【仮題】ドリジャ男性観破壊RTA   作:花火師

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ええ!? 今日はいっぱい初投稿してもいいのか!?


第5話

「……朝か」

 

 中央トレーナーの朝は早い。今日も例に漏れず、学園のトレーナー用仮眠室で目が覚める。ちなみに利用者は、今のところ俺以外に見たことがない。

 

 にしても、久々にぐっすり寝たな。やはりホットミルク。ホットミルクは全てを解決する。

 

 さて、と。

 

 動きやすい服に着替えて、早朝の運動でもするとしよう。ここ最近はあまり体を動かせていなかったし、今日は少し負荷を重めにしてもいいかもしれない。

 

 そんなことを考えながら外に出る。空はようやく朝日が昇るかと言ったばかりで、まだ空気が少し冷たい。

 

 激しい運動は嫌いだが、適度な運動は必要だ。特にこの歳になると、なおさら。

 

 どうせなら、死ぬまでちゃんと楽しみたいしな。

 

 軽くストレッチをしてから、グラウンドまで走るか。そのまま整備の手伝いでもすれば、ちょうどいい運動になるだろう。

 

 少し遠回りのルートを選べば、負荷も増やせる。そしたらジャーニーが来るまで先輩から譲って貰った資料とにらめっこだ。

 

「さて、頑張るぞー……おー」

 

 気の抜けた掛け声と一緒に、ゆっくりと走り出した。

 

 

 


 

 

 

「あぁ、しんどかった……」

 

 まさか整備の手伝いをしていたら、機械がぶっ壊れるとは思わなかった。なんとか修理はできたし、用務員さんもやよいちゃんに報告しておくと言っていたが……一応、俺からも伝えておいた方がいいだろう。

 

 それはそれとして結構汚れちゃったからな、ちゃんちゃんことあの服は洗濯しなきゃだ。今日はちゃんちゃんこ抜きで仕事かぁ……やる気出せるかね。

 

 ま、切り替えだ切り替え。携帯の画面を見れば時間は6時……予定より大分遅れてしまったが、シャワーも浴びたしスーツにも着替えた。気分は晴れやか、すっきりだ。

 

 さぁて、今日も今日とてお仕事お仕事。

 

 ……いやぁ、楽しいね、ほんと。

 

 そんなわけでトレーナー室のドアを開ける。もしかしたらジャーニーがもう来ているかも、なんて思いながら。

 

「……? あぁ、おはようございます、トレーナーさん」

 

 ――いた。

 

 それはいいとして、今、一瞬だけ不思議そうな顔をしなかったか?

 

「うん、おはようジャーニー」

「……新鮮ですね。その、ちゃんちゃんこを着ていないの」

 

 ああ、なるほど。一瞬不思議そうな顔してたのは俺がちゃんちゃんこ着てなかったからか。

 

「ちょっと汚れてしまってね、少なくとも今日一日はスーツだけ」

「あぁ、そうだったのですね」

 

 納得の表情。

 

「そう、それで、今朝は朝練じゃなくてちょっと見て欲しい物があるんだ」

「見て欲しい物、ですか」

 

 予定より遅れてしまったから、整理はまだ甘い。だが、こういうものは早めに共有しておくに越したことはない。そう判断して、先輩から譲り受けた資料を机の上に広げた。

 

「ちょうど、僕が3年間指導を受けていた先輩がね。ジャーニーと同じクラシック三冠路線、それも中長距離を主軸にしているウマ娘を担当していてさ。その子の記録を、参考にって譲ってもらったんだ」

 

 彼女は静かにページをめくる。視線の動きは速いが、決して粗くない。一つひとつを確かめるように、丁寧に読み込んでいる。

 

「……この方は、ライスシャワーさん、ですよね?」

「まぁ、ジャーニーなら分かるよね。脚質こそ違うけど、小柄って点では近いし」

「ええ。私も参考にと、彼女のデータは集めていました。ですが……ここまで体系立てられた資料は初めて見ます。トレーナーさんの人脈に、感謝ですね」

「それほどでもないさ」

 

 そう言いながら、資料を軽く叩く。

 

「とにかく、今の僕たちにとってはどんな情報でも価値がある。使えるものは全部使っていこう」

「はい」

「とりあえず僕はこれを踏まえて、もう一度だけ計画を詰め直すつもりだ。徹夜は……まぁ、ほどほどにするけど」

「……ええ、是非。ですが」

 

 彼女はほんの少しだけ、柔らかく笑う。

 

「今日は、きちんと眠ってくださいね。導き手が倒れてしまっては、“旅”になりませんから」

「……善処するよ」

 

 たぶん、守れない約束。僕みたいなロートルは時間をかけなきゃ普通の仕事も出来ないからな。

 

 ――視線を感じる。うーん、やっぱり表情に出るよねぇ。

 

「……嘘は、いけませんね」

 

 ジャーニーの青い目と目が合う。

 

「すぅ……見逃してくれない?」

「ふふふ……ダメ、ですからね?」

 

 はぁ……日々の運動に嘘をつく練習も加える必要がありそうだ。65年間一切上達しなかったから、今更練習したところで意味無い気はするけどね。

 

「……やはり、課題はスタミナか」

「それは、君が小柄な体格でその脚質だから。パワーで無理矢理位置を押し上げるのはまず無理。上手く内を突くか、大外をスタミナ任せで前に出るかしかないから?」

「そうです……はぁ、生まれ持った素質は難儀なモノですね」

 

 それを(天才)が言うのか。いや、確かにどんなに才能があろうと、身体がその才能を腐らせることはある。極端な話だが、脚が無ければ走れないし、腕が無ければ投げれない。

 

「でもまぁ、”俺”は君の小ささ好きだよ。旅の荷物にちょうど良さそうだ」

「……そう、ですか」

 

 ――誰かと同じ景色を見ながら進む旅。悪くはないと思う。

 

 けれど。

 

 ……そうならないように、情が深くなる前に次の旅へ出るべきかもしれない。そんな考えが、ほんのわずかに胸をかすめた。

 

 

 


 

 

 

「クククッ……いやぁ、今月も面白いな」

 

 昼休み。昼食を済ませ、いつも通りホットミルクを用意して、ページをめくるのは我が聖典――月刊コロコロコミック。指先に伝わる紙の感触、インクの匂い、めくるたびに変わる色彩。やっぱりこれだ、この“読んでる感”は紙じゃないと味わえない。

 

 週刊誌も読むには読むが、どうにも性に合わない。手軽さは認めるけど、没入感で言えばこちらに軍配が上がる。

 

 安い脱脂粉乳にコロコロコミック。それにいつもの赤いちゃんちゃんこがあれば、もう完璧だ。今日という一日は、これだけで上々に過ごせるはずだった。

 

 ――だったのだが。まぁ、ちゃんちゃんこ君は本日有給休暇という事でね。そういう日もある。

 

「くくっ……ん?」

 

 ……ドタドタと、足音が聞こえた。3年間で聞き慣れた足音だ。

 

 近づいてくる気配に、念のためマグカップのホットミルクを飲み干す。こういう時に限って、落ち着いている余裕はない。

 

 話は変わるが、今回資料を融通してもらったり、3年間サブトレーナーだった僕に色々と指導してくれた尊敬する先輩――そんな人にも、ひとつだけどうしても尊敬できない部分がある。

 

 ドンッ、とそこそこの轟音と共にトレーナー室の扉が開いた。

 

「おじさま! お兄様が振り向いてくれないよぉ!!」

 

 涙目で飛び込んでくる小柄な影。勢いのまま駆け寄ってくるのを見て、思わず苦笑が漏れる。

 

「ははっ……とりあえず、お互い座って話を聞こうか、ライスシャワーちゃん」

 

 椅子を引いてやると、彼女はこくこくと頷いて腰を下ろした。目元を擦りながらも、ちゃんと座るあたり本当にいい子だ。

 

 ――自分の担当の小さな女の子を泣かせる。それが、あの人の唯一にして最大の減点要素だ。

 

 まぁ、3年も見ていれば慣れる。慣れてしまうのもどうかと思うが、少なくとも今は責めるより先にやることがある。

 

 ちらりと時計を見て、軽く息を吐く。

 

 ……さて。目の前の子を、まずはどうにかしないといけない。




御旅屋トレーナーの秘密②:何でもかんでも表情に出る。

先輩トレーナーの秘密①:ク ソ ボ ケ
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