テンプレだけど死んだらアルペジオに転生ですか!? やった、じゃあ男だけどこのままメンタルモデルになってバカスカと激しい海戦を…………あれ? 作:五々階道寺希ノ之乃
前略。今海の上にいます。
なんてことのないオホーツク海の上。
現実逃避ですが何か?
だってさ、転生したんだよ。それなのにね、俺ね、漁船の上だよ。
この漁船何だと思う? これね、俺の船。
説明すると、俺はメンタルモデルとなって再び生を受けているのだけど、メンタルモデルなのに漁船なのだ。つまりどういうことかと言うと軍艦じゃない。オーケー? 軍艦じゃないんだ、戦えないんだよ俺は。
兵装も無いのかって? 聞いて驚け、モリがある。それもナノマテリアル製だ。硬いぞ。でもね、機能は結局ただのモリでしかないんだ。クラインフィールドはおろかただの鉄さえ貫けねぇよ!!
嘘だといってよ、バー○ィ。俺欝になっちまう。だって期待させておいてこのオチだよ。どこぞのギャグマンガでもあるまい。この先どうやって生きていけってんだ。
現実逃避をしつつ、メンタルモデルであることをイイことに弄りまわしていることもある。例えば戦術ネットワークにアクセスしてみたり。例えば自分の船を思い通りに動かしてみたり。例えば自分の体がどれほど人間とかけ離れているのか試してみたり。便利なことに服の構成も変えられるのだが、一番楽なジャージにした。海上で肌寒いかと思ったんだが、寒気を遮断できるのでありがたく使わせてもらっている。便利って素晴らしいことだ。
漁船のメンタルモデル、名をダイゴホッポウマル。完全に産廃。戦闘力なし。自衛能力なし。兵装は貧弱な波動装甲オンリー、クラインフィールドなんてあるはずがない。備えられた機能は一般的な漁船の機能を片っ端から集めたソレ。つまりどうあがいても漁船。泣きたくなるわ。
結局のところ、俺は霧の船でありながら戦闘に参加しても意味がない。これじゃあ転生した意味がない気がする。戦闘とかちょっとくらいしてみたかった。恐怖もあるが、それを好奇心が上回っている。ロマンはやっぱり捨てきれないか。せめて空飛べれば面白かったのに。
さて、これからどうしようか。時間は全て把握しているが、如何せんこのスペックだ。戦闘に巻き込まれたら死ぬ。何回目かは覚えてないが、また死ぬ。流石にそれは御免被りたい。
……暇だな。テレビもゲームも携帯も、娯楽と呼ばれるものは何一つ無い。何をしようにも漁船内にあるもので暇を潰すしかない。
やるとしたら、釣りか。一応網とか色々あるのだが、俺一人じゃどうしようもない。ある程度までなら自分の意思で操れるんだが、如何せん手作業の方が多くなってしまうし、人手が足らない。だったら釣りしかあるまい。
そして残念なことに記憶に残っている釣りの記憶と言えば片手で数えられる程度。果たして俺の腕が通用するのだろうか……疑問が尽きない。
まぁいいや。釣りしよ。オホーツク海、初釣だべ。
水槽の中を見て一言。
これどうやって処理しよう。
ヤバイ、無計画過ぎた。あまりに釣れるもんだからガンガン釣ってリリース忘れてた。ごめんよ魚達、こんな狭い場所で……。後で戻すね。
時刻は……ネットワーク内に情報なし。まぁでも空が赤いので夕方5時とかそんなもんだろう。今度正確な情報を把握しないと。後で調べよう。
で、何故いきなり時刻を気にし始めたのか。魚釣ってたら何か食べたくなって、そんでそう言えばそろそろ夕飯準備するような時間じゃないかなぁと思ったワケ。しかしお腹すかない。ちょっと違和感あるなこれ。
ところでメンタルモデルってお腹空かないのかね。言っといてあれだけど多分そうだよね。元はプログラムな訳だし。しかしお腹すかないのって何か違和感あるなこれ。
もしかしなくてもプログラム弄ればいけるんじゃね。周期の設定は面倒そうだけど。
サークル立ち上げて……ふむふむ、いけるいける。あ、適用したら無性に腹減ってきた。待って、まだ料理できてない。
意図的に空腹を遅らせて俺はオホーツク海を南下して北海道に向かってる。よくよく考えてみれば魚だけあっても調味料がない。焼くだけにしても塩味くらい欲しいのだが、いちいち海水から作ってる暇もないので手っ取り早く人間たちとの交渉に出ることにする。魚介類渡せば調味料くらい交換できるだろう、多分。
……お、なんだあれ。水平線の辺りに大きな黒い影。言うまでもなく霧の艦船だ。形的に空母かな。ちょっと近付いて見てみよう、空母を間近で見上げるなんて滅多に出来ない体験だろうし。
いやはやしかしデカい。全長は10倍以上、規模が違う。今は動いてないからいいけど、もし並走でもしようものなら波に飲まれる。人間はこんなものを造ってたのかと考えるとやっぱりスゴいとしか言えない。
「お前さん、何をしているんだ?」
「はえ?」
真横をとろとろと進んでいると上から声がした。見上げれば甲板の所から1人、小柄な影がこちらを見下ろしているではないか。
「あー、どちらさんですー? こちらは通りがかりの漁船ですがー」
「漁船? 魚雷艇じゃないのか?」
「魚雷積むようなスペースないでしょ」
「む、まぁ確かに……ところで、何故その魚雷艇程度の漁船がメンタルモデルを有している?」
「そりゃ俺に尋ねてもわからんよ。てか話し辛いからそっち行っていい?」
「まぁ構わないけれども……、」
有難い。人間と違って身体能力も自由に設定できるので甲板までの高さも一飛びだ。楽チン楽チン。
「どーも、空母の人。名前は……ズイカク?」
「そういうお前さんはダイゴホッポウマル? 長い名前だ」
「そればっかりは、どうしようもないねぇ。ダイゴって呼んでくれ」
肩を竦めて首を横に振る。
まぁしかしちっちゃい子だな、ズイカク。
「で、質問を続けようと思うが、ダイゴは何をしている?」
「魚釣ったから料理しようと思ってな。調味料とか他食材を調達しに行くところ」
「魚釣り……料理……人間に接触する、ということか」
「そうなるな。霧としては、アドミラリティ・コードに反するかな?」
「いや、現状勅令として我々に与えられているのは人類を海から封鎖することのみ。接触が禁止されているワケではないよ」
「そう言うこった。ま、俺は更々従う気は無いんでね。漁船如き何もできやしない。つーわけで好き勝手やらせてもらうさ」
「大胆なやつめ……いや、しかしメンタルモデルとしては良さげな行動だ。演算しかしなかった我々がこうしてメンタルモデルを持ったのは人間を模倣するため。経験値稼ぎには良いな。私もついて行こう」
「え、マジで」
「私は至って大真面目だ。メンタルモデルをとっておきながら、その模倣先の人間を知らんとは納得しない。それに、」
「それに?」
「お前さんが他とは違う行動を示す、その先にあるものを知りたい」
その先、とな?
「お前さんは、何かが根本的に違うよ。メンタルモデルとして……いや、そもそもの霧として何かが違うな。全くの同じ霧に属しながら、外見も中身も異なる。そも、何故お前さんのような船が造られたのか。考えてみるのも――――面白い」
ゾクリと心の底から震わせるような笑みが見えた。メンタルモデルにあるまじき“面白い”という感情を抱く行為が、メンタルモデルを更に塗り替える。
「……いいんじゃないの。俺も楽しみだ。予測できない未来、大いに結構。どんでん返しなら見てみたいね。事実は小説より奇なり、いい証明になりそうだ」
斯く言う俺も、非常に楽しみだ。
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