこの人、という顔に変わった。

 

「その話に関しては、ここではなんですし……少し場所を変えましょうか」

「ああ、それなら何か飲み物奢るよ」

「……でしたら、トレーナーさんと同じものを」

 

 ――いや本当に、この人何なんだろう、という顔。

 

 そんな顔するほどかな……?

 

 

 


 

 

 

「つまり、僕が傷付くかもしれないから黙っていたと?」

「――ええ、その通りです」

 

 なるほど。あくまで“ペテンではない”と言い張るわけだ。

 

「はえー……まぁ、半分は納得できたよ」

「……半分、ですか」

「そう、半分だ。もう半分は――そうだね、彼女達の話を聞いてからにしようか」

 

 彼女の背後に視線を送る。僕の視線につられて、彼女も振り返る。

 

「――なんだ、トレーナーも一緒かよ。ま、いいや……やっと見つけたぜ、“お姉ちゃん”?」

 

 視線の先には柄の悪い大柄のウマ娘が二人。なるほど、“お姉ちゃん”ねぇ。

 

「あれ、君って妹がまだ居たのかい?」

「違いますよ。私の妹はオルだけです……はぁ、全く」

 

 軽くため息。

 

 そんなやり取りをしている間に、気付けば囲まれていた。ドリームジャーニーに慣れているせいか、こういうタイプの威圧感は余計に強く感じる……というか、僕も巻き込まれるんだなこれ。

 

「……それで、私に何か? 今、大事なお話し中なのですが――」

「悪いけどこっちも急ぎでさぁ。アンタの妹、オルフェーヴルのことだよ。デカい顔しすぎなんだよ、あいつ」

 

 オルフェーヴル…………?

 

 ああ、この前の。

 

 まぁ、あの圧なら敵も作るだろう。納得ではある。

 

「だからさ、“お姉ちゃん”にちゃんと注意してもらおうと思ってな? でもアンタ、優しそ~じゃん? 口でどうこう出来るタイプじゃないだろうし……ちょっと協力してほしいのさ」

「あんな妹でもよ、姉に何かあったら流石に効くだろ?」

 

 ……なるほど、不良か!

 

 正直こういうタイプのヒトは苦手だが、ウマ娘で見ると妙に良い気分――などと考えてしまうあたり、我ながらどうしようもない。

 

 さて、一応給料もらってるんだし、流石に教え導く立場の大人としては止めるべきだな。

 

「……少し良いかな。2人は、その妹とはちゃんと話をしたのかい?」

「はぁ? 無理だって。あいつと会話とか無理無理。何言っても無駄!」

 

 露骨な侮蔑。

 

 ……そこまでだったか? あんまり思い出せてないけど、圧こそあれどしっかりと芯を食った発言をしそうな感じだったが。

 

 まぁ、僕の記憶なんて当てにならないか。

 

「……ありがとうございます、トレーナーさん」

 

 静かに、ジャーニーが言う。これ以上は良いってことかな。OK、暫くは黙ってるよ。

 

「つまり――私の妹が気に入らない。実力もないのに、偉そうだと。そう仰りたいのですね?」

 

 空気が、一段冷える。

 

「その責を、私に負わせたいと……理解できます。ええ――むしろ、感謝しましょう」

 

 彼女の口元だけが、僅かに歪む。

 

「やっと、“仕事”が出来ますから」

 

 ――ああ。やっぱこのガキ、ペテン師だ。それも、かなり質の悪いヤツ。

 

「簡単な話です。レースをしましょう」

 

 静かに、しかし逃げ場のない声音で告げる。

 

「貴女方のお望み通り、姉として――“ケジメ”をつけます」

 

 なるほど。

 

 なるほどなるほどなるほど。これが、ドリームジャーニーというウマ娘の、俺に隠していた一面。

 

 優等生で、気遣いが出来て、努力家で――そして、冷たい。

 

 どれも嘘じゃない。ただ並んでいるだけで、全部が本物。

 

 ……だからこそ。ここまで隠せるこのガキは中々良い。

 

 特に、”俺”は、この底冷えするようなペテン師の顔が一番好きだ。面白い気に入ったというヤツとも言う。

 

「あ? お前みたいなチビがレースだと? はは、いいぜ。そのレース、乗った」

「それなら僕が練習場を押さえておくよ」

 

 不良ウマ娘が承諾するのを見て、軽く肩をすくめながら提案する。

 

「3人とも、心の赴くままに走れるようにね」

 

 見せてくれよ、ドリームジャーニー。君の言う旅の、僕の知らない一端を。




御旅屋トレーナーのヒミツ①:スーツに赤いちゃんちゃんこ、白髪という目立ち要素たっぷりなので誰もが一目見れば分かりやすく、学園内ではよく集合場所にされている。

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