【仮題】ドリジャ男性観破壊RTA   作:花火師

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スティルインラブのシナリオに脳を焼かれました

という事は初投稿ですね


第7話

 ジャーニーの定めたメイクデビュー日まで、残りおよそ1ヶ月。

 

 ライスシャワーちゃんや先輩の手助けも借りつつ、どうにかトレーナーとしての体裁は保てている。この数カ月、先輩がチーム設立を目論んでライスシャワーちゃんに泣かれてたりと色々あったのだが――まぁ、それは今はいい。

 

「ふぅ……1セット終わりましたよ、トレーナーさん」

 

 プールから上がってきたジャーニーは、想像以上に息が乱れていなかった。もう少し負荷が出る想定で組んだメニューだったが……さて、どうしたものか。

 

 いや、まずは本人の感触だ。

 

「見てたよ。それで、どうかな?」

「良い感じの疲労感です。クールダウンを挟んで計10セット……しっかり鍛えられそうですね」

「それなら何よりだ」

 

 ならまぁ、しばらくはこのメニューで行こう。

 

 それにしても、屋内プールというのは便利なものだ。まだ肌寒い時期でもこうして水泳ができる。そんなことを、水滴を落とすジャーニーを眺めながら思う。

 

 ……普段はボリュームのある髪型だからか、濡れていると一回り小さく見えるな。

 

「……そんなに見て、何か気になることでも?」

「ん? いや、小さいなって」

 

 ――静かになった。

 

 ジャーニーだけじゃない。プール全体が、妙に静まり返る。ひそひそとした気配と、突き刺さるような視線。

 

 当の本人は――尻尾がぺし、ぺし、と音を立て、耳はきっちり絞られている。

 

 あ、これはダメな奴だ。

 

「――小さい、とは。何がですか……?」

「いや、全体的に。ほら、濡れて髪のボリュームが減ってるだろ? それで――」

「……なるほど」

 

 ぴたり、と空気が戻る。尻尾も耳も、ひとまずは平常運転。

 

 ……助かった、のだろう。

 

 とはいえ、学びはあった。どうやら“小さい”は地雷らしい。

 

 ――多分、明日には忘れてるけど。

 

「はい、一分経過。次に行ってきなさい」

「わかりました」

 

 素直にプールへ戻っていく。その背を見送りながら、内心で小さくガッツポーズ。

 

 よし、これは許されたな。勝った。

 

 ……にしても、綺麗なフォームだこと。走れて泳げて、つくづく優秀すぎる。うちの担当ながら、よくこれでトレーナーが付いていなかったものだと思う。

 

 ふと、自分のことを思い返す。

 

 ジャーニーや先輩、ライスシャワーちゃんは頑張っていると言ってくれるが――正直なところ、そこまでやれている実感はない。そもそも覚えていないことも多いし、それを差し引いても、だ。

 

「……ま、悩むだけ無駄か」

 

 どうせ忘れる。

 

 なら、気にするより記録だ。今この瞬間のジャーニーを、出来るだけ細かく残しておく。今日の自分が、明日の自分に渡せるものは、多い方がいい。人より劣る僕は、人より積み重ねなきゃならんから。

 

 視線をプールへ戻す。

 

 ――周囲の視線と、ひそひそとした声は、もう気にしないことにした。どうやら世間一般でも、“小さい”はアウトらしい。難しいね、人間社会。

 

 

 


 

 

 

「お待たせしました、トレーナーさん」

「ん――――ああ、ジャーニーか。お疲れ様」

 

 心臓が、跳ねた。

 

 一瞬。ほんの一瞬だけ――彼の中に、私がいなかった。

 

 呼ばれるまでの、あの僅かな空白。視線が私を捉えているのに、認識が追いついていないような、あの違和感。

 

 それは、忘れようもないあの時と同じ兆し。

 

 彼との2度目の初対面。言葉を交わしながら、少しずつ理解してしまった、あの絶望にも似た感覚。

 

 胸の奥が、冷たく軋む。

 

「温水プールとはいえ、体は冷えなかったかい?」

「――大丈夫でしたよ」

 

 返答はいつも通り。声も、間も、何も変わらない。けれど、それが余計に恐ろしい。

 

 この数ヶ月。3度目の初対面以降、彼の中から私が消えかけたことなど、一度もなかったはずだ。

 

 だから、安心していた。

 

 ――油断していた。喉の奥が、じわりと乾く。

 

 また、忘れられる? それだけは、嫌だ。

 

 思考が、急速に回り始める。原因を探す。些細な差異を拾い上げる。今日と、これまでの違いは何だ。

 

 服装? 時間? 距離?

 

 ――違う。

 

 ……匂い、だろうか。

 

 そこに思い至った瞬間、妙に腑に落ちた。

 

 思い返せばこの数ヶ月、私は常にあの香りを纏っていた。1度目の初対面の日から使い続けていたあの香水の香り。

 

 雨に濡れた日も。汗にまみれた日も。 今日のようにプールトレーニングをした日でさえ。

 

 少しでも薄れたと感じれば、すぐに重ねていた。それが、彼の中で“私”を繋ぎ止める手掛かりだと、無意識ながらに理解していたから。

 

 ――部屋に香水を忘れてきた、今日を除いて。

 

 指先が、わずかに震える。

 

 たったそれだけのことで。たったそれだけで。

 

 彼の中の私は、こんなにも容易く輪郭を失いかけるのか。

 

 確かに、もう二度と俳句を詠まないと言っていた次の日に俳句を詠んで同じことを言ったり、故障している自販機に3時間ごとに向かって壊れていたと愚痴って居たり――数カ月で、彼の記憶が本当に淡い物だとは分かった。

 

 ――だとしても、冗談じゃない。

 

 ゆっくりと、息を吸う。表情は崩さない。声も乱さない。

 

 この数ヶ月、ほぼ毎日のように顔を合わせてきた。日によっては、オルよりも長い時間を共に過ごしたことすらある。

 

 それでもなお。たった一つの要素が欠けただけで、私は“曖昧なもの”に落ちかける。

 

 ――では。

 

 そんな彼の記憶に、たった一度で焼き付いた存在は。

 

 アネゴは、一体どれほど――

 

 鮮烈で。決定的で。抗いようもなく、特別だったのか。

 

 喉の奥が、ひどく冷える。

 

「ジャーニー? 顔色が悪いけど大丈夫か?」

「そっ、そうでしょうか……?」

 

 気付けば、足が止まっていた。

 

 視線を上げれば、すぐ目の前に彼の顔。今は確かに、私を認識している彼の目がある。

 

 ――まだ、大丈夫。

 

 そう言い聞かせるように、小さく息を整える。

 

「やっぱりプールで体冷えたんじゃないか? 女の子は体冷やしちゃいけないって言うし……トレーナー室に寄ってホットミルクかコーヒーでも飲むか?」

「……では、お言葉に甘えて」

 

 頷きながら、そっと胸元に手を当てる。冷えているのは、きっと体だけではない。

 

 ――思い知ってしまったからだ。

 

 自分が、どれほど不安定な場所に立っているのかを。

 

 「……これは、大変ですね」

 

 トレーナーさんに届かない程度の声で、そっと呟く。

 

 自嘲でも、嘆きでもない。ただ事実を、静かに受け入れただけの声だった。

 

 私の旅には、道連れが必要だ。そしてその相手は――彼でなければならない。

 

 彼が、良い。他では代わりにならない。代わらせるつもりもない。

 

 ならば、私が彼の中に残り続ければいい。消えない形で。忘れられない重さで。

 

 あの人――アネゴのように。

 

 胸の奥で、静かに熱が灯る。彼と旅の果てを見に行こう。その道程で。彼の記憶に、自分を刻み込む。消えないように。二度と、曖昧にならないように。

 

 ――なるほど。これはきっと、穏やかでは済まない。想定していたよりも激しい嵐に見舞われることになる。

 

 少しだけ、愉しげに息を吐く。

 

 波乱万丈な旅路になりそうだ。

 

 

 

「ホットミルク美味ェ~~……」

「……そうですね」

 

 ――少なくとも、彼にとってのホットミルク以上にはなりたい所だ。




ドリームジャーニーの秘密?①:小さい頃に不思議系イケオジとかいう劇物をぶち込まれたせいで性癖が壊れているらしい。
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