【仮題】ドリジャ男性観破壊RTA 作:花火師
「お疲れ様、ジャーニー。ホットミルク飲む?」
「……はい、ありがとうございます」
模擬レースですらない、子供の児戯のような一戦。それでも勝利したはずの彼女は、どこか不満げだった。
とりあえずで彼女にも差し出したホットミルク、もしかして嫌いだったかな。
「……私とコ――彼女達の勝負を、見届けてくださらなかったのですか?」
「いや、見たよ? 見終わった後に、ホットミルク飲みたくなったから戻ってきただけだよ」
「…………担当トレーナーであれば、終わった後に一言くらいあってもいいんじゃないですか?」
露骨に呆れた顔をされた。
さては本当に見ていたか疑ってるな、これ。
じゃあまあ、ちゃんと見ていた証明も兼ねて。
「得意の脚質に合わせた位置取り、序盤からペースを崩さない走り。どれを取っても満点を渡せる内容だったよ」
「……そうですか」
「それに、あの相手の心を折りに行く走り。心底、君を担当にしてよかったと思ったね」
2人同時にマグカップを机の上に置く。思えば初めてかもしれない、この目をしている彼女と目が合うのは。
「――それに、あの相手の心を折りに行く走り。心底、君を担当にしてよかったと思ったね」
奇しくも同時にマグカップを机に置く。視線が交差する。あのレースで、アネゴへ向けられていた目。心の底から“楽しい”を映した、あの目。
――ああ。ようやく、私にも向けてくれましたね。トレーナーさん。
「……ジャーニー。僕達、昔どこかで会っているよね?」
「なんだ、思い出していただけたのですね」
ふふふ……色々と手を回していた甲斐があったというものだ。
おっと、いけない。顔に出すな。
「いや? 鎌をかけただけだよ。悪いけど、僕は物覚えが悪くてね」
――本当に、この人は。
「つまり私は、まんまと騙されたというわけですか……」
「そうなるね」
してやったり、とでも言いたげな顔……こんなにも分かりやすいヒトに、してやられたのか。
「……どうして、私と貴方が過去に会ったと、そう思ったのですか?」
「まず一つ。君が俺をトレーナーに選んだこと――それも、随分と手を回してまで」
「そちらも、気付いていたのですか」
「いや、これも鎌かけ。……動揺したね、ペテン師さん?」
……なるほど。
こちらが試しているつもりで、同じだけ試されている。
「……ええ、そうですね。少しばかり、動揺してしまったのかもしれません」
ならば、こちらも一手。
「では仕返しを一つ。レース前、貴方は“半分納得した”と仰いましたね。では残りの半分――何故私が貴方を選んだのか、聞きたくはありませんか?」
「あちゃあ、やっぱりそこは来るか。うん、聡いね君は」
本当に楽しそうに笑う。
「私、記憶力は良い方でして。入学してすぐ、サブトレーナーとして働いている貴方を見て――“あの時の人だ”と気付きました」
一つ一つ、なぞるように。
「見ず知らずのウマ娘に席を譲る優しさ。身の上を隠さない素直さ――そして、ウマ娘を嫌っていることを隠そうともしない、その目」
わずかに口元を緩める。香りについては、口に出すのはやめておこう。少し品が無いと思わるかもしれないから。
「ほら、実に印象的でしょう?」
「はは、そりゃあね」
「貴方は、これ以上なく望ましい方なんですよ。私のトレーナーに――旅の導き手に」
これは本心だ。一切の偽りも隠し事もない。
「それってさ。僕が“使いやすそう”だからじゃないの?」
意地の悪い笑み。
「……まったく。意地悪な人だ。そんなわけがないでしょう?」
即座に否定する。
「貴方は、素晴らしいトレーナーです」
「そう言ってもらえると嬉しいね。ついこの間まで担当が付かなくて、心が折れそうだったんだ」
「その件に関しては……申し訳ありませんでした」
「ああ、いいよ別に。もう“フられた”って事実しか覚えてないし」
軽く笑う。
「何も覚えられない馬鹿でよかったよ、ってね」
あの出会いを忘れられたこちらとしては、全く、笑えない。結局、私はまた彼との初対面を重ねてしまった。
「――それにさ」
ふと、声色が変わる。
「”俺”は、お前みたいなウマ娘が大好きだよ」
真正面から、射抜くように。
「心底気に入った。……君の旅の終着点を、何に代えても見てみたいと思うくらいには」
その笑みは、あまりにも真っ直ぐで。
「……ええ。貴方なら、そう言ってくれると信じていましたよ」
だから、私も笑う。
――これでいい。
互いに隠し事はない。その上での契約継続。
即ちこれは、決して破棄されない、“鉄の契約”。
「それじゃあ改めて。これからもよろしく頼むよ、ドリームジャーニー?」
「こちらこそ、よろしくお願いしますね」
一拍。
「――じゃあ再出発だ。まずはお互いの“好き”を確かめよう」
少しだけ、楽しげに。
「君は――黄金の旅路に、何を見た?」
切りが良いのでここまで
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